ミシンの針を見つめる目や、マネキンに布地を当てる手に緊張感が宿る。3月は課題を仕上げる追い込みの時期だ。「けっこう形はできてるんじゃない?」「でも布目がこう走ると、ドレープがうまく出ないんだよね」。時には互いにアドバイスを出し合いながら、ワンピースやドレスを仕上げていく。

 服飾デザイナーらを養成する専門学校「文化服装学院」(東京都渋谷区)の服飾専攻科。高卒後に2年制の服装科を終え、さらに1年間で、より高度な知識や技術を身につける「3年次」の位置づけだ。各クラス約50人が在籍する。

 ただこの専攻科ではいま、多くの大卒者が学ぶ。デザイナー志望が多いデザイン専攻でクラスの3割近く、型紙を引くパタンナー志望が多い技術専攻で約4割に上る。

 技術専攻の中村静香さん(24)は信州大学卒。家族の「大学は出ておいた方が良い」とのアドバイスで自宅近くの信州大へ進学し、教育学部で教員免許も取った。でも「本当はずっと専門学校で服作りを勉強したかった」。年下の仲間と机を並べるが、「同じ目的を持って学んでいるし、年齢差は感じない」と笑う。

 慶応大法学部卒で、デザイン専攻の杉山絵里さん(24)は、大学進学時には「いわゆる良い会社、良い仕事に就けるように、と思って進学先を選んだ。漠然と、一般的にステータスが高いと言われる職業をイメージしていた」と言う。

 しかし、大学1年の冬に弟を、3年春に母をいずれも病気で失い、思った。「人生は短い。自分のやりたい勉強をしないと」。幼稚園の頃に憧れていた服作りの道へ進むと決めた。今春から、好きなブランドを手がけるアパレル会社で働き始める。「自分の人生は自分のものだと考えた時に、世間体は気にならなくなった」

 デザイン専攻で慶応大総合政策学部卒の原田佳奈さん(24)は、大学3年生の時に広告会社などを中心に就職活動をしてみたものの「やりたいことではない」と感じて服飾の道へ。大学新卒者に交じっての2度目の就活では「型紙を引ける人材は貴重」と言われ、アパレル会社に決まった。「学歴をうまく売りにできる人もいると思うけど、私は違った。結局は自分次第だと思う」