歴代内閣が、曲がりなりにも50年近く掲げてきた武器輸出三原則。これに代わる新たな原則を安倍内閣が決定した。

 「死の商人」との連想を避けるためだろうか。新原則は「防衛装備移転三原則」という。だがその実体は、武器輸出の原則禁止から、条件を満たせば認める百八十度の方針転換だ。

 これで日本は、国際的な武器ビジネスの戦列に加わることができるようになる。

 旧原則は、憲法の理念に基づく日本の平和主義の柱のひとつだった。極めて拙速な決定と言わざるをえない。

 新しい原則は次の三つだ。

 ①条約や国連安保理決議に違反する国には輸出しない。

 ②輸出は、平和貢献や日本の安全保障に資する場合などに限定し、厳格に審査する。

 ③原則として、日本の同意なしの目的外使用や第三国移転がないよう管理する。

 新原則は前文で、「我が国の平和と安全は我が国一国では確保できず、国際社会も我が国が積極的な役割を果たすことを期待している」とうたう。

 安倍首相が唱える「積極的平和主義」の具体化であり、首相がめざす集団的自衛権の行使容認と同じ文脈にある。

 政府が新原則で主に想定しているのは、ハイテク化と高額化が進む最新鋭兵器の国際的な共同開発への参加だ。

 安倍内閣はすでに旧原則の例外として、米英など9カ国が共同開発したF35戦闘機の部品輸出を認めているが、今後はこうしたケースに開発段階から加わりたい考えだ。

 背景には、コスト削減と防衛産業の育成がある。国内の企業には、旧原則が足かせとなって最先端の技術開発から取り残され、ビジネスチャンスを失っているという不満がある。

 しかし、国民の多くの支持のもと、日本が選んできた道である。産業界の論理で割り切っていいはずがない。

 新原則では、国連安保理が紛争当事国と認めない限り、禁輸の対象にはならない。歯止めとしては極めて緩く、限定的だ。輸出内容の情報公開の指針も、抽象的すぎる。

 これでは国民が知らぬ間に、国際紛争を助長するような事態がおきかねない。

 安倍政権は、民生分野に限っていた途上国援助(ODA)の軍事利用の検討も始めた。これもまた、平和主義の大転換である。その先に控えるのが集団的自衛権の容認だ。

 こんな「なし崩し」を、認めるわけにはいかない。