■「中央調査報(No.634)」より
■ 「レジャー白書2010」に見るわが国の余暇の現状
公益財団法人日本生産性本部 余暇創研 1.日本人の余暇をめぐる環境 時間的・経済的背景 同白書では、余暇活動の実態についての報告の前に、日本人の余暇をめぐる時間的・経済的環境について整理している。時間的環境としては、労働時間や年休取得状況の推移などが主な指標となる。平成21年の年間総実労働時間(規模30人以上)は1,767時間と、前年(平成20年)より69時間の大幅減少となった。この減少は、景気低迷によるいわば“消極的時短” としての性格が強い。一方、年次有給休暇の取得率は48.1%と5割を切る低水準が続いている。こうした状況に対応して、22年4月からは観光庁による「休暇分散化」の実証実験が始まり、また6月には政府の「新成長戦略」で2020年までに年休取得率70%実現が目標に掲げられるなど、休暇環境整備への取り組みも進められている。 次に家計の状況について総務省「家計調査報告」を見ると、平成21年の全国・勤労者世帯の実収入、消費支出、可処分所得はいずれも名目・実質とも前年を下回っており、厳しい家計の状況を反映した結果となっている。人々の“節約志向” はいぜんとして強く、レジャー・観光支出はいぜんとして抑制傾向が続いている。 国民の「ゆとり感」の変化 時間的ゆとりの面では「ゆとり拡大」の動きとなる一方、「経済的ゆとり」の面では厳しいゆとり喪失と格差の拡大が見られた。 図表2(A)を見ると、バブル崩壊後の「ゆとり喪失」のトレンドが平成16~17年頃より変化し、21年には「増えた」人と「減った」人が大きく接近するなど、時間的ゆとりの拡大の動きを示している。一方「経済的ゆとり」(図表2(B))を見ると、平成21年はゆとりが「増えた」人も増えているが、注目されるのは「減った」という人が37.0%と前年より6.3%もの大幅増となり、過去最高を記録した点である。ゆとりが「増えた」人と「減った」人がともに拡大したことから、経済的ゆとり感の面ではいわゆる“格差”の拡大が読み取れよう。 2.平成21年の余暇活動 ~「ドライブ」が初首位、自転車も好調~ レジャー白書では、毎年「スポーツ」「趣味・創作」「娯楽」「観光・行楽」の4部門・計91種目の余暇活動について、国民の参加・活動実態を調べている(図表3参照)。 平成21年は、特に年前半は景気低迷に新型インフルエンザの打撃が重なり厳しい状況であったが、高速道路料金をはじめレジャーにかかわる価格低下の影響もあり、“節約志向” 下でも利用者の出足は比較的堅調という種目が少なくなかった。21年の余暇活動参加人口の第1位となったのは、「ドライブ」。高速道路料金値下げの恩恵を受け、初めての首位となった。ただし、「安・遠・短」とも言われるように、支出や宿泊数の拡大にはつながらなかった。「動物園、植物園、水族館、博物館」(9位→6位)、「ピクニック、ハイキング、野外散歩」(17位→13位)など、手軽な行楽系の種目は引き続き高い人気となっている。平成21年に話題になったのが、スポーツ自転車や電動アシスト車などの自転車ブーム。上位20位には登場しないが、関連種目「サイクリング・サイクルスポーツ」は前年の950万人から1,520万人と参加人口を大きく伸ばした。 “一方、不況や低価格化のあおりを受けた代表的な種目が「外食(日常的なものを除く)」と「バー、スナック、パブ、飲み屋」。「外食(日常的なものを除く)」は長く1位を維持してきたが、21年ははじめて3位に順位を落とし、参加人口も減少。「レジャーとしての外食」のあり方が問われている。 3.余暇関連産業・市場の動向 ~余暇市場規模は70兆円割れ 平成21年の余暇市場は69兆5,520億円と前年比4.3%の減少。