椎名系・赤松系作品を主とする二次創作支援投稿サイト
トップページ > 神代ふみあき書庫 > 赤松・椎名系作品 > よこしまほら(旧なろうアップ版) > 第四十四話
帝国のお姫様ことテオドラ王女が、角も隠さず現れた。
さすがに不味かろう、とつっこみを入れるネギたちだったけど、本人は得意顔(どやがお)。
なにしろ、麻帆良につくまでの間、何人にも声をかけられ「アクセサリー」として買った場所を聞かれたというのだから。
「ふふふ、旧世界もチョロいもんじゃな?」
増長しまくっている第三王女だった。
まぁ、日本だからだろうなぁ、と思う。
何しろ、今の日本は「人外」が溢れまくっているせいで、視覚的に美人だったらスルーという文化基本ができつつあるのだ。
・・・少なくとも俺はそう思ってる。
「で、遊びの目的は?」
「遊びは遊びじゃよ? まじ、バカンスじゃ」
聞けば、何度か麻帆良に遊びに来ているアリカ・ナギ夫婦に自慢され、結構悔しい思いをしていたそうだ。
で、政務に区切りがつきつつ、旧世界の行事も区切りがついている今なら遊びに行っても問題なかろう、と言うことだったらしい。
「というわけで、エスコートをするのじゃ、タダオ」
「どこに?」
「マンガ喫茶じゃ!!」
あんたはドコにオタク外人だ!
「ならば、部屋にこもってビデオゲーム三昧・・・・」
「いいとこしってるぞ~、格闘ゲームなら、一週間徹夜ぐらいでつきあってくれる猿がいるぞ」
「おお、それはすばらしい!」
大いに乗る気になったテオドラに、魔法球を渡す。
「これは、魔法球ではないか?」
「うん、そのゲーム猿からの受注でね。一応、このコネクターを通すと、中でゲームもネットもできる」
「おおおお! では、この魔法球で・・・」
「廃人生活ができるんだなー」
「タダオ、妾にも作ってほいいのじゃ!!」
廃人魔法球、ヘラス帝国から受注しました~。わー。
そんなわけで、ユエちゃんが基礎練習の仕上げということで鬼門の所までオカルトGメンを連れてゆくと言っていたので、テオドラも同行させることにした。
今回は俺のお使いなのと老師のゲーム相手なので、ゆるりと鬼門も通すだろうけど、いざ勝負となっても平気だろう。
やつのハリケーンミキサ○は、かなり極悪だから。
のりと勢いでついてきたテオドラ王女。
実際、彼女の実力は知っているので安心なんですが、西条さんと美神隊長がパニックになったのです。
なにせ魔法世界の重鎮、ヘラス帝国でもっとも外交特化した王女が、何の予告もなしに遊びに来たかと思いきや、手続きもなくオカルトGメンの訓練に参加しているのだから。
半ば命がけの修行と思っていた局員たちは、警護対象ができたことで真価を問われてると感じたようです。
「でも、油断してると剃るのです」
「油断シロヨ? ケケケケケ」
なおも上昇する緊張感の中、全員が鬼門のまえに到着した。
~一切の希望を捨てよ
という言葉に震え上がる局員達でしたが、鬼門の試しが開始されました。
驚いた、と言うよりも期待以上だった。
一流の霊能者でも越えることが出来ないとされていた鬼門に挑み、局員達の大半が乗り越えることが出来たのだから。
敗れた人間も居たわけだが、それでも2名と非常に少ない。
その二名も、小竜姫様のご厚意で基礎練習に加わることが出来たのが良かったのか悪かったのか。
なにしろ、半数は落ちることを予想していたので、落ちた人間を目当てにローテーションを組んでいたのだから。
さて、どうしましょ、と腕を組んだところで、ユエちゃんが携帯片手に通話。
しばらくして通話を終えたユエちゃんは、にこやかな笑みで語る。
「一応、西条さんから、巡視の依頼を受けていますので、ご安心ください」
ふわぁ! 西条君、いつのまにそんなに優秀に・・・・。
「先生、一応、彼らの実力を一番知っているのは僕なんでしょ?」
最近、両眉毛を剃って書いている西条君は、笑顔でほほえんで見せた。
くぅ、なんか私って、いらない子かしら?
くぅ、たまらんのじゃ!!
