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人から「悲しみ」が失われている:デトロイトの人工知能学者が唱える仮説

 
 
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TEXT BY WIRED.jp_W& HIROSHI M. SASAKI

Crying Besuty” BY Kamaljith K V (CC:BY)

「本来、悲しみの感情は、社会的倫理観、すなわち自分や他者の行動に対する正義感、罪悪感といったより複雑な感情を形づくるベースとなっています。近年、ソーシャルネットワークでの活動において、人は、本当の自分ではなく、さまざまな自分に擬態してコミュニケーションをおこなっています。それが脳に与える影響は、わたしたちが想像している以上に大きいと言えるのかもしれません。こうした環境に慣れてしまうことで脳が感情の捏造を繰り返し、そのことで、本来の感情野が退化しはじめているということがおこっているのかもしれません。自分をよく見せようという意識が、感情の捏造に留まらず、モラルやマナーの低下を引き起こすのではないか、とわたしは危惧しています」

また、捏造感情による悲しみの退化は、人が音楽を認識する方法にも重大な欠如をもたらしてもいるという。自身がテクノDJでもあるブラウン教授は、悲しみを失いつつある被験者たちに、多種多様な音楽を聞かせたところ、音そのものに対する反応がまったく見られず、逆に、その音楽家の背景やストーリーを与えられることで、一気に音楽に対する共感が高まるという例があることを明かしている。

「音楽の認知は、悲しみの感情と密接に結びついていると言われています。けれどもある人たちにとって、音楽は、捏造感情を通してしか脳に認知されないという症状が出ているように思えます。これは人という生き物にとっての根源的な欠落といえるものである可能性を秘めています。これは重大なことです」

今後、この仮説をめぐる検証は十全になされなければならない、と慎重な姿勢を貫きながらも、ブラウン教授は、かなり悲観的な未来を語っている。

「悲しみという感情を失った人が、どういう『人』として、どんな行動をするのか、まったくわかりません。そこが怖いところです。悲しみを失った人たちだらけの世界に住みたいと思いますか? それは音楽のない世界でもあるのです。研究費の一部をDJのアルバイトから捻出しているわたしとしても、それはだいぶ困った事態になりそうです(笑)。加えて、何を信じたらいいかもわからなくなりますね。世の中エイプリルフールのごとく捏造された情報ばかりがはびこることにもなりかねませんね」

 
 
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