景気低迷に新型インフルエンザ流行が重なり、平成元年以来の70兆円割れとなった。消費者の節約志向はいぜん強く、多くの業界で客単価の低下傾向が見られる。一方、既存市場の閉塞感が強まる中、技術革新による新市場開拓の試みが相次ぎ“元年ラッシュ” ともいうべき状況が見られた。 以下、4つの部門別に平成20年の余暇市場動向の概要を紹介する。 (1)スポーツ部門(前年比-2.4%) ブームが続くランニング関連用品・スポーツ自転車などが好調であった。サービス市場ではゴルフ練習場が唯一プラス成長となったが、客単価低下の激しい競争がつづくゴルフ場は、逆に売上減。長く市場規模を伸ばしてきたフィットネスクラブも2年連続で縮小と頭打ち。会員数が減少し、既存店の業績が不調だった。 (2)趣味・創作部門(前年比-4.2%) 映画を筆頭に、不況の影響を受けにくいエンタティメント系のレジャーは比較的堅調。『アバター』の公開で“3D映画元年” となった平成21年に続き、22年には“3Dテレビ元年”、“電子書籍元年” など、人々のライフスタイルに関わる技術革新が相次ぎ、新市場開拓が活発化している。映画は、22年もスタジオジブリの新作発表で、引き続き好調が予想される。 (3)娯楽部門(前年比-3.4%) 全業種中最大の市場規模を誇るパチンコが6年連続の減少となり、公営ギャンブル、宝くじ市場も縮小が続くなど、ギャンブル系レジャーはいずれも厳しかった。テレビゲームは据置型ハードの需要が一巡し、ヒットソフトは出たものの市場は縮小。ゲームセンターも客足が戻らない。低価格競争が続く外食は、特に既存店の落ち込みが大きかった。 (4)観光・行楽部門(前年比-9.4%) 遊園地・テーマパークは、新型インフルエンザの影響で入場者数が減少。旅行業は、ネット販売は拡大しているものの店頭販売が苦戦。インバウンドは活性化しているが、日本の旅行会社への恩恵はまだ小さい。宿泊費を抑える傾向が強まり、ホテル・旅館市場はともに縮小した。乗用車市場では減税や補助金の効果が見られ、ハイブリッド車に人気が集中。平成21年は“電気自動車元年” ともいわれ、今後の新市場拡大が期待されている。 4.「リバイバル需要」を掘り起こす 人口減少・少子高齢化が進む中、過去にある余暇活動種目を経験したことのある人々の掘り起こし、いわゆる“リバイバル需要” への業界の関心が高まっている。すでにその活動の楽しみ方を知っている人々は、新規顧客に比べて需要掘り起しのハードルが低いといわれ、どのような種目・業種で需要のリバイバルが期待できるのか可能性を探った。 ある活動に過去に参加した経験のある人々のもつ“潜在需要”(現在実現していないニーズ)を調べた結果が図表5である。「海外旅行」「オートキャンプ」「登山」など観光・行楽部門の種目が高い値となっているほか、スポーツ部門「水泳(プールでの)」「スキー」「テニス」、趣味・創作部門「観劇(テレビは除く)」「音楽会・コンサートなど」などの種目が上位となった。娯楽部門の種目では、大きな経験者の潜在需要は見られなかったのも特徴である。特に「スキー」など、経験者の潜在需要が現在の参加人口の半数を超える種目もある。 さらに、現在は参加希望を持たないが、以前に参加経験をもつ人々の割合(「休眠率」)を調べると、多くの種目で高い値を示していることがわかる。人々の「眠れる経験」へのアプローチにより、失われた需要を呼び覚ますことが期待される。 本白書では、さらに特別レポート「2020年の余暇 人口減少社会への挑戦」として、今後の余暇を取り巻く環境や価値観の変化を分析し、余暇関連産業等の対応の方向性を展望している。あわせてご一読いただければ幸いである。 |