「NHK俳句」毎月第2週は小澤實さんです。
どうぞよろしくお願い致します。
今日の兼題は「海苔」。
海苔は五感を刺激する楽しい季語ですね。
パリパリって…。
パリパリっていうあの音ですよね。
そして触覚も楽しめますし見ても楽しめますし香りそしてあじわいという事で五感になりますね。
冒頭の句は?小澤さんの…。
私高級なチーズも好きなんですけれどもプロセスチーズを海苔で巻いて食べるのが大好きでちょっと飲み足りないなという時飲み直す時の肴として自分で作って楽しんでおります。
今日もよろしくお願い致します。
ゲストをご紹介致します。
今日は輪島塗の塗師である赤木明登さんにお越し頂きました。
よろしくお願い致します。
よろしくお願いします。
赤木さんはもともと雑誌の編集者として働いていらっしゃったんですが偶然出会った輪島塗に引かれてそれまでの生活から一転輪島に行かれそして塗師漆を塗る職人となられたんだそうですね。
小澤さんお知り合い…。
10年ほど前に「茶の箱」という本を出版したんですけれども私は文章で参加して赤木さんの作品に初めて出会いました。
シンプルであじわいのある作品に出会って友達になりたいなというふうにその時から思っておりました。
そして今ここにご一緒に並んでいらっしゃるという…。
そもそも赤木さんは何に引かれて東京から輪島に行かれたんでしょう?それは恋愛と一緒でひと言で語れないところが難しいとこなんですけれど漆って普通きらびやかで豪華なイメージがありますけれど僕にとっての漆のイメージってちょっと違いましてどちらかと言うと漆っていうのは静けさと深さを同時に湛えたような材料なんですね。
そういうものが今の騒々しい世の中の日常空間の中にポンと一つあるととっても心が和むというか温かい気持ちになるような気がするんです。
確かにそうですね。
漆のおわんを手に持つとそれだけで静かな気持ちになれるような気がしますね。
それと同時に漆って固まるととっても硬い素材なんですけどにもかかわらず手で触れると温かみそれから軟らかさを感じる事ができるんですね。
それがまた器としてすごくいい役割を果たしていて食べ物をよりおいしくしてくれる。
そういう実用的なところもすばらしいと思います。
さあその器の赤木さんがお作りになった作品を実はお持ち頂いてこの中に…。
開けてみて頂けますか?今日の兼題の海苔が入っています。
この海苔は?赤木さん。
これ今年採れたばっかりの能登の天然の岩海苔ですね。
僕と一緒に仕事をしてくれているイケシタさんっていう76歳の木地師さんがいらっしゃるんですけどその方が毎年挽いたおわんの木地と一緒に季節のおいしいものを届けてくれるんですね。
それがこの海苔なんです。
これ今岩海苔ですけど実はこのあと2月になると浜菜っていう海苔になり3月になるとかすかもという海苔になるんですね。
海苔って一つの海藻だって我々思ってましたけど実はいろんな種類の海藻が季節が巡るとともに変化をしていって味も色も香りもずっと移ろっているんですね。
そういうものに敏感になりたいなと思います。
かないませんねそれは。
能登に住まないと。
やっぱり地元ならではの楽しみだと思いますね。
こう見ると能登の岩海苔肉厚ですよね。
これ地元の農家のおかあちゃんたちが手で岩場で寒い思いをしながら摘んでそれを少しずつ少しずつ干してためていくんですね。
ぜいたくな…。
貴重なものですね。
ありがとうございます。
俳句についてはいかがですか?
