そしてもう一人
ミステリー界の巨匠高木彬光が生みだした探偵…
大学教授でありながら警察の捜査に協力
犯罪心理学の知識で人の心を読みわずかなほころびから完全犯罪の謎を解く
冷静さと行動力。
優しさと厳しさ
全てを兼ね備えた男
(松下)鍵の掛かった部屋から女と宝石が消えて社長の死体が発見されたんです。
これは密室殺人です!
誰もが天才と認める神津恭介が難攻不落の密室トリックに挑む
(神津)今日は埼玉県所沢市で溺死体で発見された男性の件について配偶者による保険金目当ての殺人なのかただの事故なのかロジスティック回帰分析を使って検討してみたいと思います。
(神津)この数式は過去に起こった殺人事件をデータベース化したもので私が独自に作ったものです。
事件に関する情報を数値化して当てはめることによって保険金殺人である可能性を算出することができます。
井上君。
被害者について知ってることを述べてくれたまえ。
(井上)はい。
(井上)死亡したのはサトウマサヒコ。
年齢は43歳。
職業は弁護士。
1億円の死亡保険に加入していました。
(神津)続いて天野君。
犯行状況を頼む。
(天野)遺体発見場所は自宅の浴槽。
死因は溺死。
第一発見者は妻のカナコ。
打撲痕などはなく多量のアルコールを摂取していました。
94.7%だと保険金目当ての殺人と考えてほぼ間違いない。
刑事の勘だと60%程度の正解率だがロジスティック回帰分析を使うと正解率は90%を超える。
しかし先生の分析は過去のデータに基づいています。
もし犯罪者が今までにない画期的な殺人方法を使ったりしたらどうなりますか?今までにない画期的な殺人方法?残念だがそんなものはあり得ない。
どんな犯罪者も無意識のうちに必ず過去の事例を模倣している。
・
(大崎)お疲れさまです。
トウコウ生命の早乙女さんがおみえになってます。
いらっしゃい。
(英美)お邪魔してます。
(大崎)これ頂きました。
あのう。
ノベルティーのメモ帳です。
ああ。
いつもありがとう。
あっ。
いえ。
あのう。
埼玉県警から所沢市の弁護士殺害事件は配偶者の保険金目当ての犯行だったと連絡がありました。
捜査に協力してくださったそうですね。
いや。
少しアドバイスしただけですよ。
ありがとうございます。
そういえば翔太君元気ですか?ああ…。
確か3年生でしたね。
もう遊んでばかりで困ってます。
いえ。
子供はよく遊びよく遊べです。
いいじゃないですか。
(大崎)先生。
始まりますよ。
(キャスター)神津先生。
よろしくお願いします。
よろしくお願いいたします。
あっ。
先生。
(大崎)この前情報番組の取材を受けたんですよね。
人間は間違いを犯す動物です。
どんなに綿密な計画を立てても必ずどこかでミスをします。
その小さなほころびを丹念に調べるとそこから犯罪を行った人間の素顔が浮かび上がってきます。
(キャスター)本日は協立大学で犯罪心理学の講義をされており…。
お待たせ。
(松下)見ましたよ。
昼の番組。
「人間は間違いを犯す動物」言ってることはいつもと同じですけど今回はカメラ目線が決まってましたね。
また女性ファンが増えますよ。
いつも同じで悪かったな。
いつも私が扱った事件をそのまま小説にして商売をしている君に言われたくないね。
(松下)先輩にそう言われるのもこれが最後です。
うん?
(松下)第四十五回現代ミステリー大賞新人賞受賞作家のプライドに懸け…。
新人賞受賞っていつの話してるんだ?
(松下)話の腰を折らないでください。
とにかく今執筆してるのは構想3年。
先輩に頼らない完全オリジナルの作品です。
フフッ。
それでどんな話だ?信州の旧家で…。
うん。
毎年3月3日に殺人事件が起こりそこの娘が家庭教師の女性と犯人捜しを始めるんですが思いもかけぬ展開が待ち受けています。
分かった。
その家庭教師が犯人だろ?家庭教師の両親はかつて旧家の使用人で当主に虐げられて自殺した。
動機はその復讐だ。
君の考えそうなことは全てお見通しだ。
あっ。
それと探偵の役と思わせておいて実は犯人だったっていうのもよくある手だ。
リベンジを楽しみにしてるよ。
はい。
いくら踏まれてもめげないのが取りえです。
うん?もう1本。
うん。
不動産業界にメスを入れた社会派小説を準備していますから期待しててください。
社会…。
箱根に森島信太郎っていう面白い成金社長が住んでいましてね。
自宅に通って取材中です。
おいおい。
あんまり手を広げない方がいいぞ。
大丈夫ですよ。
あっ。
時間があったら芝居見に行きませんか?森島社長からチケットもらったんです。
ああ。
(松下)孤島を舞台にしたミステリーみたいです。
フフフ。
それはいいけどこれ昨日で終わってるぞ。
へっ?ホントだ。
参ったな。
人間は間違いを犯す動物だ。
何度も言ってしまうのは君のせいかもしれないな。
うん?
(松下)すいません。
おう。
社長。
松下です。
(森島)ああ。
松下君?森島だが。
この前話したダイヤのネックレスアンドロメダの奇跡なんだが売買の日取りが決まったよ。
(森島)今度の金曜日。
夜9時からだ。
分かりました。
楽しみにしてます。
森島信太郎からか。
しっかり取材するんだな。
(チャイム)
(女性)はい。
(結城)結城と申します。
森島社長をお願いします。
(浜田)社長。
開けてください!社長!
(世津子)どうしました?
(浜田)奥さん。
鍵を。
(世津子)はい。
(浜田)社長。
社長。
大丈夫ですか?社長。
(浜田)社長。
社長!あの女…。
(浜田)社長!社長!
(古沢)おう。
頑張ってるね。
お父さん。
これからですか?
(古沢)いや。
今プールで一泳ぎしてきた。
そうですか。
(古沢)よーし。
まだまだ。
えっ?
