ヒーローたちの名勝負(最終回)「ミュンヘンの奇跡 男子バレー・金メダル」 2014.03.29

1972年ミュンヘンオリンピック。
今日の名勝負はミュンヘンの奇跡と呼ばれた一戦。
金メダル候補の日本。
ところが立て続けに2セットを失う予想もしなかった展開。
(実況)これは大きすぎました。
アウト。
これはえらい事になりました。
日本にとっては思わぬ苦戦であります。
(池田)ああこれで終わったかな。
もうホントに…追い詰められた日本。
(実況)南が入ります。
東京オリンピック経験を持ちます南。
一人の選手の投入で奇跡のドラマが始まる。
(実況)そしてもう一度南!南活躍します。
大事なところで土壇場でベテラン31歳がそのベテランの味を遺憾なく発揮しております。
あれが神がかりっていうんですよ。
ホントにもう南様々ですよね。
誰もが目をみはったプレーの影には壮絶な日々があった。
その姿を見て育った若いトリオがオリンピックの逆境でふんばる。
日本は息を吹き返した。
(実況)アウト!ブロックアウト!大古!猫田上げます。
速い攻撃森田。
見事に決めましたクイック。
絶体絶命のピンチからまさかの大逆転。
(実況)日本選手が抱き合って喜んでおります。
フルセット3時間15分にも及ぶ激闘だった。
球技では今に至るまで日本の男子唯一の金メダル。
その道を切り開いたオリンピック史上屈指の名勝負に迫る。
昭和40年代世界に誇る経済大国に成長した日本。
その躍進を象徴するスポーツがあった。
彼らは来た。
全国至る所から彼らは集まってきた。
この男たちこそ松平康隆監督のもとに集まった全日本男子バレーボールチームである
東京オリンピックで銅メダルに終わった日本の男子。
金メダルには全く新しいチーム作りが必要と考えた松平。
当時の思いを生前語っていた。
東京オリンピックで銅メダルは取ったけれども銅メダルを取ったこの土台のないチームを今度は2階建てにしなきゃいけないでしょ。
あるいは3階建てにしないと金メダルにならない訳ね。
世界にない戦術を編み出すためチームの中心に据えたのが…23歳で東京オリンピックのエースアタッカーを務めた。
196cmの長身ながら連係プレーも器用にこなしクイックの名手だった。
南のクイックを土台に日本は得意のスピードを生かしたプレーを次々と開発。
今も世界のバレーの基本となる技が生み出されていった。
しかしそのやさき南は肺結核で入院。
1年間を棒に振った。
その間攻撃陣の主力になったのが後にビッグ3と呼ばれる南より6歳年下の3人。
若い選手たちに松平が課したのはレシーブ練習だ。
体格で劣る日本はアタッカーも高い守備力を持たないと金メダルは取れない。
これまで誰もやらなかった宙を跳ぶレシーブ…練習時間の8割をこの特訓にあてた。
1本2本はいいけどもそれを何回も何回もだと支える力が弱くなって胸でド〜ンといく訳ですよ。
そうすると顎を床に打って切れちゃう訳ですよね。
「切れました」って言うと「じゃあ下へ行って縫ってこい」。
進化したチームに南が復帰した。
しかしアタッカーとしての役割にこだわった。
「レシーブは俺の仕事じゃない」。
松平はコーチの池田に命じた。
「南のプライドを打ち砕け」。
「とにかく南を一人前にしないとお前はコーチの資格はない」っていう事でまず最初言われたんですよ。
それで1対1でマンツーマンでずっとやってたんですね。
池田による南のレシーブ特訓が始まった。
温厚な池田がこの時ばかりは鬼と呼ばれた。
磨かれた床の上での練習。
しかし南のサポーターはすぐに擦り切れ包帯は血で染まった。
それを見てるとかわいそうなんですよ。
それでもやっぱり選手も私も監督も世界一になりたいって思うでしょ。
