消費税率が、5%から8%に引き上げられた。

 国民にとっては、つらい負担増である。だが、借金漬けの日本の現状を考えれば、やむを得ない選択だ。

 問題は、その痛みに政治がきちんとこたえているかどうかである。消費増税の原点に返って考えたい。

■ツケ回しを減らそう

 消費増税は「社会保障と税の一体改革」の柱だ。

 国の一般会計予算の3割強を占める社会保障の財源は、保険料や税金だけでは足らず、国債の発行に頼っている。つまり、今の世代への給付を維持するために、将来世代にツケを回す構図である。

 それを改め、手薄な子育て支援策を充実させつつ、年金や医療・介護を安定させる。先々への安心感を高めることで消費を促し、経済の活性化にもつなげる狙いがある。

 そうした考えから、国民が広く負担する消費税の税率を今回と15年10月の2段階で10%に上げ、増税分はすべて社会保障に使うことになった。

 増収分がそっくりサービスの充実に充てられるのではなく、多くは国債の発行を減らすことに回される。それでも財源不足は解消せず、高齢化に従って社会保障費は増え続ける。

 日本の厳しい現実である。

 では、財政破綻(はたん)に陥らないために、どうすればいいのか。

 経済成長によって税収が自然に増える環境を整える▼限られた金額が有効に使われるよう、予算の見直しに取り組む▼増税から逃げない――この三つが欠かせない。

 とりわけカギを握るのは予算改革だろう。税金の使い道に納得感がなければ、国民は増税に反発するからだ。

■膨らむ公共事業

 ところが、政権からは緊張感が一向に伝わってこない。

 消費増税をにらんだ昨年度の補正予算は5・5兆円に膨らんだ。初年度の増税分を上回る額だ。当初予算として過去最大となった今年度予算と合わせ、総額は100兆円を超す。

 年度をまたぐため単純比較はできないが、自民党が「ばらまき」と批判していた民主党政権下の予算規模に肩を並べる。

 所得の少ない人ほど消費税の負担が重くなる「逆進性」への配慮など、欠かせない対策は少なくない。

 しかし、「増税で財源に余裕ができた」「景気の冷え込みを防ぐ」といって予算を膨らませていては、何のための一体改革なのか。

 象徴は、公共事業である。

 「老朽化したインフラや防災への対策は待ったなし。景気対策を兼ねて前倒しを」「民主党政権が大幅に削減したひずみをただすだけ」。こんな声が政府・与党にかまびすしい。

 「防災」を錦の御旗に、費用対効果の検証をおろそかにしたまま、建設ありきの対策を続けていないか。新設から老朽化対策へと軸足を移しつつ、既存の施設を集約する試みが徹底しているとはとても思えない。

 東日本大震災の復興事業に、景気対策としての公共事業の積み増しや東京五輪の準備が加わって、現場では賃金や建設資材の高騰が深刻だ。入札の不調が相次ぎ、当初の予定価格を引き上げてやっと業者が決まる例も珍しくない。その分、税金が多く費やされ、借金は増える。

■国債残高は3倍に

 財政再建のために増税と歳出削減が実施されているが、成功したケースは歳出削減に重点を置いていた――。

 90年代後半、米ハーバード大のアルベルト・アレシナ教授らが60年以降の先進国の取り組みを調べ、こんな論文をまとめた。成功例では、歳出削減と増税の比率はおおむね7対3だったという。

 限られた事例の分析だが、予算の見直し・削減が財政再建に欠かせないことは常識だ。先進国の中で最悪の水準に落ち込んだわが国の財政難を考えれば、増税と予算改革を同時並行で進めるしか道はない。

 民主党は、政権を獲得する09年の総選挙で、新たな政策の財源として既存の予算の組み替えで十数兆円を用意すると公約したが、実現できなかった。

 見直しは一朝一夕にはできない。個々の政策を一つひとつ吟味し、継続する場合もできるだけ少ない金額でまかなう。

 そんな地道な作業を積み重ねるしかないのに、増税を理由に予算を膨らませるのでは、改革の方向が逆である。

 90年代のバブル崩壊後、景気対策のために、毎年のように補正予算が編成された。

 17年前の消費増税時と比べると、国債の発行残高は3倍の750兆円である。借り入れなどを加えた国の借金総額は1千兆円を超えた。

 膨れあがった予算を抜本的に見直し、削減につなげる。それが、消費税率を10%に上げる前提である。