(2人)ハハハ…。
俳句いかがでしょう?お恥ずかしい限りなんですけど…。
僕はふだん俳句は詠まないんですがたまたま小澤さんをはじめ俳句を詠まれる酒飲み友達が大勢周りにいるんですね。
飲んでる席でいきなり句会になったりするもので無理やり句を詠む事を強要されたりするんです。
また後ほどご紹介下さい。
よろしくお願いします。
それでは小澤さんが選ばれました入選句ご紹介してまいります。
まず1番です。
海苔をあぶっているうちにちょうどいい食べ頃の香りとなったという訳ですね。
「ころあひの香」っていうのがうまいじゃないですか。
海苔ってどちらかって言うと軽やかな感じですよね。
この句自体が軽みみたいなものを持っていてその2つがシンクロしててとてもいいイメージになってると思います。
「ころあひ」「香」っていうのは調子がいいですよね。
K音が気持ちがいい。
K音って久しぶりですね。
では2番です。
手巻寿司の準備をして焼海苔を手巻寿司の海苔の大きさにしていると。
それが四等分でできたというところが楽しいです。
これから手巻寿司を楽しもうという心躍りも感じられてきます。
では3番です。
待ち構えているんですね。
海苔を掻きたくてたまらないんです。
そしてようやく岩礁が現れてきた。
そして現れた途端に飛びついてそこで海苔を掻いているという。
それまでの期待感みたいなものまで伝わってくるいい句ですね。
実は海苔採りっていうのは天然の場合すごく厳しい環境の中での作業だと思うんですよね。
荒波をよけながら海苔のある所にたどりつく。
そういう風景が目に見えるようです。
では4番です。
海苔を焙る役っていうのが家族の中であってそれをずっとお姉さんがなさってた訳ですね。
そのお姉さんに憧れていてなんとか譲ってほしいんですがお姉さんに許されなかったのがようやく許されたという。
その喜びが書かれています。
回想の句だと思うんですがまさに現在としてほほ笑ましい2人の姉妹が見えてきました。
ちょっと大人になったような喜びみたいな…。
なかなか難しい事ですからね海苔焙るっていう仕事は。
何か成長みたいなものを感じますね。
と同時にほほ笑ましい姉妹の関係とその間から香ばしいいい海苔の香りが漂ってくるような…。
気持ちがいいですね。
いいホームドラマですよね。
家族の食卓が目に浮かびますよね。
では5番です。
この音がよかったですね。
「さくさくさく」という音が軽くていいです。
そしてその音によって1回折って2回折って3回折ってというその手順も見えてきますね。
音でそこまで見せるというのが巧みです。
では6番です。
この道具が牡蠣殻だったというのが驚きでしたね。
現代の道具ではなくて自然の牡蠣の殻を使って海苔を岩から掻き取っていると。
もしかすると古代からこういうものを使っていたんじゃないかという。
それをそのまま使ってるというところが驚きでした。
では7番です。
こんな事も俳句になるんですね。
それがまず驚きなんですけれども。
ホントに些事なんですけれども楽しい句です。
読み下ろしていって「すぽん」という音がまず楽しいですよね。
いい音を聞き取って下さいました。
それから「海苔の缶」というところまで来てこれは海苔だったんだという事が分かってパッと香りが広がりますよね。
それがまた楽しい。
この句を読んだ途端にちょっと笑っちゃいますよね。
確かに「すぽん」だったなって。
すぽんと開けると中にパリパリに乾いた海苔が入っている。
それがよく伝わってきます。
では8番です。
小波の来る辺りの海苔っていうのはみんなに採り尽くされている訳です。
それで大波がかぶる所まで行って掻かなければという事なんでしょう。
海苔掻きの争いですかね。
ライバル同士の争いみたいなものまで感じられる句ですね。
では9番です。
海苔舟に摘み取った海苔を積み込んで帰っていく舟ですね。
喫水の深い所までつかりながら戻っていきます。
この「喫水深し」で海苔の豊漁を示しているというのがうまいです。
見せてくれてます。
以上が入選句でした。
特選三句をご紹介する前に「俳人のことば」をご覧下さい。
(青)上海からかなり離れた所に宝山城宝の山の城という城壁を巡らせました古い町がございますがこの城外には揚子江が海のように広がっておりまして水が濁っておりました。
柳が青み足元にはたんぽぽが咲いておりました。
悠久というものを見たような気が致しました。
東京帝国大学の工学部で教えていた山口青はドイツへ留学。
その最初の寄港地が上海でした。
長江の流れと越冬して咲くたんぽぽを詠み海外俳句の先駆けとなりました。