だからねもう泣きながら打ってました。
打ってたら南さんが急に大きな声で号泣しだした。
その日終わったら南さんいないんですよ。
どっか行っちゃったんです。
帰っちゃったんです。
盛んにコーチの池田さんがなだめに入ったんですけどね…南は合宿所を飛び出した。
自宅の妻には電話をしていた。
何かあったんかなとは思いましたけれどね。
翌朝南はコートに戻っていた。
あの夜何があったのか。
亡くなるまで人に語る事はなかった。
しかしチームの後輩たちは口をそろえて言う。
「あの日から南さんは変わった」。
27歳になった南は若い選手と共に日本の攻撃陣を担った。
しかし体格に勝る世界の壁は高かった。
東京オリンピックより順位を1つ上げたが初出場の若手にとって悔しい色のメダルとなった。
金メダル逃した時の晩はもう泣けましたよね。
みんな金メダルをねらっていって取れなかった銀ですからね。
次こそは金メダル。
松平は命じた。
高さとパワーを打ち破る新しい技を開発せよ。
これからミュンヘンで金メダルを取るためには…それは森田がクイックの練習をしている時の事だった。
セッターのミスで高く上がってしまったトス。
タイミングをずらしてなんとかスパイク。
意外にもブロックをかわす結果となった。
偶然から生まれた一人時間差攻撃。
日本の大きな武器となった。
若手の成長で南の出番は減った。
セッター役を命じられる事が増えた。
それでも与えられた役割を黙々とこなした。
やっぱり諦めた時もあると思いますよ。
若い25歳ぐらいの人たちについてて。
でもやっぱりそこでみんなと同じようにできたというのはバレーが好きで絶対金を目指したいっていうそのメダルの夢があったと思います。
日本は金メダルの有力候補として乗り込んだ。
ビッグ3と呼ばれるようになった若手トリオが大活躍。
予選リーグの5試合は全て3対0のストレート勝ち。
しかし31歳になった南に回ってきた出場機会は1セットだけだった。
迎えた9月8日運命の一戦。
準決勝の相手は格下のブルガリア。
(解説)まかり間違ってもブルガリアに負けるという事は絶対ございません。
当時のルールはサーブを打ったチームにしか得点が入らない。
ところが日本はいとも簡単にサーブ権を奪われる。
(実況)見るからに重そうなズラタノフのスパイクであります。
世界のベストメンバーにも選ばれたブルガリアのエース。
ズラタノフを中心とした攻撃力になすすべがない。
(実況)また中央から。
一方相手のサーブ。
レシーブが乱れセッターがいいトスを上げられない。
(実況)これは大きすぎました横田。
日本が開発した攻撃パターンは徹底的に研究されていた。
(実況)あっと一人時間差森田。
ズラタノフこれは決まりました。
相手のブロック。
森田の時間差は完全に読まれていた。
苦し紛れのスパイクは相手のチャンスボールに。
こんなはずじゃなかったってなりましたねやっぱりね。
どうしちゃったんだろう。
第1セットを落とした日本。
(実況)ブルガリアついに第2セットもセットポイントを握りました。
日本大苦戦。
(実況)大きい!これは大きすぎました。
アウト。
ブルガリアポイント。
15対9。
第2セットもブルガリアが取りました。
これはえらい事になりました。
日本にとっては思わぬ苦戦であります。
もうホントに震えがきましたね。
「ああこれで終わったかな」と思いましたね。
帰った時に友達に何て言おうか協会の人に何て言おうかってそういう事まで考えてましたよ。
負けた口実を。
しかし松平監督は選手たちにこう告げた。
第3セットここで大きな賭けに出た。
(実況)メンバーチェンジであります。
南が入ります。
東京オリンピック経験を持ちます南。
両手に唾いたしまして登場いたしましたベテラン。
