ドラマ特別企画 たった一度の約束〜時代に封印された日本人〜 2014.02.26

(庄吉)トク!
(トク)こら梅屋庄吉!こん鉄砲玉!堪忍…。
アハハハハ!孫文って誰ね?誰に聞いたと?お父様にとって映画とは何だったのでしょう?警察に追われとる。
せめてひと束だけでも。
ああさっぱりした。
お二人ともお気は確かですか?1兆円近くかと。
海の絵?やがて私は次に起こることがわかるようになってきました。
孫文先生!梅屋さん。
お引き受けください。
千世子:賢母という言葉をご存じですか?中国では良妻賢母の意味合いとは少し異なり無償の愛を表す言葉だといいます。
母が子に対してそうであるように何の迷いもなくただひたすらに捧げ尽くす。
つまり見返りを求めることのない愛です
千世子:賢母の意味を知ったのは父も母も亡くなってしばらく経ったある日…。
海辺の町に佐々木を訪ねたときのことでした
(佐々木)お久しぶりでございます千世子お嬢様。
(千世子)母が亡くなってからですから18年になりますか。
こちらからお伺いするのが筋とは承知しておりますがなにぶんも体のほうが。
どこかお悪いのですか?いやもう歳でございますよ。
口のほうは達者なのですが足がもうどうにも言うことを聞きませんで。
お嬢様はお元気そうで。
嬉しゅうございます。
もうお嬢様という歳ではありません。
いいところですね。
ああ…。
あ…この佐々木若い時分は旦那様の忠実な秘書であったとはばかりながら自負しております。
今までこれを大切に隠し持っておりました。
まあお懐かしい。
孫文さんですね。
お父様もお母様も若々しくていらっしゃる。
覚えていらっしゃいますか?あの日のこと。
お屋敷でほら…結婚式を。
ああ。
千世子:それは幼い日の夢のような出来事でした
千世子:誰もが着飾って笑顔に満ちた晴れやかな一日
(千世子)佐々木のおじちゃんはい。
あ…千世子お嬢様私じゃございませんよ。
どうぞあちらのご婦人に。
あの…。
おめでとうございます。
(宋慶齢)シェイシェイ。
シェイシェイ。
千世子:私の父梅屋庄吉。
母トク。
そして中国の革命指導者孫文。
世間様にはあまり知られていないことですが孫文は宋慶齢との結婚式を私の家で挙げました。
犬養毅をはじめとする政治家や革命を支持する日本人が集い2人の門出を祝ったのです。
若い頃から父と孫文は固い友情で結ばれていました
皆様お集まりください。
はい結構です。
皆さん息を吸ったら3つ数えるまでいい顔のまんま動かんでくださいね。
いきますよ。
はい吸って。
12…。
アハハハハ!なんば笑いよらすと?こがん日が来っとは嬉しゅうてこらえきれんばい。
(笑い声)いやいやいやすまんすまん。
はいもういっぺん。
はいではもう一度。
12…。
はい結構です。
千世子:一方で父は孫文とのかかわりが表沙汰になることを避けました。
自分と孫文とのことは一切口外してはならない。
それが父の遺言でした。
その後母も私もそして佐々木も皆父の言いつけを守って静やかに暮らしてまいりました
(佐々木)箱の中には旦那様と奥様が歩んだ道が詰まっています。
いろんなことがございました。
お嬢様がご存じないことも。
この箱をお渡し申します。
お嬢様が持つべきものですから。
ご両親のことを世に伝えていただきたいのです。
禁を破ってでも。
なぜそう願うか。
わけはこの中に…。
千世子:箱の中にいったい何があるというのか?そのとき私は佐々木の真意を計りかねました。
明治時代世に先駆けて映画づくりを手がけ娯楽産業に新風を巻き起こした実業家。
明治45年には日本で初めての大手映画会社日活を創設しました。
梅屋庄吉の妻トク。
夫婦には知られざるもう一つの顔がありました。
中国を大きく変えたあの辛亥革命を支援していたのです
梅屋は映画産業で得た莫大な金を革命軍に投じトクは労をいとわず孫文の面倒をみました。
しかしこれらの事実が歴史の表舞台で語られることはありませんでした
誰にも言うな。
孫文先生とわしのことは決して口外してはならん。
封印された夫婦の過去。
これは国々が大きく変わろうとする激動の時代を力のかぎりに生きたある夫婦の物語です
千世子:父梅屋庄吉は明治元年生まれ。
長崎の貿易商梅屋商店の跡取り息子でした。
ですがどうにも破天荒な性格で25歳の頃家を飛び出したまま行方知れずだったといいます
千世子:店の主吉五郎は放蕩息子に愛想をつかし男はもうこりごりだと言って養女を迎え入れます
トクさん無理せんでよかばい。
なんでんなか!
