血液一滴で病気を診断したい――。2002年にノーベル化学賞を受けた田中耕一・島津製作所シニアフェロー(54)が、受賞時に掲げた目標をかなえつつある。授賞理由となったたんぱく質分析技術に磨きをかけて感度を1万倍に高め、血液からアルツハイマー病の原因物質を検出できるところまできた。4月から新たな態勢で実用化に挑む。

 京都市中京区の島津製作所本社。朝8時に出社するとすぐに水色の作業服に着替え、研究室の若手の横から「ちょっとやらせて」と身を乗り出す。作業服姿で戸惑いながら受賞会見に臨んだ田中さん。12年たった今も「生涯一エンジニア」の信念は揺るがない。

 入社2年後の1985年、レーザーを使ってたんぱく質の重さを精密に量る技術を開発。バイオ研究に不可欠な質量分析装置に実用化され、ノーベル賞に輝いた。だが、「医療に役立ちたい」との初心を貫くには感度が足りなかった。

 転機は09年に訪れた。国の大型研究プロジェクトに選ばれ、5年間で約40億円の研究費を得た。約60人で「常識にとらわれない発想を」と挑み、約1年で画期的な分析手法を開発。感度を最高1万倍に高めた。13年、血中にわずかしか含まれないアルツハイマー病の原因のたんぱく質アミロイドベータ(Aβ)を、1ミリリットルの血液から検出することに初めて成功。未知のAβ関連物質も8種類見つけた。