欧州が誇る「寛容」は、どこへいってしまったのか。

 移民の排斥などを訴える右翼思想の政党が、欧州の至るところで勢力を広げている。

 フランスで先月あった地方選で、右翼政党である国民戦線の首長が12の都市で誕生した。得票率も躍進し、党首は「第3の政治勢力だ」と宣言した。

 英国では、欧州連合(EU)からの脱退を説く政党が、2大政党を脅かす勢いの支持を得ている。オランダでも、反イスラム教徒を掲げる政党が世論調査で支持率トップの座を争う。

 移民が雇用を奪い、福祉を食い物にしている。彼らが増えたのは、国境の壁を低くするEUのせいだ――。共通するのは、そんな不満から「よそ者」を締めだそうという考え方だ。

 共存の社会をめざす欧州統合の理想が危ぶまれる事態だ。

 ユーロ危機の教訓から、EUは銀行監督の一元化など、いっそうの結束が求められている。その流れが減速し、危機が再燃すれば影響は世界におよぶ。

 社会が非寛容に傾く原因を政治家たちは見極め、急いで手を打たねばならない。

 冷戦の終結でイデオロギー対立が消え、政策の幅も狭まった結果、選挙が時の政権を「選ぶ場」から「罰する場」に変質したといわれて久しい。

 自分たちが選んだわけでもないEUの官僚組織に大事な政策が決められている、との不満もふくらむ。戦争の記憶が薄れ、右翼に対する「ナチズム」批判も説得力がかげってきた。

 とくに懸念されるのは、排外的な主張が若い世代の支持を集めていることだ。フランスの地方選前の世論調査でも、学生の半数以上が右翼政党に投票してもよい、と答えた。

 確かに若者たちは未来を楽観できる状況ではない。ユーロ危機は峠を越えたが、多くの若者は今も正規雇用から外されている。EU平均で若者の4人に1人が失業中。行き場のない閉塞(へいそく)感が不満に拍車をかける。

 こんな時代だからこそ、社会に融和の価値を説く政治の役割が期待されるはずなのだが、既存の政党は逆に、右翼政党の主張に便乗する動きすらある。

 英国では「移民の流入による失業への影響はわずか」とする調査報告書をキャメロン政権が隠していた疑いも発覚した。

 政治の劣化が社会の排他的な空気を悪化させているならば問題はさらに深刻だ。

 偏狭な主張には正面から反論し、難題について丁寧な説明を尽くす。そんな本来の政治の責任を全うしてほしい。