インドネシア・ジャワ島東部で、1世紀の歴史を誇るスラバヤ動物園。希少動物のオランウータンやライオン、コモドドラゴンなどが次々と死んだことが発覚し、「死の動物園」とまで呼ばれた。死を招いた劣悪な飼育環境の背後には、経営をめぐって争い、動物保護をないがしろにした人間たちのエゴが渦巻いていた。

 1歳半のオスのライオン「マイケル」が檻(おり)の中で首をつった状態で死んでいるのが見つかったのは1月7日早朝。殺害された可能性があるとして地元警察が捜査を始めた。

 死体の解剖やマイケルのふだんの行動などを調べた結果、後ろ脚だけで立ち上がる習慣があることが判明。警察は、活発に動いているうちに、ドアを開閉するための金属製のロープに首が絡まって死んだと結論づけた。

 ただ、飼育員が死んだマイケルを見つけた後、警察が到着するまでに檻の中は清掃されていた。十分に証拠が残っていなかったこともあり、捜査には限界があったとも指摘された。

 スラバヤ動物園では1月にヌーやサル、スマトラカモシカも死んだ。さらに昨年は、9月と10月にオランウータンが相次いで病死するなど、1年間で229匹(魚類・鳥類も含む)が死んだ。

 実は、同園では10年ほど前から、相次ぐ動物の死が問題になっていた。インドネシア誌テンポの集計によると、2006~13年に死んだ事例は1800件。08~09年にはコモドドラゴンの赤ちゃん45匹が死んだ。檻の汚れ、日光不足、エサの栄養不足などが原因とされた。

 動物園を監督する林業省は事態を重く見て、10年8月に園の運営権を停止。同省、東ジャワ州、スラバヤ市、インドネシア動物園協会などで構成する暫定運営チーム(TPS)を送り込んだ。

 その年に開催された研究会で、動物の死因は50%が不衛生や栄養不足による病気、30%がストレスと分析された。高齢による自然死はわずか20%だった。

 林業省幹部は「スラバヤ動物園は動物が多すぎて、飼育環境が劣悪」と指摘する。同園には15ヘクタールの敷地に119種、計3400余の動物がいる。ジャカルタを代表するラグナン動物園は140ヘクタールに約2千だ。

 昨年7月までTPSの責任者だったインドネシア動物園協会のトニー・スマンパウ事務局長は「飼育環境が過密になると近親交配や縄張り争いが起きる」と指摘する。スラバヤには、生まれつき障害のある動物が少なくないが、その原因のひとつが近親交配とみられている。

 水やエサにも問題があった。12年1月に死んだイノシシの胃液と肉から毒性の強いシアン化合物が検出された。同年7月にエサの鶏肉と牛肉を検査したところ、防腐や殺菌に使われたとみられるホルマリン成分が見つかった。高濃度の鉄分を含んだ草もエサに使われていた。

 柵と動物の距離が近く、来園者が投げ入れた食べ物が死を招くこともある。死んだキリンの胃袋から、菓子のプラスチック包装の固まりが見つかったこともある。