南に与えられた役割。
それは相手のサーブを正確にセッターに返す事。
そのレシーブ。
勢いを殺したボールはピタリとセッターの手元へ。
更に南は期待以上のプレーを見せる。
フライングレシーブ。
プライドをかなぐり捨て金メダルのため身につけたあの技だ。
南は攻撃でも巧みなプレー。
なかなか打ち抜けない相手の2枚ブロック。
(実況)今度は日本どういう攻撃か?南にクイックのタイミングでトスが上がる。
(実況)クイックか?南。
フェイント。
南のフェイントが決まりました。
ベテラン南うまい攻撃を見せました。
相手の守備陣形を見極めた冷静なプレーだった。
やっと俺の出番が来たって…。
神様が与えてくれた出番ですけどね。
そんなものは筋書きはないんですから分かりませんからね。
だけど南にとってはやっと出番が来たってこういう感じだったんでしょうね。
勝ってる試合には要らない選手。
4年前にメキシコの銀メダルのあとは言い続けてありますから本人もその気で練習してますから。
大ピンチでしか回ってこない出番。
この時のためひそかに練習してきたプレーがここで飛び出す。
(実況)これもチャンスボール。
日本今度はどういう攻撃か?南上げます。
移動攻撃だ!嶋岡!セッターの嶋岡が位置を変えて南がセッターに入りました。
チャンスボールが入った瞬間セッターの位置に南が上がる。
代わって外に開いたセッターが時間差攻撃。
セッターとアタッカーが瞬時に入れ代わる奇想天外なプレー。
「必ずお前の力を必要とする時が来る」。
監督の言葉を信じ黒子に徹してきた男が大舞台でチームを救う。
(実況)ベテラン南健闘しております。
ためてきた思い。
南が躍動する。
(実況)そしてもう一度南!南活躍します。
大事なところで土壇場でベテランの味を遺憾なく発揮しております。
やっぱり南さんですよね。
ホントにもう南様々ですよね。
(実況)セットポイント日本。
今日は南のサーブが効果的。
トスがちょっと乱れました。
ズラタノフこれはアウト!日本ついに第3セット初めてセットを取りました。
15対9!南がねああいう活躍するなんて思わなかったんですよ。
ああいう土壇場で崖っぷちに立たされたところでねやっぱりああいう力が発揮できるっていうのはね。
あれが神がかりっていうんですよ。
第4セット。
日本の若きエースたちが勢いを取り戻す。
(実況)ファインプレー横田。
そして大古。
見事鮮やかに決まりましたポイント。
南上げる猫田打つ横田!ブロックはアウト!横田がすっかり調子を出してきましたね。
ブロックが決まって日本セットポイント。
(ホイッスル)
(実況)これはホイッスルはネットタッチがあったようです。
日本ポイント15対9。
第4セットを取りました。
3時半に始まった試合は午後6時振り出しに戻った。
(実況)誠に際どいところで日本踏みこたえております。
第3第4セット日本土壇場ぎりぎりのところで踏みこたえております。
松平監督が勝利を予言した第5セット。
ブルガリアが手を打ってきた。
ズラタノフを南のマークにあてたのだ。
(実況)サーバーは26歳ガブリロフであります。
(実況)南ブロック!南がブロックに遭いました。
南がつかまった。
(実況)南を狙いました。
日本のリズムが狂い始め連続失点。
(実況)今度はクイックか?いや移動攻撃森田ブロック!9対3ついに6点差がつきました。
あんなまだ試合が終わっていないのにうれしそうに握手したりね。
もう本当に腹立ってね。
窮地に立たされた日本。
頼ったのは…。
南のAクイック。
ボールが上がりきる前にたたく独特の打ち方。
南の高速クイックを警戒して相手の意識は中央に引き付けられる。
(解説)チャンスですね!
