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〔黒田日銀1年〕「2年2%」目標は達成可能、サプライズもシグナル=甘利経財相

2014年 03月 27日 10:09 JST
 
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[東京 27日 ロイター] - 甘利明経済財政相は、ロイターとの26日のインタビューで、2年で2%の物価上昇率を目指す日銀の物価安定目標について、順調に進んでおり、達成は可能だとの見方を示した。目標達成が難しくなったと判断した場合の追加緩和については「日銀はその責任によって適宜適切な対応をしていく」と指摘。政策効果を上げるための「良い意味でのサプライズ」も黒田東彦総裁の手腕だと語った。

追加緩和による副作用を懸念する声があることについては、現時点で副作用の懸念があるから追加緩和をやめた方がいいと注文を付けることはないと述べ、日銀の判断に委ねる考えを強調。金融政策は、市場とのコミュニケーションが大事だと繰り返した。

目標達成に向けて「日銀の出番は引き続きある」としつつ、「政府も傍観者であってはならない」と語り、民需主導の成長へ環境整備に努めると指摘した。その上で近く発表される国家戦略特区で示される規制改革を通じ、「経済の好循環が本当に回り始める」と自信を示した。

インタビューの詳細は以下の通り。

 ――黒田日銀の1年をどう評価するか。

「かなりよくやっていると思う。20年近いデフレには衝撃を加えないとマインドは転換していかない。(異次元緩和は)それには十分な衝撃波だった。これくらいのことやらないと大きな万年氷は破壊できない」

「量的・質的金融緩和は順調に進んできている。物価は総合もコアCPIもコアコアCPIも皆プラスになってきている。久しぶりのことで、ここまでは順調だ」 ――日銀の「2年・2%物価上昇」目標に市場は懐疑的だ。目標達成の可能性は。

「達成は可能だ。2年で2%は不可能ではないと思う」

「ただし、金融政策がすべてをカバーするということはなかなか難しい。第一義的な責任は日銀が持つが、政府はこれに関連して環境作りに努めるというのが政府・日銀の協定にある。民需主導の成長に向け政府が環境を整備していくということだ。その点で言えば、1の矢、2の矢まではうまく放たれた。3の矢を今、仕込み中。成長戦略が具体化して投資する先が見えてくれば動きが加速する」

――目標達成について、市場とのかい離はどこにあると感じるか。

「金融政策と連動して成長戦略がしっかりついてくるという、その具体的な姿が明確ではないということではないか」

――これから政府の出番ということか。

「日銀の出番は引き続きある。第一義的には日銀の責任。ただ、政府が傍観者であってはいけない。異次元の金融緩和でデフレマインドを払しょくさせ、お金は置いておくより投資に向けた方が良いという環境を作っていく」

「政府は具体的なフロンティアを示していかなければならない。日本にとってのフロンティアはこういう風にありますよと、そこに向けて大胆な規制緩和を行っていきますよと。船の行く方向を示してあげなければならない。それが今、具体化しつつある。投資の動きが具現化していけば民間が持っている不安は払しょくされていく」  

――2年で物価目標達成が難しいと日銀が判断した場合、追加緩和は必要か。

「日銀はその責任によって適宜適切な対応をしていくということ。日銀がどういう場面でどういう時にどういう対応を行うかというのは、彼らの責任と判断で行われると思っている。市場との対話をしっかりしていくということが大事だと総裁自ら言っている」

「適宜適切に日銀が判断する。私は立ち入らない。目標達成に向けて、必要な時に、必要な措置を打つと言っているわけで、それに任せる」

――最も早いタイミングは、4月消費増税後の反動減が想定以上に大きかった場合か。  

「どの場面で日銀が関与すべきかということについて、私が言及するのは適切でない。政府としては反動減後の回復力をしっかり強化することが、次の消費税10%への引き上げの判断材料になる。ここはかなり注意深く、政府として対応しつつある」

「具体的には補正予算の早期出動。新年度予算についても同様な総理指示が下りると思う。反動減に合わせて公共事業や公共調達を行えというもの。日銀も緊張感を持って見守っていくのではないか」  

――回復力とは、どの程度が念頭にあるのか。

「政府は今後10年間に名目3%・実質2%という長期目標を掲げている。そこの軌道にしっかり乗っていくにふさわしいだけの数字を目指したい。具体的な数字に言及するのは現時点では控えたい」

「最終判断は総理だが、総理は相当慎重に判断されると思う。というのは判断材料がそう多くない。消費税5%を8%にした時ほど腰を据えた判断期間もない。そこは『力強さ』と、7─9月以降の材料も3カ月単位ではなく、短いタームのものができるだけ取れるように努力したい」

――追加緩和の副作用はないか。

「あらゆる点を含めて日銀が判断する。副作用を指摘する人はいるが、現実にその副作用が実体経済に影響を及ぼしているかというと、そういうことはない。財政ファイナンスではないか、リスク資産をどんどん買い上げて野心的に市場がなり過ぎていないかなど、いろいろな指摘はあるが、実体として、副作用と言えるようなものは今のところない。そのコントロールは、日銀総裁の責任できちんとなされていく」

――副作用を懸念して、追加緩和をやめた方がいいという判断にはならないということか。

 「日銀に現時点でそういう注文をつけることはない」

――「市場との対話が大事」というのは「サプライズはせず市場にシグナルを送るべき」との意味か。

「サプライズも含めてシグナルだ。白川前総裁も大胆にやっておられたはずだが、自身で金融政策の期待値を下げてしまった。政策効果がきちんと効果以上に上がるか、減殺させてしまうかの違いだ。良い意味でのサプライズは総裁の腕だ」