この魔法球は正に「廃人」魔法球じゃった。
電信電話が可能な上にネットも可能な環境で、さらに時差は「一時間:三日」と高効率じゃった。
恐ろしい、恐ろしいほど居心地がよい。
くわえて、このゲーム猿老師が、じつに話の合う老人じゃった。
ゲームやキャラのセレクトががっちりかみ合って、心底うれしすぎた。
これはもう、帝国とこっちで通信対戦がしたいのぉ。
うむ、タダオに相談じゃな。
いや、発注した魔法球に追加機能で異界通信機能を入れるのはどうじゃろう?
そうすればタイムラグなしで・・・
なんとすばらしい思いつきじゃ!
「老師、これからも末永いおつきあいをお願いするのじゃ!」
「うき!」
くぅ、もえるのぉ!!
長命種に生まれてコレほど嬉しいことはないのぉ。
今回もきました、外交ルートを開かせろ、というかマジで渡り付けてくださいお願いいたします、このとおり、というお願いが。
今回はマジ土下座です。
これって日本における最低最悪の必殺技だよ。
というか俺も得意だからわかるけど、これ、心底心の底から土下座してるわ。
なんつうか、もう、上から言われて無理矢理してるとかじゃなくて。
誠心誠意、というのが目の前で展開されたりするわけだ。
ともなれば、接待の基本だよな。
「・・・基本と言いますと?」
「相手の土俵で、相手に気分良くなってほしい、いや喜んでほしいって奴だろ?」
おお、と感心した外事担当者たちだったが、相手の土俵を聞いて顔をゆがめる。
いや、ひとりだけ、嬉しそうにほほえむ人間がいた。
よし、あんたから話だ。
タダオから教えて貰った「アクションMMORPG」というのはかなり面白いのじゃ。
老師と二人で始めたのじゃが、かなりの時間を持っていかれるおもしろさじゃった。
老師も、自分のアバターが弱いのが嬉しいらしく、「この、目に見えて死にそうになるのがいいのぉ」とかなんとか。
で、外の時間が夜になると、かなりの人数の他者と会うことが多い。
始めたばかりの我らと違って、高レベルのプレイヤーも多く、その庇護の下でレベル上げをしている状態がまた新鮮じゃった。
『お、テオっち。またレベルあげれるのかぁ!?』
『おいおい、おまえさん、ドンだけ引きこもりプレイ中だよ』
「長期休暇なのじゃ。この休みは家の爺さんと一緒に廃人プレイ孝行なのじゃ」
『男前!!』『つうか、廃人プレイ孝行って、どこの日本語!?』『うわ、その一族になりてぇ』
こんな気軽な言葉を交わせるのは、うちのギルドの大半が社会人じゃからだろう。
それなりに大人としての常識を持ち合わせている土壌があるからこその気軽さじゃと解るのが心地よい。
まぁ、向こうはこっちを学生もしくはニートだと思っておるじゃろうがな。
『さーて、テオっちもエテっちも、レベルがずいぶん追いついてきたし、そろそろ城攻め参加しね?』
『いいねーいいねー、テオっちもエテっちも、プレイヤースキルが高いから、キャラレベル超えてつえーし』
『二人ともいくっしょ?』
「「いくいく~」」
というわけで、城攻め。
正式には、他のギルドが所有している大型拠点の攻防戦を実施するので、参加しよう、というものだった。
なんじゃろなぁ、この、敵城を攻め落として自分達の城にすると言う、心躍るシュチエーションは。
うむ、実にブリリアントじゃ。
いやー、上手くいきすぎた。
こっちの勧めたMMORPGにのめり込んだテオドラと老師は、そこそこ中堅のギルドメンバーの中の外事担当と割と仲良くなってしまった。
まぁ、外事担当の一人が廃人プレイヤーだったのをヒャクメの権能で魔鈴さんが見抜いてくれたからなんだけど。
で、仕事そこそこに遊びで仲良くなった某外事担当は、業務な話は一切しないで仲良くなってしまっている。
老師は結構気づいて居るみたいだけど、一緒にプレイしているテオドラが気づいていないようなので気づかない振りをしてくれて居るみたいだ。
正に手加減の天才といえる。
俺も時々入ってみることがあるけど、テオドラたちのプレイにはついていけない。
恐ろしくマニアックすぎるのが困る。
そんな中、愛子はかなり追従している。
とりあえず、テオドラたちとつかず離れずで監視してもらっていた。
「このIDとこのIDは政府機関ね。あと、この人は多分政治家秘書。で、あとはマジ廃人よ」
実に満足のいく報告だった。
テオドラをかまい付けているのは廃人で、彼らを中心にリアル女性に愛想尽かされないようにする会を発足してフォローに回っているらしいことまで判明した。
ネカマ率が高く、リアルワレの度に失望が渦巻くMMORPG世界の中で、心底女性であることが保証されているプレイヤーへの依存度が高いの何のって。
そういえば、最近「ドウメキ」というキャラクターが現れたけど、やっぱあれか?