(古沢)若い者には負けんぞ。
おお。
お父さん。
よっ。
ほっ。
お父さん。
(古沢)おう。
よし。
よっ。
ほっ。
お父さん。
お父さん。
ま…参りました。
よし。
今夜はこれまで。
一杯やろうか。
話があるんだ。
(古沢)これ。
王子物産の社長のお嬢さん。
東都大学経済学部を卒業してアメリカでMBAを…。
すみませんが。
(古沢)うん?お断りさせていただきます。
私に再婚の意思がないのを一番よくご存じなのはお父さんじゃないですか。
(古沢)ああ。
それはもちろんよく知っている。
しかしさ美和子が亡くなってからもう5年だぞ。
そろそろ考え方を変えてもいいんじゃないかと思ってさ。
はい。
世間では名探偵なんていわれてますがいまだに自分の妻を殺害した犯人を見つけることができずこのままでは自分が許せないんです。
悔しい気持ちはよく分かる。
しかし君が解決できなかったんだ。
犯人はこの世にいないのかもしれんぞ。
この世にいないって?人生には諦めることも必要だ。
お父さんは諦めることができるんですか?私にとって美和子は血を分けた唯一の娘だ。
それに私は法医学者。
死の真相はぜひとも知りたい。
だったらなぜ諦めろなんて。
それは君の将来を考えてのことに決まってるだろ。
人間には知らない方が幸せっていうこともあるんだ。
どういうことですか?人の厚意は素直に受け取れ。
ああ…。
(バイブレーターの音)あっ。
すいません。
(バイブレーターの音)
(バイブレーターの音)
(松下)先輩。
この前話した森島社長が殺されました。
何?殺された?箱根の社長の家にいるんですけど鍵の掛かった部屋から女と宝石が消えて社長の死体が発見されたんです。
これは密室殺人です!落ち着け。
声が大き過ぎて何を言っているのかよく分からない。
あっ。
すいません。
(篠原)ちょっと失礼。
(篠原)神津先生ですか?あっ。
前にお世話になった神奈川県警の篠原です。
妙な事件が起きましてね。
ちょっとお話だけでも聞いていただけませんか?はい。
分かりました。
明日は土曜で講義がないのでそちらに伺います。
はい。
どうも。
事件かね?あっ。
いや。
まだはっきりとしたことは分かりませんが。
学者なのに大変だね。
もうあんまり若くないんだから体には気を付けなさいよ。
ありがとうございます。
ねえ。
恭介君。
はい。
あのう。
見合いの話なんだが考えててくれんか?あっ…。
あっ。
勘定は済ました。
ありがとうございました。
フゥ…。
私の別荘だよ。
もう少し奇麗に使ってもらいたいね。
あっ。
すいません。
これでもね片付けたつもりだったんですけど。
ハァ。
君が言ってたのはこの事件だろ?そうです。
被害者の森島信太郎はこの箱根で不動産業を始めて成功し今じゃ東京の一等地に商業ビルやマンションを所有し金融業にも手を広げています。
社長とはどうして知り合ったんだ?3カ月ほど前海岸沿いのコンビニで森島の女性秘書の財布を拾いましてね。
(千恵子)《ありがとうございます。
よかった》
(松下)《免許証の住所見たらすぐ近くだったので》《あっ。
夜分遅くに申し訳ありません》《それじゃ失礼します》
(千恵子)《あっ。
あのう》《せっかくなんでお茶してってください》《あっ。
いやそんな》
(千恵子)《ホントに感謝してるんです。
どうぞ》《ありがとうございます。
よかった》
(千恵子)《松下さん。
小説家なんですね》
(松下)《はい。
第四十五回現代ミステリー大賞新人賞受賞しました》
(千恵子)《ああ…》
(松下)《あっ。
あのう。
杉江さんは森島信太郎さんの秘書をされてるんですよね?》
(千恵子)《ああ…》
(松下)《あっ。
あのう。
財布の中のね名刺を見ちゃいました》《東京の本社には別の方がいらして箱根にお戻りのときだけお世話させていただいてます》《森島さんといえば財界の風雲児です》《色々とご苦労もおありでしょうね》《あっ。
もしかしてこれ取材ですか?》《あっいえ。
ただの雑談です》と口では言ったものの一度森島信太郎に会って直接不動産業界の裏話を聞きたいとの思いがありました。
それで後日無理を言って面談できるように取り計らってもらったんです。
あっ。
そしたらマダイ釣りの話で盛り上がっちゃって。
家にも招いてもらうようになりました。
(森島)《今度3億円のダイヤのネックレスを見せてやる》
(松下)《3億円?》《アンドロメダの奇跡という名品だ》《ある旧家の未亡人と宝石店との仲介を引き受けてな》《日にちが決まったら教える》
(松下)《楽しみにしてます》
(松下)それから1週間後です。
(森島)《紹介する》《彼が私の右腕でもある専務の浜田君》《隣が銀座の宝石店アンブローズの外商部員の久原さんだ》《初めまして》《第四十五回現代ミステリー大賞新人賞を受賞しました推理作家の松下研三です》《今夜はアンドロメダの奇跡を見せていただけると聞き楽しみに参りました》
(浜田)《どうも》
(久原)《初めまして》
(ノック)・
(世津子)《結城さまがおみえです》
(森島)《入ってもらえ》
(世津子)《どうぞ》
(森島)《お待ちしておりました。
こちらへ》
(森島)《どうぞ》
(森島)《どうぞこちらへ》《それじゃアンドロメダの奇跡を拝ませてもらおうか》
(久原)《かしこまりました》《いかがですか?》
(結城)《素晴らしいですわ》
(森島)《それじゃ値段の交渉に入るから浜田君と久原さんはしばらく席を外してもらおうか》
(浜田)《えっ?》
(久原)《あのう。
それは…》
(森島)《どうした?》
(久原)《申し訳ありませんが上司から絶対に目を離すなと言われてまして》《同席させていただけませんか?》《2人でないと落ち着いて話せない》《5分か10分だ。
その間隣の応接室で待ってろ》《終わったら声を掛ける》《行きましょう》
(久原)《分かりました》それから10分たっても商談室からは声が掛かりません。
(久原)《値段が折り合わないんでしょうかね》《少し時間がかかり過ぎてますね》・
(森島)《うっ!?》・
(倒れる音)
(浜田)《社長》《社長!社長!社長。
開けてください》《奥さん。
鍵を。
鍵をお願いします》《社長!開けてください。
社長!社長!》
(世津子)《どうしました?》
(浜田)《奥さん。
鍵を》
(世津子)《あっ。
はい》
(浜田)《社長!大丈夫ですか?社長!》《社長!》《社長?社長!》
(浜田)《社長!奥さん。
救急車を》
(世津子)《は…はい》
(浜田)《社長。
社長。
社長》
(久原)《アンドロメダがない》
(松下)《誰だ!》
(千恵子)《あっ》《社長のおいの相良さんです。
すみません》《開けていただけませんか?》
(松下)《はい》
(相良)《伯父さん。
伯父さん!伯父さん!》《何があったんです?》
(浜田)《私にも何が何だか》
(久原)《黒ずくめの女を見ませんでしたか?》
(相良)《黒ずくめの女?》
(久原)《女がダイヤのネックレスを持って消えました》
(松下)商談室には応接室からつながるドアと庭に出るドアの2つがありますけど2カ所とも室内から鍵が掛けられていました。
その密室の中で森島信太郎が殺され結城と名乗った黒ずくめの女と時価3億円のダイヤのネックレスアンドロメダの奇跡がこつぜんと消えたんです。
どう思われますか?君一人の話じゃ情報が偏る。
篠原警部とはどこで会うことになっているんだ?森島邸の前です。
あっ。
行きましょうか。
うん。
(篠原)先生。
こちらです。
密室殺人なんて初めての経験です。
ぜひお力添えをお願いします。
分かりました。
この松下君が現場に居合わせたのも何かの縁でしょう。
それじゃ現場にご案内します。
はい。
先生!どうして英美さんが?森島さんご夫婦は半年前からお互いを受取人にして1億円の生命保険に加入されていました。
それに盗まれたダイヤのネックレスにも盗難保険が掛けられていて。
(篠原)失礼ですが?トウコウ生命調査室長の早乙女英美さんです。
神津先生にはいつもお世話になっております。
(篠原)ああ。
これから殺人現場を見せてもらうところです。
(篠原)それじゃあ。
(篠原)死因はトリカブトに含まれるアコニチンを皮下注入されてのショック死です。
手首に細い針で刺された傷がありました。
室内からはクロロホルムを染み込ませたガーゼが発見されてます。
黒ずくめの女はガーゼを口に当て森島社長の意識をもうろうとさせた後毒針を手首に刺しネックレスを持ち去ったんですね?はい。
女については何か分かりましたか?同席していた専務の浜田さんは創業時から森島興業で働く被害者の片腕です。
彼にも話を聞いてみたんですが…。
《私も結城という名前と旧華族の流れをくむ名家の未亡人ということ以外何も知りません》
(篠原)《売買の日時場所の設定は全て森島社長ご自身がなさっていたわけですね?》
(浜田)《はい。
何か聞いてないか?》
(千恵子)《いいえ。
大事な取引があるから夜9時前に自宅に来るようにと言われただけです》秘書まで何も聞いてないとなると今のところ女の身元について調べる手掛かりはゼロです。
女は玄関から入ってきたんですね?
