幼い私の記憶にあるのは・・・。
この頃、母は入院していて、寂しくって泣いていたこと。
あの時、ガンが見つかった最初の時だったのかな。
転勤族だけど、どこに居た時だったかな。
ペンネームはなんていったんだっけ・・・。
閉鎖したサイトの整理をしていて見つけました。
母のエッセイです。
おじいちゃんが亡くなった頃の話だと聞いています。
このブログも、コメント欄に荒らしが来て、記事を消してしまったけれど、残しておけばよかったです。
野島伸司脚本ドラマ『美しい人』公式サイト
あなたが出会った美しい人間(ひと)エッセイ大賞受賞作
「よるべなき子守歌」
何処からともなく子守歌が聞こえてきた。
どこか寂しげな微かな歌声。
こんな真夜中に、病棟の廊下でいったい誰が?と思わず鳥肌がたった。
恐ろしくなって、私が駆けだそうとしたその時、歌声の主もびくりとして声を発した。
「誰なの?」
訊ねたのは20代前半の女性だった。
暗がりに慣れた目で見つめると、彼女は華奢な背中に赤ちゃんを背負っていた。
「ごめんなさいね、驚かせてしまって」
私が慌てて詫びると、驚いたのはお互い様と彼女は微笑み、そして、おずおずと訊ねた。
「あなたも御主人が入院されているの?」
「父なんです。でも、もう・・・」
辛くて堪らなかった私は、見ず知らずの彼女に母にも言えない弱音をこぼしてしまった。
彼女も眠った子供を起こさない様に、小声でぽつりぽつりと語りだす。
御両親を幼い頃に亡くした事。
優しい御主人と結婚して子供も生まれ、やっと幸せになったと思った矢先に御主人が病気になってしまった事。
ご主人に心配をかけたくないから絶対に泣けない事。
私達は、お互いに頑張りましょうねと手を取り、励ましあい涙を拭いあって看病に戻った。
「気分転換に病室でピクニックなの」
後日会った彼女は、お弁当の入った大きなバスケットを持って明るく笑っていた。
肩先で揺れる髪、ほんのり赤みのさした頬、長い睫毛に縁取られた瞳、輝くように綺麗で幸せそうな初々しい新妻の笑顔だった。
病室の中から聞こえてくる楽しげな声。
彼女の明るい笑い声に、私は心から安堵した。
春にはまだ遠い底冷えのする2月の夜、看病のかいもなく父は帰らぬ人となった。
私と母が病棟を後にしようとした時、火がついた様に泣く赤ん坊の声が聞こえてきた。
泣き声のする洗濯場をのぞくと、背負った愛しい子供の泣き声さえ聞こえぬ程放心した彼女が、窓の外を凝視して、涙を必死で堪えるかの様に細い肩を震わせていた。
この頃、母は入院していて、寂しくって泣いていたこと。
あの時、ガンが見つかった最初の時だったのかな。
転勤族だけど、どこに居た時だったかな。
ペンネームはなんていったんだっけ・・・。
閉鎖したサイトの整理をしていて見つけました。
母のエッセイです。
おじいちゃんが亡くなった頃の話だと聞いています。
このブログも、コメント欄に荒らしが来て、記事を消してしまったけれど、残しておけばよかったです。
野島伸司脚本ドラマ『美しい人』公式サイト
あなたが出会った美しい人間(ひと)エッセイ大賞受賞作
「よるべなき子守歌」
何処からともなく子守歌が聞こえてきた。
どこか寂しげな微かな歌声。
こんな真夜中に、病棟の廊下でいったい誰が?と思わず鳥肌がたった。
恐ろしくなって、私が駆けだそうとしたその時、歌声の主もびくりとして声を発した。
「誰なの?」
訊ねたのは20代前半の女性だった。
暗がりに慣れた目で見つめると、彼女は華奢な背中に赤ちゃんを背負っていた。
「ごめんなさいね、驚かせてしまって」
私が慌てて詫びると、驚いたのはお互い様と彼女は微笑み、そして、おずおずと訊ねた。
「あなたも御主人が入院されているの?」
「父なんです。でも、もう・・・」
辛くて堪らなかった私は、見ず知らずの彼女に母にも言えない弱音をこぼしてしまった。
彼女も眠った子供を起こさない様に、小声でぽつりぽつりと語りだす。
御両親を幼い頃に亡くした事。
優しい御主人と結婚して子供も生まれ、やっと幸せになったと思った矢先に御主人が病気になってしまった事。
ご主人に心配をかけたくないから絶対に泣けない事。
私達は、お互いに頑張りましょうねと手を取り、励ましあい涙を拭いあって看病に戻った。
「気分転換に病室でピクニックなの」
後日会った彼女は、お弁当の入った大きなバスケットを持って明るく笑っていた。
肩先で揺れる髪、ほんのり赤みのさした頬、長い睫毛に縁取られた瞳、輝くように綺麗で幸せそうな初々しい新妻の笑顔だった。
病室の中から聞こえてくる楽しげな声。
彼女の明るい笑い声に、私は心から安堵した。
春にはまだ遠い底冷えのする2月の夜、看病のかいもなく父は帰らぬ人となった。
私と母が病棟を後にしようとした時、火がついた様に泣く赤ん坊の声が聞こえてきた。
泣き声のする洗濯場をのぞくと、背負った愛しい子供の泣き声さえ聞こえぬ程放心した彼女が、窓の外を凝視して、涙を必死で堪えるかの様に細い肩を震わせていた。
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