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第六十話

トップページ > 神代ふみあき書庫 > 赤松・椎名系作品 > よこしまほら(旧なろうアップ版) > 第六十話



えー、「誕生」をBGMにしてたら、なぜかこれが書けてしまいました。
おひさしぶりの「よこしまほら」です。

えたってませんよ? …多分w




 

 

 横島事務所の裏の看板は麻帆良防衛であるが、表の看板は心霊相談である。

 やはり多感な時期である少年少女たちに見えてしまう事が多いのだが、見たいと思う子供も多い。

 霊符や結界などを使って見せるのが一般的だが、最近人気なのは寅さん。

 

 何も妹がいて全国放浪しているわけではないが、幼児たちに大人気な「タイガー寅吉」であった。

 これはヨコシマンショーの時に手伝いに来た時から始まった話で、幽霊とか妖怪とかを怖がる子供たちに、実際はこんな感じ、と細かく見せたことだった。

 

「でできんしゃーい」

『お、なんでぇ、虎じゃねーか』

 

 現れたのは鯔背な江戸っ子。

 色々と子供たちと話しているうちに、そういえば家族がもう昇天していたんだ、早く会いに行かなくちゃ、と天に飛び立つ姿は荘厳なもので、大いに感動されたものであった。

 こういう無害な霊もいるが、孤独で狂った霊もいるので、出来るだけ近づかないようにとタイガーの忠告に全員が気持ち良い返事で答えたのであった。

 

 以降、普段歩いていても幼児たちかた「とらさーん」と手を振られるようになり、幼児のご両親からも心霊相談されるようになっていた。

 一応、修行できているのでGS助手なんですじゃ、といっても、安心感が違うという事で、その成績を伸ばしているのであった。

 

 で、その伝手で仕事の依頼もあり、横島としては名誉所員として登録せざる得なくなった。

 

「よこしましゃーん!!」

「ええい、くっつくな!!」

 

 霊の世界をこっちにひっぱて来るという荒業を行うタイガーは、たまたま遊びに来た銀ちゃんに引っ張ってゆかれ、週2で撮影隊に巻き込まれることになってしまったとか。

 幻術として撮影時に認識させることにより、撮影機会にも認識させるという能力はテレビ屋にとって恐ろしいまでに有用な能力であり、まさに引っ張りだこであった。

 如何にほとんどの人々で霊が見えるとしても、全員ではないので、機械への録画というモノのハードルは結構高かったのだ。

 それを何気に行うタイガーは、映像界のヒーローともいえる存在と言えた。

 

「実際、どうなんです、横島さん?」

「なにが?」

「精神操作系なのに、映像にも残るって、変じゃないですか?」

「私もそこが疑問なのです」

 

 アスナちゃんと夕映ちゃんの疑問も理解できるけど、あれって言わば無意識の念写なんだよね。

 

「念写?」

 

 そう、念写。

 基本、人間の視覚って物凄く曖昧なんだ。

 光学的に見えている情報って、脳が理解している情報の20%ほどなんだ。

 

「・・・20%、ですか」

「じゃぁ、あとの80%って」

「思い込みや成長による学習で得た補正」

 

 だから人工視覚実験、って研究で、電子的な目を脳に認識させる場合、生まれてから今まで全盲だった人にはその実験を提供できない。

 そう、何を見ているか処理するための脳が学習できていないから、何を見ているか理解できないからだ。

 逆に、周辺に存在するすべての脳みそに「それがある」と認識させる事が出来たのなら、そこにあるものと認識される。

 逆説的にカメラ映像の光の中にも認識が重ねられ、強制的な認識は現実を上書きするんだ。

 きわめて特殊な霊能現象だ。

 だから、あると判っている映像だからしっかり見えるけど、絶対にないという信念に基づいてみると、発光現象や映り込みにみえたりする。

 

「ふへぇ、じゃぁもしかして、みんなに認識されない幽霊って・・・」

「強い認識阻害が発生しているか、一番初めの段階で認識している人が言葉にしないために認識が感染しないっていうのもあると思うよ」

 