(実況)ええ。
さあ大古です。
ブロックはアウト!日本ポイント。
横田!これは決まりました。
そして相手がサイドを警戒すれば…。
(実況)今度はクイック!森田がセンターから。
多彩な攻撃パターンが復活した日本。
喜びに沸く日本コート。
しかし南は冷静だった。
「気を緩めるな。
次の1点が勝負の分かれ目だ」。
(実況)横田のサーブが続きます。
ここで南がセッターに叫ぶ。
指した先には大古。
自分が頑張らなきゃいかんっていう。
(実況)日本は得点のチャンスで大古!アウト!ブロックアウト!日本ポイント12対11ついに逆転。
追いすがるブルガリア。
(実況)ズラタノフ。
もう一度集めるか?もう一遍ズラタノフ。
ブロック!ブロックポイント。
大古と南はこの試合初めて相手のエースを完璧にブロック。
勢いは止まらない。
(実況)そして中央から南フェイント。
決まった!決まりました!南のフェイント決まりました。
14対12ついに日本マッチポイントを握りました。
松平の予言からまさに2時間後。
(実況)猫田の素早いサーブ!ズラタノフ!もう一度ズラタノフ!拾った嶋岡打った!最後嶋岡が打ちました。
嶋岡倒れながら床をたたいて喜んでおります。
3時間15分の大逆転劇だった。
日本は奇跡の勝利を手にした。
もう泣けてきましたね。
もうぼろぼろ泣きましたね。
南が言いましたよ。
「私がね準決勝前までに私を使われてるようだったらこのチームは負けてます。
だから準決勝ぐらいには私が出番が必ず来るんだ。
準決勝決勝っていうのは必ず来るはずだ。
だから私はそれで調整をずっとしてました」。
そう言いましたよね。
翌日の決勝戦。
南のプレーはこの日もさえた。
(実況)クイックかクイック南。
若手もその力を世界に見せつけた。
(実況)一人時間差森田。
優勝へのあと1点となりました。
場内がざわついてまいりました。
シューマンこれはアウト!この瞬間に日本待望久しかった待ちに待った優勝であります。
金メダルであります。
ついに世界の頂点に立った。
(アナウンス)ゴールドメダルヤーパン。
(拍手と歓声)東京オリンピックから8年。
(実況)オリンピック3回目にして見事に金メダルを胸にした南。
念願のメダルを手にした表彰式。
若手トリオは南の隣に並んだ。
8年間このためにやってきたんですからね。
本当にうれしいですわ。
選手を信じ監督を信じ戦ったチーム。
その思いは実を結んだ。
(千鶴子)ミュンヘンのあれから40…41年ね。
南は2000年3つのメダルを残してこの世を去った。
(千鶴子)銅銀金って順々に上がっていく。
私にも夢を与えてくれて。
東京オリンピックの銅メダルに始まりただひたすら上を目指し夢をかなえた日本。
ミュンヘンの奇跡を物語る金メダルは今もその輝きを失っていない。
2014/03/29(土) 22:20〜22:50
NHK総合1・神戸
ヒーローたちの名勝負[終]「ミュンヘンの奇跡 男子バレー・金メダル」[字]

五輪史上に残る劇的な大逆転で金メダルの道を開いた全日本男子。絶体絶命のピンチを救ったのはエースの座を奪われた控え選手だった。日本中が感動に包まれた試合の秘話。

詳細情報
番組内容
ミュンヘン五輪・男子バレーボール準決勝のブルガリア戦。ストレート負け直前まで追い詰められた日本を救ったのは、若手の成長でエースの座を奪われた選手だった。監督の言葉を信じ、控えの役割を黙々と果たしてきたその男の投入で、日本のコンビバレーは鮮やかに復調。大逆転勝利で金メダルへの道を開いた。後に「ミュンヘンの奇跡」と呼ばれた五輪史上屈指の名勝負を、当時の選手やコーチが証言。壮絶な練習が生んだ感動秘話。
出演者
【語り】鈴木省吾

ジャンル :
スポーツ – スポーツニュース
ドキュメンタリー/教養 – スポーツ
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