くらし☆解説 「調査捕鯨国際司法裁判所判決の意味は」2014年04月01日 (火) 

合瀬 宏毅  解説委員

岩渕)こんにちは。くらし☆解説です。日本が南極海で行っている調査捕鯨について、国際司法裁判所は、現在のやり方では認められないとする判決を言い渡しました。判決の意味について合瀬宏毅(おおせひろき)解説委員とお伝えします。
 
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岩渕)国際司法裁判所での判決、どういうことでしょうか?

日本が主張してきた、科学のためとする調査捕鯨が、否定されたと言うことです。
今回、国際司法裁判所が判決を下したのは、南極海で日本が行っている調査捕鯨です。日本は南緯60度以南の南極海で、およそ30年にわたって鯨の生態を調べるための調査捕鯨をおこなってきました。
対象はミンククジラ、ナガスクジラなど3種。捕鯨反対国に対する配慮や、環境保護団体シーシェパートの妨害などで、実際に取っている数は100頭あまりですが、毎年1000頭以上の捕獲を目標としている。
 
岩渕)この調査捕鯨をオーストラリアが訴えたのですね。

そうです。そもそも現在は国際捕鯨条約によって商業捕鯨は禁止されています。一方で科学を目的とした調査のための捕鯨については例外として、これを認めている。
ところがオーストラリアは4年前、日本が南極海で行っている調査捕鯨は、実態は商業的な目的を持った捕鯨であり、国際捕鯨取り締まり条約に違反しているとして、国際司法裁判所に訴えたのです。
 
岩渕)お互いの主張はどういうものだったのでしょうか
 
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オーストラリア側は、現在行っている調査捕鯨について、捕獲される鯨の頭数が毎年数百頭に及んでいることや。鯨の肉が市場で売られていることなどを理由に、「実態は商業捕鯨に他ならない」と主張しました。
一方日本側は捕獲する頭数は調査のために必要なもので、鯨肉の販売は条約で認められているなどと反論し、「科学的な調査が目的で成果を上げている」と主張してきた。
お互いの主張が真正面からぶつかり合う展開で、裁判の行方が注目されていた。
 
岩渕)しかし日本の主張は取り入れられなかったということですね

そうです。国際司法裁判所は昨日、「大きな枠組みで見れば、日本の調査捕鯨は、科学的な調査だといえるものの、調査の計画や実施方法が目的を達成するのに妥当なものではない」と述べ、日本がこれまで南極海で行ってきた調査捕鯨は、条約で認められている科学的な調査には該当しないという判断を示しました。
その上で、「このままの形で捕鯨の許可を与えることは認められない」とした。
 
岩渕)このままの形ではだめだというのはどういうことですか?

一言で言うと、目的は良いが、やり方が良くないということ。
これを見てください。日本が調査捕鯨の根拠としている、国際捕鯨取締条約の8条です。
 
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「締約政府は(日本は)自国民のいずれかが科学的研究のために、鯨を捕獲し、殺し、及び、処理することを認可する特別許可書をこれに与えることが出来る」とされ、さらに「捕獲した鯨は実行可能な限り加工し、また拾得金は許可を与えた政府の発給した指令書に従って、処分しなければならない」とされている。
つまり商業捕鯨が禁止されていても、科学的な調査が目的であれば、捕鯨を行うことが出来、しかも法律ではむしろ加工して、無駄なく利用することを進めている。日本の主張と合致している。
 
岩渕)それなのになぜ日本の調査捕鯨が科学を目的でないとされたのですか?

その数と、調査の方法による。
日本では2005年以降、南極海のこの海域で、ミンククジラの935頭を始め、それまでの2倍にあたる1000頭を超える捕獲量を調査捕鯨として計画、これを実践してきた。
その目的はミンククジラが増えすぎているため、数の増加を調べるとともに、種の間でエサの競合などが起こっていないかなど、生態系の解明やその管理方法を調べるとしていた。
 
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岩渕)それが問題だったのでしょうか。

もちろんそれで分かることもあった。例えば鯨にはその巨大な身体を支えるために大量のエサが必要だとされていますが、胃の中が空っぽのクジラがいるなど、明らかに数が多すぎてエサ不足が起こっていることなどがわかってはきていた。
ただ裁判所は、数が多い理由が不透明なことや、クジラを殺さない調査方法が求められていたのに、検討してこなかったこと。
さらに生態系全体を解明するには、クジラの種類ごとに調査しなければならないのに、それをやらず、ミンククジラばかりを捕っていることなど、その行為は正当化できないとして、国際捕鯨取締条約8条1項を逸脱していると判断した。
  
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岩渕)政府として、負けは予想していたのか?

かなりショックだと思う。そもそも日本の調査捕鯨については、その妥当性を巡ってIWC国際捕鯨委員会のもとでも長年議論されてきた。
その国際捕鯨委員会。アメリカやオーストラリアなど反捕鯨国と、日本やノルウェーなど捕鯨国の間で深い対立が続いて、何も決められない状況が20年以上にわたって続いている。
 
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オーストラリアに訴えられた裁判であるとはいえ、日本としては法に則って行っている以上、むしろ正当性を国際社会に訴えるチャンスと考えていた。
しかしこういう形で判決が下りた以上、このまま南極海で調査捕鯨は続けられない。
 
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岩渕)日本はどんな影響が考えられるのでしょうか?

さまざまなところに影響が考えられます。日本では南極海の他、三陸沖など北西太平洋で調査捕鯨を行っているほか、国際捕鯨委員会が管理していない、小型のクジラやイルカなどの漁が行われています。
こうしたものは、例えばクジラの竜田揚げやベーコン、それにユッケなど地域の伝統料理や地元の味として親しまれてきました。
 
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岩渕)こうしたものも無くなってしまうのでしょうか?

もちろん今回の判決は、南極海での調査捕鯨を対象にした判決で、三陸沖での調査捕鯨や地域の小型捕鯨が問われたわけではありません。南極海からの調査捕鯨で供給されるクジラ肉は全体の20%とそれほど多くありません。
ただ三陸沖での調査捕鯨も南極海同様、訴えられる可能性はありますし、沿岸で行われているイルカ漁なども、批判がますます強くなるかもしれません。
 
岩渕)地元の人には困りますよね?

さらに他の魚種への影響です。実をいうとクジラ、食べられている地域も限定されていて、国際社会を敵に回してまで、なぜ捕鯨を続けるのかという批判も国内でも強かった。
それでも政府がクジラにこだわったのは、資源は有効利用すべきだという原則論を曲げることは、海の資源に囲まれる日本にとって死活問題という危機意識があったから。
最近はクロマグロなど、クジラだけでなく他の魚も守るべきだという主張が環境団体などから次々と提起されている。
 
岩渕)次々と規制されたら困りますよね?

日本はこうした世界の流れに、資源に余裕があるなら科学的な調査を行って利用すべきだと、主張してきた。しかし今回、その調査の方法が批判されたわけで、日本としては戦略の練り直しが求められていると思います。