(篠原)はい。
世津子夫人が迎えて応接室まで案内していて。
鑑識が調べたら庭に女のものと思われる足跡が残っていました。
しかしこのドアもこちらの応接室からのドアも内側から鍵が掛けられていました。
合鍵を使って応接室側のドアから入り…。
庭に立っていたおいの相良さんを入れるのに僕がその鍵を開けましたから間違いありません。
(篠原)窓には格子が取り付けられていてこの間からは通り抜けられませんからこの部屋は完全な密室でした。
この密室から女はどうやって出ていったんでしょう?そうですね。
どうしました?
(松下)あっ。
いえ。
この部屋昨日と雰囲気が違う気がしませんか?ここに絵か書か何か額のようなものが掛けてあったんじゃないのか?そうです。
絵が掛けてありました。
森島社長の肖像画です。
そうでしたよね?
(篠原)ええ。
そう言われれば…。
(世津子)先日テレビで拝見しました。
「人間は間違いを犯す動物だ」でしたわね。
どうも。
(松下)あっ。
こちら森島社長の秘書だった杉江千恵子さんです。
(千恵子)松下さんにはいつもお世話になってます。
(松下)いや。
お世話だなんてそんな。
(せきばらい)
(せきばらい)ひとつお伺いしたいんですけど。
商談室に飾ってあったご主人の肖像画外したのあれ奥さんですか?
(世津子)ええ。
あの肖像画は暗くって以前から薄気味悪く思ってました。
主人が亡くなりあんなものが飾ってあると怖くて部屋に入れません。
何か不都合なことでも?あっ。
いえ。
結城と名乗る女性について森島さんから何もお聞きになってなかったそうですね。
はい。
社長がダイアのネックレスの仲介をされていたなんて知りませんでした。
(相良)世津子さん。
葬儀屋が来ました。
打ち合わせお願いします。
(世津子)今行きます。
あなたも同席して。
(千恵子)はい。
(世津子)それでは。
(千恵子)失礼します。
今の人は?
(篠原)被害者のおいで相良竜夫。
東京で不動産会社を経営しているそうです。
昨夜森島社長が殺害された直後現れたという人ですね?頼まれた物件が売れたのでその報告だと。
そうですか。
ええ。
あっ。
ええ。
ああ。
そうですか。
分かりました。
ありがとうございました。
(松下)ホテル見つかりましたか?熱海で国際会議があるみたいでこの辺りもいっぱいです。
だったらここに泊まればいいんじゃないですか?いいですよね?うん。
あっ。
翔太君は大丈夫ですか?母が面倒を見てくれています。
それは安心ですね。
2階の奥の部屋空いてます。
よかったら使ってください。
ああ。
ではお言葉に甘えて。
ありがとうございます。
いえ。
あっ。
ちょっと用を思い出したんで出掛けてきます。
うん。
仲良くやってくださいよ。
うん?あっ。
あっ。
何か作りますね。
あっ。
ああ…。
松下さんどこ行っちゃったのかしら?一人で飲みにでも行ったんじゃないでしょうか?私たちに気を使っているんでしょうか?困ったやつだな。
何勘違いしてんだ。
もう。
待っていても仕方ありませんね。
食べましょうか。
そうですね。
ええ。
いただきます。
いただきます。
しかし森島邸に現れた結城と名乗る全身黒ずくめの女なんですがベールだけでなくマスクまでして顔を隠していたのはなぜでしょうね?森島社長は旧華族の未亡人だっておっしゃってたんですよね。
それなりに顔が売れている有名な方で身元を隠したかったんじゃ。
調べてみたんですが旧華族に結城っていう姓はありませんでした。
おそらく旧華族の未亡人だって話自体が嘘だと思います。
じゃあ社長はその女にだまされてたってことですか?それとも嘘だって知ってたのかしら?うん?先輩!やっぱりここか。
(松下)どうしたんですか?せっかく気を利かせたのに。
いらぬおせっかい焼くな。
何にします?ジンフィズを。
じゃあ私はスコッチの水割りを。
(従業員)はい。
さっき森島邸にいた杉江さんって秘書の話だが。
(松下)先輩。
うん?
(松下)彼女とは何もありません。
社長に近づくために利用しただけです。
下手な勘繰りはしないでください。
フフッ。
面白いな。
何がです?聞かれてもないことに答える。
それは彼女との関係を隠したがっている証拠だ。
ホントに彼女とは何もありません。
今右手の親指を左手で隠した。
それも嘘をついている人間が取る典型的な行動だ。
やめてください。
神津先生に隠し事はできないわよ。
君は彼女に恋愛感情を抱いてる。
しかもあまりうまくいっていない。
正直に話せよ。
もういいんです。
諦めました。
(松下)《大変なことになりましたね》《会社はどうなるんでしょう?》
(千恵子)《さ…さあ》《浜田専務が引き継がれるんじゃ?》《あっ。
すると次は浜田さんの秘書になるんですか?》《あっ》
(千恵子)《いやあの》《突然のことでまだ何も》《ああ。
そりゃそうですよね》《僕にできることがあったら相談に乗ります》《何でもおっしゃってください》《あのう。
私のことは気にしないでください》《すみません》どういうこと?
(松下)彼女昔付き合ってた男にお金をだましとられて二度と恋愛はしないと決めたそうです。
それで諦めたのか?しつこく付きまとえば彼女の心の傷を大きくするだけ。
男は諦めが肝心です。
カッコつけんなよ。
フッ。
ホントにその彼女のことを思っているなら一緒にその心の傷を治してあげればいいじゃないか。
頑張れよ。
なあ?はあ。
(松下)先輩?あの男相良竜夫だろ?
(松下)ああ。
ええ。
そうですね。
一緒にいるのは?
