アスリートの魂「“複合ニッポン”をふたたび ノルディック複合 渡部暁斗」 2014.03.13

(取材者)おはようございます。
(渡部)おはようございま〜す。
光が降り注ぐよく晴れた日でした。
(歓声)この日日本のノルディック複合に新たな歴史が刻まれました。
個人ノーマルヒルで銀メダルを獲得した渡部暁斗選手です。
前半のジャンプ。
(実況)さあどこまでいくか?風をもらっている!いった〜!
(荻原)よ〜し!よしっ!後半のクロスカントリー。
(実況)さあ緩やかな下り。
さあ見えてきました。
スタジアムからも見えてきた。
フレンツェルが来た!そして渡部暁斗銀メダル!やりました。
(荻原)すばらしい。
やった!2つの種目で争う過酷な競技で20年ぶりに日本がつかんだ悲願のメダルでした。
失礼します。
かつて日本は団体でオリンピックを2連覇。
しかしそれ以来メダルはありませんでした。
20年前の金メダリストは再び集まり渡部選手を育ててきました。
世界のトップ選手にしようと10年にわたって続けられた指導。
オーライ!より遠くへ。
ジャンプは飛躍的な成長を遂げました。
体の小さな日本選手が大差をつけられ敗因となってきたクロスカントリー。
腕の振りや足の運びを徹底して研究し力強い走りを身につけました。
(河野)はいガンバ!複合ニッポン復活を渡部選手に託してきました。
我々がやっていた過去の事をもう既に昔の事と葬り去って頂いて…
(実況)さあどこまでいくか?風をもらっている!いった〜!
(荻原)よ〜し!20年ぶりのオリンピックの表彰台。
その陰にどんな道のりがあったのか。
闘いを見つめました。
先月7日に開幕したソチオリンピック。

