お笑いコンビ「タカアンドトシ」がMCを務め、矛盾する“2者”が戦うとどちらが勝つのかを検証する対決式のバラエティー番組「ほこ×たて」(フジテレビ系、毎週日曜午後7時)が好調だ。6月24日に放送された3時間特番の平均視聴率は15.1%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)を獲得。番組で話題になった金属加工会社への新卒応募者が1.5倍になったと報じられたほどの人気ぶりだ。「みんなが幸せな気分になれる番組を」「ものと人が輝くような編集を」と語る石川綾一プロデューサーに番組の裏側や思いを聞いた。(毎日新聞デジタル)
「ほこ×たて」は10年10月、深夜の特別番組としてスタートした。11年1月に午後11時台に放送される30分のレギュラー番組となり、9カ月後には現在の日曜午後7時のゴールデン帯に昇格し、1時間番組として放送されている。これまでに、どんなものでも破壊する鉄球と絶対に破壊されないものの対決や、「絶対に開かない金庫VS最強の金庫開け職人」などが放送され、「絶対に穴の開かない金属VS絶対に穴を開けるドリル」は“名対決”として知られている。
番組誕生のヒントは、石川プロデューサーが前職の朝日放送時代にAD、ディレクターとして担当した長寿バラエティー番組「探偵!ナイトスクープ」にあるという。視聴者からの依頼を受け、タレントの探偵局員が依頼者と共に調査するという番組で、その影響から「ナイトスクープは、魅力的な人があっての番組。ああいう一般の人が輝くようなバラエティーをずっとやりたかった」と振り返る。「10年は芸人さんのネタ番組の人気が一段落した時期。次は一般の人にスポットを当てたようなドキュメントバラエティーが受け入れられるんじゃないかという予感もしていた」とタイミングも合い、番組が生まれた。当初からゴールデンでの放送を目指し、異例の早さでその目標を達成した。
司会を務めるタカトシの起用には、石川プロデューサーが手がけるバラエティー番組「ペケポン」(フジテレビ系)での信頼関係があり、当時まだ司会者として番組に出ることの少なかったタカトシに「21世紀の新しい司会者になってほしいなという思いがあった」という。また、2人のキャラクターも「対決を無邪気に子供のようにはしゃいで見てくれる司会者」というイメージに合致した。ゴールデンへの“スピード出世”に2人も驚いたようだが「手応えは感じていたみたい。一緒に(ゴールデンで)戦っていこうという感じだった」と当時を振り返った。
番組の名対決で、現在もリベンジマッチが行われている「金属VSドリル」は、深夜の特番の第1回目で放送したもの。この対決を石川プロデューサーは「ザ・ほこ×たて」と呼び、「ほこ×たての精神を一番、抽出した対決。あれにいきなりめぐり合えたのが、この番組の運命だった」と感慨深げだ。
この対決が、番組にもたらした影響は大きい。そもそも日本の技術力にスポットを当てる意図はなかったが、「日本の技術力の素晴らしさを表現している」と年配者に絶賛されることが多く、驚いたという。現在、定番となっている工場での対決も「お金がないから(工場で)やっただけ。本当はもっと華々しいところで対決をさせたいなと思っていた」と振り返り、「工場のホーム&アウェーで闘っているのが面白い。ドキドキする」という声があって、続けていると明かした。
また対決前に行われる名刺交換のシーン。このシーンも「金属VSドリル」で打ち合わせもなく、対決者同士が行ったことから生まれた。「これから闘うのに名刺交換をするって日本人の国民性ですよね。日本人の礼儀正しさを表している」。今では恒例の場面として演出されている。
さらに石川プロデューサーが「陰の功労者」という対決を実況する同局の福永一茂アナウンサーも「金属VSドリル」の際にめぐり合った人物だ。ニッポン放送から転籍したアナウンサーで「深夜の初回からやってもらってる。スポーツ実況をずっとやっていた方だから、緊迫感が出ますよね。(実況の力は)大きい」と絶大な信頼を寄せている。
