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2014/04/01

jugement:訴権の濫用として訴え却下された事例

東京地判平成26年3月6日PDF判決全文

訴訟物が違うけど蒸し返しというケースなら、最高裁判決以降珍しくないのだが、この判決の事案は訴訟物が違うけど実際は同じ給付を求めるというものではない。

とはいえやはり似たような趣旨の訴えが繰り返された事例ではある。

事案は、電話機の製造販売が自らの特許権を侵害しているとして損害賠償を求めるもので、判決文によれば被告の「持主いない電話番号売買禁止の売上利益目的機」なるものが原告の「繋ぐ番号販売技術」なる特許の要件に抵触しているから、特許侵害だというのだが、それ以上の具体化はしていない。
そして、原告が侵害されたとしている「通信不正傍受阻止システム」なる特許に関連しては、すでに同一被告に3回の侵害訴訟を提起して、ことごとく敗訴している。

こうした事情から、以下のように判示したのが本件判決だ。

上記(1)認定の事実によれば,原告は,本件訴訟までに,被告に対し,3回にわたり,被告による携帯電話の製造等が本件特許権を侵害すると主張して,その差止め及び廃棄並びに損害賠償を求める訴訟を提起してきたが,本件訴訟も,同様に,被告による「売上利益目的機」の製造等が本件特許権を侵害すると主張して,その差止め及び廃棄並びに損害賠償を求めるものである。ところで,原告は,被告製品1ないし3の具体的構成を特定しないし,また,本件においても,目的物である「売上利益目的機」の具体的構成を特定しないのであって,結局のところ,原告は,被告の製品について,その具体的構成によることなく,本件特許発明の技術的範囲に属するとし,被告がこれを製造等しているだけで,本件特許権を侵害するとの主張を繰り返しているにすぎない。そして,以上のような経緯に鑑みれば,原告が自ら又は裁判所の問いに答えて,「売上利益目的機」なる目的物の具体的構成を特定することは不可能又は著しく困難であって,およそ,これを期待することはできない。しかも,被告は,本件訴訟により応訴を強いられているのであり,殊に原告が目的物である「売上利益目的機」の具体的構成を特定せず,かつ,特定することを期待することができない中での応訴の負担は,決して小さくない。 これらの事情に照らすと,本件訴えは,訴権の濫用であって,訴訟上の信義則に反するといわざるを得ないから,不適法であると認められる。

同一の特許侵害の主張を、対象たる機能を変えて繰り返しているのだが、いずれも特許の範囲自体の具体化も被告の機能の具体化もしていないで、訴えを提起しており、その両方が相まって却下という結論に至ったのであろう。

こうした例は珍しいかというと、特に知財関係では公表裁判例が多いせいか、たくさん見つかる。

知財高判平成25年8月9日裁判所WEB、Westlaw平25(ネ)10050号
 特許権侵害を理由とする損害賠償請求訴訟が、当事者,請求の趣旨及び請求原因を同じくする前訴においてすでに訴権の濫用に当たるとして却下され、その既判力に基いて却下した原審判決(東京地判年月日不詳 平25(ワ)3969号)を支持したもの。

この判決は原審も前訴も掲載されていないようなので詳細は不明なのだが、前訴においてすでに訴権の濫用とされているところを、もう一度チャレンジして却下判決の既判力により却下されたというものである。

東京地判平成23年 5月26日判タ1368号238頁
 被告の株主である原告が、被告の第73期中に被告の完全子会社との間で行った不動産取引について、会計上の利益が実現していないにもかかわらず、被告が特別利益として計上し利益処分案として承認した第73期定時株主総会以降の全決算に係る決議が無効であるとして総会決議無効確認を求めた事案につき、本件訴えは、不動産取引の当事者であった原告が被告の株主であることを利用して、本件会計処理から本件訴え提起まで約18年という長年にわたって問題とせず、かえってその利益を受けてきた会計処理に係る問題点を掘り起こし、争う手段を変えることによって、いったん解決をみた不動産売却に関する紛争をいたずらに蒸し返そうとするもので信義則上許されず、訴権の濫用に当たるものとして、訴えを却下した事例

 繰り返し訴えられたケースかどうかは必ずしも明らかではないが、紛争の蒸し返し事例ではある。

東京地判平成22年11月16日WLJ平22(ワ)20510号 ・ 平22(ワ)26109号
 これも知財で、特許の図面を廃棄したり返還しなかったりという行為に不法行為や債務不履行や著作権侵害などといった理由を変え、あるいは行為の対象を変えて7回も訴えて敗訴した上での提訴で却下された。

東京地判平成22年3月10日WLJ
 これは敗訴判決を逆恨みして裁判所と裁判官を訴えたというもので、いわば嫌がらせ訴訟としての訴権の濫用による却下事例である。

平成20年以降に集中しているのではなく、もっと前からたくさんあるのである。

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