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くらし☆解説 「医療費はどう変わる?」2014年04月02日 (水)
飯野 奈津子 解説委員
くらし☆解説です。今月から消費税があがりましたが、病気やけがで医療機関を受診した時に、支払う医療費も変わります。どう変わるのか、飯野奈津子解説委員です。
Q1 医療機関を受診した時に支払う医療費が変わるのは、消費増税の影響ですか?
A1 増税の影響も一部ありますが、迫りくる超高齢社会に備えようと、今月から医療費に関わる二つの制度が見直されたことが要因です。
ひとつは、医療機関に支払われる診療報酬の見直しです。診療報酬というのは、初診料や検査や手術など、5000を超える診療行為ごとに細かく決まっていて、患者が診療を受けた時に、医療費がいくらかかるか計算する元となる価格表のようなものです。今月からその価格表が見直されたので、診療にかかる医療費も変わることになりました。
その医療費の中から、1割から3割を患者が窓口で払うのが医療保険の仕組みですが、今月から、高齢者が窓口で支払う自己負担の割合が一部変わりました。
Q2 まず、気になる高齢者の自己負担の割合、どう変わったのですか?
A2
これまで、65歳から69歳までの人はかかった医療費の3割、70歳以上の人は原則1割の負担でした。これが、きょう以降、新たに70歳になる人は2割になります。
そして、5年後には70歳から74歳までの高齢者の負担が、原則2割になります。増え続ける医療費の財源を少しでも多く確保するのが狙いです。
Q3 すでに70歳から74歳になっている人は、1割の負担のままですか?
A3 そうです。2割負担になるのは、きょう以降70歳になる人が対象で、実際に2割負担になるのは誕生日の翌月からです。この人たちは、69歳までは3割負担でしたから、70歳になって2割になっても、負担割合は下がるので、それほど大きな負担感はないだろうという判断です。
Q4 医療費計算の元となる診療報酬は、どう見直されたのですか?
A4 診療報酬は原則2年に1度見直されますが、今回は、大きく二つの特徴があります。
ひとつは、消費増税に対応するための措置が盛り込まれたこと。もうひとつが、できるだけ住み慣れた地域で医療を受けられるよう、新たな仕組みを取り入れたことです。
Q5 まず消費増税への対応ですが、そもそも医療費に消費税はかかるんですか?
A5 私たちが通常受ける保険を使った診療には、消費税はかかりません。ですが、医療機関が、薬や医療機器を買う時には消費税がかかります。その増税分を手当てするために、医療を受ける際の基本料金ともいえる、初診料や再診料などが引き上げられました。
具体的には、初診料は2700円だったものが2820円に。再診料は690円だったものが720円になります。窓口で患者が払うのは、このうちの1割から3割ですが、たとえば、3割負担の人ですと、初診料が36円増えて846円に。再診料が9円増えて216円になります。ただし、初診料や再診料はあがっても、検査や手術の費用など、逆に診療報酬が下がった診療行為もあるので、トータルで見ると、医療費が増える人もいえれば減る人もいます。
Q6 報酬が下がった診療行為もあるということですが、診療行為ごとの報酬の上げ下げはどう決めているのですか?
A6 医療技術の難易度や手間のかかり具合などをみて決めていますが、もう一つ、これから充実が求められる医療に診療報酬を手厚く配分することもあります。、医療機関は報酬の高い医療を進めようとするので、それによってあるべき医療へ誘導することができるからです。
Q7 あるべき医療というのは、具体的にどういうことですか?
A7 国が考えているのは、できるだけ大きな病院に頼らずに、住み慣れた地域の中で医療を受けられるようにすることです。
なぜそうした医療が必要かというと、手厚い医療を行う病院に、軽症の患者が訪れたり、手術のあと症状が安定しても入院を続ける患者もいるので、新たな救急患者を受け入れられないということが起き始めています。こうした状況が続くと、高齢化が進んで、医療が必要な高齢者が増えた時に、病院がどこもいっぱいになって、医療が立ち行かなくなると心配されているからです。
Q8 それなら、病院をもっと増やせばいいと思うのですが・・・
A8 財政が厳しいですし、医師や看護師などの人材にも限りがあるので、そう簡単にはいきません。ならば、そうした病院に患者が集中しないよう、地域の診療所が、症状が安定している患者を診て、通院できなくなった時には、訪問看護や介護関係者などと連携して在宅の患者を支えていく。そうした地域重視の医療に変えてこうというわけです。
その地域医療の要になるのが、診療所の医師。その医師が主治医として役割を果たした場合に、新たな診療報酬が設けられました。それが今回の報酬見直しのもう一つの特徴です。
Q9 誰でも主治医をもつことができるのですか。
A9 まだ制度が始まったばかりなので、対象を絞っています。
対象となる患者は、高血圧、糖尿病、脂質異常症、認知症のうち2つ以上の病気を抱える人です。主治医となる医師は、そうした患者の健康を管理し、他の医療機関の受診状況も把握して飲んでいる薬を管理すること、24時間いつでも相談に応じ、介護保険に関する相談にも応じることが求められます。そして患者が、通院できなくなっても継続して診れるよう、在宅医療を行える体制を整えていることが、主治医の条件になります。
Q10 主治医に対する診療報酬はいくらですか?
A10 外来の1回の診療ごとに200円を上乗せするか、または、月に何回診療しても、再診料や検査料なども含めて丸ごと定額にして、一月15030円の包括払いにするかです。いずれにしても、医師がそうした報酬を受け取るには、患者がその医師が主治医になることに同意しなければなりません。
Q11 1人の医師が継続的に健康管理をしてくれて、通院できなくなったら在宅医療も提供してくれるとなれば、患者も安心できますよね。
A11 そう思います。それだけでなく、主治医を持つことで、手厚い医療が行う病院に患者が集中しなくなれば、重い病気になった時に、必要な医療が受けられるというメリットもあります。主治医に対する医療費はかかりますが、大きな病院を作って患者を診るよりは、医療費全体の節約にもつながって、それが私たちが払う保険料の引き上げを抑えることにもつながります。
Q12 主治医になってくれるような医師は、すぐにみつかるのでしょうか。
A12 それが最大の問題です。主治医になるには、24時間体制で患者の相談に応じ、在宅医療を提供できる体制をとっていることが条件ですが、全国に10万ほどある診療所のうち対応できるのは2割程度とみられています。
まずは、それぞれの地域にある地域包括支援センターや各地の医師会に、自宅近くで在宅医療を行っている診療所がないか、問い合わせてみてはどうでしょうか。そして、いつも診てもらっている診療所の医師に、主治医になってもらえるか尋ねてみることも必要だと思います。患者の要望が、在宅医療などに消極的な医師の背中を押すことにもなると思うからです。
Q13 地域に信頼できる主治医が増えてくればいいですね。
A13 私たち患者の側も安易に大きな病院にかからないよう心がけることが必要だと思いますが、それには、信頼できる主治医の存在が欠かせません。今回の診療報酬の見直しをきっかけに、私たちが地域で安心して医療が受けられる体制ができていけばいいなあと思います。