千世子:玄界灘に浮かぶ島壱岐で生まれ育った働き者。
それがトクでした
よう働いてくれよらす。
あの…番頭さん。
ん?庄吉さんは生きとらすとでしょうか?あんなぁあの人はいっぺん棺おけに入っとらすとさ。
子供の頃川で溺れたっさ。
そいで葬式ばい。
そいばってん棺おけの中からドンドンって息ば吹き返した男ばい。
どこぞで親分風吹かせて生きとうに違いなかとよ。
恐ろしかお人ですか?いいやいつでんニッコリ。
えびすさんごた人ばい。
ばってんあの人がおったら何か起きよっとよ。
この梅屋商店も今はベタ凪の安泰ばってん庄吉さんが帰ってこられたら大時化になっとよ。
見て見てあれ!庄吉ばい間違いなか。
来た…。
来た来た嵐の来た!いらっしゃいませ!あの…。
ん?お求めのものは?アンタ誰ね?ここの娘です。
娘?おるはずなか。
おらんって言いなさってもここにおりますばい。
アンタこそどこん人ね?はぁ?おいは庄吉たい。
この家の息子ばい。
庄吉!お父さん!どこでなんばしとったとや?香港香港たい。
写真館ば開いてひと山当てた。
写真館?自慢かそがんことが!荒れてきた荒れてきた。
先ほどはご無礼ばしてしもうて堪忍してください。
うん長崎ん米はうまか!トクばい。
壱岐のお侍様の家から来てもろうたとよ。
どがんね庄吉。
ん?祝言ばあげてくれんね。
誰と?トクと。
(ノブ)どがんね?一緒になって腰ば据えてくれ。
そうしてもらわんと死んでも死にきれんばい。
どがんね?庄吉。
千世子:精一杯の親孝行だったのでしょうか。
私の父梅屋庄吉はトクと祝言をあげます。
念願叶った吉五郎はその年の内に息をひきとりました
千世子:葬儀を終えて間もないある日
旦那さんの弔いも終わって静かな毎日ばい。
お前さんの天気占いはずれたね。
出かけてくっけん。
そうですかどこに?なんばしよらすと?見てんとおりたい。
どこに行かれるとですか?香港たい。
香港?じきに知らすっけん店とおふくろのことば頼む。
いつ帰って来なさると?わからん。
わからんって…。
恐ろしかお人ばい。
千世子:若い時分の父のことで聞かされているのはこれくらいです
佐々木:さて香港です
佐々木:香港で再び写真館を開いた旦那様でしたがある晩一人の男とただならぬにらみ合いの沙汰となりました
クッピン。
ありかよ。
佐々木:相手は播磨勝太郎。
イカサマ賭博で香港の人を食い物にしていた日本人です。
町中が困り果てていました。
それを知った旦那様は体ひとつで賭場へ乗り込み持ち前の度胸とはったりで一騎打ちの勝負を挑んだ。
いいカモだとばかりに播磨は受けて立ったのですが…
大丈夫か親分!?