(松下)うーん。
誰でしょう?
(松下)まださっきの女のこと考えてるんですか?うん。
あの顔どこかで見たことがある。
あっ。
それよりこっちで一杯どうですか?ワインか。
この前芝居のチラシくれたろ?ええ。
それがどうかしました?それ見せてくれ。
えっ!?待ってくださいよ。
捨てちゃったけど1枚ぐらい残ってたかなぁ?あっ。
ありました。
これがどうかしたんですか?ホテルにいたのはこの女だ。
そう。
この人。
沢村静香?あのチケット森島社長からどう言ってもらった?知り合いが出演している舞台で100枚も買わされたってボヤいてました。
(篠原)先生。
森島邸の商談室の壁から森島社長の肖像画が取り外されていた理由が分かりましたよ。
どういうことです?
(篠原)あれ見てください。
森島社長の肖像画を描いたのは今世津子夫人と話している日下部廉治という画家です。
日下部廉治って聞いたことありませんね。
あっ。
森島社長の知り合いか何かですか?
(篠原)世津子夫人の昔の恋人です。
えっ?
(篠原)夫人はある名家のお嬢さんで日下部と婚約していたんですが父親が株で失敗。
森島が困った父親に金を貸す代わりに世津子を自分の後妻にしたんです。
その上日下部に無理やり自分の肖像画を描かせた。
森島邸で働いていた家政婦が話してくれました。
するとあの絵は夫人にとっても日下部画伯にとっても屈辱の象徴だったわけですね。
熱海のホテルで夫人が最近よく日下部と密会していると情報があります。
2人が黒ずくめの女を雇い屈辱を晴らすために森島を殺させたとは考えられませんか?先生。
沢村静香が来ています。
(静香)ハァー。
森島さんに…。
お願いします。
分かりました。
(篠原)失礼ですが沢村静香さんですよね?私森島社長の事件を担当しております神奈川県警の篠原と申します。
少し話を聞かせてもらえませんか?
(静香)どういうご用件でしょうか?
(篠原)ああ。
あなた舞台の女優さんで森島社長にチケットの購入をお願いしていましたよね?
(静香)ええ。
それがどうかしたんですか?
(篠原)ああ。
森島社長との関係をお聞かせ願いたいんですが。
(静香)関係って。
後援者。
スポンサーとでも言うのかしら。
それだけですか?森島社長は金銭的にシビアな方だったと聞いていますが無償で援助するとは考えにくいんです。
もしかしてあなた森島社長ともっと深い関係にあったんじゃないですか?ぶしつけな質問をして申し訳ありませんでした。
森島社長は旧華族の未亡人という女性にダイヤのネックレスを仲介しようとして殺されました。
その女性なんですが心当たりはありませんか?
(静香)さあ。
社長私の前で仕事の話はしませんでしたから。
ダイアのネックレスなんて話も聞いたことがありません。
そうですか。
突然申し訳ありませんでした。
あっ。
それと最後にもう一つ。
事件とは関係ないのですが。
『ワインレッドの罠』見損ねてしまいました。
評判がいいと聞いたので残念です。
(静香)うちの劇団をご存じなんですか?ええ。
(静香)来年再演しますからぜひ見に来てください。
楽しみにしてます。
あっ。
ちなみに稽古は毎晩遅くまでしているんですか?
(静香)はい。
じゃあ森島社長が殺害された夜も稽古場ですか?
(静香)はい。
失礼しました。
行きましょうか。
(篠原)失礼します。
彼女が森島社長の愛人だったことは間違いありませんね。
(浜田)社長あっての森島興業です。
社長が亡くなった今一度解散した方がいいんじゃないでしょうか?
(相良)フフフ。
(相良)うまいこと言って。
あなたが伯父に使い込みをとがめられて独立を阻止されていたこと知ってますよ。
(森島)《どうしても独立するっていうなら5,000万の背任横領でお前を告訴する》《証拠はここにあるんだ》《どうする?》《このまま俺の下で働けば今回のことは大目に見てやる》《犯罪者になるか?俺の奴隷になるか?》《この場で決めろ!》
(浜田)《申し訳ありませんでした》
(森島)《よし。
今後俺には絶対服従だ》《少しでも逆らうようなことがあったらお前の人生は終わりだ。
よく覚えてろ》
(相良)伯父がいなくなった今絶好の機会と別会社をつくってお客を取り込むつもりでしょ?体のいい乗っ取りだ。
(相良)ああ。
世津子さん。
こんな男の口車に乗らないでください。
(浜田)今まで社長のおこぼれで生きてきたくせに偉そうなこと言うんじゃないよ。
君こそ会社を狙ってんだろ!?
(相良)何?
(世津子)2人ともやめて。
私には私の考えがあります。
(世津子)私は不動産にも金融にも興味ありません。
画家の日下部廉治先生を社長にお招きして業務内容を書画や骨董類の仲介業にシフトしていきたいと思います。
奥さん。
そんなことしたら社長が悲しみます。
今まで散々な目に遭わされてきたのよ?これからは好きにやらせていただきます。
森島興業とアンブローズの関係について調べていただけましたか?はい。
ああ。
銀座にあるアンブローズの本店は森島興業が所有するビルにあって森島興業とアンブローズはテナント料の値上げを巡って半年前からもめています。
ああ。
やっぱりトラブルがありましたか。
やっぱり?いや。
沢村静香に黒ずくめの女について聞いてみたんですが。
《さあ》《社長私の前で仕事の話はしませんでしたから》頬に手を当てるというノンバーバルコミュニケーションが示すのは極度の緊張から逃れたいという欲求です。
黒ずくめの女についての質問が彼女を緊張させたってことですか?彼女は女優です。
森島社長は沢村静香を黒ずくめの女に仕立ててアンドロメダの奇跡を盗ませトラブルを解消するための駆け引きの道具として使おうとしていたんじゃないかと思いましてね。
すると盗難は森島社長が仕組んだ自作自演の狂言だったってことですか?思ったとおり森島興業とアンブローズの間にはテナント料に関するトラブルがありました。
殺人と部屋が密室だったことさえなければそれで説明がつくんですけどね。
盗まれたアンドロメダの奇跡には盗難保険が掛けられていました。
そのことで少しお話を聞かせてください。
(久原)どういうことでしょうか?まず3億円もする高価な商品を届けるときにはガードマンを同行させるのが規則じゃないかと思いますが?
