【コラム】
「たしか単行本の表紙に使うためにアンディ・ウォーホルのリトグラフの画像の版権を許諾してもらいに中目黒の事務所にうかがったのが最初でしたね」と私。JICC出版局(現・宝島社)で、書籍編集を担当していた時の話だ。「ああ、そうだっけ、随分前だよね」と中川が電話のむこうで答える。
中川徳章、株式会社九鬼代表取締役。このほか音楽CDやCD-ROMも手がけるアルケミア、スカイパーフェクTVに配信するアスパイアビジョン、渋谷丸山町にオープンしたハウス系のクラブWOMBなど、グループ会社代表の肩書きが幾つかある。社団法人デジタルメディア協会の理事になっているのは、いち早くデジタルメディアにアダルトコンテントで参入した結果だ。DVDタイトル数では、同グループは日本最大の発売元といえるだろうし、アルケミアが運営しているThe
City( http://www.kuki.co.jp
)というサイトは、インターネットを使った映像配信サイトとしては、これもまた、たぶん日本最大のタイトル数を持つ。
「あれはM(共通の知人)が、ファクトリー(アンディ・ウォーホルのスタジオ)と関係が出来て、何か作らせようということになったんだ」。ポルノグラフィというテーマで依頼したが、ウォーホルは日本の状況を考慮して「LOVE」というテーマに切り替え、それでもそれなりにエロティックな作品を仕上げた。この3枚のシリーズ作品は中川がパブリッシャーということになる。その次は確か、映画配給会社クズイエンタープライズの代表・葛井氏が編集部に持ち込んできたヒップホップ映画『WILD
STYLE』でのコラボレーション(本コラム「100万ヒットという生き方」参照)。そして、美術評論家で建築家の谷口江理也を通じてのいくつかの関係。最初に谷口を紹介してきたのはたぶんミュージシャンの吉野大作か「じゃがたら」のOTOだ。谷口が所有するギュスターブ・ドレの『神曲』の原本(ダンテの『神曲』の挿画入りの本)の画像を、三面マルチスクリーンのスライドショーに仕立て、これに吉野のグループ、プロスティテュートが生演奏を加えた。草月会館がまだかろうじて現代アートの拠点だった頃の話。ドレの『神曲』をはじめとする作品は、画集として発行され、『神曲』ライブは後になって、その雰囲気のまま中川のアルケミアでCD-ROMとして発売されている。(音楽には吉野のほか近藤等則なども参加)。
これだけでなく、中川が関連してきたコンテンツには、アダルト系以外のアート作品が多い。「あそこにいたことが関係してますか?」と本題を持ち出す。あそこ。最初は渋谷の明治通り沿い。私がたずねた頃は、麻布暗闇坂下の駄菓子屋の角を、ガマ池の方へちょっといったところ。どちらも日中は飲食店を営業していた。正式な名称はたぶん演劇実験室・天井桟敷。歌人、詩人、劇作家、映画監督、競馬評論家などなど肩書きの書ききれない故・寺山修司が、1967年、横尾忠則、東由多加、九条映子と設立。中川はこの伝説の集団に、文芸部員として4ヶ月、わずかだが在籍した。「文芸部というしっかりした組織があったわけじゃないけどね(笑)」。
そして腎臓結石の話になる。結石の核は、最初一つ植え付けられるだけだが、それが育っていって細かく分散して、また大きくなっていく。「そういう意味での核は植え付けられた気がするね」(ちなみに寺山の死因は腎臓結石とは関係ない)。天井桟敷でモノを作る快楽を憶え、映画監督を目指す。しかし助監督を10年続けた友人の貧乏生活を見て断念。アダルトの世界に入って以来、その道一筋だ。
最初は自動販売機で雑誌を販売していたアリス出版の制作会社。やがて自社で流通を手がける。自販機雑誌、カセット付きのもの、写真集、ビデオ、CD-ROM、DVD、ストリーミング配信、新しいメディアにはいち早く対応してきた。「ビデオの時は出遅れたので、以降は必ず一番手を目指す」。決して儲からないアート作品を出したり、支援したりするのはどうしてですか。今も映画制作に関与しているし。「天井桟敷もそうだけど、それ以後も周辺に現代美術家やアーティストがたくさんいるのに、自分がそれになれなかった、ということが影響しているだろうね」。中川が、メディアということを明瞭に語らなかったので、少しだけ釈然としない。
もう一人、別の人の話を聞いておく必要があると思ったが、地球有限会社ジオデシックの栗田伸一(この会社は日本で最初にマッキントッシュに関する本を編集した)にするか、アップリンクの浅井隆にするか迷う。栗田はそのキャリアの最初のほうで、実弟のマジカルパワーマコと共に音楽家として天井桟敷に関わったらしい。浅井はコアすぎるという気がしたのだ。「浅井は根っからアングラだからね」と中川も言う。しかし、すでに私は栗田のインタビューをしたことがあるので(『マルチメディアフロンティア'93』パイオニアLDC刊)、浅井に電話する。