しかし帰国の年に第2次世界大戦が勃発。
青は時代に翻弄されながらも随筆や句集を刊行しやがて終戦を迎えました。
(青)講和条約が成り立ちまして曲がりなりにも日本は完全独立をした。
めでたいようなめでたくないような…。
そこで昨日残したビールを飲んだという事になるんでありますが実際は飲めるものではありません。
青は過去に区切りをつけ未来へ歩みだそうとしたのです。
それでは本日の特選句です。
まず第三席はどちらでしょう?大矢知順子さんの句です。
二席の句です。
岸下庄二さんの句です。
一席はどうでしょう?久我渓霞さんの句です。
この句は「現れし」「跳んで」「掻く」と3つの動詞が使われているんですけれどもそれがゴタゴタしないうまくまとめられています。
たくさん動詞を1句に入れるという事は大変難しい事で避けるべきともいわれてるんですけれどもこれはうまく処理しましたね。
巧みでした。
スピード感もありますしね。
そうですね。
以上が今週の特選でした。
ご紹介しました入選句とそのほかの佳作の作品はこちらNHKの俳句テキストに掲載されます。
俳句作りのためになる情報も参考になさって下さい。
続いては「入選の秘訣」です。
ここを変えれば入選していたというあと一歩をクリアーするポイントを教えて頂きます。
今日は物を確かに詠むという事をお話ししたいと思います。
こういう句がありました。
おいしそうな句なんですけれども気になったのは「焼海苔の香を揉み落とす」というとこですね。
焼海苔を揉み落とす事はできるんだけれども焼海苔の香を揉み落とすというのはちょっとできにくいんじゃないか。
ちょっと「香を」というところが上ずっているのではないか。
言いたくなりますけど…。
そうですね。
言いたくなるんですけどそれを抑えて頂くのが俳句で一番大事な事ではないかと思うんですね。
それで「香を」は削って「落とすなり」とします。
それで「焼海苔を揉み落とすなり散し鮨」というふうにしてみたいと思います。
散し鮨は夏の季語にもなるんですけれどもこの場合は焼海苔が中心と考えて春の句というふうに思いました。
ありがとうございました。
どうぞ参考になさって下さい。
それでは皆さんからの投稿のご案内です。
番組のホームページからも投稿できます。
それでは小澤さんの年間のテーマ「身体であじわう季語」です。
海苔という季語は五感で楽しむというなかなかあじわいのある季語なんですけれども2つの場面で詠まれました。
海辺の生産地ですね。
それからそれぞれの家庭での消費地と。
その両面があるんです。
今まで作られてきた多くの句は海辺での生産地での佳句が優れた句が多いんですけれども消費地での句っていうのは割と少ないんですよね。
その中で一番の名句というのはこの句だというふうに僕は思っています。
芭蕉が海苔を食べた時に奥歯で海苔についていた砂をかみ当ててしまったんですね。
その時に自分自身の体の衰えをしかと受け止めたという句なんです。
海苔というのが初めて「歳時記」に載せられるのは芭蕉が亡くなった年でこの当時はまだ「歳時記」に未登載の新季語だったんですよね。
その新しい季語を使ってここまで人生の深さを書き留める芭蕉という人のすごみを感じる句でもあるんですけれども。
いかがですか?僕もこの句は大好きな句なんですね実は。
調べてみると芭蕉さんが48か49歳の頃に詠まれた句らしいですけれど我々ももうその歳を越えてしまい老いと向き合わざるをえない年になりつつあるんですけどこの句の中に老いっていうネガティブなものが詠まれているにもかかわらずどこか明るさがあるんですね。
その明るさが我々にとっても希望のような感じがして心が安らかになる。
そういう句でもあると思います。
そうですね海苔の力ですよね。
実は今日大切なものをお持ち頂いているんですよね。
たまたまなんですけれど実は以前から小澤さんがうちに遊びにいらしたらお見せしようと思っていたお軸だったんですけどそれの句の冒頭が先ほどの芭蕉の句なんですね。
これを書いたのは森川許六という芭蕉の弟子のお一人なんですが画才なんかもあった方のようですね。
芭蕉の句が2句冒頭にございましてそれから芭蕉さんっていうのは日常の取るに足りないものと思われていた海苔のようなものを俳句に取り上げてそれを文学まで高めたすばらしい人だというような事が書かれてあるんですね。
それを読んだ時に僕がグッと来たのは実は僕自身も日常の器を漆で作る人間なので日常の器こそ美しくあってほしい。