 逆に人の認識の隙間から生まれるのが妖怪。

 共通認識の隙間から生まれ、そして存在を固定化する。

 勿論、伝承型の妖怪は、年を経るごとにその力を増す。

 タマモなんかはそのタイプ。

 で、シロは伝承派生型なので、時間や世代を経ても変化が少ないが、個人の努力が反映されやすい。

 どっちもどっちなわけだが、事中心は認識。

 そう、世界最大勢力にして認識の大半を握っている人間の見方次第というのは彼らにとって幸か不幸か。

 

 という話を、テレビ放送中の踊るGSをみながらやっているわけだ。

 勧善懲悪路線だったのが、幽霊側の悲哀なども絡め始めたのは、単純な霊ばかりではなく生前の人生が色濃い幽霊などもカメラに写り込んでいる影響だろう。

 そのへん、シナリオライターの才覚が光っている気がする。

 

「テレビ番組ひとつで、いろいろ勉強になるのです」

「見る姿勢の差、ですかね?」

 

 そんな風に感心する二人だけど、タマモがまぜっかえした。

 

「この手のうんちくに詳しいっていうのは、ナンパのためのネタよね?」

「横島君、青春っぽいわ、切ないほどに」

 

 いや、こういう勉強って文珠のために必要なんだってば!

 あ、所員全体で首かしげてやがる。

 

「文珠っていうのは、正味、どれだけ成功へのイメージを固められるかってことなの。だから霊能的にも科学的にも、現実を細かく認識して、それをひっくり返す必要があるんだよ」

 

 多分この文珠ってやつは、文字という手がかりだけで、世界の一部を自分色に書き換えてしまう霊能なのだろう。

 いわば、限定コスモプロセッサ。

 

 光あれ、と望める力だ。

 

 だからこそ、霊力を高め、そして能力を極める必要がある。

 型にはまった戦略と、それにはまらない知略。

 卑怯結構メリケン粉を、常に実践して常識を乗り越える。

 これが当たり前となるほどに積み重ねてこそ、というモノがあるのだから。

 

 絶対にあきらめない信念。

 正直、コスモプロセッサの中で逃げ回っていた美神さんほどの諦めの悪さって普通じゃ手に入らないんだ。

 常に思い続けるほど、常に考え続けて、そして呼吸よりも自然に発せられるようじゃなくちゃ。

 

 

「忠夫さん、難しい話はその辺にして、ご飯にしませんか?」

「あ、うん。千鶴ちゃん、毎回ありがとな・・・」

 

 テレビから視線を切って感謝を言葉にした瞬間、緊急報道のチャイムが鳴る。

 反射的にみると、踊るGSの画面は、L字に切り離されていた。

 

「・・・なんだって?」

 

 そこには大霊団発生警報と、その地域が示されており、最寄りの指定神社仏閣への非難や霊符による自衛指示が出ていた。

 

「横島さんやべぇ、あのあたりって首都圏のサーバーが集まってるから、メール関係、全部落ちる!」

「忠夫さん、いま、タイガーさんからの救援要請がきました」

 

 千雨、千鶴の言葉が重なる。

 

「・・・横島霊能事務所はこれから特務にはいる。GS免許取得者は申し訳ないけど、付き合ってもらう」

「当たり前です、横島さん」「そうです、おいていくとか言われたら困るのです」

 

 小夜と夕映がニコリと笑う。

 

「逆に、魔法勢には麻帆良結界強化を依頼したい。不本意ながらエヴァちゃんを一時的に結界に接続して、茶々丸ちゃん経由でローカルサーバーを堅持してくれ。多分今回のカギだ」

「よかろう、忠夫。しかし、この私が麻帆良防衛の要とは、時代も変わったものだ」

「お任せください、ご主人様」

 

 すでに学園中枢に動く始めた主従を見送り、雪之丞を見る。

 

「さってと、久しぶりの大戦争だが、施設は壊すなよ?」

「そりゃいいが、あの辺で今日タイガー撮影してんだろ?」

 

 肩をすくめて見せた横島忠夫。

 

「あいつにもヒーローになる機会があると思うんだけどな」

「それが今だ、ってか? 過信しすぎかもしれねーぞ?」

「あいつにはできる。最低でも周辺の撮影隊を守りきる事が出来る。そのぐらいは知ってるだろ?」

 

 横島の言葉に雪之丞は苦笑い。

 

「そいつを誰よりも信用していないのはタイガーなんだがな」

 

 

 

 

 

 