(打ち上げ花火の音)その前日渡部選手はソチに入りました。
(取材者)お疲れさまです。
お疲れさまです。
今シーズンここまでワールドカップで個人総合2位。
オリンピックに合わせて調子を上げていました。
世界から強豪が集まる4年に一度の大会。
渡部選手は海外のメディアからも有力なメダル候補として注目されていました。
日本にとっては5大会ぶりのメダルに挑む事になります。
周りから与えられる緊張感というかまあ期待されているんだなというのは感じてますしまあそういうのが…。
まあ考えだしたらプレッシャーになっちゃうと思うんですけど。
まあその辺はあんまり考えないように臨みたいかなと思います。
ジャンプとクロスカントリー。
2つの種目で競うノルディック複合。
前半のジャンプで求められるのは…後半のクロスカントリーで求められるのは…2種目を1日で行うその過酷さはマラソンをもしのぐといわれ競技を制する王者はキングオブスキーと呼ばれてきました。
ジェーソン・ラミーシャプイ!
(歓声)
(実況)ジャンプの総決算荻原のジャンプ!かつてノルディック複合は日本が世界を圧倒しお家芸といわれていました。
(解説)さすが世界の荻原。
見せてくれました。
(実況)ガッツポーズです。
オリンピックの団体では2大会連続の金メダルを獲得。
黄金時代が続きました。
ジャンプで大きくリードしクロスカントリーで逃げきるのが必勝パターンでした。
(実況)荻原!今荻原金メダルのゴールイン。
しかし日本の黄金時代は思わぬ形で断ち切られます。
ヨーロッパ各国からの声を受けてルールが変更されたのです。
ジャンプは得点の比重が下げられて差がつきにくくなるという日本にとって不利なルールへの変更でした。
(実況)4位でスタートした日本ですが結局最後は日本8位に終わりました。
日本8位です。
オリンピックやワールドカップで日本は勝てない時代が続く事になりました。
特に北欧やヨーロッパの…ルールが変わっていく中で…本心で言うとメダルは厳しいなというような状況がずっと続いてたんで…。
これ自分が教えている間にメダル無理なのかなっていうふうに思った時もありましたね。
複合ニッポンをいかに立て直すか。
長野オリンピックが行われた村の一人の少年が希望の星となっていきます。
小学校4年生の渡部暁斗選手です。
既にV字ジャンプを飛んでいました。
間近で見たオリンピックの選手に憧れてスキーを始めました。
暁斗ガンバ〜!中学生からは複合の道に本格的に進み全国大会で表彰台に上がるようになっていました。
(拍手)遠くまで飛びたいとか速く走りたいという気持ちが強いので…今から10年前。
渡部選手は高校生の時全日本のジュニアのメンバーに選ばれます。
ここでかつての金メダルメンバーに出会いました。
「いつの日か複合ニッポンを復活させるメダリストに育てる」。
長期的な方針の下で早くから指導を受けてきました。
(歓声)
(実況)日本の高校生で初めて複合のオリンピック代表になりました。
トリノオリンピックには17歳で代表に大抜てきされ初出場します。
個人での成績は19位。
世界トップクラスのレベルの高さを思い知らされる結果となりました。
本当に選んでもらったという事にはすごく感謝してますし一緒に遠征を回っていた選手の方々先輩方にも本当にたくさんの事を教えてもらったり本当にそこから学ぶ事は本当に山ほどあったんで。
4年前のバンクーバーオリンピック。
国際大会で経験を重ね21歳で2回目の出場。
(実況)飛型は安定した。
まだ高さがある。
伸びてきた。
K点付近。
得意のジャンプに加えクロスカントリーも成長しラージヒルでは日本選手トップの9位。
オリンピックのメダルは夢ではない事を実感できました。
いろんなレースをしていろんな経験をしていいレースも悪いレースもあっていろんな事を考えて…メダル獲得を目指す渡部選手の前に世界の強豪選手たちが立ちはだかっていました。
クロスカントリーでの驚異的な追い上げに自信を持っています。
(拍手)
(一同)フレンツェル!ジャンプもクロスカントリーも世界有数のレベルでメダルの最有力候補です。
世界トップレベルのジャンプを持つ渡部選手。
ここ数年で「ジャンプで大きな差をつけ逃げきる」。
勝ちパターンを作ってきました。
イエス!2シーズン前にはワールドカップで4回の優勝。
個人総合で2位。
一躍世界のトップと肩を並べました。
しかし昨シーズン。
渡部選手は得意のジャンプが思うように飛べなくなりました。
実はジャンプのルールが昨シーズンの直前再び変更されたのです。
ルールが変わったのはジャンプのスーツの形です。
左がこれまでのもの。
右が新たなスーツです。
体に密着した形に変わりました。
その結果風を受ける面が小さくなりジャンプの際の浮力が減ってしまったのです。
ジャンプの得意な渡部選手にとって影響は大きなものでした。
かつての飛距離がどうしても出ず昨シーズンはワールドカップで勝利はなし。
オリンピックを1年後に控えた渡部選手は自分の本来のジャンプを見失っていました。
スランプに陥った渡部選手を支え続けたのは荻原健司さんでした。
荻原さんはジャンプを立て直すため特別に合宿を組んで付きっきりで指導しました。
荻原さんはジャンプをビデオでも撮影します。
渡部選手がフォームを崩しているのではないかと見ていました。
繰り返しジャンプを見続ける中で僅かな変化に気付きました。
「今は体に力が入り過ぎている」。
荻原さんは現在のフォームをどうやって理想的なフォームに戻すか説明していきます。
渡部選手の助走フォームです。
ジャンプを意識し過ぎて体に力が入り上半身が起きて風の抵抗を受けやすい状態になっていました。
以前は体の力を抜き背中を丸めるような形で腰が上がっていました。
頭から腰を結んだ線が斜面に平行になり空気の抵抗が少なくなる事で速くて安定した助走ができていたのです。
渡部選手は助走の姿勢を意識してジャンプの修正を続けました。
浮力の減少をカバーするため荻原さんは渡部選手に独自の練習メニューを用意しました。
これは助走姿勢のまま何分もブランコに乗り続ける練習。
背中を丸めた理想のフォームが定着すれば助走スピードが速くなりより飛距離を伸ばす事ができます。
細い布の上を歩く練習では体が左右にブレないよう筋力を鍛えていきます。
自分の本来のジャンプを取り戻すには理想とする助走の姿勢がとれるかどうかが大きな鍵でした。
そして2月ソチオリンピック。