リアル時間で一週間に渡る旧世界休暇を終えたテオドラ王女は、猛烈な国内官僚支持を取り付けて帰国した。
その間、ある方面の外交は完全に沈黙していたそうだが、それはそれと言うことで、一切のお咎めがなかったとか。
その真実を知るものは少ないようで結構多いという。
魔法料理魔鈴のアルバイトは、美女美少女ばかりと大評判。
当然のことながら、彼女たち目当ての音子供が通い詰め、そして声をかけるのだが・・・
「あかんあかん、うちにはダーリンがおるんよ」
「うふふ、他人の彼女を横恋慕なんて、健康によろしくありませんよ?」
「もう、冗談ばかり。だめですよ? 彼女さんに言いつけますからね?」
等々、十数名いるかという少女たち全員に彼氏がいると判明肩を落としつつ、どんな彼しか聞いてみると・・・・
「すけべやな」
「やさしいんですよ?」
「頼りがいがある、かな?」
なんてノロケがバンバン飛び出てくるのを聞いて、さすがにあきらめるしかない男どもであった。
が、それがすべて同一人物の評価と知ったらなにを思うだろう?
そんな風に苦笑いの魔鈴であった。
では、あきらめた男どもが客層からいなくなるかというと、そういうわけではない。
見るだけとはいえ、そこらのアイドルだって裸足で逃げ出すようなクオリティの女子が甲斐甲斐しく働いているお店など早々あるわけではなく、徐々にその客層を広げてゆくのであった。
で、そんななか、新たな客層が直撃した。
なんと、ネットアイドル「ちう」のファンだった。
初めは偶然だった。
横島事務所からの出向が多いユエの代わりに魔法料理魔鈴にバイトしたときのことだった。
横島事務所女子用の魔法使いコスをしているために「チウ」モードになってしまった千雨を、ファンが「ちう」だと解ってしまったのだ。
が、ネットアイドルに対してそれをリアルで指摘するような愚行を彼はしなかった。
ネットとリアルは別物、それが彼の真実であり誇りだった。
が、一度ネットに戻ってしまえば、愉快で軽薄なバカに戻り、大宣伝。
「ちうたん」はぁはぁ、と携帯写真をアップした途端店が割れ、翌日から脂汗+太めの常連客が通い詰めることになってしまった。
さすがに自分の影響だと理解した千雨は、自身のブログで「みんなのために衣装代を稼いでいるんだぴょーん」「でもでも、寄付とかはだめだよ?自分の力で作りたいんだから!」とか書き上げ、どうにか周辺の鎮火を試みたわけだが、逆に「けなげ」と盛り上がられてしまい、いささか居心地の悪いことになってしまった。
過去の自分なら「けけけ、つられてやがるぜ」とか笑っていたんだろうけど、と苦笑いの千雨だった。
客層の増加によるメニューの変更はなかった。
基本、魔鈴のイメージと美意識によるプロデュースが店の売りだったから。
そんなわけで、離れる客層がありそうなものだが、実は逆に女性客も増えていた。
主に彼氏につれてこられて気に入ってそのまま常連に、というパターン。
加え、魔鈴の店が「GS事務所」を兼ねていることと、常識的な価格で引き受けてくれることから、若い女性に大人気だったりする。
さらに、派遣されるGS及び見習いGS達のほとんどは少女か女性と言うこともあり、女子寮や女性向けマンションなどでも引く手あまたになりつつあった。
そんな忙しい魔鈴事務所と元より忙しい横島事務所の仕事が両立しないかというと、わりとストレスなしに上手く行っていた。
魔鈴事務所、というよりも魔法料理魔鈴へのアルバイトは元々横島事務所のローテーションに入っていたし、他の事務所への人員派遣とは別枠なので大きく問題にされていなかった。
そう、されて「いなかった」。
大きく不満の声を上げたのは、都内の2流とランクされるGS達だった。
実力はそこそこ、しかし霊能自身には見切りをつけているというCクラス以下の専業GS達が仕事を奪われたとGS協会に訴え出ていたのだ。
が、現会長「唐巣」は全く取り合おうとしなかった。
それはそうだろう。
モグリGS以下の仕事しかしないような人間にGS免許など維持させたくなかったのだ。
前体制下では安穏とした仕事で暴利をむさぼれた彼らだが、現体制下では暴利などもってのほかで、今まで通りに仕事などしようものならば即日で免許剥奪とオカルト法違反で検挙される。