 緊急事態を感じて、救援信号を送ったところ、発生している霊症が大霊団規模と聞き思考を切り換えた。

 救援が来るまで一時的な防衛ではなく、救援が来ることを想定しての籠城戦へ。

 少なくとも数日単位で応援が来ないことを想定したタイガーは、撮影現場であった森林公園の東屋を防衛拠点に決めた。

 霊符を四方に張り、歩法で清め、そして幻覚で無人を装う。

 そこまで終えて初めて一息つけたタイガーであった。

 

「あ、あんあぁ、タイガーはん。もう話しかけてええか?」

 

 余程集中していたのだろう、撮影スタッフも無言で彼に従っていた。

 

「すんませんのぉ、わっしは直接除霊にたけとらんけぇ、皆さんを守ることしか出来んのじゃぁ」

「ちょちょ、ちょっとまってくれ! いま、助けを呼んでいなかったかい?」

 

 デレクターの焦った言葉に「しー」と合図してからタイガーは苦笑い。

 

「実はこの霊症が、大霊団クラスつうことが分かったんですじゃ。そうなると霊団分解を早急にしないと、東京自体が死都になってしまうんですじゃ。ですけん、わっしのできることは、ここで皆さんを全力で守ることだけなんですじゃ」

 

 力が足りず申し訳ない、と頭を下げるタイガーだったが、携帯電話などのワンセグで現状を理解したスタッフは、逆に息を吹き返した。

 

「君が張ってくれた結界から、外を撮影する分には問題ない、そう思っていいかな?」

「はいですじゃ」

 

 そう聞いた瞬間、撮影スタッフは、今現在の状況を逆手にとって、飛び交う霊たちの映像を色濃く撮影してゆくのであった。

 

「・・・なんか、すごいですねぇ、タイガーはん」

「自分の力不足を痛感してるんですじゃ」

 

 いやいや、と手を振る堂本銀一。

 

「救援要請の回答が撮影班の死守なんやろ? つまり、よこっちはタイガーはんがやり遂げるって信じてるんやろ?」

 

 思わぬ話を聞いた、そんな感じのタイガーは銀一を覗き込む。

 

「本当に、そう思うんですかのぉ?」

「俺は、そう感じたで?」

 

 にこりと笑う銀一を見て、タイガーはこれならモテモテも仕方ないと理解してしまったのであった。

 

 

 

 

 

 

 GS協会から緊急発注があった時には、すでに横島霊能事務所が現場を押さえていた。

 魔法と霊能の複合結界により、都心部の民間住宅地外へ押しやられているところであったが、大霊団からこぼれた霊団は、各GS事務所やオカルトGメンによって処理されていた。

 

「・・・横島君、二塊ほど大霊団に合流させるけど、もつかしら!?」

「大丈夫です、美神さん! こっちは保持だけに全力を尽くしてますんで!!」

 

 いきなり現れた美神であったが、横島はそれを感じていた。

 

「おキヌちゃん、そのまま誘導よろしく!!」

「はい、美神さん!!」

 

 ネクロマンサーの笛による誘導によっていくつかの霊が霊団へ呑みこまれ、そして大霊団へ呑みこまれている。

 発生当初の三倍ほどの大きさになっているが、横島はまだ集めるつもりであった。

 

「横島さん、そろそろ楽団が準備OKです」

 

 雑霊を切り伏せつつ、刹那の報告に横島は頷く。

 

「おキヌちゃん、これからうちの所員で合奏するけど、乗せられると思ったら参加してくれ!」

「わかりました!!」

 

 緊急事態だけに出し惜しみはしてられない。

 

「俺も合奏に加わってますんで、指揮をお願いしてもいいですか、美神さん」

「まかせなさい、あなたの師匠だってのを恥ずかしくないほどの指揮を見せて上げるわ」

 

 

 合奏にはタマモ、シロ、アスナも加わり、それははじまる。

 

 

 

 核ジャック事件、内部文章ではアシュタロス事件として名高い大霊症と部分規模は同党と言われた首都圏大霊症。

 その解決までの数時間が、今始まろうとしていた。

 朗々と、まるで音程を付けたかのような破魔の声。

 それは狗族特有の霊能であり権能。

 まるでそれを理解しているかのように、弦楽器がかき鳴らされる。

 霊能が、魔法が、科学が織りなす増幅効果で都下を包む不思議な音に、各地から音が加わる。

 当代最若手のネクロマンサーが、その権能を受け入れた少女と共に。

 また、彼女の権能を借り受けた男もそれに加わった。

 

