「個人で精子を提供しています」。
今、インターネット上で精子の提供を持ちかける個人のサイトが立ち上がっています。
その数は確認されたものだけで40余り。
提供者は、すべて匿名。
出産したという実績が詳しく書かれているサイトもありました。
こうしたことが本当に行われているのか。
私たちは、事実を確認するため提供現場を取材。
精子の受け渡しが行われるまでの一部始終を追いました。
提供を受けている人は不妊症の夫婦だけではなく未婚の女性にも広がっていました。
HIVなどの、感染症のリスクがあるにもかかわらずなぜ、こうした行為を行っているのか。
さらに専門家は倫理上の問題を指摘しています。
医療機関を介さず個人で行われている精子提供。
一体何が起きているのかその実態に迫ります。
こんばんは。
「クローズアップ現代」です。
第三者から卵子や精子の提供を受けて子どもを授かる人々がいます。
生殖補助医療技術の進歩により卵子の老化や男性不妊で子どもが欲しくても産めない人々にとって子どもを持つ選択肢が広がっていますが今夜お伝えするのは感染症のリスクが高く生まれてくる子どもの権利が侵害される可能性の高い水面下で行われている精子提供についてです。
こちらは第三者の精子を使う場合従わなくてはならない日本産科婦人科学会のガイドラインです。
精子の提供は法律上結婚している男性不妊の夫婦に限定され感染症の潜伏期間を考え凍結保存したあと感染症のチェックを徹底してから提供が行われます。
さらに子どもの父親を知る権利に応えられるよう提供者の情報を医療機関が記録し保管しなくてはなりません。
しかし今回、これとは別に医療機関が介在することなく提供が個人的に行われている実態が明らかになってきました。
精子を提供したい男性が提供サイトを立ち上げ私たちが確認できただけでサイトの数は40余りに上っています。
今回、このうち11人から直接話を聞き、アンケート調査やメール取材を通して回答を寄せた人を合わせますと22人に上っています。
さらに、提供を受けた女性たちからも話を聞き実際、妊娠したり出産に至ったケースもあることが分かりました。
こうした個人による精子提供は医療機関を介さないだけではなく匿名で行われるため日本産科婦人科学会は医学上のリスクが高く倫理的に問題があるとしまた厚生労働省も感染症の予防策が十分とは言い難いといった問題があると考えられるとしています。
それにもかかわらず提供を受ける人々が少なからずいるのはなぜなのでしょうか。
おはようございます。
個人の精子提供サイトを利用した四葉さん、41歳です。
去年12月提供を受け、実際に妊娠。
このとき9週目を迎えていました。
大学卒業後会社に就職した四葉さん。
30代で新たなプロジェクトを立ち上げキャリアを積んできました。
交際相手はいましたが仕事を優先するうちに30代後半になったといいます。
卵子が老化し妊娠することが難しくなると感じた四葉さん。
結婚できなくても子どもを授かる方法はないか探しました。
一部の医療機関では第三者の精子を使った人工授精が行われていましたが対象となるのは法律上の夫婦のみ。
未婚でも利用できる海外の精子バンクは数百万円の費用がかかるうえに仕事を長期間休まなければなりません。
最終的にたどりついたのが個人のサイトでした。
複数の提供者に直接会い信用できると思った人物から提供を受けることを決めたといいます。
提供者から、精子の入った容器を受け取り自分で体内に入れる方法を繰り返し、妊娠に至りました。
今回、私たちが確認した40余りの個人の精子提供サイト。
一体どのような人物が運営しているのか。
学歴や職業などは記載されていますが提供者の身元は明かされずすべて匿名です。
取材を進める中で、私たちは一人の提供者に接触しました。
現れたのは、ケイスケと名乗る30代の会社員でした。
受け渡しはどのように行われているのか。
精子提供を始めて8年。
これまで20人に提供しそのうち5人から出産の報告があったとしています。
何を目的に行っているのか理由を問いました。
医療機関を介さず行われる精子提供。
