連載・特集

大阪ヒト元気録

世界の旅行者集うまちに

新今宮周辺で簡易宿泊所を経営 
山田 英範さん
2009年5月20日

常設観光案内所設置を呼び掛け

楽しい魅力あるまちを目指す山田さん

 簡易宿泊所五軒を運営するホテル中央グループを経営。「世界中の旅行者が集うまちになってほしい」とJR新今宮駅(西成区)周辺にある簡易宿泊所を外国人旅行者に向けてPRする。労働者のまちから旅のベースキャンプへ、簡易宿泊所という安宿が密集する利点を生かした地域の魅力づくりに取り組む。

■海外の安宿巡る

 「労働者のまち」のイメージが強い地域だが、一九九〇年代から労働者の宿泊が激減する。阪神大震災の復興で一時は盛り返したが、二〇〇〇年には日雇い労働者の高齢化が進み状況は悪化。従来の簡易宿泊所も一般客の呼び込みなど、路線変更を迫られた。

 当時、学生だった山田さんは東南アジアや中国などをバックパックと呼ばれる旅行かばん一つで周遊。タイのカオサンロードなど、名だたる安宿街に足を運んだが、「簡易宿泊所と安宿のイメージは重ならなかった」と振り返る。

 卒業後、いったんは就職するものの、「英語を学びたい」との思いが強くなる。世界の旅行者と交流した経験が刺激になり、オーストラリアへ語学修業に旅立った。

■人を呼び込め

 帰国後、父親が経営する簡易宿泊所の経営に参画。ちょうど、海外旅行者が多く宿泊するようになった時期だった。「宿泊料が高い日本でこの安宿街は海外にPRできる」。旅の経験が自信になった。

 グループのホームページを英、韓国語などに対応できるよう充実させ、旅行者が閲覧する海外のサイトでPRを開始。こだわったのは「新今宮」という地名。「西成、太子といっても地元の人にしか分からない。新今宮ならば、関西国際空港、京都から駅名を探せる」。

 〇五年で約一万泊弱だった年間宿泊数も〇八年には約四万三千泊と右肩上がり。大学教授らが実態調査に乗り出すとともに、周辺の簡易宿泊所と連携して魅力作りに取り組み始める。

■魅力あるまち

 まちのイメージは変わりつつあるが、「宿泊者をとどまらせる魅力が必要」と考える。お土産はもちろん、気軽に立ち寄れる飲食店など、「見ているだけで楽しい雰囲気があれば、自然と長期滞在につながるし、周辺のお店もにぎわう」。

 新今宮を拠点に京都や奈良などの観光地へ出かければ、自然とまちに人が集まる。今年一月には各地の情報を集めた観光案内所を試験的にオープン。学生ボランティアが英語で宿泊客に対応するなど、評判は上場だった。「大阪の魅力を伝えるためにも、常設の案内所が必要」と強調する。

 今後は新世界、日本橋などへも協力を呼び掛け、協議会の設立を目指す。「新今宮周辺は“なんぎ”な場所やけど、面白い場所。変わる力を秘めている。みんなで手を取り合って盛り上がっていきたい」と意気込む。

 ○…日本人の多くは海外旅行=パッケージツアーのイメージを持っているが、海外では個人旅行がほとんどだという。気に入れば長居するし、気に入らなければ次の場所へ。楽しい雰囲気や人の温かさが旅行者を引き付ける。大阪が世界に誇れるまちになれば、地元の人間にとってもうれしいことだ。