(久原)おっしゃるとおりです。
ただ今回は森島さまからの要望がありましたから。
要望といいますと?できるだけ内々で取引をしたいので一人で来てほしいと言われました。
すると商談室で黒ずくめの女と2人になったのも森島社長の要望ですか?もちろんです。
私は同席させてほしいと強く訴えましたが森島さまに突っぱねられました。
(従業員)久原部長。
相良さまからお電話が入っています。
(久原)失礼します。
(久原)代わりました。
久原です。
はい。
買い取り?さあ。
どうでしょうか?それは私の一存では。
上司とも相談しまして折り返し連絡させていただきます。
はい。
失礼いたします。
森島社長のおい御さんですよね?ええ。
変なこと言ってきましたよ。
変なこと?盗まれたアンドロメダの奇跡を取り返したら10%の手数料をもらえるかって。
あっ。
それって盗んだ犯人に心当たりがあるってことですか?どうでしょう?いかがわしい人みたいですから。
(相良)ああ。
この間来てた保険会社の方ですね?分かりました。
じゃあ事務所で待ってます。
はい。
はい。
分かりました。
はい。
よいしょ。
あなた。
待って。
相良さん?あっ。
相良さん!相良が黒ずくめの女に殺されましたか。
ナイフで。
死因はそれによる出血死でした。
あまり驚かれないですね?うん。
松下君の話だと相良は森島社長が殺害された直後庭から現れています。
逃げる黒ずくめの女を目撃しその正体を突き止めた。
それで口封じされたんじゃないんでしょうか?私もそう思います。
相良はアンブローズにアンドロメダの奇跡を取り返したら10%の手数料をくれないかと交渉していました。
あっ。
篠原警部ですか?
(篠原)あっ。
神津先生。
警視庁から連絡がありました。
相良竜夫が黒ずくめの女に殺害されたそうですね?その件でこの前会った女優の沢村静香のアリバイを調べてほしいんですが。
お願いします。
先生はやっぱり沢村静香が黒ずくめの女だとお考えなんですか?事件のあった夜稽古場にいたと言っていましたが劇団に問い合わせたら夕方で終わっていました。
その上次の日には相良竜夫とも会っていたでしょう。
2人の間には険悪なムードが漂っていました。
沢村静香は相良に正体を見破られてゆすられていたのかもしれません。
それに黒ずくめの女は私の顔を見て驚いたようにしばらく棒立ちになりました。
私はお通夜の会場で神津先生や篠原警部と一緒に沢村静香に会っています。
私を警察の人間だと勘違いして驚いたのかもしれません。
沢村静香が黒ずくめの女だとすると全てで辻褄が合う気がします。
観測された事実から推定したい事柄を確率的な意味で求めるベイズ推定を用いて様々な条件から黒ずくめの女を誰か推定すると彼女となる。
ただ相良を殺害したのが彼女だとしてどうして再び黒ずくめの女の扮装をする必要があったのでしょうか?それは顔や声を隠すためじゃ?正体を見破られ口封じのために相良を殺すんです。
顔も声も隠す必要はないでしょう。
そう言われれば。
それともう一つ。
篠原警部から借りた供述調書のコピーを読んでると気になることが書いてある。
気になること?ああ。
(古沢)おう。
はい。
(古沢)やるかね?はい。
美和子は旅行が好きでした。
亡くなる半月前大学の同窓生と軽井沢へ行ったのを覚えてますか?
(古沢)ああ。
そんなことがあったかね?はい。
そこで御言神社のこのお守りを買ってきてくれました。
今まで気付かなかったのですが中にこんなものが。
(古沢)何だね?これは。
はい。
調べたらキンセンカの種でした。
おお。
お父さんにも同じお守り買っていたと思うんですが?そうだったかな?そのお守りにも何か入っていないか調べてもらえませんか?分かった。
捜しておくよ。
それで今夜はそのことで私を誘ったのかね?あっ。
(古沢)恭介君の方から飲みに誘うなんて珍しい。
少しはお見合いの話も考えてくれたかい?いえ。
あのう。
もう一つお尋ねしたいのはアコニチンについてのことなのですが。
アコニチン?ああ。
トリカブトに含まれている?はい。
アコニチンは即効性が一番の特徴だと聞きます。
皮下注射された後に言葉をしゃべることは不可能だと思うんですがどうでしょうか?君の言うとおり不可能だ。
アコニチンは体内に入ると瞬時に神経系統がやられるからね。
絶対にしゃべれない。
しかしアコニチンで中毒死した被害者が介抱していた男に「あの女」と言い残しその後けいれんして亡くなったと現場にいた被害者の妻が供述しているんですが。
不思議な話だね。
もしその話が本当だとすると考えられるのはただ一つ。
(篠原)まずは沢村静香ですがアリバイが成立していました。
相良が殺された時刻渋谷のブティックで買い物をしていました。
店員2人が供述していますから間違いありません。
そうですか。
ありがとうございました。
先生。
沢村静香が黒ずくめの女じゃないとなると…。
それで森島社長の死について新たな事実が分かったそうで?お借りした調書によれば合鍵を使い浜田専務がドアを開けて商談室へ飛び込むと…。
(浜田)《社長。
社長!》
(森島)《あの女…》介抱する専務に森島社長が「あの女」と言ったとありますね?ええ。
世津子夫人はそう言っていました。
しかしそれはあり得ないことです。
あり得ない?アコニチンは即効性の毒物です。
注射された瞬間神経系統がやられ言葉を発することなんてできないはずです。
もし「あの女」と言ったのなら…。
《考えられるのはただ一つ》《言葉を発したときにはまだアコニチンを注射されていなかったということだ》アコニチンは注射されていなかった?森島興業とアンブローズはテナント料の値上げの問題でもめていました。
森島社長は黒ずくめの女を利用していったんアンドロメダの奇跡が盗まれたように装いその後それを取り戻すのを条件にテナント料の値上げ交渉を有利に持っていこうって考えてたんじゃないでしょうかね?じゃあ強盗は狂言だったんですか?はい。
社長はクロロホルムで意識がもうろうとなった芝居をしたんです。
犯人はその芝居を利用して森島社長を殺害。
黒ずくめの女に罪を着せようとしたんです。
あっ。
しかし黒ずくめの女に罪を着せるならわざわざ部屋を密室にする必要はなかったんじゃないですか?その辺のことはまだ分かりませんがこの狂言を利用して森島社長を殺害した犯人をまずは特定することです。
その犯人は誰なんですか?供述書によると商談室に入り社長に接触したのは浜田専務だけです。
(浜田)《社長!大丈夫ですか?》《社長。
社長!》介抱するふりをしてそばに駆け寄り誰にも分からないようアコニチンを注射したんだと思います。
《あの女…》
(浜田)《社長?社長!社長!社長!》動機については直接本人に聞いてみないと分かりませんが。
森島社長はかなり癖のある人物だったようです。
何らかの原因で恨みを抱いていたのかもしれませんね。
分かりました。
すぐに事情聴取を行います。
あっ。
あなた。
・
(浜田)どうしました?君は…。
(女性)アンドロメダの奇跡のことでお話があります。
警察に電話します。
待ってください。
ここに来るってことは彼女も覚悟ができてるんだと思います。
話の後で私が通報します。
来なさい。
話を聞こう。
私がいいと言うまで絶対警察に電話しないでください。
お願いします。
(鍵の掛かる音)・
(チャイム)
(篠原)お邪魔します。
浜田専務いらっしゃってますよね?どうしたんですか?何かあったんですか?あの…女が。
女?えっ!?黒ずくめの女が?
(浜田)ううっ!?鍵お願いします。
はい。
すぐに取ってきます。
(世津子)はっ!?
