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銀行振り込み制度改革で、日本経済再生に弾みを

 主要国の中で、日本が世界に大きく後れをとり始めているものがある。私たちが頻繁に利用している「銀行振り込み制度」だ。どこが後れているのか。

 私たちは、銀行の窓口やインターネット、携帯電話などを使って、銀行に振り込みを指示する。「自分の預金を1万円落として、振り込み相手の口座を1万円増やせ」、というわけだ。この指示を行うと、私たちの口座からは、ただちに1万円が減額される。しかし、この1万円、ただちに相手の口座に入金されるとは限らない。

 平日の朝から夕方までの6~7時間については、たしかに、相手方の口座にすぐに入金される。しかし、平日の銀行閉店後の午後3時過ぎに銀行に指示を飛ばしても、相手にお金が入るのは翌営業日なのだ。今が金曜日の午後3時過ぎだとすると、自分の銀行に振り込みを指示しても、相手口座への入金は次の月曜日になる。例えば、金曜の夕方に、東京の大学に通う子供から「お父さん、お金がないので、数万円送って頂戴」と頼まれても、月曜までお金を届けることができない。

 インターネット・バンキングを利用している人は、「銀行は、夜間でも振り込みサービスを提供している」と思っている。確かに、銀行は夜中でも振り込みの指示を受付けて、その人の口座から振り込みの金額だけ減額している。しかし、減額分の資金は銀行が握ったままにしていて、相手の口座に入金されるのは、翌営業日となっているのが実態だ。

 この点、海外では急速に改善が進んでいる。先行したのは英国で、いまでは「24時間365日」、つまり、何時でも、ほぼ即時に相手の口座に入金が完了する。しかも、個人の振り込みについては、振り込み手数料も、口座管理手数料も一切かからない。この便利な仕組みは、携帯電話と組み合わさって、つまり、どこでも、効率的に銀行預金でお金を払うことを可能にした。銀行預金が、お札のように便利に使えるようになったわけだ。ここまで預金の振り替えが便利になると、ビットコインのようなリスクの大きい支払い手段に手を出す必要も薄れていく。

 英国のほか、スウェーデンやインドなども「24時間365日、すぐに入金」を実現している。これに続いて、シンガポールも先月から同様の「便利な銀行振り込み」をスタートさせた。さらに、オーストラリアや米国も準備に入っている。ところが、日本ではまだ実現のメドが全く立っていない。なぜなのだろうか。

 日本における銀行振り込み制度は、比較的最近まで「世界一」だった。平日の日中6~7時間だけとはいえ、「銀行に振り込みを指示すると、すぐに相手口座にカネが入る」という仕組みは世界のどこにも存在しなかったのだ。しかし、こういう仕組みを実現した日本の銀行は、その後の改善を怠ってきた、と言わざるを得ない。世界一の座に安住していたわけだ。

 デジタル・ワールド、リアルタイム・ワールドが到来し、日本の銀行振り込みが不便に感じられるようになると、人々はコンビニでの振り込みや、クレジットカードによる支払いに逃げていった。それでも銀行は動かなかった。システムの改修コストは大きいし、たとえ小額の個人顧客の振り込みを失っても、企業間の大口振り込みを握っていれば良いと考えたのかもしれない。

 では、企業は銀行振り込みに不便を感じていないのか。実は、日本の振り込みは、企業にもフレンドリーではない。例えば、自動車メーカーが部品メーカーに1億円振り込んだとき、自動車メーカーが「何の代金のつもりで支払ったか」を示す商品情報が、振り込み情報に添付できないからだ。日本の振り込みは20文字しか追加情報を添付できない。部品メーカーは、1億円の入金があると、自動車メーカーに、電話などで「どの売掛金を払ってきたのか」と照会せねばならないのだ。

 世界では、膨大な添付情報を銀行振り込みとセットで相手に届けられるようになりつつある。日本の企業は代金決済という、最も重要な場面で、たいへんな不便を強いられている格好だ。

 振り込みについては、個人が感じる不便さも、企業が直面する不便さも、銀行によるコンピューター投資なしには解消できない。IT投資減税などを活用し、銀行に設備投資を促して、金融・経済インフラの要である銀行振り込みサービスを改善することは、日本経済再生に向けた、避けて通れない課題だと思う。決済サービスの高度化が企業の生産性を向上させたり、海外の投資家や企業による日本円の利用を増加させて日本の金融ビジネスを拡大するだけではない。短期的にも、銀行業界の設備投資はIT業界の雇用を増やし、賃金を押し上げ、日本経済再生に大きな弾みとなると考えられる。

 自民党は日本の成長力回復に向けてあらゆる可能性を模索している。その中でも、銀行振り込みに代表される金融・経済インフラの改革は、たくさんの個人や企業にメリットが及ぶ、きわめて裾野の広いテーマだ。自民党・日本経済再生本部は、こうした金融を切り口とした成長戦略の策定についても、5月の成長戦略改定に向け、早急に検討を深めていく方針だ。

塩崎恭久
衆・自民/内閣官房長官、拉致問題担当大臣などを歴任

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