日本に久々のベースアップがやって来ました。
基本給を引き上げるベースアップ。
ホンダ、2200円。
東芝、2000円。
大手企業の多くでベアの回答が相次ぎました。
この動きが中小企業や非正規社員にも広がるのか。
交渉の現場に入ると厳しい現実も見えてきました。
団結して頑張ろう!
相次ぐベアの陰で何が起きていたのか。
ことしの春闘を追いました。
こんばんは。
「クローズアップ現代」です。
大手企業が軒並み高水準のベア・ベースアップに踏み切りました。
賃上げの動きは、この先労働者のおよそ7割が働く中小企業そして非正規労働者の待遇改善にも波及していくのでしょうか。
デフレから抜け出し景気回復の好循環を実現していくために安倍政権は企業業績の回復だけでなく個人消費を活性化させる賃金上昇が鍵としてきました。
去年末、政府は経済界に異例の賃上げを強く要請しご覧のように円安の恩恵を受けてきた製造業だけでなく流通業界にもベースアップの動きが広がるなどことしの春闘は、政府による賃上げ要請に企業が応えるこれも異例の展開となりました。
ベアは、社員の基本給を引き上げるもので手当てなどを計算する基準となる基本給が上がりますと残業代、ボーナス、そして退職金も自動的に上がります。
賃金を抑制する傾向が長く続いてきた中で企業は将来にわたって固定費が増えるベアの実施に慎重な姿勢を取ってきたのです。
来月の消費税率の引き上げを前に賃金抑制から賃上げに転じた大手企業。
景気の底上げに向けてこの賃上げの動きはどこまで広がっていくのでしょうか。
まずは過去最高益を上げベアに踏み切った自動車メーカー。
そして、これからの回答が注目される中小下請け企業の動きをご覧ください。
自動車メーカーの富士重工業。
競争が激しい北米市場で売り上げを伸ばし過去最高の利益を記録しました。
社長の吉永泰之さんです。
利益を新たな技術開発に振り向けるのかそれとも社会の要請に応じてベアを行うのか。
厳しい判断を迫られたといいます。
要求額の3500円に対して2000円。
13年ぶりとなるベアを決めました。
この会社が、車の8割近くを生産している群馬県太田市。
多くの下請け企業が集まる企業城下町です。
この町で賃上げはどこまで広がっているのか。
社員およそ700人。
運転席の内装部品などを製造する1次下請けの会社です。
今年度は売り上げが過去最高となる見通しで組合は12年ぶりのベアを要求しました。
この会社の社員坂本吉隆さん、33歳。
子どもは3人。
ベアが実現すれば、この春小学校に入学する次女の習い事に使いたいと考えています。
交渉の結果、この会社は富士重工より1200円低い800円のベアとなりました。
しかし賃上げの広がりは限られていることも分かってきました。
先月、地元の信用金庫が行ったアンケートです。
対象は600社。
ほとんどは中小企業で2次、3次の下請け企業が多く含まれています。
賃上げをすると答えた企業はおよそ10%にとどまったのです。
こちらの2次下請けの会社では賃上げするかどうか今、頭を悩ませています。
従業員は25人。
マフラーの部品を作っています。
社長の平田茂さん。
受注が増えたため、この春賃上げをするつもりでした。
しかし景気が上向いていることしもコスト削減を求めるメールが届いたのです。
納める部品の価格を4月から一律2.5%下げてほしいという要請でした。
この部品の単価は50円。
利益率は3%です。
2.5%下げれば利益はほとんどなくなります。
海外のメーカーとの厳しい競争にさらされている自動車業界。
コストダウン要請を受け賃上げをどうするか悩む日々が続いています。
すでに賃上げを見送った所もあります。
プラスチック部品を作る2次下請けの会社です。
社長の田中正裕さんです。
賃上げできない大きな理由は多額の設備投資だといいます。
去年、およそ3400万円かけてプラスチックを成型する機械を3台導入。
生産能力を2割アップさせました。
取引先の増産に対応し生産をスピードアップする必要に迫られたのです。
ほかの古い機械をことし中に新型のものに変える必要があります。
今は賃上げより、設備投資を優先せざるをえないといいます。
今夜は、雇用や賃金の問題に大変お詳しい、日本総研チーフエコノミストの山田久さんをお迎えしています。
久しぶりにこのベースアップ、ベアが注目される春闘になって、まあ、本当に次々と、高水準の回答が、大手企業から出されました。
賃金が上がるというのは、働いている人にとっては、本当にうれしいことだと思うんですけれども、この与えるインパクトというのを、どう捉えていらっしゃいますか?