(篠原)すると浜田さんが警察に通報しようとするのを止めたんですね?
(世津子)はい。
何度も念を押されました。
次回はコレスポンディング分析で犯罪の動機を推定してみたいと思う。
じゃあ今日はこれで。
(一同)ありがとうございました。
お疲れさま。
先生。
ああ。
何度もお呼び立てしてすいません。
なに無理言ってるのはこっちの方ですから。
お気遣いなく。
浜田専務殺害について何か新しいこと分かりましたか?いや。
今のところはまだ。
世津子夫人の話では浜田と会社の今後について話し合っていたときに突然黒ずくめの女が現れたそうです。
チッ。
すぐに警察に連絡してくれれば逮捕できたのにな。
浜田が止めたんですね?ええ。
えっ?どうしてそのこと?今回の事件は森島社長が仕組んだ狂言強盗に端を発しています。
おそらく浜田もその狂言強盗に加担していたのでしょう。
すると浜田は黒ずくめの女が誰だか知っていたわけですね?知っていてその罪をかぶせた。
そして今度は彼女を脅してアンドロメダの奇跡を奪おうとしていたのじゃないでしょうか?すると。
すると女はそのことに怒り浜田を殺害したわけか。
それもあったと思いますが一番の目的はやはり口封じだったと思います。
口封じ?浜田は狂言強盗に乗じて森島社長を殺害したのに対し黒ずくめの女は時価3億のアンドロメダの奇跡を奪おうと考えた。
そんな彼女にとって自分の正体を突き止めた相良や浜田は邪魔な存在だったんです。
うん。
森島社長の愛人だった沢村静香には相良が殺された時刻アリバイがあった。
黒ずくめの女はいったいどこの誰なんだよ?早乙女さんがお願いしたものはできてますか?はい。
世津子夫人に書いてもらいました。
ありがとうございます。
(ノック)はい。
・
(大崎)失礼します。
トウコウ生命の早乙女さまがおみえになりました。
今行く。
早乙女さんに期待しましょう。
うん。
(松下)黒ずくめの女とアンドロメダの奇跡がこつぜんと消えたんです。
(篠原)沢村静香ですがアリバイが成立していました。
自分の正体を突き止めた邪魔な存在だったんです。
一番の目的は口封じだったと思います。
(篠原)世津子夫人に書いてもらったリストです。
ありがとうございます。
(大崎)何のリストですか?
(篠原)うん?世津子夫人に付き合いのある女性の名前を書き出してもらったんだ。
(大崎)あっ。
そうですか。
黒ずくめの女はベールだけでなくマスクでも顔を隠していた。
顔を隠すためならベールだけでも十分だがマスクを使っているということは生声を聞かれたくなかったんじゃないかと早乙女さんは考えたんだ。
顔を隠しても生声を聞かれただけで素性を知られてしまう。
黒ずくめの女はそれだけ森島家あるいは森島興業に近しい人物だったってことですか。
そしてリストアップされた名前を今もう一つの条件と照らし合わせている。
(大崎)もう一つの条件?女は相良竜夫を殺して逃げるとき彼女を見て驚いたように棒立ちになったそうだ。
それじゃ女と早乙女さんは面識があったってことですか?だから世津子夫人がリストアップした名前の中に彼女の顔見知りがいればその女性が黒ずくめの女だってことになる。
知ってる名前ありますか?この中で私が知っているのは社長秘書だった杉江千恵子さんだけです。
(篠原)すると黒ずくめの女は杉江千恵子ってことですか?どうでしょう?残念ながらそれはあり得ません。
えっ?世津子夫人が黒ずくめの女を案内してきたとき杉江千恵子さんは森島社長や松下さんと一緒に応接室にいたと。
世津子夫人の他は浜田専務。
アンブローズの久原部長。
それに松下先生も供述しています。
でも…。
(篠原)いいアイデアだと思ったんですけど思うようにいきませんね。
(千恵子)《社長がダイアのネックレスの仲介をされていたなんて知りませんでした》
(静香)《ダイアのネックレスなんて話も聞いたことがありません》
(千恵子)《社長がダイアのネックレスの仲介をされていたなんて知りませんでした》《ダイアのネックレスなんて話も聞いたことがありません》
(千恵子)《社長がダイアのネックレスの…》《ダイアのネックレスの…。
知りませんでした》《ダイアのネックレスなんて話…》《ダイアのネックレスなんて話…》
(千恵子)《ダイア…ダイア…》
(静香)《ダイア…ダイア…》そうか。
そういうことだったのか。
(松下)はい。
分かりました。
コウワビルで働いている大村ハルさんって人に会えばいいんですね?聞いてもらいたい内容はメールで送るからよろしく頼む。
あっ。
失礼ですが大村ハルさんですか?
(ハル)ああ。
(松下)僕松下といいます。
(ハル)松下さん?
(松下)はい。
寒いのに大変ですね。
温かいものでも飲みませんか?突然申し訳ありません。
あなたが森島邸から盗まれた宝石を隠し持っていると警察に電話がありました。
念のため家宅捜索させてもらえませんか?家宅捜索?
(篠原)ええ。
あなたもあらぬ疑い掛けられて迷惑していると思います。
ここはすっきり身の潔白を証明してください。
分かりました。
好きなだけ調べてください。
(篠原)ありがとうございます。
おい。
調べろ。
(捜査員たち)はい。
(篠原)失礼します。
(篠原)不愉快な思いをさせて申し訳ありません。
形式的なものですからすぐに終わります。
実はここだけの話なんですがアンドロメダの奇跡を盗んだ犯人については目星が付いてるんですよ。
沢村静香という森島社長の愛人だった女性です。
沢村静香さんご存じですよね?
(千恵子)いえ。
社長のプライベートは一切タッチしてませんので。
そうですか。
アリバイもはっきりしていません。
ここが終わりしだい次は彼女の自宅を家宅捜索してみようと思います。
(千恵子)もしもし静香?私。
アンドロメダの奇跡自宅にあったら危険よ。
もうすぐ警察の家宅捜索が入るの。
今すぐどっかに移して。
取りあえずコインロッカーでもいい。
ねっ。
すぐに移して。
お願い。
うん。
ハァ。
・アンドロメダの奇跡を持っているのはあなたでなく沢村静香の方だったんですね。
(操作音)早乙女さん。
お願いします。
・分かりました。
僕が付いてますから安心してくださいね。
(静香)あっ!あっ。
(静香)痛っ。
すみません。
(松下)大丈夫ですか?