佐々木:勝ち続けたのは旦那様のほうでした
親父の形見の上物だ。
勝負。
こい!もらったぜ。
ようやくきたぜ!ここから挽回だ!アラシ!三三六歩からひいたよ!播磨勝太郎。
さあどがんすんね。
あっしにはもうビタ一文ござんせん。
最後にこの体を張らしてくだせぇ。
命までいただこうとは思っとらんばい。
ばってんそん代わりアンタと若い衆この梅屋に預からせてもらおう。
佐々木:この大博打が旦那様の命運を分けました
近頃親分すっかり人が変わっちまったな。
おうおうおうおうお前もな。
この球から光が入って暗箱の中で写真になる。
その姿はこのすりガラスで見える。
へい。
光が足りんときはその…それそれ。
そのポン焚きを使う。
うわっ!コラ!粉がもったいなかろうが!すす…すみません。
旦那様の正義漢ぶりは香港中に知れ渡ることとなりました。
ちょっとした有名人です。
あっ旦那様の日記です。
ここにガンドリーとあります。
英国人ガンドリー。
医学博士ジェームズ・カントリーです。
カントリーは旦那様の男気に惚れ込んだ。
そして旦那様にご自分の教え子でもあるあのお方を引き合わせた。
(千世子)明治28年…。
奥様を残して長崎を離れた翌年です。
佐々木:写真館は客が希望する場所へ写真機持参で出向くという画期的なサービスで繁盛していました。
ある日旦那様はカントリー博士の指示でとある一室を訪ねます
(孫文)イエス。
はい。
佐々木:まさしくそれは運命の出会いと言えました
(播磨)準備万端です旦那。
うん。
整いました。
ではまいりましょう。
息を吸って…。
ヤーイーサン!
佐々木:孫文は広東省の貧しい農家に生まれました。
旦那様より2つ年上です。
香港で医学を学び医者になるのですが国のあり方に疑問を抱くようになります。
当時中国は欧米列強の圧力により国家の存亡に関わる重大な局面を迎えていました。
なのに政府はあいも変わらずです。
清朝の皇帝支配により民衆は以前にも増して苦しい生活を強いられていました。
そこで孫文は清朝政府を倒そうと革命を志すにいたるのです
イシンです。
維新?〜ミスターウメヤ。
〜一刻も早く兵を挙げてください。
私は財を挙げて支援ばします!
佐々木:梅屋庄吉27歳孫文29歳。
たった一度のこの約束で旦那様は孫文に対し莫大な額の支援を生涯続けることになります。
すぐに孫文は清朝を倒すために兵を挙げるのですが失敗に終わります。
その後もずっと失敗の連続でした。
それでも旦那様は資金を送り続けたのです
「1,300ドル孫へ。
その後たくさん出金あれども記憶詳細せず」。
今なら400〜500万といったところでしょうか。
それも何度も繰り返した。
際限なく送り続けたのです。
千世子:そしてお母様は待たされどおし。
それが9年間続いたと聞いております
千世子:祖母を見送ったところでとうとう母は動いた
千世子:長崎の店は番頭たちに任せて体ひとつで海を渡りました
トク!トク!こらっ梅屋庄吉!こん鉄砲玉!来たとか?うちぁずっと…ず〜っと待っとったとですよ。
いつまでも待ちきれんばい!痛い!9年ばいアンタ9年!やめんか…。
憎か!ほんとに憎か!堪忍堪忍て…。
おいの嫁さんたい。
トクと申します。
よろしく頼むばい。
(一同)はい。
はい!はい〜!まあまあ…。
どこん子ね?おいの子たい。
何て?違う!もらってきたっさ。
どこまでも恐ろしかお人やねアンタ。
いやほんとです奥様。
寺に捨てられとったみなしごです。
梅屋の旦那が情けをかけたんでさあ。
あそこにおっても育たんことはみんな知っとる。
こがん子ば見て見ぬふりもできんやろ。
それが証拠に3人ともみんな顔が違いまさあね。
それにどっこも旦那と似とらんでしょう。
みんな器量よしたいね。
ねぇ。
ああ…。
三日三晩かけてやっとんこそたどり着いてこいで普通の嫁になれると思うとったのにいきなり3人の子持ちか。
めでたいめでたい!めでたいめでたい!あの…。
置いといてください。
お願いします。
ふんどしも。
え?脱いで洗うけん。
はぁ…。
ここにはいろんなお人のおる。
あの…。
はいはいよかよか。
ねぇ今のハダカさんは何者ね?写真師の見習いのはずです。
