白熱教室海外版アンコール MIT白熱教室(8)「星はどう生まれどう死ぬのか」 2014.03.28

僕たちが通うアメリカマサチューセッツ工科大学。
通称MIT。
世界最高峰の理系の大学として知られこれまでデジタル暗号や遺伝子工学など新しいテクノロジーを次々に世に送り出してきました。
科学を学ぶ最先端の環境に身を置き僕たちは日夜世界を変えるイノベーションに挑んでいます。
このMITで46年にわたって物理学の基礎を教えるのが…この講義を受け世界の見方が変わったと学生たちは言います。
この世界を支配する物理の美しさを知るのです。
難しい法則や公式もルーウィン教授の手にかかれば奇想天外抱腹絶倒のエンターテインメントに生まれ変わります。
ルーウィン教授は今回番組のために全8回の特別講義を新たに用意しました。
MITの学生だけでなく地元の市民にも開放し初心者にも分かりやすく物理学の魅力を伝えます。
この講義で物理を学べば世界がこれまでと全く違って見えてくるはずだ。
それは人生をより豊かなものにしてくれるだろう。
これまでは疑問にも思わなかった事を君たちは物理学の問題として考えるようになる。
シリーズ最終回のテーマは…その運命を決めるのは何か。
そしてブラックホールの正体とは。
はるかかなたの宇宙の現象を…天体物理学者として研究の最先端にいたルーウィン教授が星の神秘を解き明かします。
(拍手)星はどうやって生まれてどう死ぬのか。
実は星の誕生についてはまだ分かっていない事が多い。
星の一生についてはむしろ終わり方の方がよく知られている。
星が死ぬ時それは「白色矮星」になるか「中性子星」になるかあるいは「ブラックホール」になる。
今日は星がどのような運命をたどりそれがどうやって発見されたかについて話そう。
星は分子雲と呼ばれるものの中で生まれる事が分かっている。
分子雲は太陽の何百万倍もの質量を持ち自己重力を持っている。
だから雲を構成する主に水素分子は重力の中心に向かって落ちていく。
その時水素分子の重力による位置エネルギーは運動エネルギーに変換され更に熱エネルギーに変わる。
例えばこういう事だ。
今私はカバンの重力による位置エネルギーを運動エネルギーに変えた。
そして運動エネルギーは床に衝突した時に熱エネルギーとして放出された。
こうして自己重力を持った分子雲の温度は何千万度にもなる事がある。
温度がそこまで高くなると分子雲の中で「核融合」が始まる。
それが星を生み出す源になる。
この核融合では水素原子核同士が融合する。
そして核融合の結果水素がヘリウムになりエネルギーが放出される。
次にヘリウムもヘリウム同士が融合する。
すると炭素になりまたエネルギーを放出する。
炭素も炭素同士で融合しそれを「炭素核融合」と呼ぶ。
その場合もエネルギーが放出される。
つまり星のエネルギーの源は核融合だ。
ではまず最初のスライドを見せよう。
これが分子雲だ。
この美しい写真はハッブル宇宙望遠鏡で撮影されたものだ。
これは地球から6,000光年も離れている。
1光年は想像を絶するほどの距離だ。
光が1年かけて移動する距離だ。
数字があまりにも大きすぎて意味がない。
例えば飛行機に乗って宇宙を飛ぶ事ができたら1光年の距離を飛ぶのに100万年かかる。
そういうスケールの距離だ。
この遠く離れた分子雲の中で新しい星が誕生している。
星というものは質量が小さいほど寿命が長い。
これは君たちの直感に反するかもしれない。
質量が大きいほど核融合をたくさんできるので寿命は延びるはずだと思うかもしれない。
しかしそれは間違いだ。
その理由はこうだ。
大きな質量を持つ星は質量の小さな星よりも核燃料の消費が多くすぐに使い切って死んでしまうのだ。
私たちの太陽の寿命はおよそ100億年といわれている。
太陽は既に50億歳だから残りはあと50億年だ。
ところが太陽の質量の60倍の星の場合は寿命はたった300万年だ。
「何百億年」と「何百万年」では大違いだ。