提供者に安全性の認識はあるのか。
コウイチと名乗る提供者が女性に提示しているという感染症の検査結果を見せてもらいました。
検査項目はHIV、梅毒クラミジアの3項目。
しかし、仮名で受けているため本当に本人のものか確認することはできません。
この男性はどのような方法で提供を行っているか。
私たちは追いました。
この日、面会に来たのは40代の女性でした。
店での面談は1時間余り。
お互いに本名を明かさず感染症の検査結果をメールでやり取りすることで提供することが決まりました。
面談のあと、男性が向かうのは公衆トイレです。
容器に入れるとすぐに待ち合わせの場所へ。
精子が入った容器が女性に渡されました。
男性は今も複数の女性に対して提供を続けています。
匿名の個人が行う精子提供。
日本産科婦人科学会の苛原稔さんは女性に対する感染症のリスクだけではなく生まれてくる子どもに対する倫理的な問題も指摘しています。
今夜は日本生殖医学会理事長で、慶応義塾大学医学部教授でいらっしゃいます吉村泰典さんと、そして取材に当たりました、報道局報道特別報道チームの板倉記者と共にお伝えしてまいります。
まず、板倉さん。
ネット上で知った男性から精子の提供を受けて、妊娠を目指す女性たちがいるという事実に、大変驚かされますけれども、リポートの中では、未婚の女性が妊娠したくて提供を受けていましたけれども、全体像として、どういう方々が、そうしたその個人からの提供を受けているんですか?
今回、私たちも取材を始めた当初、本当にこういう行為が行われているのか、正直、疑ってかかりました。
ただ、実際に提供を受けた女性などから話を聞きますと、まずは不妊症の夫を持っている女性、それから未婚の女性、こういった方々が、大体およそ同じぐらいの比率でいらっしゃいました。
中には互いに女性のカップルもいました。
こうしたことが起きる背景には、夫婦でも子どものいない夫婦であるとか、未婚化といった今の日本の社会そのものが見て取れるなと感じました。
一方で個人で提供している男性側ですけれども、どのような動機で、提供しているんですか?
これもさまざまではあるんですけれども、まずは、子どもが欲しいと願う女性の願いに何か役に立ちたいという説明をする人がいた一方で、結婚して妻はいるけれども、共働きで子どもがいないと、自分の遺伝子は残したいという動機を挙げる人もいました。
金銭面では、数万円の謝礼を受け取っているというケースが一部にはありましたけれども、ほとんどは面談にかかっている実費のみということで、無償で行われていました。
吉村さん、学会では医療機関を介在させない、こうした個人からの提供については、医学的リスクが高いというふうに言っているわけですけれども、やはりその感染症の心配が大きいですか?
私は2つの感染症の問題点があると思うんですね。
やはりこの自分で注射、針のない注射器で、体内に精子を入れる、精液を入れるわけですから、これによって、例えば卵管炎を起こしたり、子宮内膜炎を起こしたり、ひどい場合には腹膜炎を起こす場合があるんですね。
だからそれは通常の、われわれが医療サイドで行う人工授精においても、そういったケースは時々あるわけですよね。
そういったリスクと、もう1つは、精液中に感染症が、例えばエイズウイルスがいたり肝炎ウイルスがいたり、いろんな感染症があるわけですね。
そういったものに対する、要するに、そういった精液を使って自分で入れるわけですから、そうしますと、子どもに感染するということだって起こってきます。
そのために、学会ではエイズウイルスに関しましては、要するに感染していても、検査が陽性にならない時期があるんですね。
ですから、180日間凍結した精液を使っているといった現実があるわけでして、こういったことが全くなされていないということを考えますと、子どもに対する感染のリスクと言うことも、考えていかなければならないと思います。
そうすると、先ほどのリポートで、HIV、梅毒、そしてクラミジアの検査結果を提示はしていましたけれども、その陰性であるということを?