ふ〜ん。
でアンタは?はい食べさせていただいてるような書生みたいな…。
みたいな?書生です。
じゃああん人は?支那の人です。
孫文先生を慕っている学生です。
ソンブン?はい。
新しい国をつくろうとなさってる方です。
うちん人とどがん関係のあっとですか?いったいどがん男と一緒になったとですかね私は。
よかときよか男に会うたと思うたらよかばい。
よう言いなった。
ハハハハハッ…。
孫文って誰ね?誰に聞いたと?孫文って誰ね?誰に聞いたと?ん?書生見習いみたいな人…。
あまり大きな声で孫文先生の名前ば出すな。
なんで?なんでて…。
今は国のピリピリしとる。
悪か人ね?立派なお人たい。
ならこそこそせんでもよかでしょう。
孫文先生はこん支那の国ば生まれ変わらせようとしとらすと。
明治維新のごた新しか国づくりばい。
ばってん役人にしてみたら邪魔くさか話ばい。
目えば光らしよる。
どがんふうに国ば変えっとですか?孫文先生に書いてもろうた。
わけへだてなく広く平等に愛すること。
そん言葉ば大切に思うとらすと。
まったくそのとおりておいも思う。
なあ。
ん?同仁。
うん。
私もそれん欲しか。
〜アンタ何ばしよっと?警察に追われとる。
革命の手引きばしとるて誰かが密告した。
逃げるとね?おいと一緒におったら危なかけんしばらく待っとってくれんね。
旦那急がないと夜が明けます。
いやです!もう待つとはいやです。
ついていきます!トク…。
佐々木:向かった先はシンガポールでした
何ば思いよらすとですか?革命のこと?孫文先生のこと?寒うなかや。
ひとつ聞いてもよかですか?ん…。
惚れなったとですか?孫文先生に。
ああ。
じゃあしようがなかです。
覚悟してついていきます。
ベタ凪の航海じゃあなかろうばってん。
待ちぼうけよりはましです。
佐々木:1年ほどして2人は日本に帰りました。
香港でもらい受けた子供たちも一緒です。
シンガポールで映画という新しい娯楽に出会った旦那様は今度は映画づくりに乗り出します
この活動大写真の文字をもっと大きくだ。
これを印刷に回してくれ。
今日中だ。
わかりました。
社長あがりました。
うん。
う〜ん…。
この活動大写真の文字をもっと大きくだ。
はい。
(ノック)はい。
中村歌扇様が到着なさいました。
そうね来なすったね。
よっしゃ!おもしろうなるぞ。
あっ…あ…。
佐々木:当時の映画は歌舞伎の伝統にならって役者はすべて男が務めていました。
ところが旦那様は常識を覆して初めて女性を役者として起用します。
それが中村歌扇でした
佐々木:映画は大当たり。
破竹の勢いで事業を拡大していきます
佐々木:宣伝の巧みさもずば抜けていました
よし決めた。
佐々木控えてくれ。
はい。
この広告切り抜きご持参の方に。
この広告切り抜きご持参の方に…。
定価半額にてご高覧に入れ申し候。
定価半額!?どうだ?大入り間違いなしです!フフン冴えとる。
ハハハハハハハハ。
佐々木:新聞広告を持参すれば料金が半額になる。
つまり割引クーポンです。
広告を見た人だけが得られる特典で読者の心をくすぐりました。
人々はこぞって足を運びます
佐々木:更にドキュメンタリーの分野でも先駆けとなりました。
国中が関心を寄せた白瀬中尉のあの南極探検。
大隈重信がその撮影を依頼してきたのです。
旦那様は即座にカメラマンの派遣を決断します
佐々木:国家の威信をかけた一大プロジェクトの記録
佐々木:満足な防寒具もない時代。
未知なる極寒の世界をとらえた決死の映像と言えましょう。
これが日本で初めての長編ドキュメンタリーとなりました
佐々木:この頃日本ではいくつかの映画会社がしのぎを削っている状態でした。
旦那様はこれを一つにまとめようと奔走します。
そしてできたのが日本活動写真株式会社日活です。
日本の映画産業は新たな時代を歩みはじめます
佐々木:快進撃で映画界の風雲児となった旦那様ですがその間にも革命の支援を続けていました
お父様にとって映画とは何だったのでしょう。
えっ?孫文さんにお金を送るため。
そのための手段に過ぎなかったということではないでしょうか。
いいのわからないままで。