星の大きさというものはとても絶妙なバランスで決まっている。
これは星だ。
すると星の重力が常に星を小さくしようと引っ張る。
重力は星を中心に向かって崩壊させようとするのだ。
しかし星の内部の核融合が熱エネルギーを生み外側に向かう圧力を生みだす。
だから星の大きさはこの2つの力のバランスで決まる。
あとで詳しく話すが…だからとても繊細なバランスの上に成り立っている。
これはとても重要な事だ。
さてまずは「白色矮星」について話そう。
これからする話は質量が太陽の8倍以下の星にかぎった話だ。
まず水素同士が核融合してヘリウムになる。
水素が使い果たされると核融合は下火になって止まりやがて星は縮む。
星が縮むと位置エネルギーが運動エネルギーそして熱エネルギーに変換され星は熱くなる。
するとヘリウムが反応を始める。
ヘリウムは炭素になる。
ヘリウムが使い果たされるとまた核融合がやみ星は縮む。
するとまた温度が上がり次は炭素が反応を始める。
これが太陽の8倍以下の星がたどる道だ。
この一連の水素からヘリウムそして炭素への反応の過程で星は輝きを増し明るくなる。
つまりより多くのエネルギーを放出するようになる。
そして星は大きくなる。
この赤い矢印の力が優勢になり星は巨大化し「巨星」と呼ばれるようになる。
私たちの太陽も50億年後には巨星になる。
現在の50倍の大きさにまで成長し火星も金星ももちろん地球も滅亡する。
星が核融合の燃料を使い果たすと重力が優勢になる。
そして星は崩壊に向かう。
その際に星は極めて大きく上層部のガスは結び付きが弱いので周りの宇宙空間に広がってしまう。
すると「コア」と呼ばれる星の核となる部分だけが残される。
その残されたものが白色矮星だ。
典型的な白色矮星の質量は太陽のおよそ半分かもう少し大きいかだ。
半径はおよそ1万キロメートル。
地球と同じくらいの大きさだ。
有名な数学者ベッセルは夜空で一番明るく輝く星シリウスは「連星」であると予測した。
それは半世紀かけて2つの間の重心を1周しまだ見つかっていない方の星は太陽と同じぐらいの質量を持つと考えた。
つまりシリウスとして知られる明るい星の隣には見えないもう一つの星があるはずだという事だ。
ベッセルの言葉だ。
これは驚くべき発想の転換だ。
彼は「見えない天文学」を始めたのだ。
通常人々は見えないものを信じない。
しかし彼はその考え方を変えたのだ。
有名な望遠鏡設計者の息子アルヴァン・クラークは1862年ここボストン近郊に住んでいた。
彼はシリウスがちょうどボストンの町並みの上に昇った時に父親の最新の望遠鏡をのぞいた。
すると何が見えただろうか?もちろんシリウスだ。
そしてシリウスの隣にとてもかすかなシリウスの1万分の1程度の明るさの星も発見した。
それこそベッセルが予言した「見えない星」である事に彼は気付いたのだった。
さて君たちが方程式を嫌いなのは知っている。
しかし今日は2つだけ我慢してほしい。
(笑い)まず「L」は星の明るさだ。
1秒間に放出されるエネルギー量だ。
単位は「ジュール毎秒」。
天文学ではこれを「光度」と呼ぶ。
光度は星の表面積に比例する事が理解できるだろう。
星の表面積が大きいほどより多くのエネルギーを出す事ができる。
だから公式には4πrが必要な事が分かるだろう。
これは球の表面積の求め方だ。
確か幼稚園あたりで習った。
(笑い)定数σについてはあまり考えないでよい。
知りたければどの物理学の本にも載っている。
しかし幼稚園では決して習わない直感的に理解しにくい事が一つある。
それは光度が温度の4乗に比例するという事だ。
シリウスBの明るさはシリウスAの10000分の1だ。
この時温度はシリウスAもシリウスBも同じだと仮定して考えてみよう。
するとシリウスBがAの10000分の1の明るさという事はその半径は100分の1の大きさになる。
100の2乗は10,000だからだ。
しかし半径が100分の1になると体積は100万分の1に小さくなる。
