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国賓

 オバマ米大統領の訪日が、国賓になりました。この「国賓」という表現、あまりピンと来ないかもしれませんが、とても重要です。

 国賓というのは、簡単に言うと「陛下のお客様」ということです。なので、陛下との栄誉礼、陛下との会見、陛下主催の晩餐があります。一定の日数が必要です。勿論、最もランクが高い招待です。2012年ですと、マレーシア国王、クウェート首長辺りが国賓でした。2011年には、日本でも人気を博したブータン国王が国賓でした。

 勿論、プロトコール上、天皇陛下のカウンターパートに当たる方だけが国賓でして、例えば、イギリスのキャメロン首相、ドイツのメルケル首相あたりは絶対に国賓になりません。首相クラスはダメで、国家元首に当たる方のみという理解でいいです。

 私、昔、某国の大統領訪日の際、国賓待遇とするかどうかでかなり苦しんだことがあります。その国には、大統領の上に「最高指導者」という不思議な存在があったため、それを国内関係者に理解してもらうよう資料を作りました。しかし、最後は「そういう大統領の上に別個の指導者がいる国というのはどういう所がありますか?」と聞かれ、「そうですね、リビアや北朝鮮ですかね。」と答えた段階で、我々の努力はすべてが終わってしまいました(理由は分かっていただけると思います。)。

 話が飛びましたけど、そういうランクの高い招待方式に出来るかどうかで、相当官邸から外務省に檄が飛んだと思います。今回はそもそも国賓の予定だったと聞いていますが、途中から韓国が「うちも訪問してほしい」と言って割り込んで来たため、日本泊を1晩とするとの報道が出ていました。上記の予定を全部こなそうとすると、1日では国賓日程は消化できません。

 想像するに、東京とワシントンで総力戦で対ホワイトハウスで巻き返した結果、何とか国賓待遇にするところまで持ち返したということでしょう。関係者の御尽力に敬意を表します。ここで国賓が成立しなかったら、外交的には失点だったでしょう。それくらいのマグニチュードのある話でした。

 成立した要因としては色々考えられますが、日米間の色々な駆け引きがあったはずです。いわゆる河野談話見直し、日米韓首脳会談開催、ウクライナ情勢・・・、それぞれのテーマで日米間に貸し借りが生じました。例えば、ウクライナ情勢で表面上は足並みを揃えたことは「貸し」の中に入っているはずです。その貸し借りのバランスの中で、何とか国賓とすることに合意できたということです。外交のやり方としては、それが普通のことです。

 一つ気になるのは、貸し借りのバランスの中にTPP妥結は入っていたのだろうか、ということですけどね(つまり、アメリカ側から「国賓待遇にしてほしいなら、訪日時の妥結をコミットしろ。」と詰め寄られたとか。)。今、交渉官レベルではオバマ訪日時の妥結は難しいということになっていますけど、さてどうでしょう。サプライズを用意していたりはしないかなと。別に妥結をする事自体は良いのですけど、オバマ訪日までの限られた時間に追われて余計な譲歩をしているとしたら、ちょっと鼎の軽重を間違えていると思います。

緒方林太郎
前衆・民主/元外交官

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