映画で成功をおさめていた頃に私は生まれたのですよね?そうです。
千世子お嬢様がお生まれになってからというもの私はもうてんてこ舞いの毎日でした。
(千世子の泣き声)旦那様これではあの…お仕事に差し支えるのでは…。
何の問題もない。
気にするな。
千世子の泣き声はわしとトクとの幸せの勝ちどきみたいなもんじゃ。
(千世子の泣き声)それより佐々木。
はあ。
そろそろ乳を欲しがる頃合いではないかの。
あっ…おっしゃるとおりです。
はいでは…。
はい。
はいはいはい…。
ハハハハハ。
よしよしよしよし。
佐々木:お屋敷は日本家屋と洋館が連なる大きなものでした。
1,500坪ありましたから一部が撮影所として使われ大勢の人間が出入りしておりました
佐々木:奥様は我が子につきっきりというわけにはまいりません
あの…お…奥様。
はいはい千世子だね。
佐々木:何しろ食事から洗濯まで家にいる者みんなの世話を焼いて大忙しでしたから。
そんなわけで私が千世子お嬢様の子守役をおおせつかっていたのです
佐々木:旦那様は荒くれ者や道を外した者にも仕事を与えていたのですが奥様はそんな輩の下着まで洗っておいででした
千世子:使用人がいるのになぜそこまでするのか。
物心ついた頃一度尋ねたことがあります。
すると母はこう答えました
人の情を知らないまま大きくなった人には仏様のような心持ちで向かわないといけないの。
汚れをきれいさっぱり取ってあげて気持を伝えれば必ずきっと心が通じ合うようになるはずよ。
(佐々木)あの…絵を覚えてらっしゃいますか?ほら奥の間の。
海の絵?暗い海で船が燃えているのでしょうか。
炎があがっていて。
気持の晴れる絵ではなかったような気がします。
旦那様がじっと見ているときがございました。
佐々木:あの絵が私には謎でした。
旦那様が名のある画家に描かせたと聞いております
佐々木:奥様は気味が悪いとおっしゃってはずしてもらえないかと談判しておられました

佐々木:ところがあるときから奥様もあの絵を見つめるようになるのです。
月に1〜2度長い間2人で絵を見上げている
やがて私は次に起こることがわかるようになってきました。
次に起こること?送金です。
絵を見たあとは決まって孫文先生に送金なさいました。
佐々木。
はいただ今。
あいたフィルム缶ば持ってきてくれんね。
大中小?今日は大ばい。
はいかしこまりました。
上海行きは?ああそうね。
明日ね。
ついでにいつものあれ。
フィルム缶ば1つ骨折ってくれんね。
ああ正念場たい。
なら頼むばい。
あの…旦那様。
うん?少し詰め込みすぎではないでしょうか。
来月の撮影資金が底をついてしまいます。
そうなったら借りればいい。
銀行はそのためにある。
違うか?しかし借りたからには返さなくてはいけないんですよ。
ああ…せめてそのひと束だけでも。
あちょ…。
あ〜さっぱりした。
佐々木こん人は恐ろしか人です。
誰もせんことばしなさる。
そいば誰も止められんとですよ。
お言葉ですがお二人ともお気は確かですか?汗水流して稼いだお金です。
それがまるで羽が生えたようにどこかへ消えてしまう。
よその国のためになぜそこまでなさらなければならないのです?私には…。
つまらん。
貯め込んだところでつまらんではないか。
空になっとったほうがよっぽど心の躍るというもんばい。
佐々木:会社は火の車でした
佐々木:これは革命軍からの注文書です。
小銃7,000挺。
機関銃7門。
大砲5門。
旦那様は金の工面ばかりか武器調達の要請にも応えていました。
そのうえ更に中国で初めての航空隊までつくった。
滋賀県の飛行場に中国人留学生を集め革命飛行隊として訓練しました。
そして飛行機2機を戦場に送り込んでいます
いったい全部でいくら使ったのでしょう。
今のお金で数千億円あるいは1兆円近くかと。
どうしてそこまで。
さっぱりわかりません。
ただ私などとは心根が違うのだとそう思うようになりました。
なんというかその…。
高潔な精神というか真心というか…。
よその国を助けるとかいうのではなく目の前にいる友人のために出来得るかぎりのことを迷わずする。
他人とは思えなかったのではないでしょうか。