球の体積を計算で求めればそうなる。
すると…これは全くばかげた数字だ。
だからこの考えはすぐに却下された。
なぜならこの数字は水よりも100万倍密度が高い事を意味するからだ。
すると半径が100万分の1という事はありえないので温度がシリウスBはシリウスAの10分の1なのかもしれないと学者は考えた。
そうすれば計算が合う。
だからシリウスBは冷たく明るさが10000分の1の星だと考えられるようになった。
ところが1915年にウォルター・アダムズがシリウスBの温度を測定したところそれは8,000度だった。
これは恒星の通常の温度の範囲内だ。
冷たい星ではない。
私たちの太陽は6,000度だ。
だからシリウスBが冷たいなどとは言えない。
となるとやはりシリウスBの半径はシリウスAの100分の1でなければならないとされた。
だからシリウスBの密度は本当に水よりも100万倍高いのだと結論づけられた。
この星の成分は1リットルで100万キログラムという事になる。
このシリウスBが人類が発見した最初の白色矮星だ。
ではスライドを見てみよう。
どちらがシリウスAでどちらがBか説明する必要はないだろう。
太陽の8倍以下の星が寿命を迎えると白色矮星になります。
それ以上の質量を持つ星の場合白色矮星は中性子星へと更に変化します。
星の一生はどのように終わるのか。
続いては中性子星の話です。
では次は「中性子星」について話そう。
1930年チャンドラセカールは白色矮星の質量は最大でも太陽の1.4倍にしかなれない事を計算で求めた。
質量がそれ以上になると白色矮星は不安定になり崩壊してしまう。
するとどうなるかまでは彼には分からなかったものの崩壊するしかない事は証明できた。
1932年にチャドウィックによって「中性子」が発見された。
彼はそれでノーベル賞を受賞した。
そして2年後の1934年には二人の天文学者ツビッキーとバーデが驚くべき仮説を発表をした。
それは「中性子星」が存在するというものだった。
純粋に中性子でできた星が超新星爆発で生まれるという仮説だった。
超新星爆発が何かはあと5分以内に君たちにも説明しよう。
これからするのは…まず水素が核融合してヘリウムになる。
水素が全てなくなると星は縮みヘリウムが核融合する。
ヘリウムがなくなるとまた星は縮み次は炭素が核融合する。
そして炭素を使い切ると次は酸素だ。
そしてネオン。
最後にはケイ素が核融合する。
すると…なぜなら鉄が融合する時はエネルギーを放出するのではなく吸収するからだ。
これで星の核融合反応は終了する。
それぞれの元素の反応のあと星は収縮する。
そして次の反応では以前よりも高い温度で反応を起こすがその期間は短くなる。
水素の反応は星の質量にもよるが典型的には数十億年も続く。
星の中心部では温度はおよそ3,500万度になる。
最後の反応ではケイ素が鉄に変わるがそれは数日しか続かない。
そしてその時の内部の温度は30億度だ。
鉄の核の質量が太陽の質量の1.4倍以上になると白色矮星の質量の最大限界を超え中心核が崩壊してしまう。
そして白色矮星の核が中性子星になる。
星の電子が原子核内の陽子に取り込まれ中性子になる。
そしておおむねほとんどが中性子でできた星が誕生する。
白色矮星の崩壊はおよそ1000分の1秒の間に起こる。
その間に温度はおよそ1,000億度まで上がる。
これは位置エネルギーから運動エネルギーそして熱エネルギーへの変換が行われた結果だ。
白色矮星はこんなに大きいが中性子星はこんなに小さい。
だから位置エネルギーが減り運動エネルギーと熱が増える。
この時のエネルギーの放出はとてつもなく大きい。
太陽が100億年の寿命を費やして放出するエネルギーの100倍ものエネルギーをわずか1秒以内に放出する計算だ。
この非常に大きなエネルギーの放出は巨大な爆発となりそれが…後の時代オッペンハイマーは中性子星の半径がおよそ10キロメートル程度である事を突き止めた。
たった10キロメートルだ。