それは本当に証明することは、もちろんできませんし、たとえもしそれが陰性であったとしても、新鮮な精液を使えば、やはりウィンドウ時期といいまして、陽性に出ない時期の精液を使うということだってありうるわけですから、そのへんは非常に大きな問題点になると思いますね。
そうした衛生面で、どうなんだろうかというふうに、容器を渡されて、そして、自分でそれを体内に入れるという。
そうですよね。
それは本当に腹膜炎を起こしたりすることは当然起こってくると思いますね。
板倉さん、こうした医学的なリスクについて、提供を受ける女性たちはどこまで認識をして、そしてそうしたあまりよく知らない方からそういう提供を受けることへの抵抗感というのは感じていないんでしょうか?
そうですね。
もちろん、抵抗感はあったという女性が、これほとんどでした。
ただ、抵抗感があっても利用せざるをえない現実というものが、その背景にはあるように感じました。
例えば、不妊症の夫を持つ女性の場合ですと、通常行われている医療機関の不妊治療、これ、手間も時間もかかります。
ですので、今の年齢を考えると、待っていられないというふうにおっしゃっている方もいましたし、また未婚の女性の多くは、これまで仕事を優先して働いてきたと、40歳前後になって、このままだと妊娠が難しくなるというふうに思って、焦りを感じたというふうに話していました。
ここからも、今の社会の課題みたいなものがやはり透けて見えるなというふうに思いました。
一方で、その医療機関を介在しないという意味での、医学的リスクの上に、匿名で提供するという、このやり方では、学会としては倫理面の問題が大きいともいえますよね?
そう思います。
綿駆使は生まれた子どもさんが、例えば母親に対して、この匿名の個人から、精子の提供を受けて生まれた子どもだと知った場合の子どもさんの衝撃というのは、やっぱり考えていかなければいけないと思いますし、学会では、提供者は10人までとすると、妊娠する数をちゃんとチェックしておりまして、10人までとするということにしているんですけれども、どれくらいの子どもさんが生まれているかということも分からない。
1人の方から?
そうですね。
それからもう1つは、生まれた子どもさんとお母さんがいるわけですけれども、この母子関係に提供した人が、介入してくるという、私は危険性も無視することはできないというふうに思いますね。
それは後になって、親権を主張したりする?
そうですね。
そういったことは、私は精子の提供者ですよと言って現れる可能性だって起こりうると思うんです。
そういったことも考えていかなければならないと思います。
さあ、この海外では登録制などを導入して、個人による提供者を規制しようとしています。
しかしアメリカでは、それでも行政処分を行う事態まで起きています。
アメリカでは医療機関だけでなく個人の精子提供者にも国への登録を義務づけています。
併せて感染症の検査などを行わなければ提供をすることはできません。
そんな中、世間を騒がす事態が起きました。
カリフォルニア州に住む38歳のこの人物。
精子提供によって14人の子どもが生まれたといいます。
国の規則で定められた感染症の検査を行わず4年にわたって提供を続けていました。
事態を重く見たFDA・食品医薬品局は精子提供の停止を命じました。
FDAは、328回もの提供を46人の女性に行っていたことを突き止め感染症拡大のリスクを防がなければならないと指摘しました。
精子提供について調査をしているエール大学のアルメリン准教授です。
国の規則がある中でも個人の提供を取り締まることには限界があると指摘しています。
アメリカでは、登録制という制度を導入しても、個人で提供する人たちがいて、なかなかこれ、コントロールするのは難しいということですか?
そうですね。
学会では営利目的での精子の提供・あっせんというものは禁止しているわけですけれども。
これは日本の場合ですよね?