中国の人が。
旦那様と奥様の生き方はそこにあったのではないかと。
その証しがこの箱に詰まっています。
どうでしょうお嬢様お二人の献身ぶりを世に問うてみては。
それはできません。
お父様が亡くなったとき私は25です。
口外してはならない理由を承知しています。
革命家孫文が交流した初めての日本人が父梅屋庄吉です。
それを糸口にたくさんの日本人と接し支援の輪を広げました。
でも日本の政府は列強の出方をうかがってばかりで革命を支持する態度を見せません。
孫文とのかかわりはのちのち国に睨まれることになるかもしれない。
そうなれば支援に加わった人たちに迷惑がかかる。
だから父は口外を禁じたのです。
確かにその後の日本は日中戦争への道を突き進んでしまいました。
しかし今はもう戦争の時代ではありません。
中国とは国交が途絶えたままです。
誰一人知る者もなく忘れ去られてしまいます。
私にも葛藤はありました。
人に言えないもどかしさがいやでした。
自分の親はいいことをしたんだとそう信じていますから。
でも戦後この国は昔のことを忘れるのに夢中です。
声高に何かを言うことにはためらいを感じます。
もう少し話をさせていただけますか。
佐々木:旦那様が孫文先生と出会ってから16年が過ぎたある日…
(佐々木)旦那様。
ん?ごめんください電報がきました。
上海からです。
「武装蜂起成功資金乞う」。
トク。
お〜梅屋の兄ぃやりましたのう。
お〜!萱野君早速上海に飛んでくれんね。
ええ今日明日にでも行こう思ってます。
ひとつ頼みがあっけん。
こっちこんね。
うちの撮影技師たい。
一緒に連れて行ってくれんね。
は?革命の戦場ばカツドウで撮ろうと思うて。
おおそりゃいい考えですな。
荻屋です。
よろしくお願いいたします。
うん。
孫文先生からな…。
旦那様。
どうぞ。
梅屋の旦那。
播磨じゃなかね。
戻ってきとったとか。
はい。
メリケンの活動写真を仕入れて興行しようかと企てておりやす。
ハハハッ…そりゃよかね。
その節はご厄介おかけいたしました。
孫文先生の後押しあっしにもひと口加担させてください。
なんね。
支那が大きく動くと聞きました。
ですんでどうぞこれを。
あっしが賭場で丸裸にされたときの高に比べればほんのスズメの涙ではございますが。
まっとうに稼いだ今のあっしの精一杯の男気です。
わかった。
ありがたくちょうだいする。
歴史が動く大事な場面を回してくるわけですね。
ああそういうことだ。
さぁ待ちに待ったる大一番たい。
(一同)お〜っ!
佐々木:ついに革命軍が勝利をおさめます。
辛亥革命の勃発です。
孫文は南京で臨時大総統に就任します。
ところが中国北部では清朝と関係を密にしていた袁世凱が勢力を伸ばし革命遂行の妨げとなっていました。
熟慮の末孫文は袁世凱に大総統の座を明け渡し代わりに皇帝を退かせる作戦に打って出ます。
はたせるかな清の皇帝は退位を余儀なくされました。
ついに孫文は数千年におよんだ中国の皇帝支配に幕をおろさせたのです
覚えとるか?まぁ16年も大事に持っとったとですか。
恐ろしかお人ばい。
佐々木:そしてついに孫文先生との再会の日がやってきました
(汽笛)
佐々木:待ちに待った再会のとき
(佐々木)旦那様。
あのお方?孫文先生!梅屋さん!
佐々木:旦那様と孫文先生が交わしたあの約束の日から18年の歳月が流れていました
この日が来るのをお待ち申しておりました。
〜さぁさぁ先生。
こちらへどうぞ。
佐々木:この日旦那様は映画館を借り切っていました
こちらです。
よろしくお願いします。
客あれだけかい?はい。
興行打てば大当たり間違いないだろうに。
あぁ…ハハッ。
佐々木:それを承知のうえでこのときを待っていたのです
佐々木:公開されることなく眠っていた革命の映像。
中国で撮影したフィルムを旦那様が自ら編集した記録映画です
佐々木:革命のとき諸外国に理解を求めるため外遊を重ねていた孫文先生は戦場の現場を見ていません。
旦那様はひとり孫文先生に見せるためそのためだけにこの映画を作ったのです
佐々木:2人だけの上映会でした
オフコース!もう1回!はい!