白色矮星の1000分の1の大きさだ。
すると体積は10億分の1の大きさになる。
という事は中性子星の密度は白色矮星の10億倍だ。
1立方センチメートル当たり10の15乗グラムだ。
もはや想像のレベルを超えている。
1967年イギリスのケンブリッジ大学の大学院生ジョスリン・ベルは指導教官のアントニー・ヒューイッシュが設計した電波望遠鏡からのデータを分析していた。
彼女はデータを記録しある日空のある方向からパルス状の電波放射がやって来るのを発見した。
そのパルスは1.33秒の間隔だった。
研究チームは興奮に包まれた。
自分たちが歴史上最も重大な発見をしたと考えたからだ。
何らかの知的生命体が地球と交信を求めていると思ったのだ。
そこでこのパルスを「小さな緑の人」と呼んだ。
1か月後ジョスリンは2つ目を発見した。
それぞれ小さな緑の人12と名付けた。
しかし間もなく3つ目が発見されると彼らは勘違いに気付きもう「小さな緑の人」と呼ぶのはやめにした。
1968年にそのデータを発表すると「それは回転する中性子星に違いない」と指摘したのがガルト教授だった。
1.33秒は中性子星が1周自転するのにかかる時間だと主張した。
なぜ中性子星はそんなに速く回転するのだろうか?それは古典物理学の有名な法則「角運動量保存の法則」の結果だ。
この名前に聞き覚えはないかもしれないがフィギュアスケートで回転する時腕をこのように広げたらゆっくり回り腕を引き寄せると速く回るのは知っているだろう。
腕を伸ばすとゆっくりになる。
これが角運動量保存の法則だ。
星の場合でも同じ事が起きている。
白色矮星は大きく一定の速さで回転している。
実際天体は全て回転している。
白色矮星が突然半径10キロメートルの中性子星になった場合大きさは元の1000分の1だ。
すると角運動量保存の法則により回転速度は元の100万倍以上になる。
つまり中性子星は白色矮星よりも毎秒100万回転以上の速さで回る。
だから1.3秒という数字は実は驚くようなものではない。
パルス状に電波放射する星を「パルサー」と呼ぶ。
その詳しい性質を知る事はとても難しくまだ完全には分かっていない。
しかし中性子星が強力な磁場を持ちこれが磁北極これが磁南極だとするとこの磁北極から電波ビームが放射されているのは確かだ。
なぜそのような事が起きるかは解明の途中だが更に磁南極からも電波放射されるのも分かっている。
そして中性子星は自転している。
このように回転している。
磁極からは電波ビームを出す。
さあ回転してみよう。
今電波ビームが届いたはずだ。
次は君たちだ。
そして次次。
さあ今は何も見えない。
誰にも電波ビームは届かない。
星は回転を続ける。
君に電波ビームが届き君にも届く。
この仕組みが分かれば中性子星の自転によってパルス状に電波が観測できるのが分かるだろう。
電波ビームが地球に届いた場合にのみ観測できる。
だから私たちが観測できるよりもはるかに多くの中性子星が存在している。
これが回転の軸だ。
そしてこれは磁極の軸だ。
今説明した電波ビームがこれだ。
片方の極とその反対の極だ。
灯台に例えると分かりやすいだろうか。
光で照らす代わりに電波ビームを放射しているのだ。
1974年ジョスリンの指導教官のアントニー・ヒューイッシュはパルサーの発見によってノーベル賞を受賞した。
しかしジョスリン本人は共同受賞者として認められなかった。
これは実にひどい話だ。
ノーベル賞の選考委員はなぜそんな結論を下したのか?真相は分からない。
彼女がまだ大学院生だったのがいけなかったのか?彼女が女性だからか?あるいはその両方だったのがよくなかったのか?真相が明かされる事はないだろうがこれはいわば天文学的な大きさの誤りだったと私は思う。
実は私はジョスリンを個人的に知っている。
この件について彼女は自分がノーベル賞を受賞しなかった事を不当には思っていない。
しかし世界中の天文学者はそうは思っていない事を付け足しておこう。