個人ノーマルヒル本番の日を迎えました。
(取材者)おはようございます。
おはようございます。
(取材者)いよいよですね。
そうですね。
はい頑張ります。
10年近く国際大会に出場し早くから大舞台で戦ってきた渡部選手。
直前でも冷静でした。
渡部選手の前にライバルたちが次々とジャンプしていきます。
(歓声)飛距離…100m超えはほとんどないノーマルヒルで大ジャンプが出ました。
前回のチャンピオン…ミスなく98m50を飛んできました。
(実況)さあ日本のエース渡部暁斗の登場です。
渡部選手を指導してきた荻原さんはテレビ中継の解説を務めていました。
(荻原)調子がいいんですよ。
大いに期待して見たいと思います。
さあいくぞ!課題の助走。
(実況)さあどこまで行くか?風をもらっている!いった〜!
(荻原)よし!やった!いいぞ!昨シーズンから苦しんできた渡部選手の会心の大ジャンプでした。
安定した助走姿勢でスピードに乗ります。
力強い飛び出し。
ソチの舞台で理想のフォームを取り戻しました。
全選手の中で2位。
1位とは僅かの差で前半のジャンプを終えました。
後半はクロスカントリー。
1周2.5kmのコースを合計4周10km滑ります。
日本はこのクロスカントリーでジャンプでつけた差を守りきれず勝てない大会が続いてきました。
ジャンプの差を時間に換算してトップから順番にスタートします。
渡部選手は2番目トップから6秒遅れのスタートです。
前回の金メダリストラミーシャプイ選手ら10人が渡部選手から20秒余り後にスタートします。
渡部選手は不安を感じていました。
1分の差を抜き返せる強豪が数多くいます。
同じ展開で追い抜かれた経験があるのです。
今シーズンのワールドカップの試合。
3人でトップ集団を形成していた渡部選手。
しかし20秒ほど離れていた後続集団がスピードを上げて追い上げてきます。
後続集団のペースは分かりにくく結局体力の落ちたレース後半に追いつかれ飲み込まれてしまったのです。
速い選手ってものすごい怖いんですよね存在としては。
それが10秒後ろとか9秒後ろにいるというだけでやっぱり積極性が失われるというかちょっとなんとかどうにかして体力を温存しなきゃみたいなのが頭をよぎるんでそこに惑わされないというかそこでも勝負できるんだって自信が持てるような走力が必要だと思って練習していますし。
小柄で歩幅が小さく体力面も劣る日本の選手が世界の強豪と互角に戦うにはどうすればいいのか。
渡部選手はオリンピックに向けて新たな滑り方を研究してきました。
はい1分前。
一緒に取り組んだのは20年前の金メダリストの一人河野孝典コーチです。
目指したのは体を効率的に動かし体力のロスを小さくする滑り方でした。
河野コーチが北欧の有力選手を徹底的に分析して取り入れたものでした。
はいラストラスト。
片手にだけポールを持ち上半身を動かさずに滑る練習です。
あえてバランスを悪くして滑ります。
右と左交互にこの練習を繰り返して体の軸を強化。
上半身を揺らさずに滑る事ができるようにするのです。
自分でしっかり考えつつもじゃあスタッフはどういうふうに思っているんだろうという事を確認するタイプですね。
新たな滑り方の最大のポイントは足の運びを完全に変えた事です。
体の軸である中心線に足をできるだけ引き付けます。
昨シーズンまでの滑りです。
今シーズンの新たな滑りを比べてみると足をより体の中心に引き付けている事が分かります。
右が渡部選手の目指す足の運び方。
左右のスキーが重なるほど足を中心に引き寄せます。
一歩一歩スキーをより力強く踏み出す事ができ歩幅を大きくして進む事ができます。
この新たな滑りがうまくできれば課題のクロスカントリーで全く引けを取らないレースができると考えたのです。
それが意識せずにそういう所に足が置けてスキーが滑らせられればいいんです。
渡部選手が万全の状態で滑れるよう準備も進められていました。
かつての金メダリスト阿部雅司コーチです。
ソチの雪質を調べ最も滑りのよいスキーやワックスの状態を確認します。
阿部コーチたちはコースを連日自ら滑り込んで渡部選手が使うスキーやワックスを決めていきます。
坂とカーブが続く山道のコース4周合計10kmを滑りきるクロスカントリー。
マラソンよりも過酷といわれるレースの始まりです。
どんな戦略でレースに臨むか河野コーチたちがギリギリまで一緒に考えてきました。
(実況)さあトップのフレンツェルがスタートしました。
そして6秒差日本の渡部暁斗世界の渡部暁斗が今スタートを切りました!
(荻原)非常に落ち着いたスタートぶりだと思います。
(実況)はい。
僅か6秒です。
(萩原)ええ。
(実況)30人抜き40人抜きができる強い選手がいます。
(荻原)油断はできないですね。
6秒の差を追う渡部選手にコースの脇から阿部コーチが指示を出します。
渡部選手はペースを上げ1.5km地点でトップのフレンツェル選手に追いつきます。
先頭の選手は風を受けて体力を奪われます。
2人は前後の位置を駆け引きしながら滑ります。
(実況)この急カーブで並びます。
今度は渡部が前に出ますか?
(荻原)はい。
渡部選手はレースの前半で体力を消耗する先頭にあえて出ました。
後続の集団を完全に引き離すための戦略でした。
しかしレースは後半に入ると大きく動きます。
最後の1周。
先頭の2人を後続集団が猛然と追い上げます。
体の軸がブレない体力のロスの少ない走りで懸命に逃げます。
差は10秒台にまで詰められました。
渡部選手は再び後続を引き離そうとします。
(荻原)非常に元気ですね。
そして技術も安定しています。
差が開いていた後続集団をまだ気にする渡部選手に阿部コーチが声をかけます。
そして残り1km。
最後の上り坂で金メダルを懸けて勝負のスパートを仕掛けます。
(実況)さあ上りでどうだ?
(荻原)僅かなんですけど少しフレンツェル離れてきたようにも見えますよ。
一騎打ちとなった金メダル争い。
最後の最後までもつれます。
(実況)さあいよいよスタジアムに入ります。
並んでいる並んでいます。
(実況)最後のストレートに入った渡部暁斗。
渡部暁斗はどうやら銀メダルか。
エリック・フレンツェル金メダルのフィニッシュ〜!そして渡部暁斗銀メダル!やりました!
(荻原)すばらしい!やった!クロスカントリーの強いライバルたちを振り切って最後までトップを争った末の銀メダルでした。