そうですね、この15年以上ですね、日本の賃金というのは、平均で見て、ずっと下がり続けてきたんですね。
そういう意味では、ベア、いわゆる基本給を上げるということがずっとなかったわけですけど、それ、本当に久しぶりにそれがなされたということで、いわば右肩上がりの賃金の状況が、そこに大きなくさびを打ち込んだ、非常に象徴的な年になっているということではないかなと思うんですね。
政府の強い要請というのは、かなり影響を及ぼしたと見ていらっしゃいますか?
もちろんですね、政府の要請というのがあったと思いますね。
去年から、政労使協議ということが始まって、いろんな方で要請があったと思いますが、ただ、もともとやっぱり企業の業績が、ここでかなりよくなってた、その意味では、払うだけの余裕があった。
その中で、企業の要請があって、今回のベアという形になってきたんだと思いますね。
その政府が言う、好循環は、やっぱり消費を活性化させるために、賃金が上がらなくてはいけないと、これは働く人のメンタリティーを、ベア対象になっている企業で働いている方々ですけれども、相当変えるぐらいのインパクトはありますか?
そうですね、実際、もうこの物価というのがずーっと下がり続けてきているわけですね。
それから賃金も、下がり続けてきたということなので、1年ちょっと増えたからといって、じゃあ、来年以降、本当に増えていくのか、そこまで確信を持っている人は正直少ないんじゃないか。
ですから、ことしはあくまで始まりであって、持続的に、着実に上がっていく、賃金が上がっていく、そういう状況を作っていくということが大事だと思いますね。
ベアというと、かつては本当に当たり前のように、回答が出されていた時代がありましたけれども、そのベアの意味と、そして今回、ベアに踏み切ったことの意味合いっていうのは、どう考えればいいんでしょうか?
いわゆる、バブル崩壊の前というのは、右肩上がりの成長の時代でしたので、ベアをやっても、このコストアップっていうのが、売り上げが自動的に吸収したんですね。
ところが、バブル崩壊以降、そういう状況ではなくなって、簡単に売り上げが伸びない。
要はコストダウンをすることで、人件費を含めたコストダウンをすることで、企業が利益を確保してきたという状況なんですね。
それが今回、ベアを上げるということは、コストダウンをこれ以上、限界に来ている、むしろコストが上がってくるということなんですね。
それは、企業がこれまでのコストダウンではなくて、事業の構造を変えていく、あるいは、いいものを安くと、これはいいんですけれども、いいものは、むしろそれなりの価格を取っていくっていうふうなむしろ価格を少しずつ上げていくような、価格戦略の転換ですね、そういう経営戦略全体が変わってくるということが、重要になってくるんだと思うんですね。
ただ今のVTRを見ますと、経営戦略や、その事業戦略を変えていくということの必要性っておっしゃったわけですけれども、1次下請けでは800円のベア回答があった、2次、3次まで、本当に、じゃあそのベアが実施されるのかというと、そうはいかない様子が、本当にまだ、コストダウンという様子がうかがえましたね。
そうですね、やはりそういう意味では、例えば、親会社というか、大手のほうも、将来を見越して、新しい事業をやり始めて、できるだけ収益が出るようなものを考えていく。
あるいは、いわゆる下請け等に対するコストダウンの要請も、基本的には、やはり生産性を上げていくためのコストダウンということは重要なんですけれども、例えば海外ですと、輸入価格が上がる、あるいは資材価格、1次産品価格が上がれば、その分は価格転嫁は受け入れてるっていうルールがあるんですね。
そういうふうな取引慣行みたいなものの見直しってこともやっぱり重要になってくると思いますね。
本当の意味で、コストダウンという、そのビジネスモデルからの脱却には、まだ変化が必要だということですね。
そうですね、そういう意味では継続していくということが大事だと思います。
さあ、賃上げは経済の好循環をもたらすことができるのか。
大切なのはおよそ2000万人、働く人の4割近くを占めています、非正規社員の賃金が上がるかどうかです。
非正規社員の割合が占める産業では、非正規社員が労働組合に加わって、賃上げを要求する動きが出始めています。
全国でおよそ240店舗を展開する大手スーパーです。
いらっしゃいませ。
従業員は、およそ3万人。
そのうち75%がパート社員です。
毎年増え続けています。
1年半前ほとんどのパート社員が労働組合に加入しました。
ことし、労働組合は初めてパート社員全員の賃上げを要求しました。
よろしくお願いします。
その交渉の現場を取材することができました。
労働組合が求めたのはパート社員の定期昇給。
毎年10円程度原則、全員の時給が上がっていく制度です。
労働組合が定期昇給を求めたのには理由があります。
かつて正社員が担当していた仕事を、パート社員が担うようになってきたからです。
パート社員の稲葉悦子さん。
1日7時間、週5日働いています。
担当はパンコーナー。
この部門に正社員はいません。