では話を中性子星に戻そう。
それは何か?中性子星は本当に超新星爆発の結果で生まれるものなのか?イギリスの研究グループがデータを1968年に発表した。
そしてここMITの教授デイブ・シュテーリンは電波望遠鏡でとても有名な超新星爆発の残骸を観測した。
超新星爆発の名残で「超新星残骸」と呼ばれるものだ。
この爆発は1054年に起きたものだ。
中国には当時の天文学者たちの記録が残されている。
超新星爆発は昼間ですら数週間にわたって見えるほどだった。
何か月もそれは夜空で一番明るい星だった。
なのにヨーロッパでこの事を記録した人は誰もいない。
さて私の母国オランダで記録がないのは理解できる。
あそこはいつも雨だ。
星なんか見えない。
だからオランダ人には落ち度はない。
(笑い)しかしスペインやイタリアやギリシャはどうだ。
昼間でも数週間にわたって見えるくらいの明るい星をなぜ誰も書き残さなかったのか。
全くの謎だ。
さてシュテーリン教授はかに星雲の中に確かにパルサーを発見した。
そしてしばらくしてこのパルサーの周期が0.033秒である事も分かった。
だからジョスリンが見つけたものよりもはるかに回転速度が速い。
毎秒30回も回転する。
これで議論に決着がついた。
ツビッキーとバーデは正しかった。
確かに中性子星は超新星爆発の中で形成されるようだ。
ではこれから「かに星雲」を見せよう。
最も有名な超新星爆発の残骸だ。
さあこれだ。
地球から6,000光年のかなたにある。
端から端はおよそ11光年だ。
この真ん中辺りに星が2つ見えるだろうか。
この南側の方が中性子星だ。
さあこの星を見ながら想像してほしい。
半径およそ10キロメートル小さじ1杯が50億トンの重さ。
それが毎秒30回の速さで回転している。
これを驚異的だと思わないようなら君には何を教えても無駄だ。
だからもう帰っていい。
(笑い)これは銀河だ。
銀河の中に超新星爆発が見える。
どこかは一目で分かるね。
光の量つまり明るさはおおまかにいえば銀河全体が発する明るさに匹敵する。
銀河全体にはおよそ2,000億個の星がある。
だからこの星は2,000億個の星と同じだけのエネルギーを毎秒放出しているという事だ。
本当に驚くべき事だ。
高速で回転し小さじ1杯が50億トンの重さという驚くべき性質を持った中性子星。
寿命を迎えた元の星が太陽の25倍より大きい場合中性子星は更に姿を変えます。
ブラックホールです。
では次はブラックホールの話だ。
これから話すのは…途中の経過はこれまでの場合と同じだ。
星のコアが鉄になるまで核融合が続く。
重力で星のコアが崩壊し超新星爆発が起こる。
そして中性子星ができる。
しかし理論上中性子星は太陽の質量のおよそ3倍までしか重くなる事ができない。
その質量を超えると中性子星は崩壊しその終着がブラックホールだ。
ブラックホールには表面がなく体積はゼロだ。
それは「特異点」と呼ばれる点だ。
この点の密度は無限大だ。
そして「特異点」の問題を扱える物理学はまだ存在しない。
量子重力についてはちゃんとした理論すらない。
だからここで話はおしまい…とはいかない。
私はブラックホールについてもっと説明をしてみたい。
さあこれが特異点だ。
これについては手も足も出ない。
とにかく質量の全てがこの点にある。
この特異点の周りにはある空間的境界がある。
その形は球で「事象の地平面」と名付けられている。
事象の地平面を越えた外側にいれば君たちは地球に戻る事ができる。
とんでもないスピードが必要だが理論上は脱出できる。
しかしこの内側にいる場合地球に戻る事は決してできない。
それには光速を超える速さが必要だからだ。
つまり光ですらこの内側から外に出る事はできない。
この事象の地平面の半径を教えよう。
それは次の方程式で表せる。
「M」は特異点の質量だ。
「G」は万有引力定数で知りたければ教科書に書いてある。
そして「C」は光の速さだ。