「天井桟敷はメディアだった」とのっけから答えが戻ってくる。「演劇の文脈の中でのみ語ってもしょうがない」。浅井隆。株式会社アップリンク代表。1974年から84年までの10年間、天井桟敷に所属。演出助手だけでなく、寺山らが人力飛行機舎として手がけた映画の助監督、雑誌の編集などにスタッフとして関わる。80年代にユーゴスラビアのグループ、ライバッハの招聘の件で浅井と会った時は、まだ質問舎の名刺だった。質問舎はもともと天井桟敷の中で雑誌『地下演劇』を編集していた田中未知らのチーム名だったという。
当時浅井はアップリンクシアターという演劇(的な)作品シリーズを展開していて、寺山没後、天井桟敷は演出家J.A.シーザーの万有引力と2つの流れに別れる、という見方も誰かから聞いた憶えがあった。「天井桟敷は演劇ももちろんやっていたけど、映画も、個展のようなイベントも、雑誌の発行も、一般雑誌のページの責任編集もやっていた。演劇も、劇場のものだけでなく、市街劇や書簡だけで展開する書簡演劇など実験的なもの、コンセプチュアルなものといろいろあった」。そういう集団に、俳優としてではなく、スタッフとして関与したことはその後、様々なメディアに横断的に関与する基礎となった。
山本政志監督『ロビンソンの庭』(町田町蔵主演)が最初の映画プロデュース。87年に映画配給会社として株式会社アップリンクを設立( http://www.uplink.co.jp )。最初の配給作品はデレク・ジャーマン監督『エンジェリック・カンヴァセーション』だ。配給だけでなく作品をビデオ販売。海外のプロダクションとジャーマン作品などの共同製作も行うようになる。その後は映画を中心にテレビ番組、ビデオ、CDも手がけ、映画、音楽とアートの雑誌『骰子(ダイス)』も発行。書籍も手がけるほか、UPLINK FACTORYといスペースを渋谷消防署そばに設け、映画上映、イベントも行う。
「演劇以外のことはみんなやってますね」「そういえばそうだね」と浅井。UPLINKFACTORYのスペースもどこか飲食店・天井桟敷に似ている。「あれは欧米の演劇運動を参考にして生まれたものだった」。スペースもメディアだという了解が浸透した時代。思い出すのは、パソコンが生まれる前に、現代音楽家E・ソーズマンが書いた文だ。「'マルチ=メディア'とは多種多様な表現メディアを融合させ、さらにテクノロジーを駆使した、一種の環境芸術をさす。'ミクスド・メディア'あるいは'インターメディア'という言葉も、用法に多少の違いはあるものの、'マルチ=メディア'とほぼ同じ意味で用いられる。(中略)しかし'マルチ=メディア'がこの(ワグナーの言う--福冨注)'総合芸術'と異なるのは、ドラマとして展開する'閉じられた'形式を使わず、むしろ、時間的にも空間的にも流れるままにまかせる傾向が強い点にある」(1974年ソーズマン『20世紀の音楽』松前・秋岡訳 東海大学出版会)。
30年代的なマルチメディアから、21世紀のデジタルメディアへ。「人間は本来マルチディアだったのに、これまでのテクノロジーは速度が遅すぎた。そういう意味でDVDは可能性があるし、PS2ではゲームタイトル以外のものをやりたい」と浅井。デジタルな映画製作の可能性を、デジタルムービーワークショップとして提唱し、プロジェクトを展開している。やはり、この2つの対話について、結論はたぶん私には書けない。すでに伝説化してしまった出来事や時代へ遡行していくには、本来、相当の準備が必要なのだ。だが、気付いたことだけでも書いて置こう。中川との会話にも、浅井の時は実に3回も、使いづらい同じ言葉が出てきた。それは「血」だ。「その血が自分にも流れていると思う」(浅井)。しかし一般に言う因果とか宿命という意味と微妙に違う文脈。「私は<過去>という文字にルビをふるときにエクスペリエンス(経験)とするよりも、ストーリー(物語)とする方が当たっているという意見で、『過ぎ去ったことはすべて物語りにすぎない』と思っている。」(寺山修司)『さかさま世界史怪物伝』)という言から考えれば、「血」はむしろ、過去や経験よりも、欲望や快楽のような言葉に近いのかもしれない。
「一本の血にも流れている血がある
そこでは
血は立ったまま眠っている」(寺山修司)
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http://pcweb.mycom.co.jp/news/2000/02/09/01.html
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