●Tyler Cowen, “How to improve meetings”(Marginal Revolution, January 31, 2004)
退屈で時間の無駄にしか思えないと悪名高い会議だが、どうすればその進行を改善できるだろうか? これまでに私が耳にしたり実際に試したことがある方法を以下に紹介することにしよう1。
1. 全員ずっと立ったままで会議を行う
2. 参加者が同じフロアにいる場合でも電話会議にする
3. 一人一人にチェス・クロック(対局時計)を渡し、発言できる時間に制限を設ける。与えられた持ち時間を使い切った参加者はそれ以降発言権を失うわけだ(これはロビン・ハンソン(Robin Hanson)のアイデアを拝借したものだ。ハンソンのアイデアについてはこちらのエントリーで詳しく取り上げているのであわせて参照してもらいたい)。
4. 会議の開始時刻になり次第有無を言わさず部屋の鍵を閉め、遅刻者の入室(会議への参加)を禁じる
その他の方法としてランドール・パーカー(Randall Parker)が紹介している次のようなアイデアはどうだろうか?
「このPAL(パーソナル・アシスタンス・リンク)と呼ばれる小型のセンサー兼トランスミッターを併用すれば、リアルタイムでその人のバイタルサインを読み取ることができるようになります。人体観察装置のできあがりというわけです」。そう語るのはサンディア社のプロジェクト・マネージャーを務めるピーター・マークル(Peter Merkle)だ。発汗の状態や心拍数が常時計測されるだけではなく、顔の表情や頭の動きを読み取ったり、声のトーンを分析することまでできるという。こうして読み取られた一連の情報をもとにしてその人が今どのような感情の状態にあるか――本人も気付いていない感情の変化も含めて――が本人からの問い合わせを待つことなくその都度一方的に伝えられることになる。その人がどう感じているかは本人だけではなく他の(会議に出席している)メンバーにも伝わることになるため、これまで以上に効果的に協働できるようになるだろう。
誰かが会議中に的外れな発言でもしようものならその瞬間にあちこちでブザーが鳴るというわけだ。経営者も自分の話に誰も耳を傾けていないことにすぐに気付くことだろう。
会議を改善するためにこういった実験を試そうとすることそれ自体に関しては個人的に大賛成ではあるのだが、その前に忘れてはならないことがある。それは、そもそも会議はどのような機能を果たしているのか?ということだ。「会議は組織のメンバーの間で情報を共有するための効率的な手段だ」とか「みんなで語り合うことで新しいアイデアの発見が期待される」とか言わることがあるが、会議というのは必ずしもそういうものではない。会議というのは(会社をはじめとした組織内部の)力(権力)関係を露わにしたり、権力争いの場として機能している可能性がある。どういった派閥が存在するのか(誰と誰がつながっているのか)を露わにしたり、敵対するグループを負かしたりする場として機能している可能性があるのだ2。会議のその他の機能としては、大勢の前で発言する「舞台」を設けることで発言者をいい気分にさせたり3、会議の参加者に「自分はインサイダー(チームの一員)なのだ」という感覚を抱かせるという効果もあるだろう。また、地位に関する情報を伝えることにもなるだろうし4、何かいい案が浮かぶのを期待してただただ時間をやり過ごしているという可能性もあるだろう。会議なんてまっぴら御免だという気持ちもわかるが、会議を改善するためにはその前に会議とはそもそもどのようなものなのか(会議の機能)を理解しておく必要があるだろう5。
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●Tyler Cowen, “How to improve meetings”(Marginal Revolution, February 2, 2004)
本ブログの読者であるRobert Ayresが「会議を改善する方法」に関して次のようなエピソードを教えてくれた。
1960年代のことになりますが、ゼネラル・エレクトリック(GE)社のミサイル&スペース部門で次のような手段が用いられていたと聞いたことがあります(ただし、自分の目で確かめたわけではありません)。
会議室に入ると、各自ダイヤルパッドを操作して誰にも見られないように自分の年俸をコンピューターに入力します。そして会議が始まると、入力された各自の年俸データをもとにしてコンピューター(今だとPDA(携帯情報端末)になるでしょうが)が刻一刻と「会議にかかった総費用」6を算出します。
そして折を見て議長がこう宣言するわけです。「さてみなさん。これまでに1500ドル相当の費用がかかっているわけですが、何かしらの結論は得られたでしょうか?」
- 訳注;このエントリーの内容は2007年に出版されたDiscover Your Inner Economist(邦訳『インセンティブ-自分と世界をうまく動かす』)の中にもう少し肉付けした上で収録されている。以下の訳注でもこの本から何箇所か引用を行っている。 [↩]
- 訳注;「(会議は)権力を誇示する場として、どの勢力が優勢かを示すために開かれる場合もある。こうした場合、「無駄な」時間は、必要になりうる。ある勢力が別の勢力を崩そうとしてうまくいかなければ、参加者はその勢力の強さを思い知る。」(タイラー・コーエン著/高遠裕子訳『インセンティブ』, pp.61より引用) [↩]
- 訳注;「前に述べたように、各人が主体性をもって関与していると思えないと、報酬や罰則は逆効果になりうる。そこで会議では、問題人物を集めて、彼らに影響力があると思わせることによって、その逆効果を抑制する。なんといっても全員が顔を揃えて、自分の意見に耳を傾けてくれるのだから悪い気はしない(こちらのほうの気分がそれほど良くないのはしかたがない)。こういう会議が苦痛なのは、事情に詳しい人や、手早く要点を言ってくれる人ばかりでなく、全員の意見を聞くことを目的としているからだ。しかし、やたら自慢ばかりする人間や、議事進行を妨げる人間の意見を聞くのも、実はとても重要なのだ。」(上掲書、pp.61~62より引用) [↩]
- 訳注;「・・・会議は地位に関する情報を伝えることができる。誰が発言するのか、誰が欠席したか、誰が誰を持ち上げなければならないのか、誰が勢力図を理解したか、こちらの意見を裏づけてくれるのは誰か。会議の様子を観察していると、こうしたことがわかる。会議のない職場では、混乱に陥り、人間関係に疎くなる。生産的な人間はまず、職場という人間関係のなかでどう動くかという知恵を身につけなければならない。」(上掲書、pp.62より引用) [↩]
- 訳注;「会議の機能」に関するコーエンの考えについては上掲書でもう少し詳しく語られているが、他にも例えば(英語で申し訳ないが)以下を参照のこと。●Tyler Cowen, “In Favor of Face Time”(Forbes, September 14, 2007) [↩]
- 訳注;年俸から時給を割り出し、その時給に会議の経過時間を掛け合わせて得られた数値が1人あたりの「会議にかかった費用」ということになる。「会議にかかった総費用」は参加者全員の「会議にかかった費用」を足し合わせて求められることになる。 [↩]
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