(静香)はい。
(静香)大丈夫です。
後は自分でやります。
失礼ですけど沢村静香さんですね?トウコウ生命の早乙女といいます。
箱根の森島邸から消えたアンドロメダの奇跡について調べているんですがこのバッグの中の宝石ケースを見せていただけませんか?突然ですみません。
ここで無理なら警察の方で。
・
(パトカーのサイレン)あなたと沢村静香にはハンカチの畳み方。
カップに付いた口紅を手で拭う癖。
そして宝石のダイヤをダイアと発音する3つの共通点がありました。
《ダイアのネックレスの…》《ダイアのネックレスなんて話も…》これは脳のミラーニューロンの働きによるものだと思われます。
洗濯や洗い物のしかた。
グラスの持ち方。
靴の脱ぎ方。
料理のしかたなど人間には共に暮らす者の行動や癖を無意識のうちにまねしてしまう習性がある。
これはミラーニューロンといって脳の神経細胞の働きです。
それで私と静香がつながってるとお考えになったんですか?一つ一つはよくある行動や癖でも3つも重なると2人の間に何らかの深いつながりがあるはずです。
それであなたたちの過去について調べ共に幼いころ両親を事故で亡くし大村ハルさんという篤志家の女性に引き取られ育てられたことを突き止めた。
あなたたち2人は戸籍上他人でも実質的には姉妹だった。
だから2人で一人の人物を演じることもできた。
黒ずくめの女はあなたでもあり沢村静香でもあった。
二人一役だったんです。
先生。
早乙女です。
分かりました。
ありがとうございます。
早乙女さんからです。
沢村静香がアンドロメダの奇跡を所持しているのを確認し月島湾岸署が身柄を拘束したそうです。
(篠原)もう終わりです。
全てをお話し願えませんか?もう終わりです。
全てをお話し願えませんか?今考えたら5年前に死んだ方がよかったのかもしれない。
当時東京のデザイン事務所に勤めていて交際していた同僚に独立しようって誘われたんです。
(静香)《一緒に事務所を立ち上げるとなると千恵子もお金を出さないといけないんでしょ?》
(千恵子)《うん》
(静香)《よかったらこれ使って》《お母さんもできるだけのことをするって言ってるわ》《何言ってるの?これはあなたが好きなお芝居作るためにためたお金でしょう》《水くさいこと言わないで》《私たちは血はつながっていなくても姉妹よ》《事務所が軌道に乗ったら返してくれればいいから。
ねっ》《ありがとう》《うん》《ありがとう》
(静香)《うん》
(千恵子)でもいくらお金を渡しても足りないって言われてお母さんにまでお金を借りました。
そこまでしてつくったお金を男に持ち逃げされたわけですね?お母さんは私にお金を貸したせいで自宅を手放さなくてはならなくなり私たち3人は離れ離れに暮らすことになりました。
《千恵子!》《千恵子。
駄目。
駄目》
(静香)《私もお母さんも千恵子のこと恨んでない》《悪いのはだました男で千恵子じゃないもの》《でも2人の大切なお金と家を私のせいで》《千恵子は疲れてる。
今は何も考えない方がいい》《ねえ?しばらく生まれ故郷の箱根に帰ったらどう?》《ちょうど私がお世話になってる社長さんが住んでて女性秘書を募集してるわ》《まずは元気になってまた3人で暮らせるように頑張りましょ。
ねっ》《もう。
泣かないで。
大丈夫》《もう泣かない》
(千恵子)それから5年。
時々3人で食事はしましたけど再び一緒に暮らしたいという夢はかないませんでした。
そんな中お母さんは初期の認知症を発症したんです。
医者には進行を遅らせたければ親近者と一緒に暮らすことが効果があると勧められました。
「何とかもう一度3人で暮らすことはできないか?」そう真剣に考え始めた矢先。
(森島)《アンブローズがテナント料の値上げに応じたらすぐに宝石は返す》
(森島)《強盗役を引き受けてくれたら50万円を手当にプラスする》《たった一晩で50万。
いい話じゃないですか》《警察沙汰にもならないし引き受けたらどうです?》この狂言強盗の話を聞いて絶好のチャンスだと思いました。
(千恵子)《その宝石って幾らくらいするの?》
(静香)《アンドロメダの奇跡ってダイアのネックレスで時価3億円だって》《3億円!?》《目の保養にもなるしお小遣いもくれるっていうから引き受けるつもり》《絶対に引き受けなさい》《お母さんに何かごちそうでもするわ》《その宝石持ち逃げしよう》《持ち逃げ!?》《3億円あればまた3人で一緒に暮らせる》《お母さんに恩返しできる最後のチャンスじゃない》《でもそんな…》
(千恵子)《大丈夫。
私が付いてるから》《2人でないと落ち着いて話せない》《5分か10分だ。
その間隣の応接室で待ってろ》
(久原)《分かりました》
(森島)《緊張するな。
打ち合わせどおりだ》《行け》《うっ!?》
(倒れる音)
(浜田)《社長》《社長!社長!》
(浜田)《社長!大丈夫ですか?社長!》《社長?社長!社長!》
(千恵子)高速道路を猛スピードで走り2時間で東京の自宅に帰り着いたそうです。
(千恵子)これで3人で暮らすことができる。
静香がそう考えたとき…。
(バイブレーターの音)
(静香)《はい》
(浜田)《浜田だ。
何てことした!?》
(静香)《どうかしたんですか?》《とぼけるな!社長を殺しただろ》《黙っててやるからすぐにアンドロメダの奇跡を渡せ》
(静香)《えっ?えっ…》静香を脅してきたのは浜田だけじゃありません。
(千恵子)社長のおいの相良竜夫が逃げる黒ずくめの女を目撃して車のナンバーから静香であることを突き止めゆすってきました。
(相良)《警察に黙っていてほしかったらアンドロメダの奇跡を渡せ》《何のこと言ってるの?知らないわ》
(相良)《おい。
伯父貴まで殺してよくもそんなことが言えるな》《変な言い掛かりつけないで》
(相良)《おい》それで今度はあなたが黒ずくめの女になって相良を殺害したんですね?計画を持ち掛けたのは私です。
静香に殺人なんかさせられません。
(相良)《うっ!?》死人に口なし。
相良の殺害は素顔でやってもよかったはず。
黒ずくめの女に扮装したのは私を翻弄するためですか?静香は先生に嘘のアリバイを言い黒ずくめの女と気付かれたんじゃないかと心配していました。
黒ずくめの女が相良を殺害すると私がまず沢村静香のアリバイを調べると考えたんですね?はい。
相良が殺害されたとき沢村静香は渋谷のブティックにいた。
二人一役のトリックに気付かないとわなにはまり沢村静香を容疑者から外すところでした。
それに相良の事務所を出た直後。
あなたが早乙女さんを見て驚かなかったら完全犯罪は成立していたかもしれません。
先生がいつも言うようにどんなに緻密な計画を立てても必ずほころびができるもんなんですね。
次に浜田専務の事件ですが。
(世津子)《あっ》・
(浜田)《どうしました?》
(浜田)《君は…》あのときの黒ずくめの女もあなたですね?《私がいいと言うまで絶対警察に電話しないでください》《お願いします》
(浜田)《やっと返す気になったんだね》《早く出しなさい》《どうして君が!?》
(千恵子)《私見たんです》