佐々木:しかし勝利の余韻に浸っている時間は長くは続きませんでした。
袁世凱が革命勢力への弾圧を始めたのです。
革命指導者は暗殺の危機にさらされます。
追われる身となった孫文先生が亡命先に選んだのは日本。
旦那様のお屋敷に身を潜め傷心の日々を過ごしていました
(ピアノ)〜
佐々木:唯一の慰めとなったのが同行した秘書が奏でるピアノの音色…。
というより彼女の存在そのものでした。
名を宋慶齢といいました

佐々木:ところが程なく恋の相手は両親の待つ上海へ帰ってしまいます。
そこへ手を差し伸べたのが奥様でした
先生ラブシックですか?トクさん。
結婚したいのですか?マリッジを?トクさん。
わかりました。
佐々木:奥様は私を呼び出し上海に使いの者をたててくれと言います。
孫文先生の気持を宋慶齢に伝えるためです。
私はそのように計らいました。
するとどうでしょう。
宋慶齢は再び日本の土を踏むことを決意するのです。
彼女もまた孫文先生に思いを寄せていたのでした。
奥様の計らいで2人は日本で結婚式を挙げる運びとあいなりました
めでたか!実にめでたか。
トクでかしたぞ!あちらのご婦人に。
おめでとうございます。
シェイシェイ。
シェイシェイ。
佐々木:宋慶齢という伴侶を得た孫文先生は再び中国に戻り不屈の闘志で袁世凱の軍閥政治に立ち向かいます。
そして旦那様も支援を続けました
これは?孫文先生の筆です。
旦那様がお召しになっていたものに書かれました。
ありがたいとおっしゃって写真におさめて。
賢母?見返りを求めない無償の愛を指す言葉だそうです。
無償の愛?旦那様に贈られた言葉です。
いや旦那様と奥様お二人に贈られたのかもしれません。
佐々木:結婚式から10年ほどが過ぎたある日
電報です。
北京からです。
はいご苦労さま。
(佐々木)旦那様!どうした?これを!
佐々木:孫文12日朝9時半死去す
佐々木:孫文先生は志半ばでがんに倒れました
佐々木:その日旦那様は部屋にこもられたままでした
佐々木:旦那様と奥様は南京で執り行われた国葬に参列なさいました。
その様子を伝える映像を見たことがあります。
お二人とも泣いておられました。
泣きじゃくっておられました
佐々木:その後日本が歩んだ道…。
中国との関係は悪化の一途をたどりました
佐々木:そして昭和8年。
旦那様は憲兵隊に拘束されます。
政府を非難する電報を打ったという嫌疑をかけられたのです
梅屋さん…アンタ国を売りましたね。
なんかの間違いばい。
何ひとつ恥じることはしとらん。
いいやアンタのしわざだ。
佐々木:事実無根の濡れ衣でしたが家宅捜索の手がおよぶ前に私は革命にかかわる資料を避難させました
白状したらどうだ?日中親善なんぞ言語道断!どういうつもりか!?この売国奴が!
佐々木:しばらくして旦那様は釈放されます
佐々木:この頃旦那様は海辺の別荘で過ごしておいででした
遠かね。
はい?遠かところまで来てしもうたね。
えぇ。
教えていただけませんか?ん?どうしてあそこまでなさったのか教えていただけませんか?孫文先生のことです。
佐々木にはよかでしょ。
まだ14かそこらのガキん頃ばい。
隠れて船に潜り込んで上海に密航したことのある。
おいはムチャばっかりしよった。
上海の港で…。
おいと同い年くらいのもんが荷ば担いどったっさ。
クーリーたい。
西洋人の奴隷やった。
ボロ雑巾のごた服ば着て細かったっさ。
今度は19んときばい。
アメリカ行きの船に潜り込んだっさ。
そしたら中国人のクーリーが3人…。
コレラにかかってしもうたっさ。
どがんしたと思う?白人の船員たちが…。
一人ずつ袋に詰めよった。
詰めて袋ごと海に放り投げよったっさ。
生きたまんま次々放り投げよったっさ。
叫んどった。
「助けてくれ!」て…。
「なんで?」て思うた。
思うとっても何もできんやった。
申し訳なか気持の…。
今も張りついとる。
そのあと…。
どがんわけか船の火事になりよった。
しまいにゃ沈んでしもうた。
気がついたら離れ小島に流れ着いとった。
助かったとはおい一人やった。
〜おかしかろうが。
ん…。
同じやろうも。
肌ん色の違うても言葉の違うても誰も一回きりしか生まれてこれんとやけん同じやなかね。
そがん思うとったらあん人に会うた。