(取材者)おめでとうございます。
ありがとうございます。
会場の片隅では渡部選手を支えてきたかつての金メダリストたちが喜びを分かち合っていました。
20年前のメダル獲得の瞬間の日がまたここで再来というか再現される事ができてホントによかったなという表情をみんながしてましたし…。
ホントに…でもホントに20年ぶりですからね。
今の選手すごいですよ。
僕たちより多分全然すごいですよ。
すばらしいと思います。
シルバーメダリストレプリゼンティブジャパン!アキト・ワタベ!ノルディック複合で日本が20年ぶりにつかんだ悲願のメダルです。
16年前長野オリンピックを間近で見てスキーを始めた渡部選手。
暁斗ガンバ〜!かつての複合ニッポンの金メダリストたちの薫陶を受けて一歩一歩成長してきました。
ノルディック複合という競技を日本人として開拓してくれたというのにはすごく感謝していますし。
僕たち選手を支えてくれたというのはすごくうれしいし感謝しています。
オリンピックから1週間後に行われたワールドカップ第14戦。
この大会でも再び2位となりました。
目標は複合ニッポンが待ち望むワールドカップでの総合優勝。
そして4年後の金メダルです。
このまま道を進んで更により一層の実力がついたらきっとまた次のオリンピックでもメダル取れるだろうし世界一という称号にも近づいているだろうし頑張りたいですね。
ノルディック複合の新たな歴史を刻み始めた渡部暁斗選手。
悲願の金メダルへ向かって挑戦は続きます。
2014/03/13(木) 02:15〜03:00
NHK総合1・神戸
アスリートの魂「“複合ニッポン”をふたたび ノルディック複合 渡部暁斗」[字]

ノルディック複合で日本に20年ぶりの五輪メダルをもたらした渡部暁斗選手。複合ニッポン復活への期待を背負って挑み続けた渡部選手のメダル獲得までの軌跡を見つめる。

詳細情報
番組内容
“複合ニッポン”は90年代初めまで五輪で団体2連覇を果たすなど黄金時代だったが、その後ルール改正もあり低迷を続けた。それを打ち破ろうと、かつての金メダリストたちが育て上げたのが渡部暁斗選手だ。苦手のクロスカントリーは河野孝典コーチや阿部雅司コーチと“疲れない走り”を追求、ジャンプは荻原健司氏に指導を受け安定感を身につけた。複合ニッポン復活の期待を背につかんだ銀メダル。その苦闘の軌跡を見つめる。
出演者
【語り】仲村トオル

ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – スポーツ
スポーツ – オリンピック・国際大会

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音声 : 2/0モード(ステレオ)
サンプリングレート : 48kHz

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