(2014年4月1日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
ユーロ圏のインフレ率が一段と低下し、欧州中央銀行(ECB)の政策対応に注目が集まっている〔AFPBB News〕
ユーロ圏の3月のインフレ率が4年以上なかった低水準に落ち込み、単一通貨圏が物価が下落する厳しい時期に向かっているとの不安が高まっている。
欧州委員会統計局ユーロスタットは3月31日、3月のインフレ率(消費者物価上昇率)が0.5%に低下し、2009年11月以来の低水準を記録したと発表した。
事前予想を下回るインフレ率は、部分的には、昨年のイースター(復活祭)――企業が値上げする傾向がある時期――が例年より早かったことがもたらした結果だ。だが、3月の統計値は、ユーロ圏の物価上昇圧力がエコノミストの事前予想よりも弱いことを示す最新の兆候に過ぎない。
また、最新の統計値は欧州中央銀行(ECB)理事会が4月3日に金融政策を緩和する根拠を強めることにもなる。
日本式のデフレに陥る脅威
「インフレ期待のデアンカリング*1のリスクは高まっている」。バークレイズの欧州担当チーフエコノミスト、フィリップ・グダン・ド・ヴァルラン氏はこう話す。「ECBはこれをベース効果だと主張することもできるが、昨年夏からのトレンドを見ると、ECBはインフレ率をどんどん下方修正してきた」
ディスインフレーションは部分的には世界的な現象だ。世界の景気回復が鈍いために先進国全体で膨大な余剰生産能力が生じたことから、英国と米国でも物価圧力が中央銀行の目標値を割り込む水準まで下がっている。鈍い需要はエネルギー価格を抑えることにもなった。こうしたインフレ率低下を受け、国際通貨基金(IMF)のクリスティーヌ・ラガルド専務理事はデフレのことを「断固として戦うべき鬼」と呼んだ。
しかし、ユーロ圏のインフレ率は米国(1.1%)や英国(1.7%)を大幅に下回る水準まで低下した。1つには、ユーロ圏は他地域をずっと上回る余剰生産能力を抱えているためだ。
インフレ率低下のニュースにもかかわらず、3月31日に対ドルで小幅に上昇したユーロの強さは、輸入コストを引き下げることで物価上昇圧力を弱めることにもなった。ECBのマリオ・ドラギ総裁は、2012年以降のユーロ高がインフレ率を約0.4~0.5%下振れさせたと述べた。
ECBは、こうしたディスインフレは朗報でもあると主張した。周縁国の相対的な人件費が低下し、脆弱なユーロ圏諸国の競争力を高めた影響もあるからだ。だが、ユーロ圏最大の経済大国で最も競争力の高いドイツでさえインフレ率は1%で、2%を若干下回る水準とするECBのインフレ目標の半分程度に過ぎない。
*1=de-anchoring、将来の予想インフレ率が中央銀行のインフレ目標から遠ざかっていく現象のこと