(浜田)《えっ。
見たって何を見たんだ?》
(千恵子)《あなたが介抱するふりして森島社長の手首に注射をするのを》
(浜田)《社長。
社長!》《あの女…》
(浜田)《社長!社長!》《狂言強盗の計画を利用して森島社長を殺害しその罪を黒ずくめの女を演じた静香にかぶせようとしたのね?》《そうだ。
森島をやったのは私だ》《わずかな不正をとがめて一生奴隷だと言いやがった》《あいつから自由になるには殺すしかなかったんだ》《私たちも同じよ》《願いをかなえるためにはあなたのことが邪魔なの》
(浜田)《うっ!?》あなたが浜田の犯行に気付いていたとは驚きです。
しかしこれで謎が解けました。
あなたが庭に出るドアに内側から鍵を掛けて密室をつくったんですね?はい。
(浜田)《社長!奥さん。
救急車を》
(千恵子)あの場にいた全員の視線が森島社長に集中してる一瞬の隙に。
(篠原)密室をつくって何かメリットがあったんですか?もし密室じゃなかったら黒ずくめの女の正体がバレたとき沢村静香一人に森島社長殺害の容疑が掛かってしまいます。
(篠原)内側から施錠して密室をつくることで浜田専務にも殺人の容疑が掛かるようにしむけたのか。
何とか静香を守らないといけないと思いました。
だったら浜田が森島を殺したと訴え出ればよかったのに。
そんなことしたらアンドロメダの奇跡を奪う計画も台無しになります。
3歳のときに交通事故で両親を亡くして親戚の間をたらい回しにされてつらい目に遭いました。
だからハルさんとの生活はホントに楽しくて。
(千恵子)亡くなった母が生き返ったようでした。
静香もハルさんのことを実の母のように慕っていて。
だから何としてでももう一度恩返しのためにも3人で一緒に暮らしたいと必死になってました。
そのために相良も浜田も殺したわけですね?しかしそんな恩返し大村ハルさんには必要なかったんです。
ハルさんは今あなたたちと一緒に暮らす家を探しているんです。
お母さんが私たちと?ハルさんはこの5年間何とかもう一度あなたたちと暮らしたいと掃除婦の仕事をして節約に節約を重ねお金をためていたんです。
年老いたハルさんは自分の力でお金をためていたのにあなたたちは宝石を盗むことを考えた。
しかもそれがうまくいかなくなると殺人までした。
ハルさんに恥ずかしくありませんか?そんなことをしてつくったお金で恩返しをしてもハルさんは喜びませんよ。
ハルさんはあなたたち2人のことがかわいくて仕方なかった。
あなたたち2人が幸せになることだけを願っていた。
あなたたちが自分のために犯罪に手を染めたと知ったらきっと悲しみますよ。
あなたたちほど親不孝な娘はありません。
泣いても何も始まりません。
ハルさんはあなたと静香さんが生きる希望です。
あなたたち2人が生きて罪を償えばハルさんの病気の進行を遅らせることができるでしょう。
私が間違ってました。
人間は間違いを犯す動物です。
しかしその間違いに気付きやり直すという大きな力も持っています。
そのことを忘れないでください。
(篠原)署までご同行願います。
(篠原)さあ。
お父さんのアドバイスのおかげで無事事件を解決することができました。
ありがとうございます。
そりゃよかった。
おめでとう。
ありがとうございます。
あっ。
ところで御言神社のお守りは見つかりましたか?ああ。
今捜してるんだがね。
キンセンカについて調べたんですが花言葉は「悲しい別れ」でした。
美和子はどこか自分の死を予感していたんじゃないでしょうか?死を予感?少し考え過ぎじゃないか?キンセンカに何の意味があるんでしょう?どうだろう?一緒に考えてみよう。
今度ゆっくり話そう。
分かりました。
(松下)「お母さん。
私何てことを」「ぼう然と立ち尽くすチカコ」「養母の優しさをくみ取れなかったことを悔い彼女は涙を流して泣き崩れた」どうでしょう?タイトルは『黒ずくめの女』にしようと思います。
いいね。
最高傑作じゃないか。
そうですか?2人で一人の役を演じるトリックも同じだし何か現実の事件をそのまま文章にしたって感じ。
松下先生の創意工夫を感じませんでしたけど。
君が創意工夫してもつまらなくなるだけだ。
早く出版社へ持ってけ。
はい。
好きになった人が殺人犯で落ち込んでるんじゃないかって心配してたんですけどちゃっかり商売にしちゃって。
下手に落ち込まないのが彼のいいところです。
でもお互いに相手のことを思いながら最悪の結果を招いた。
悲しい事件でしたね。
杉江千恵子と沢村静香に大村ハルさんの気持ちさえ伝わっていれば悲劇は起きなかった。
人の心を読み解くのは難しいですね。
そこに生きる喜びや悲しみがあるともいえますが。
2014/03/14(金) 21:00〜22:52
関西テレビ1
金曜プレステージ・「名探偵・神津恭介〜影なき女〜」[字]
豪邸で起こった密室殺人事件!そして、終わらない殺人の連鎖が始まる…。片岡愛之助演じる天才探偵・神津恭介が、消えた3億円のダイヤと黒ずくめの女を追う!
詳細情報
番組内容
大学で犯罪心理学を教えている神津恭介(片岡愛之助)。神津は自身のゼミ室で、かねてからの知り合いで推理小説家の松下研三(藤井隆)から、次回作のプロットを相談されていた。その小説のモデルとなっているのは、財界の重鎮である森島信太郎(大村波彦)。そんな森島が、自宅の応接室で3億円のダイヤの商談中に殺害された。「アンドロメダの奇跡」と呼ばれる3億円のダイヤを欲しがっている女性と宝石店の外商、
番組内容2
久原諒一(伊藤正之)を仲介するため、箱根にある邸宅の応接室に呼びつけていたという。そこへ突如訪ねてきた“黒ずくめの女”。森島は、この“黒ずくめの女”と2人きりで値段の交渉をしたいと久原に話を持ちかけ、久原から渋々承諾を貰い応接室で商談を進めていた。しかし、しばらくたっても応接室から出てこない2人。妻の世津子(小松みゆき)と森島興業の専務、浜田和重(大高洋夫)が部屋に入ると、森島は殺害されていた。
番組内容3
殺害現場は、何の抜け穴も隠れ場所もない密室・・・。しかし、忽然(こつぜん)と姿を消してしまった“黒ずくめの女”と3億円のダイヤ。
さらに、殺人はこれだけにとどまらず、第2、第3の殺人へと連鎖していく・・・。この連続殺人事件には、何か奥深い因縁があるのだろうか!?名探偵・神津恭介によって次々と暴かれていく新事実・・・。
出演者
片岡愛之助
水野真紀
藤井隆
宇梶剛士
里見浩太朗
ほか
スタッフ
【原作】
高木彬光『神津恭介、密室に挑む』所収『影なき女』(光文社文庫)
【脚本】
土屋保文
【編成企画】
羽鳥健一
【プロデュース】
佐々木淳一(松竹)
足立弘平(松竹)
西麻美(松竹)
【監督】
本田隆一
【制作】
フジテレビ
【制作著作】
松竹株式会社
ジャンル :
ドラマ – 国内ドラマ
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
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