――追加緩和で円安が進めば、国際的な反発が出ないか。

「われわれがやっている政策は、政府・日銀とも、デフレを払しょくすること。最終目的は、世界経済の最前線に戦列復帰し、米国とともに世界経済をけん引する役割を担うことだ。去年のダボス会議で、われわれは日本経済のために経済を回復させているが、(同時に)世界のためにやっていると演説したが、そこから地合いが変わった」

「日本経済が回復するということは、ひとり日本のためだけではない。世界経済をけん引するエンジンが増えることで、そのためにわれわれはやっている。正しくメッセージとして発信されれば世界は理解する」

「今の(為替の)水準はリーマン前の水準。リーマン・ショックの異常事態で落ちる前の水準に戻っているということで、これを円安誘導というのはおかしい」  

――消費増税で物価が上昇すると、2%のインフレが好ましい水準かという国民の声があがる可能性がある。物価目標2%に修正余地はあるか。  

「物価安定目標2%が高くてけしからんという話は国際的にはない。物価安定目標はそこに収れんさせていくという話で、青天井のインフレ政策ではない。次に大事なことは物価上昇を超えて賃金上昇を図るということ。単年度では難しいが、複数年かけて物価安定目標を賃金が超えていくということ。これが健全な経済だ」

「賃上げの回答は千数百社になったが、これを見ると、月額賃金一時金なしで6600円程度、2.2%を超える。好循環のための賃上げは予想以上になっている。こうした統計は過去にさかのぼりづらいが、少なくともこの10年では過去最高。順調に順番を追ってデフレを脱却する好循環が動いている」

<デフレ脱却8.7合目、年末時点で明確に「脱却」言い切れない>

──デフレ脱却は何合目あたりか。

「以前、8合目半と言ったが、8.7合目くらいか。デフレではないが、脱却とは多少のことがあってもデフレに戻らないということ。(現状は)病気は治ったが、もう少し体力をつけないと冷たい風には当たれない」  

──年末に消費税10%を最終判断する際、デフレ脱却は前提か。

「(増税判断は)この分でいくと大丈夫だという見通し。見通しの自信がよりついた時ということだ。12月の時点ではデフレ脱却とは明確に言い切れないと思う」

──デフレ脱却を宣言する状況とは、追加緩和は必要ないということか。

「そこは非常に難しい。デフレ脱却宣言は振り返ってみてあの時脱却できましたという話。まだトンネルを抜けていない、しっかり抜けたとの確信が持てた後、手じまい政策に入ると思う。米国の量的緩和縮小(テーパリング)を検証しながら日銀が判断していくことになる。しかし、それはまだかなり先のことだ」

  ――第2の矢がもう1度必要になる可能性は。

「順番としては、物理的に需給ギャップを埋めていく。次に民需。公費による財政出動はワンショットだが、民間による需要は循環経済。その循環経済に移していくことが大事だ。財政出動で収益が上がった企業は、賃金改善の期待に応えてくれた。好循環が少し回り始めた」

「あとは、しっかり成長戦略とそれを具体化する戦略特区で、具体的な投資を喚起する絵姿を見せ、規制改革を大胆にすることだ。日本の構造を変えていくことだ」

「中長期的な課題としては、日本の産業競争力を上げる国家システムを作っていかなければならない。健康長寿社会やインフラ整備新システム、エネルギー革命などいろいろなフロンティアがある」

「雇用をどう柔軟化していくか。雇用不安を起こさず、雇用維持から移動を通じてバージョンアップしていく方向にシステムを変えつつある。それを具体的に実行していくための国家戦略特区が間もなく発表される。そこでは、十数目の規制緩和項目に加えて、現場のニーズに合った規制緩和要求を優先的に検討し、採用していく。具体的な動きが始まるにつれて投資が動く。それで好循環が本当に回り始めることになる」

――円安にもかかわらず輸出が伸び悩んでいる。

「輸出が思うほどに伸びないのは想定外だった。しかし、昨年12月ごろから若干地合いが変わり、輸出が伸びてきている。輸出が伸びないのは、内需が元気過ぎて、輸出に向かう分まで吸収しているため。生産が順調に上がってくれば、輸出分の確保もできてくる。新興国経済のもたつきもあるが、ここは少しずつ回復してくる」

<法人税実効税率下げ、13年度税収上振れ活用案「傾聴に値する」>

――法人税改革の取り組みは。

「首相がかなり強い意志を発表している。(6月の)骨太方針に、年限や数字など、どこまで具体的に書けるか(が焦点になる)。官房長官、財務相、私を中心に首相の意を受けて調整中だ」

――経済財政諮問会議民間議員が提案した、13年度税収の上振れ分をアベノミクスの構造改革の成果として来年度からの法人実効税率引き下げの財源とする考え方の受け止めは。

「傾聴に値する。財政再建との整合性は最低限確保されている。財政再建を無視して何かをやるということではない。個人的には、賢明な案だと思う」

──財務省の抵抗は依然強いか。

  「財務省は、法人税の将来に向けた提言に反対しているわけではない。ただ、企業にとってみれば、コストとして一番大きいのはエネルギー価格で、そこにまずコミットしていかなければならないと主張している。エネルギー効率化のための手立て、安全な原発は再稼働させていくことなどを通じて、エネルギーコストを下げていくのが目の前にある問題ではないか。エネルギー価格、労働力、法人税。それらについてしっかりしたメッセージが出ていくことが、民需主導の日本経済回復に向けての要素になる」  

(インタビュアー:吉川裕子 石田仁志 木原麗花) (吉川裕子 編集:田巻一彦)

 
 

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