この方程式はそのままではさっぱり意味が分からないだろうがここに例えば太陽の質量をこのMに代入すれば事象の地平面の半径は大体3キロメートルという事になる。
この方程式で半径はMに比例する。
例えば太陽の100万倍の質量のブラックホールは300万キロメートルの半径の事象の地平面を持つ事になる。
私たちの銀河の中心には太陽の質量の400万倍の質量を持つブラックホールがあるのが知られている。
その事象の地平面の半径は3掛ける400万で1,200万キロメートルだ。
また宇宙には太陽の10億倍の質量を持つブラックホールがあると考えられている。
すると事象の地平面は30億キロメートルの半径になる。
全てのものを吸収するブラックホールを電波や光を使って観測する事はできません。
ではどうやってブラックホールを見つけるのか。
その一つの方法が「連星」に注目する事です。
1970年代初めに「X線連星」が発見された。
まずスライドをお見せしよう。
こちらの星はまだ元気に生きている。
核燃料を燃やしている。
私たちの太陽のような星だがもっと重いかもしれない。
いずれにせよ核融合を続けている星だ。
その近くにはもう一つの星がある。
こちらは既に死んでいる。
この星はとても小さい「コンパクト天体」と呼ばれる星だ。
その正体は白色矮星か中性子星かブラックホールの可能性もある。
この連星の2つの星の距離が近い時には珍しい事が起こる場合がある。
隣の星の物質がこちらのコンパクト天体に流れていくのだ。
これは連星だからこのように回っている。
すると物質はまっすぐに落ちる事はできずらせん状に落ちていく。
だから円盤のようなものができる。
物質を提供する側の星は「ドナー星」と呼ぶ。
受ける側の星は「降着星」だ。
そしてこの円盤を「降着円盤」と呼ぶ。
さてこのコンパクト天体が中性子星だと仮定しよう。
そして物質がこの中性子星の表面に落ちる時それは光の半分の速さに達する。
どんな物質でもかまわない。
質量に関係なく光の半分の速さになる。
すると例えばマシュマロをここに投げ込んだ時どうなるだろうか?笑っているのは答えを知っている人たちだね。
もし私がマシュマロを手にして数百キロメートル離れた所から中性子星に向かって投げるとそのマシュマロは広島型の原子爆弾に匹敵するエネルギーを放出する事になる。
物質が落ちる時中性子星の表面の温度は非常に高くなる。
およそ数億度だ。
そうした極めて高い温度ではエネルギーのほとんど全てをX線という形で放射する。
だから「X線連星」と呼ぶ。
ドナー星は可視光線を出すが中性子星はX線を出す。
そしてドナー星のスペクトルを調べれば連続した色が見えるはずだ。
ところがそこに「吸収線」と呼ぶものも見える。
特定の色言いかえれば特定のエネルギーが欠けている部分があるのだ。
詳しく説明するのはやめておこう。
とにかくそうなるのだ。
「吸収線」と呼ぶものが現れる。
星が回転する時それは地球に近づいたり地球から遠ざかったりする。
すると「ドップラー効果」と呼ばれる現象が起こる。
星が近づいてくる時にはドップラー効果によってスペクトルの吸収線が少し青色の方へずれる。
これを「青方偏移」と呼ぶ。
星が遠ざかる時吸収線は赤の方へずれる。
これを「赤方偏移」と呼ぶ。
連星ではドナー星はこのように回転するから吸収線が赤から青へそしてまた赤へと行ったり来たりするのが見える。
より詳しく説明する前に「ドップラー効果」について復習しよう。
高校で学んだのを覚えているだろうか?ここに4,000Hzの音叉がある。
この音叉を君たちに向けてできるだけ速く近づけてみよう。
毎秒およそ1メートルの速さだ。
すると音が4,012ヘルツの高さで聞こえるはずだ。
更に毎秒1メートルの速さで遠ざけると4,000ヘルツより12ヘルツ低い音で聞こえるはずだ。
その差は24ヘルツ。
とてもはっきりと分かるだろう。
ただしそう聞こえるためには音叉の運動方向にいなければならない。
だから実験は3回くらい繰り返す必要がある。
