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07 旗を継ぐ者
第二回公演「孫悟空の冒険」は、はじめの脚本で蜘蛛女とのシーンをクローズアップされたモノから牛魔王のモノに差し替えられた。
これは真宮寺サクラのキャラが、かなりイケテる部分にのっかった変更だったが、ゲネプロを見る限りでは成功だったと言ってもいいものであった。
脚本家「横島忠夫」の誕生であった。
とはいえ、全員分の出番やら、それにあわせた新アイテムの開発などをしているあたり、商魔と呼ばれている面目も合わせている。
悪役という難しい役をこなしたサクラであったが、彼女のファンが減るかというとそうではなく、逆に同性のファンや「格好良い悪役」に憧れる子供たちという癖のあるファンもできた。
故に、記念品売場で牛の角付きのヘアバンドがバカ売れな現状を見て、米田も舌を巻いていたのだった。
もちろん、孫悟空関連の、カンナ関連のアイテムも売れている。
しかし、予想の範囲内で、これは爆発的に、とは言えない感もあった。
が、孫悟空シリーズ上演の際には何度も使い回せるアイテムなので、それもありか、という商品開発部署の計算もあったりなかったり。
思いの外バカ売れなのが「法師役着替えセット」だった。
アイリス用の衣装だったので、縫製を調整して普通の子供だったら着られるようなコスプレセットを作ったところ、恐ろしいほど売れた。
というか、子供じゃなくても大きなおっさんも買って行っているのを見て、少しだけ背筋が寒くなったアイリスであった。
「とはいえ、まぁ、順調やな」
「そうですねぇ、本当に毎回やってくれますね、横島さん」
「忙しいのは良いことやで?」
「というか、シンデレラメダリオン、再販してくださいよ。本気で泣きながら縋ってくるんですよ、いい年の紳士が!」
「で、椿ちゃんも、そんなおじさまにときめいて?」
「ときめきません。鼻水と涙でぼろぼろな紳士(へんたい)にトキメくほどハイセンスじゃないです」
記念品売場担当の椿とともに、明日の公演の準備をしていた横島は苦笑い。
記念メダリオンの価値が上がれば上がるほど直接取引の材料になるのだ。
そうそうに再販など出来ない。
逆に、熱狂的なファンの娘なんかを持っている貴族が、記念品を手に入れて帰宅した際の家庭内地位なんかを考えると、なんというか、親派にしやすい。
そう、引き入れやすいのだ。
財布として。
「横島さん」
「ん?」
「この記念品、なにに使うんですか?」
ひょいっと出したそれは、金属性の筒だった。
そしてその筒の先には、ガラス上の白いカバーがかぶせてある。
「ああ、これはな、人間の霊力、オーラなんかを呪符で発光させる霊力灯や」
「・・・ええええええ! そんなモノ売っていいんですかぁ!?」
「簡単な呪符やし、京都の陰陽寮からも供給されとるし、緊急時の手元明かりとしても政府公認やで」
「・・・政府まで動かしましたか」
思わず頭痛に耐えるような仕草の椿であった。
「で、どのぐらい霊力使うんですか?」
「んー、大して使わんぞ? ふつうの赤ん坊が持っていても、一日中使って・・・一晩寝れば大丈夫な程度」
「・・・それってすごい発明なんじゃないですか?」
「おう、どんどん広まってくれれば、特許料がすごい勢いで劇団の財布を暖めるんや」
うっわー、と驚きの顔の椿。
と、マリア=タチバナ。
いつの間に、と、すこし驚いた横島。
「なんとうか、すごいモノ作りましたね、横島さん」
「ん? まぁ、光武の搭乗口にもついてるから、気にして見てくれや」
実のところ、光武の正面光源も同じで、電球でないので切れない、その点だけでも現場使用上の優位点となっていた。
「で、マリア隊長は何か用かいな?」
「はい、横島さん。サロンでお茶会なんかしてますので、お暇ならご一緒にどうですか?」
暇なわけあるかいな、と思ったが、「いってきてくださいね〜」という視線を送ってきた椿に感謝しつつ、その場を離れた横島だった。
椿にしても、この劇団の主戦力である花組のテンションを一定以上にすることも任務のうちなので、その辺に躊躇はない。
躊躇はないが、少し面白くもないのも事実なので、今度横島に洋食の一つでも奢らせようと思った椿であった。
その行為自体が「デート」であることを、彼女はまだ気づいていない。
「タダオー」
ちょこちょこと手を振るアイリスに微笑みつつ、横島は各自へ紅茶を入れる。
はじめはスミレによる嫌がらせだったのだが、思いの外本格的に入れられることを知ったアイリスが「お茶はタダオ」と決め打ちしたため、この時間には必ず呼ばれるようになった。
「しっかし、横島兄さんも多芸やなぁ」
コウランの台詞にカンナが乗る。
「ホントだよな。脚本は初めてにしても、大工仕事に格闘技、家事仕事に料理洗濯、本気で何やってたんだって話だ」
わいわいとお茶を楽しみながら、そんな話が続いていた。
「・・・実際、本気で元々の職業は何なんですか、横島さん」
真剣な、探るような視線に、横島は気軽に答えた。
「退魔士やで?」
「「「「「うっそだーーー!」」」」」
「いやいや、ホントだって」
GS、ゴーストスイーパーは、この世界でいうところの「退魔士」なので、絶対に嘘ではない。
とはいえ、この世界の「退魔士」は、かなり実力不足なので、元々いた世界のレベルでいえば「Dクラス」以下だろう。
霊力に秀でた存在であるという花組ですら「Bクラス」が平均であると言えた。
霊力全開でも「Aクラス」平均レベルであることを考えると、霊的な防御が薄いと言えた。
ゆえに、光武や戦闘服に呪符をかなりの密度で仕込んでいるのだが、今のところ彼女たちも気づいていない。
「横島さんほどの術者を、賢人機関が見逃すはずがないじゃないですか」
「だって、わい、男やし」
「関係ないで、横島兄さん」
そっか? と首を傾げる横島。
「たぶん、賢人機関つうところも、目麗しい乙女ばっかり探してるんやろ? なにせ、目の前にゃ『美人さん』ばっかりおるし」
「「「「「・・・え」」」」」
真っ赤になる花組女子。
さすが横島忠夫。
意図せぬフラグを乱立させること森の如し!
「ね、ねぇ、タダオ。それって、私も入ってる?」
「あたりまえやろ、アイリス。アイリスは超美人さんや。ブロマイド売り上げもトップやで」
真っ赤になりつつ目をウルウルさせたアイリスは、いやんいやんと身を振る。
「ま、女の子女の子してるからなぁ。あたしにゃ真似出来ね」
「そりゃそうだ。アイリスはアイリス、カンナはカンナだろ? アイリスの良いところとカンナの良いところは同じじゃない。だったら真似する必要はないだろ?」
「・・・横島さん」
ぽーっと赤くなったカンナは、恥ずかしそうに頭をかく。
「たらしやな」
「たらしです、師匠(せんせい)」
「女の敵ですわ」
コウラン・サクラ・スミレの三人の冷たい言葉に不思議そうな顔の横島。
「・・・横島さん、実は前職は退魔士ではなく色事士だったのでは?」
「「「「「ああ〜」」」」」
「なんでやねん!」
何でも何もありゃしない。
実際のところ、あと一歩で落ちる女の数は星の数だったのだから。
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閑話チックな七話、いかがだったでしょうか?
お楽しみいただければ幸いです。
2012/04/07 OTR移転版+小修正
文字数は2,986文字