− 第309回 − 筆者 中村 達
『戦後最大の登山ブーム?』 レジャー白書2010によると登山人口は、1230万人で2009年から2倍以上と急激に跳ね上がった。1230万人というと、国民の10人に一人が登山をしている登山王国である。小さな子どもたちや、体力や健康的に登山などとてもままならない人たちを差し引くと、10人に3人以上が登山をしている超登山国ということになる。 昨年より登山人口が急激に増えた理由は、調査方法がインターネットにかわったことも理由のひとつらしい。調査の有効回収数は3,100ほどなので、統計的には問題はないがインターネット調査の場合、無作為に抽出したサンプルとは、属性がやや異なるといわれている。 また、調査に答えた方々の多くは、登山とハイキングの違いがわからなかったのではないかと推測する。レジャー白書では「ピクニック、ハイキング、野外散歩」という項目があって、参加人口は2470万人としている。自分の行っているアクティビティを、どちらにするかで、統計は大きく異なってくる。このあたりを考慮してデータを読み解く必要がありそうだ。 例えば、昨年1日の最高入山者が、ラッシュアワーなみのおよそ73,000人という高尾山を、登山とするのかハイキングにカテゴライズするのかで、参加人口は大きく異なる。もっとも、登山とハイキングの違いは私にもよくわからないが、高尾山や近郊の日帰りであればハイキング。槍ヶ岳や穂高、剣岳などの難しいとされる山に登るのは登山だろうか。雪と氷と岩によって頂やルートが構成されている場合は、登山としてはっきり定義できるが、日本の無雪期の山は比較的簡単に登れるし、なおさら登山とハイキングの境界があいまいになってしまう地勢的が特徴がある。このあたりが統計のとり方としては難しい。 米国ではアウトドア分野は、バックパッキング、クライミング、ハイキング、トレイルランニングなどに分類されている。さらにクライミングでは、自然の岩、人工壁、氷、と細分化されているので、バックパッカーがクライミングを選択することはない。だから大変わかりやすく、間違いも少ないと思う。国民性とアウトドアズの歴史も違うので、一概には比較できないが参考にはなる。 一方で、登山を含んだアウトドアマーケット(出荷額)は、昨年度対比で伸びは10%を切っている。登山人口が統計どおり倍以上に増えていれば、マーケットボリュームも同じように増加していてもおかしくない。登山人口の増加がそのままマーケットに反映されるとは限らないが、20〜30%はアップしていると思う。 また、身の回りを見渡してみても、さほど登山人口が急激に増加したとは思わない。アルプスの山を歩いても、近郊の山に登っていても、確かに山ガールの勢いはすごいものがあるが、かと言って登山の参加人口が、急激に増えたとは感じられない。山小屋の経営者に聞いてみても、ひと頃の百名山と中高年登山ブームのような勢いはないという。もっともこれらは、私の感じた状況証拠に過ぎない。 山ガールが注目を集め、富士山ブームもあってアウトドアズが熱を帯びている。しかし、この国ではアウトドア分野の参加人口の統計が、これまで重要視されてきたようには思えない。小さな市場だったので、さほど必要性がなかったのだろう。 健康や癒し、高齢化、環境などが時代のキーワードとなったいま、この分野にも専門的なデータが求められるようになった。自然体験活動の参加人口だって、ほとんどわからないのが現実だ。 登山人口は?と聞かれて、曖昧に答えていたことに、いまさらながら反省である。 (次回へつづく)
■バックナンバー ■筆者紹介 中村 達(なかむら とおる) 1949年京都生まれ。アウトドアジャーナリスト/プロデューサー NPO法人自然体験活動推進協議会理事、国際自然環境アウトドア専門学校顧問、日本アウトドアジャーナリスト協会代表理事、NPO法人アウトドアライフデザイン開発機構副代表理事、東京アウトドアズフェスティバル総合プロデューサーなど。 生活に密着したネーチャーライフを提案している。著書に「アウトドアズマーケティングの歩き方」「アウトドアビジネスへの提言」「アウトドアズがライフスタイルになる日」など。『歩く』3部作(東映ビデオ)総監修。カラコルムラットクI、II峰登山隊に参加。日本山岳会会員。 |