まずはこっちの方向そしてこっち。
そしてこっち。
こちらに動かしている時君たちにはドップラー効果は聞こえない。
では準備はいいかな?4,000ヘルツだ。
ドップラー効果が分かるかな?分かったら返事して。
(笑い)分かるかい?高い音と低い音だ。
聞こえたかな?よし。
では今の現象を黒板で説明してみよう。
これはヘルツだ。
ここが4,000だ。
君たちに近づけた時が4,012ヘルツ。
遠ざけた時には3,988ヘルツだ。
その繰り返しだ。
音叉を毎秒1メートルで近づけて遠ざけてまた近づける。
この時の振動数の差この場合は24ヘルツだがこの数字を使えば私が腕を動かす速さを計算で求める事ができる。
では回転する物体の場合はどうだろうか?連星はお互いに回っている。
だから少し複雑だ。
そこで音の出るブザーをぐるぐる回す実験で説明してみよう。
これを連星のドナー星だと思ってほしい。
ドナー星はぐるぐる回る。
そして君たちに近づく時には高い音が聞こえるはずだ。
遠ざかる時には低い音が聞こえる。
だから同じようにドップラー効果よる音の差を調べればよい。
実はこのブザーの振動数を私は知らないのだがたいした問題ではない。
いずれにせよこれがブザーの振動数だ。
単位はヘルツだ。
君たちが聞くのはこのようなものだ。
音が高く聞こえる時にはブザーが君たちに近づいていて低く聞こえる時は君たちから遠ざかっている。
音程がここならドップラー効果は起こらない。
これがブザーの軌道の周期だ。
波の山の間の距離がそれにあたる。
これを使えばブザーが回る速さを計算する事ができる。
先ほど私が遠ざかる速さを計算できたのと同じ理由だ。
もし私がさっきの2倍の速さで音叉を動かしたら差は24ではなく48ヘルツになるはずだ。
言いかえるならばこの数字が大きくなればブザーの速さも大きいという事だ。
このデータさえあれば見る事なしにブザーの軌道の周期を求める事ができる。
また回転するブザーの速さも求める事ができる。
実は軌道の半径も計算する事ができるがその話はやめておこう。
でも実際にできる。
ではいよいよ実験開始だ。
この実験のいいところは3回やらなくても済む事だ。
ただぐるぐる回すだけだ。
しかし壁からの反響によってあまりきれいには聞こえないかもしれない。
反響によって音が混ざってしまう。
でもとにかくやってみよう。
さあ回すぞ。
ドップラー効果が分かった人は?よし。
ではもっと速くやってみよう。
これを記録していたら波の山の間隔は狭くなったはずだ。
つまり軌道の周期が小さくなっている。
このドップラー効果を利用する事で遠く離れた星の動きやその速さを知る事ができます。
その際には星の音を聞く代わりに星が放射する光を観測します。
この方法を応用したブラックホールの見つけ方をこのあとルーウィン教授が教えてくれます。
では次のスライドでドナー星についてより詳しく説明しよう。
これはドナー星の本当のスペクトルではない。
絵だ。
しかし全ての要素が描かれているので理解の役に立つ。
スペクトルの中に吸収線が見えるだろうか。
これが赤方偏移の最大値に達するとドナー星は君たちから遠ざかっているという事だ。
ここは青方偏移の最大値だ。
だからドナー星はまっすぐに近づいてきている。
このように吸収線が行ったり来たり動く様子が分かる。
こことここの間の時間は軌道周期の半分になる。
吸収線が端から端までに行く時間だ。
こうしたデータさえあれば連星系の軌道周期が分かる。
どれだけこの黒い線が移動したかでドナー星の速さを求める事ができる。
だから全ての吸収線の動きを観察すれば軌道の周期が分かる。
たとえ連星だと知らなかったとしてもこれを見れば連星である事が分かる。
なぜなら連星でなければ吸収線は動かないはずだからだ。
軌道の周期が分かりドナー星の速さも分かる。
X線連星の場合ドナー星の質量が分かれば降着星の質量の下限を知る事ができる。
その質量より大きい事はあるが小さい事はありえない。