今後、新しい対決のアイデアがいつまでも続くのだろうかと邪推すると、石川プロデューサーは「リベンジマッチもできますから、ネタ切れの心配は全くない」と自信を見せる。一方、対戦相手が見つからず、保留になっている企画もあるといい「日本のエレベーターの会社で、10円玉を立てたまま、何十メートルか上がれるエレベーターがある。その技術力はすごいけど、なにと戦ったらいいのか……」と苦笑いを見せる。
一般からもホームページなどで対決のアイデアを募集しており、「番組がストイックになりすぎないように、閑話休題的に入れるので、制作側が考える、じゅう器や職人の対決とは逆の、よりやわらかいネタを選ぶようにしている」という。これまでに「絶対に笑わせる芸人VS絶対に笑わない女優」「晴れ男晴れ女VS雨男雨女」などの企画が投稿から採用された。
根底には「視聴者、出演者、番組スタッフのみんなが幸せな気分になれる番組を作りたい」という思いがある。「(出演した)人が傷つかないこと。納得した上で出演していただいて、放送を見ても、勝っても負けても納得してもらいたい」という思いが強く、対決は「平等なルールで戦ってもらうこと」を大事にしている。「対決者を知らないまま戦ってもらうことが多いので、その分、責任を持って負けた人も納得できる平等なルールを作ることにしている」といい、「戦いが終わったあと、お互いをたたえ合っているところは絶対に放送する。そういうところがすがすがしさになればいい」と考えを明かした。
また編集では「ものと人が輝くような編集を」と心がける。「いいものはいい人が作っている。いいものを紹介する時は、おのずといい人を紹介することになる。いい商品の裏にはいい人がいる」という考えがあり、対決シーンよりも、対決までのものや人の紹介に時間を費やすことで、魅力的なものの情報と、開発者や携わっている人々の魅力を伝えている。
目指すのは「親子そろってみられるバラエティー」。勝敗の予想がつかない対決は「年齢層でとらえ方が違うのか、オールターゲットに見られている」と手応えを感じている。そして子供たちに対して「トータルで職業図鑑になっていますから、将来職業に就く時の参考になれば。そして子供が、自分の親が普段これだけ仕事を頑張っているっていうことを感謝して見るという雰囲気になれば」と願いを語った。
取材中、「運命だと思います」という言葉を繰り返した石川プロデューサー。ナイトスクープへの配属も、「金属VSドリル」の対決も、福永アナとの出会いも、「たまたま」だった。「東日本大震災が起きて、『日本、頑張れ』という雰囲気の時に、ほこ×たてがゴールデンになって『日本の技術力の素晴らしさを見て励まされました』という投稿を被災地の人からもいただいた。それも運命」という。「時代がこうだからといって番組を作っても絶対当たらない。若いころやっていた番組の応用形でしかヒットは生まれない」と持論を語り、「人に歴史あり。やっぱり人だと思うんですよね」と力を込めた。
次回の「ほこ×たて」は、「最強つな引き重機決定戦 スーパーヘビー級」と題した対決と、「絶対×不可能」として「誰でも美味(おい)しく食べられる玉ねぎVS絶対に玉ねぎが食べられない芸人」の対決を放送。AKB48の大島優子さん、お笑いコンビ「ピース」、お笑いコンビ「オリエンタルラジオ」の藤森慎吾さん、タレントの中山秀征さんのほか、ゲストで俳優の要潤さん、菜々緒さんが出演する。29日午後7時から放送。
◇プロフィル
石川綾一(いしかわ・りょういち)。98年に朝日放送に入社、03年にフジテレビに転職。情報制作局で「めざましテレビ」「とくダネ!」のディレクターを務めた後、バラエティー制作センターに異動。「ほこ×たて」のほか、「ペケポン」「HEY!HEY!HEY!」「フジテレビに出たい人TV」などのバラエティー番組を手がけている。現在、同センターチーフプロデューサー。