 響く音は物悲しく、それでも心温まるもの。

 

 直接流れるだけでも悪霊は消え去るようなネクロマンサーの笛の三重奏に、梓弓や太鼓がそれを補う。

 

 善良な霊すらそのまま昇天してしまいそうな音楽の波に、一人の男が加わった。

 それは遠吠えのような、それでいて覇気のある声。

 

 その声の名は虎。

 虎よ、虎よ、その声に込められた霊気は幻覚ではなく真のモノ。

 

 虎よ、虎よ、その自信に満ちた声を音楽に乗せよ。

 

 

 

 

 

 

 

 野外音楽上に据えられた横島事務所楽団へ、楽器霊具を持つ者たちが加わり、そして朝焼けの中、こう宣言が出された。

 

 

『・・・都内、大霊団消滅を確認! 作戦終了です!!』

 

 それはラジオでも、テレビでも、そしてヘリによる巡視によっても音声が流され、そして霊団への勝利を確認した。

 

 

 

 

 

 

「とりあえず、物知り臆病な評論家の首根っこを?まえるのが先ですかね、美神さん」

 

 俺の視線を受けて、美神さんは首を振る。

 

「いいえ、テレビ局の方が先ね。コジテレビあたりに独占取材って持ちかければ、色々さばいてくれるでしょ?」

「うわ、また局長に頭下げにいかんとならんのか」

「そのへんは六道のおば様に頼みましょう。どうせ大株主なんだから」

 

 確かに、六道夫人の出番だろう。

 今回の霊能楽器集団は、本当に奇跡的な同期を見せてくれたけど、最悪はネクロマンサーの笛三重奏の力押ししかないかもしれないなーと思っていたから。

 しかし、この音を聞いて、音楽を聴いて、何を思ってかはそれぞれだろうと思うけど、それでも合わせてくれたという事実だけでもありがたい話で。

 

「はぁ、ま、一応事後承諾でGS協会側にも許可は得ましたけど、面倒ならなければいいっすね」

「あら? 面倒にすべきだと思うわよ?」

「え?」

「だって、これだけの霊団が発生するまで霊的なケアを協会とGメンが見過ごしてきたってことよ? こんなの麻帆良じゃありえないんじゃない?」

「・・・あー、まぁ、確かに」

 

 そう、突如発生したかのように見える大霊団だけど、実は発生は予期されていた。

 それゆえのGメン強化や周辺霊慰撫活動だったりするのだが、やはり一手遅かったというのが結果だろう。

 隊長も臍をかんでいるに違いない。

 でもこういう状況になると、GSが高額を得るために何もしなかったのだ、とか高収入GSへの敵視なんかが週刊誌をにぎわすことになる。

 こう言う時のあいつらの行動なんて、見ないでもわかる。

 

「とりあえず、ケア実績はあるんですから、GメンとGS協会はいいですけど、個人攻撃をどうにかしたいっすね」

 

 そう、個人GSへの無知からくる無理難題は、アシュタロスの人界侵攻時にもあった。

 普段から高い金をとってるくせに、緊急時には役に立たない、と。

 

 まぁ、「自称被害者」の方々はいつでも損をしていると声高なので無視してもいいけど、その声に押されて何の思想もなくGSを敵視するような流れが出来上がるのも困る。

 どうしたものか、と首をかしげていたが、事態は思わぬところから思わぬ方向に転がった。

 

 

 なんと、踊るGS撮影班は、霊団発生からずっとカメラを回しており、同行GS助手が如何に冷静に対処していたかとか、除霊合奏に自らも加わり、そして近畿剛一もそれに声をあわせていた、そんなシーンや、自衛しか出来ず救援が出来ないことを誠実に謝るタイガーに対して近畿剛一が励ますシーンが放映されると、一気にGS寄りな報道へ変化し、辛口と言われるコメンテーターも、今回ほど見事に解決された大霊団事件はないと口裏を合わせた。

 首都圏の外国記者クラブでも、GS協会による終了宣言は拍手をもって迎えられ、近年ない着地となったのだった。

 

 まぁ、一言で纏めれば、タイガー 男をあげた。

 

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