唐巣の実施した価格適正化と仕事のランク適正化による正常なCクラス以下のGS生存率が上がり、そしてGSへの信頼性も向上しているのだから正常な方面からの反対などあるわけがなく、不満と反対意見は地に潜った陰にため込まれることになった。
が、現在のオカルト業界における「暗部」のパイは極めて少なかった。
すでに闇に潜った先達達によってギルド化が済んでおり、その先達であったはずの「関西呪術協会」も本体の大半が表にでてしまっているのだ。
彼らの支配していた仕事も法的根拠と資格を必要とするものとなり、税法的に主張できる類の仕事になってしまっていた。
つまり、この日本におけるアンダーグランドの仕事の大半は押さえられていて、新たに創出された仕事であっても新参ものに手が出る類のものではなかった。
埋めうるパイがなく、さりとて活躍の場もない。
悪徳GSなどと呼ばれていた子悪党達は、小手先の詐欺やオカルト法違反などで、徐々に数を減らしていくのであった。
この事態は自然に流れて出たものではなかった。
状況を利用して流れを作った人々がいる。
一人はもちろん唐巣GS協会会長。
一流の人間が行う仕事に対する報酬は高額でもいい。逆に必要経費を考えれば必須だろう。
しかし、Cクラス以下の仕事での暴利は、絶対に許せなかった唐巣神父は、これを機に改革を一気に引き起こした。
価格と危険度の見直しで大いに盛り上がった協会だったが、一様に危険度見直しで安くなったわけではなかった。
逆に「b+」という危険度にランクされたのが「スライム」。
某麻帆良の事務所から猛烈なプッシュがあったが、協会事務員は鼻で笑ったという。
この体制こそを変えなければならないということで、唐巣神父は最高の防御結界と霊具で武装させた事務員達にスライムに対峙させてみたのだった。
結果は事務員達全員が土下座で会長に頭を下げることになった。
適正評価に私感は不要、と成ったわけだ。
もう一人の名前は意外じゃ無さそうで意外。六道冥那であった。
六道を守るためならばあらゆる手段に手を染める彼女であったが、今回の動きに関しては六道ですら不利益を被ることが多かったはずだからだった。
そのことを知っている横島はしきりに首をひねっていたが、実のところ完全な善意、というか恩返しであるなどとは思いも寄らなかった。
そう、恩返し、なのだ。
次期当主、六道冥子は才能と力で言えば、歴代党首を遙かに上回る存在であったが、その低安定性と覚悟のなさは業界すべてが知るレベルであった。
GS免許も剥奪の話すらあったのだが、それが一気に改善した。
そう、横島事務所のアキラを指導し始めて意識が改革し、彼女がGS免許を取得してからは大きく前進した。
そしてユウナとアキラが研修にくるようになってからは、六道事務所の経営状態が一気に改善前進してしまった。
26億に達していた施設弁済費用はゼロになり、累積赤字から差し引いた利益は一月あまりで10億。
協会内ランクも「六道補正なし」でAになっていた。
六道の脅しもなにもなしで、だ。
ここまでされてなにも感じないでおけるほど六道の名は軽くない。
加えて言うのならば、子を守る母として、これに何もしないわけがなかった。
それ故の援護射撃であり、改革助勢であったのだが、じつはこの行動で六道の評価があがってしまった。
手段を選ばぬ暗部と見られていた六道は今、オカルトの名門としての地位を堅いものにしたのだった。
そして最後の人物は、最近でもっとも利益を受けた女性、美神美智恵であった。
弱兵であったオカルトGメン局員の強化ばかりか意識改革と関連勢力とのコネクション作りは、あり得ない程の事態であった。
加え、GSゴロや不良GS検挙による実績強化や霊的地域治安活動による評判上昇は何にも代え難いモノであり、喉から手が出るほどほしかったモノでもあった。
民間GSに押されて評価の低かった日本オカルトGメンおよびICPOの面目を保つどころか押し上げるものであった。
なにしろ、最近では、地域犯罪の相談までオカルトGメンに持ち込まれるモノだから、隣接施設に警察官の詰め所までできるほどだった。
手札にこだわり手段を選ばない女、美神美智恵であっても、これには恩義を感じざる得なかった。
が、彼女は一歩違っている。
「いつでも隊長待遇で席を準備しておくわ♪」
横島事務所全体の取り込みをにらんだ求人活動も絡めるあたり人間的な厚みについてよくよく考えるべき腕はないかと娘令子ですら思ったものであった。
文字数は7,029文字