よかときよか人に会うた。
やけんあん人に賭けた。
全部賭けた。

佐々木:しばらくして旦那様は病に伏せり齢65でその生涯を閉じました
呼んでいただいたわけがようやくわかったような気がします。
幸せだったのかもしれません。
日中戦争が始まる前に亡くなって旦那様はお幸せだったのかもしれません。
それからあとは泥沼だ。
お嬢様。
ご両親が信じて貫いた人生箱に封印したままではこの佐々木悔いが残ります。
どうかお引き受けください。

千世子:佐々木に会うのはこれが最後となりました
千世子:その後私は箱に詰まっていた事実そして佐々木から伝え聞いたことをポツリポツリと身内の者や報道関係の方に話すようになりました
千世子:やがて日本は中国との国交を回復。
私は夫とともに中国に渡りました。
宋慶齢さんが私に会いたいと招待してくださったのです
千世子:宋慶齢さんは孫文なきあとも国家副主席を務めるなど激動の時代をたくましく生きた女性
千世子:昭和53年北京。
私が花束を渡したあの結婚式の日から63年ぶりの再会です。
日本を懐かしみ大切な過去をいとおしみながらの貴重なひとときでした
千世子:帰国後宋慶齢さんから手紙が届きました。
「あなたのご来訪により当時の思い出がよみがえりました。
梅屋庄吉先生とトク夫人孫先生ならびに私との友情の思い出です。
かけがえのない4人の友情。
たとえ時を経て世の中が変わろうともそれは決して消せるものではありません」。
消せるものではない。
「あたわず」のところにわざわざ線が引かれていました。
この手紙を読んだとき改めて両親のことを語り継ぐべきなのだと強く思いました
封印された物語に光が当てられたのは胡錦濤来日の日のことでした
2008年5月中国国家主席胡錦濤は空港到着後都内のレストラン日比谷松本楼を訪ねたいと申し入れます。
実は松本楼には辛亥革命と孫文の資料が保管されていたのです。
中国は戦争と文化大革命により資料のほとんどを失っていました
案内役を務めたのは松本楼の小坂文乃。
千世子の孫つまり庄吉とトクの曾孫です
中国国家主席が初めて目にする孫文の資料
胡錦濤はある額の前で記念撮影を始めます
孫文が梅屋に贈った「同仁」の扁額です
そして2013年。
中国政府から長崎に銅像が贈られました。
梅屋庄吉トクそして孫文の像です
2014/02/26(水) 21:00〜22:48
テレビ大阪1
ドラマ特別企画 たった一度の約束〜時代に封印された日本人〜[字][解]

日本の映画産業発展の礎を築いた男・梅屋庄吉と妻トクの知られざる波乱の生涯を、実存の資料や映像を交えて描くノンフィクションドラマ! <出演>柳葉敏郎、夏川結衣ほか

詳細情報
番組内容
長崎の貿易商の跡取り息子として育った梅屋庄吉(柳葉敏郎)は、25歳の頃家を飛び出し行方知れずになっていた。その後、香港から帰ってきた庄吉はトク(夏川結衣)と出会い結婚。しかし庄吉は再び、ひとり香港へ旅立つ。香港で立ち上げた写真館が大繁盛するなか、庄吉は革命に情熱を傾ける中国人・孫文(奥田達士)と運命の出会いを果たす。庄吉は革命を支援するため、資金援助を続けるが…。 ◇解説放送あり
出演者
 梅屋庄吉…柳葉敏郎
 梅屋トク…夏川結衣
 孫文…奥田達士
 宋慶齢…清水ゆみ
 播磨勝太郎…平賀雅臣
 梅屋吉五郎…吉澤健
 梅屋ノブ…吉村実子
 秘書佐々木…篠井英介
 国方千世子…原田美枝子
原作脚本
【原案】「革命をプロデュースした日本人評伝 梅屋庄吉」小坂文乃(講談社刊)
【脚本】石澤義典、青木研次
監督・演出
【監督】石澤義典
制作
【製作】テレビ東京、BSジャパン、電通
【企画協力】日活
【制作協力】テレコムスタッフ
ホームページ

http://www.tv-tokyo.co.jp/tattaichido/

ジャンル :
ドラマ – 国内ドラマ

映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
サンプリングレート : 48kHz
2/0モード(ステレオ)
音声ガイド有り
サンプリングレート : 48kHz

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