1971年に最初に発見された連星の降着星は太陽の3倍を超える質量を持っていた。
この降着星は2つのグループによって別々に発見された。
彼らはどちらも1972年に雑誌「Nature」に発表したがどちらも同じある結論に達した。
それは「この降着星がブラックホールであるという可能性を見過ごす事はできない」という事だ。
質量が太陽の3倍以上だからだ。
彼らは「はくちょう座X−1」と呼ばれるX線源の中にこの連星を発見した。
当然はくちょう座の中にある。
その星座で最初に発見されたX線の発信源だ。
彼らは吸収線を観測して軌道周期が5.6日である事を突き止めた。
現在ではそのブラックホールは太陽の15倍の質量を持ちドナー星は太陽のおよそ30倍の質量を持つ事も判明している。
私のかつての教え子ジェフリー・マクリントックはこのブラックホールの質量の正確な値を見つけ出す事にかかわった研究者の一人だ。
このブラックホールが太陽の質量の15倍に非常に近い事を明らかにした。
この講義で君たちはスライドで白色矮星を見て中性子星を見た。
だから最後にはブラックホールも見たいと思うのは当然の事だ。
しかしブラックホールからは何も抜け出す事ができないから写真で撮る事もできない。
そこで今日ははくちょう座X−1のドナー星を見せるとしよう。
でも君たちは帰ったら家族や友達にこう言えるだろう。
「ある星の写真を見せてもらった」。
これが知識のすばらしさだ。
たとえ見えなくても存在を知る事ができる。
というわけで君たちにはくちょう座X−1のドナー星を見せよう。
今日最後のスライドだ。
これはネガ写真だ。
天文学ではよく使う。
ネガだから星は黒く空が白い。
はくちょう座X−1のドナー星はこの星で周期は5.6日だ。
この奇妙な楕円はロケット実験の結果によるものだ。
発見当時ある有名な天文学者は「これは平凡な星にすぎない。
特別な事は何もなくX線の発信源ですらない」と発表した。
そうは納得しなかった研究者たちがいた事は幸運な事だ。
彼らは吸収線を研究して軌道の周期を見つけた。
そしてこれはブラックホールに違いないと結論づけたのだ。
さてこのようにいくつかの幸運な星は死んだあとも別の形で生き続ける。
ただし良き伴侶を見つけて連星になる必要がある。
私が君たちに願うのは死後ではなく人生を生きている間に良き伴侶を見つけて輝き幸せである事だ。
どうもありがとう。
(拍手)2014/03/28(金) 23:00〜23:55
NHKEテレ1大阪
白熱教室海外版アンコール MIT白熱教室(8)「星はどう生まれどう死ぬのか」[二][字]

夜空に浮かぶ星空が8回シリーズの最後のテーマ。星はどうやって生まれ、どうやって死ぬのか?その運命を決めるのは何か?ルーウィン教授が宇宙の神秘を解き明かします。

詳細情報
番組内容
夜空に浮かぶ星空が、8回シリーズの最後のテーマ。星はどうやって生まれ、どうやって死ぬのか? その運命を決めるのは何か? そしてブラックホールの正体とは? はるかかなたの宇宙の現象を、物理学はどのように解明してきたのか。天体物理学者として研究の最先端にいたルーウィン教授が、星の神秘を解き明かす。物理学の楽しさを伝えてきたルーウィン教授の白熱教室、最終回は宇宙のファンタジーをお届けする。
出演者
【出演】マサチューセッツ工科大学教授…ウォルター・ルーウィン

ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – 宇宙・科学・医学
趣味/教育 – 大学生・受験
趣味/教育 – 生涯教育・資格

映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
日本語
サンプリングレート : 48kHz
2/0モード(ステレオ)
英語
サンプリングレート : 48kHz

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