(2014年4月3日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
中国の軍備増強については誰もが知っている。中国政府の国防予算は20年間で8倍に増加した。その間に中国は楽々と世界第2位の軍事支出大国になった。
各国の国防費を監視しているストックホルム国際平和研究所(SIPRI)によると、中国は2012年に世界の軍事支出の10%近くを占めたという。
公式統計によれば、これは厳しい財政運営を強いられているはずの米国が自国の軍隊に費やした金額の4分の1にすぎないが、ロシアと英国を合わせた国防費より大きかった。
しかし、あまり理解されていないのは、中国の軍備増強がアジア全体に及ぼしている影響だ。
欧州諸国を上回ったアジアの国防費
2012年には、近代で初めてアジア諸国の国防費が欧州諸国を上回った。インドから韓国、ベトナムからマレーシアに至るまで、アジア地域の各国政府は国防費を増やしている。長年国防費を削減してきた平和主義の日本でさえ、高まる中国の脅威と見なすものに対する防衛態勢を再構築する中で、最近この傾向を反転させ始めている。
欧米が軍事支出を減らしている時にアジアで軍備増強が起きているのは、ある程度は急成長地域に力がシフトする「自然な」変化だ。経済国は成長するにつれ、自国の防衛力を近代化させるものだ。同様に中国は、ブラジルからの鉄鉱石であれ、スーダンからの石油であれ、原材料輸入への依存度が高まるにつれて、死活的なシーレーンの管理・支配を米国に任せたがらなくなっている。
だが、アジアでの軍備増強には、別のもっと気掛かりな側面がある。これは、オーストラリア国立大学のデスモンド・ボール教授(戦略研究)が「作用・反作用の力学」と呼ぶものだ。有り体に言えば、昔ながらの軍拡競争が始まっているということだ。
研究者で南シナ海に関する新書『Asia’s Cauldron』の著者であるロバート・カプラン氏は、これを「この数十年間で一流メディアで最も過小報道されたニュースの1つ」と呼んでいる。
この軍拡競争を駆り立てる要因はたくさんある。最も重要なものは中国の強さが増していることだ。これを受け、インドやベトナム、フィリピンといった国々が国防について真剣に考えるようになっている。それに輪をかけるのが――米国政府のアジアへの「ピボット」や「リバランス」にもかかわらず――、揺るぎないパックスアメリカーナの時代が終わりに近づいているという懸念だ。