坂本龍一×東京新聞
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【変わる知の拠点】出版業界と連携広がる 減る読書人口 敵対より協力を
図書館と出版社、書店が、互いに連携を模索する動きが広がっている。図書館はこれまで「無料貸本屋」と揶揄(やゆ)され、出版業界から敵視されることも多かった。だが本の売れ行きが下降線をたどり続ける中、両者の“共通の敵”となったのは読書人口の減少。共闘することで、出版文化の底上げを図ろうとしている。 (中村陽子) 「図書館栄えて書店滅びる、ではいけない」。出版社や書店の関係者らでつくるNPO法人「本の学校」が、東京都内で開いたシンポジウム「街の本屋と図書館の連携を考える」。前鳥取県知事で慶応大教授の片山善博さんが、図書館行政に携わった経験をもとに持論を展開した。「本来は切磋琢磨(せっさたくま)しあいながら、地域の読書環境づくりのために協力していくべき関係」として、県立図書館が選書を地元書店と共同で行い、それらの店から購入しているという鳥取の具体例を示した。「司書は選書のプロだが、書店にもそれぞれ得意な分野がある。司書のメガネにかなう本を挙げるよう書店員は研鑽(けんさん)を積むし、司書もプライドを持って書店以上の知識を持つよう勉強している」 シンポジウムは「出版業界と図書館の関係者は、これまでお互いに接点がほとんどなく、考えていることも分からない状態。まずは認識を共有したい」と、NPO事務局が企画した。片山さんのほか、山梨県立図書館の館長を務める作家の阿刀田高さん、愛知県豊橋市の書店「豊川堂」取締役・高須大輔さんら、現場を知る五人がパネリストとして登壇。約二百二十人が集まった。 阿刀田さんは「無料貸本屋」などの批判の的になりがちなベストセラー本の複数貸し出しについて「私のところでは一冊しか買わない。希望に応えるだけが図書館ではない。急いで読みたい人は書店で買ってもらう」と話し、「図書館の近くに本を売る店があることも重要。そもそも本を再生産する必要があるということから、根気強く市民に伝えていかなくては」などと指摘した。高須さんは「まずは図書館に本を納めるという以外でも、協力しあうことが必要では」と、地元の図書館と連携して子供のための読書イベントを実施した体験を話した。 現場レベルで、より具体的な連携を探る動きもある。東京・千代田図書館は、出版社の担当者らを招いて、情報交換会を実施した。図書館や出版社から約四十人が集まった。 千代田図書館では、出版業を地元の重要産業の一つと捉え、以前から本の展示やイベントの企画などで協力を進めてきた。例えば、日経BP社との企画では「新ビジネスパーソンが読むべき本」として、同社がムックで特集した本の中からさらに選書し、新社会人向けの展示を行った。近くの書店も協力し、同じ本を展示、販売した。 情報交換会では、これらの連携事例とその効果を写真などを交えて詳しく紹介。参加者から意見を募った。「古くなった本の買い替えのサイクルは?」など、図書館の運営にまつわる率直な質問も出ていた。 参加した扶桑社の担当者は「少部数の本は、図書館が重要な販路。生の声を聞く機会がなかったので参考になった」。小学館の担当者は「より多くの人に本を知ってもらうために、こうしたフェアは有効だと思う。書店とは角度が違う、面白い視点がありそう」と意欲を示していた。 本を媒介にした出会いの場所へと図書館の機能が変わっていく中で、出版業界との新しい関係を探る動きは、さらに広がっていきそうだ。 PR情報
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