芸術とまではおこがましくて言えないですけれどそういうものを作ろうと思ってる作り手としての僕の気持ちとここに書かれている事がぴったり来たんですね。
すばらしい軸を見せて頂いて感激しています。
いえいえ。
ホントにたまたまそうだったんですね。
僕の選んだ句をお持ちだったという…。
その偶然がすごく感動しましたね。
さあここで冒頭お二方で少し苦笑いをしていましたが赤木さんの俳句を…。
とうとう。
とうとうご紹介頂くという事で…。
お恥ずかしい次第なんですけど…。
海苔を詠んで下さいました。
この俳号はやっぱり漆の?漆の子どもってこれも先ほどの飲み仲間の俳人の方々に飲んでる最中に付けられてしまいました。
いい名前ですよね。
ありがとうございます。
そして俳句もなかなか本格的で海苔を喰うところから「千年前の人と成る」という大きく飛躍されましたね。
千年前を思い出すとかそういう事ではなくて「千年前の人と成る」というのが大胆ですばらしいと思いました。
「千年前」という断言がまたいいと思います。
海苔っていうのは恐らく縄文時代から古代中世近世通じて日本人の食卓に上ってきたものだと思うんですね。
やっぱり天然の海苔の磯の香りをあじわう度に恐らく千年前の人もこういう気持ちだったんだろうなって思うとついつい千年前の人に成ってしまうというそういう困ったたちなんですが。
それはいいたちですよね。
ただ僕これここに出しておきながら実はこれでよかったのかなという思いもあるんですね。
というのは例えばこの「海苔」っていうところをあわびに変えてしまってもくりに変えてしまっても句としては成り立つんじゃないかな。
そういう句でもいいんでしょうかね?確かに「あわび喰ふ」にしてもいいし「くりを喰ふ」にしても面白い句にはなりますよね。
ただ海苔ほどはよくないんじゃないでしょうか。
海苔っていうのは薄いながらも非常に力が籠もっている食べ物という力の自然のエネルギーがその薄い中に籠もってるような不思議な食べ物ですよね。
そうですね。
その不思議さを食べてというところに何か仙人になるようなそんな不思議なあじわいが生きて海苔は動かないという感じを受けました。
海苔もそうですし千年前といえば漆もホントに昔から…。
そうですね。
縄文時代から日本人は漆の器を作り続けてきてるんですけど今の形のおわんが大量に作られるようになったのはろくろの技術が発明された平安時代なんですね。
それからおわんの形っていうのは作り方も使われ方も塗り方もほとんど変わらず千年続いてきてる訳です。
千年続いたというのは日本人の生活の中で何か基本的なものを漆のおわんが支え続けてきたからではないかと思うんですけれどそういうものをやっぱり千年前に遡って器を考えていく事によって自分のものにしていきたいと。
過去に遡る事によって新しいものを作るというのが僕の仕事のやり方なのでそれはどこか俳句にも通じるんじゃないですか?通じますね。
その原点と向き合いたいというのはありますね。
海苔だったら海苔が使われた最初をたどってみたいという事で芭蕉の事を考えたりというのは全く通じる事だと思いますね。
そういう意味ではこれからも俳句もますます…。
精進します。
そうですね。
俳人としての漆子さんにも期待したいですね。
いえいえ。
漆はもちろんなんですけれども。
今日はありがとうございました。
今日は塗師の赤木明登さんにお越し頂きました。
ありがとうございました。
小澤さんまた次回もどうぞよろしくお願い致します。
それでは「NHK俳句」今日はこの辺で失礼致します。
2014/02/12(水) 15:00〜15:25
NHKEテレ1大阪
NHK俳句 題「海苔(のり)」[字]
選者は小澤實さん。ゲストは輪島塗の塗師、赤木明登さん。輪島塗は日常使う食器だが、同時に芸術作品でもある。俳句も同様に日常の些細なものを芸術に昇華する。題「海苔」
詳細情報
番組内容
選者は、小澤實さん。ゲストは輪島塗の塗師、赤木明登さん。輪島塗は日常使う食器だが、同時に芸術作品でもある。俳句も同様に日常のささいなものを芸術に昇華する。題「海苔」。【司会】桜井洋子アナウンサー
出演者
【出演】赤木明登,小澤實,【司会】桜井洋子
ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – 文学・文芸
趣味/教育 – 生涯教育・資格
映像 : 480i(525i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
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