稲葉さんは作るパンの数の調整や材料の仕入れも任されています。
さらに同じ部門で働く8人の勤務シフトを決めるのも稲葉さんの仕事です。
稲葉さんが働き始めたのは3年前。
最初は、時給900円でした。
仕事ぶりが評価され今ではトップクラスの990円まで上がりました。
しかし、景気回復による人手不足でパート・アルバイトを募集するときの時給が上昇。
都内の平均で1000円を超えています。
稲葉さんの時給を上回っています。
先月26日、2回目の交渉が行われました。
経営側から組合に初めて回答が示される日です。
パート社員の定期昇給は一切認めないという答え。
組合側にとって思わぬ回答でした。
この日の話し合いは平行線に終わりました。
経営側は、なぜパート社員の定期昇給を受け入れることができないのか。
定期昇給を導入すると毎年3億円近く人件費が増え続けるといいます。
前回から1週間後。
最後の交渉が行われました。
この日、こう着状態にあった交渉が動きました。
定期昇給はできないが新しい賃上げの仕組みを考えたいという答えでした。
このままでは正社員並みの仕事をこなす人材が辞めてしまうおそれもあると経営側は考えたのです。
こんにちは。
交渉の結果が職場に伝えられました。
非正規社員の待遇改善を求める動きも出始めたことしの春闘。
景気が上向き人手不足が進む中で賃上げの兆しも見え始めています。
山田さん、この正規社員、そして非正規社員が、共に一緒になってこの賃上げを求める、新しい動き、どうご覧になられました?
VTRで出た、特に流通業というのは、もう非正規の人に頼らざるをえないと。
例えば、非正規の方の従業員に対する割合が、70%とか、80%になってるんですね。
その中で、従来、正社員がやってた仕事をパートの方がしている。
要は期間パートといわれる人が増えてるわけです。
その中でやはり、パートの方のやる気を出すためには、賃上げをせざるをえない。
それから人手不足に今、なってきてますので、なかなか人が採れなくなってるんですね。
その中でやはり、賃金を上げていかないと、人材、確保できない。
その中で非正規の方にも、賃上げが広がってきているということだと思いますね。
そして、経済全体から見ると、大手企業で働く人たちの賃金が上がる中で、非正規雇用の方々の、上がらないとなると、格差は広がっていきますよね。
そうですね、そういう意味でもやはり非正規の方の賃金を上げていくということは、大事だと思いますね。
特に近年、非正規の方でも、世帯主、非常に生計に必要な所得を得ている人が増えているんですね。
そういう人たちは当然ですね、消費をたくさんします。
所得の高い人のほうが消費せいこうといいまして、所得のうちの消費に占める小さいものですから、所得分配を公平にしたほうが、実は消費が全体で底上げされるんですね。
そういう意味でも消費を活性化するという意味でも、価格差の是正というのは大事なんですね。
冒頭のほうで、ベースアップの今回の意味は、全くこれまでとは違うと、もし、本当にこれを好循環につなげていくためには、1年ではだめだとおっしゃったんですけど、今、企業、そして政府というのは、どういうことをすべきでしょうか?
政府は、去年から政労使協議ということで、一つの賃上げをしていく雰囲気作りということを始めたんですけども、申し上げましたようにこれ、雰囲気を変えるだけではだめなんですね。
仕組みそのものを変えていく。
もっと言うと、企業の在り方、事業戦略、価格戦略、こういうものを変えていかないとだめです。
より生産性の高い所に移っていく。
それは実は働く人たちも、新しいことにチャレンジしていく、新しい職場に移っていくということも必要になってくるんですね。
そうすると、これは政府がやはり継続して、こういう場を作っていって、その必要性を訴えていく。
全体の今後の在り方ということを議論していく。
その中で必要な政策ですね、例えば新しい事業を作っていくには、政府がある部分を減税したりとか、対応していくということも出てくると思います。
これ、労働移動ということは、どうしても必要になってくることもありますんで、そのために、いわゆる広い意味でのセーフティーネット、そういうものを整備していかなくてはいけない。
2014/03/13(木) 19:30〜19:56
NHK総合1・神戸
クローズアップ現代「賃上げは広がるか?〜検証・春闘2014〜」[字]
経済の好循環を生み出すカギになるとされる賃金。ベースアップはどこまで広がるのか。中小企業や非正規労働者まで賃上げは波及するのか。2014年の春闘を検証する。
詳細情報
番組内容
【ゲスト】日本総合研究所チーフエコノミスト…山田久,【キャスター】国谷裕子
出演者
【ゲスト】日本総合研究所チーフエコノミスト…山田久,【キャスター】国谷裕子
ジャンル :
ニュース/報道 – 特集・ドキュメント
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事
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