日本大学に通う女子学生(21)は昨年12月、いっしょに就職活動をしている友人と時報を聞いていた。午前11時00分00秒。志望企業が、採用説明会への参加申し込みをネットで受け付け始めた。名前や大学名は事前に登録済みだ。申し込みボタンを押そうとスマートフォンで採用ページを開いた瞬間、目を疑った。画面には、全日程が、「満席」「満席」「満席」……。

 就職人気ランキングで常に上位の大手企業。そうした企業では受け付け開始後数分で満席になるのはよくあることだ。それでも今回は、いくらなんでも早すぎないか。

 そう思った女子学生は、同じ説明会に申し込むと言っていた上智大の友人に電話。友人の「えっ、満席になってないよ」の言葉に、はっとした。「これって、『学歴フィルター』ってやつじゃないの?」

 「学歴フィルター」は、説明会の参加などにあたって企業が大学によって差をつけることを指す。この企業の広報担当者は「うちの採用で大学名は全く関係ない。満席になったのはシステム上の問題では」と話すが、こうしたやり方は企業の間で広く行き渡っていると、関係者は指摘する。

 就職活動に詳しい人材コンサルタントの常見陽平さんによると、手法はこんな風だ。説明会の定員100人に対し、80人を東大などのトップ校、残り20人を他の大学生に割り振る。大学によって座席の「在庫数」は異なり、応募したくても席がないことがある。

 雇用ジャーナリストの海老原嗣生さんは「説明会応募の前にも、大学名によって説明会の案内をメールで知らせる時期に差をつけることや、そもそも案内しない場合がある」と話す。

 企業が大学名を選考の材料にすることは、いまに始まったことではない。イメージの低下を恐れて公にしてこなかっただけだ。

 1990年代後半から、「マイナビ」「リクナビ」などの就職情報サイトが登場したことで、学歴の使われ方が露骨になった。誰でもどんな企業にでも簡単に接触できるようになり、人気企業には万単位の学生が殺到する。そこで「選考の手間を省くため、企業は学歴フィルターを多用せざるを得なくなった」と、企業で採用担当経験のある就職コンサルタントの菅原秀樹さんは指摘する。

 大量応募は大量の選考落ちも生む。「エントリーシートを真面目に書いた自分は落とされ、トップ校の友人は適当な内容でも通った」(立教大3年男子)。「同じ説明会やセミナーに参加した立教大の友人にはリクルーターが接触してきたのに、自分にはない」(学習院大3年女子)。ふるい落とされる側には、不満と劣等感が広がる。

 人気企業に応募が集中するほど、幅を利かせる学歴フィルター。採用の効率を考えて重視する企業は少なくないが、学歴で測れない力に注目する動きも出てきている。(石山英明)