そうですね。
今、自民党の生殖補助医療のプロジェクトチームではこういった罰則規定を作ろうと、こういったことに対してですね、してるんですけれども。
やはり、営利目的でないといわれると非常に困ることもあります。
そうすると、私はやはり医療行為ではない精子の提供あっせんということも、広げてですね、規制していかないといけないという事態に私はなってくるんじゃないかというふうに思います。
一方で未婚の女性たちがこうした精子提供を求める現実を目の当たりにしますと、今の学会で作られているガイドラインは、法律上の結婚をしていて、そして男性不妊の夫婦に、提供を限るとしていることが現実的なのかなという議論も出てきそうですよね。
そうですね。
これはなぜ法律婚で、こういった精子の提供を行っているかということになりますとですね、やはりこういった精子を提供受ける場合に、生まれた子どもが非常に法的な地位が不安定になることがあるわけですね。
ですから、こういった医療、第三者を介する医療を受ける場合は、法律婚であっていただきたいと、それは子どもの福祉の観点からそういったことを考えているわけです。
子どもの立場ですけれども、一方で、こちらのグラフをご覧いただきたいんですけれども、30代の女性の未婚率が上昇を続けていまして、2010年では27.8%。
働きながら、なかなか結婚に踏み切れない、あるいは育児ができるように思えないというこの女性たちの気持ちを表しているグラフではないかというふうに思えるんですね。
私も本当にそう思いますね。
女性は今の現実において、わが国においては、結婚して、子どもを産みながら子育てをしながら働く環境というのがなかなかできてない状況の中で、こういったケースも出来て、私は生まれてきているのではないかというふうに思うんですね。
このへんもやっぱり問題として私たちは捉えていかなくちゃいけない。
ただ単に、こういったことが悪いというわけではなくて、こういった背景というもの、少し考えていく必要が、私はあるというふうに思います。
ですからそうした女性たちからは、自分たちには産む権利もあるんではないかという声がやっぱり聞こえてきそうですよね。
そうですね。
私は確かにそういった女性にとっては、子どもを産む権利は私はあると思うんですね。
しかし、その際に、やはり一番考えて、女性に考えていただきたいことは、生まれてくる子どもがいるということですね。
どんなにオートノミー、自立性を持って、自分たちがこういったことをしたいということで子どもをお作りになっても、やはり、生まれてくる子の同意を得ることはできないわけですから、子どもさんのことを最優先して、やはり考えていただきたいというふうに思いますね。
どうすれば、こうしたリスクの高い精子提供を防ぐことができるのか、減らせるのか。
何が一番鍵だと思われますか?
私は一番大切なことは、先ほど言いましたように、こういった感染症のリスクがあるということ、そして倫理的にも、非常に大きな問題点があること。
その際には、やっぱり子どものことを考えた、要するに、精子提供ではないということを、やっぱり女性の方に分かっていただくことと、やっぱ教育・啓発が最も大切ではないかというふうに思います。
まだまだそうした認識が十分に伝わっているとはいえないという意味では、学会としてやるべきことは多いですね?2014/02/27(木) 19:30〜19:56
NHK総合1・神戸
クローズアップ現代「徹底追跡 精子提供サイト」[字]
「精子を無償で提供します」。いま、ネット上に個人の精子提供サイトが立ちあがっている。本当にこうした活動は行われているのか。調査報道で個人の精子提供の実態に迫る。
詳細情報
番組内容
【ゲスト】日本生殖医学会理事長…吉村泰典,【出演】報道局特別報道チーム記者…板倉弘政,【キャスター】国谷裕子
出演者
【ゲスト】日本生殖医学会理事長…吉村泰典,【出演】報道局特別報道チーム記者…板倉弘政,【キャスター】国谷裕子
ジャンル :
ニュース/報道 – 特集・ドキュメント
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
サンプリングレート : 48kHz
OriginalNetworkID:32080(0x7D50)
TransportStreamID:32080(0x7D50)
ServiceID:43008(0xA800)
EventID:13595(0x351B)