相棒〜警視庁ふたりだけの特命係 #7 #8 2014.02.11

(雨音)
(倉沢正)うまいじゃないか…!
(三好倫太郎)それを飲んでも気持ちは変わりませんか?これも…売れるかもしれんな。
(三好)倉沢さんっ…!悪いな。
もう決めたんだ。
どうしてもダメなんですかっ!?こっちも死活問題なんだよ。
(叫び声)
(亀山薫)だいたいお前が遅刻するから悪いんじゃないか。
(奥寺美和子)あぁ遅刻したさ!遅刻したが食事の間ずっと不機嫌な顔して私の遅刻リスト3年前まで遡って言い続けるか!?あぁどうせ俺は細かいことをグチグチ言い続けるケツの穴の小せえ男ですよ!そんな男が気に入らなきゃなどうぞ出てってください!ああっ!?なんで私が出てかなきゃなの?あんたが出てきなさいよ!だって遅刻したのお前だろ!ほら…!また「遅刻」って言った。
ああ遅刻。
遅刻!ち〜こく遅刻!もう信じらんない!あんた!やーい遅刻!な〜にが「信じらんない」だよ。
俺のほうが信じらんねえよ!自分が悪いくせに!なんで「ケツの穴小さい」とか俺が言われなきゃなんないわけ!?いつ私がそんなこと言ったよ?自分で言ったんでしょ!おい!ちょっ…マジで出てくのかよ?マジだよ!このケ…ケツ男っ!!「ケツ男」って!?ケツ男…意味わかんねえなぁ!バカッ…!頭くんなもう…!…昨日のだ昨日の!アツッ…!なんだいチクショウ…!どうせ帰ってくるくせに。
(チャイムの音)んっ…?まだ10分しかたってないじゃないかよ。
お前などうでもいいけどもうちょっと頑張れよ!…どなたですか?アキコ・マンセルです。
はっ?荷物お願いね。
いやお願い…ちょっと!
(パトカーのサイレン)
(米沢鑑識官)杉下警部ーっ!!
(パトカーのサイレン)近所の聞き込み回ってくれ。
(杉下右京)被害者の身元を教えていただけますか?
(刑事)倉沢チェーンの社長倉沢正50歳です。
倉沢チェーン?都内に何件か飲食店を経営してる会社らしいですが。
どうもありがとう。
(監察医)ちょうど腰の大動脈付近をひと突きですね。
(米沢)大動脈…。
ひと突きですか…。
あれっ!?警部どうしてここへ?あなたに呼ばれましたから。
あそうですか…。
それよりも町中で「警部」と叫ぶのはちょっと…。
それは…失礼いたしました。
(伊丹刑事)被害者は都内に10店の飲食店を持っていますが昨今の外食不振のため経営はかなり苦しかったようです。
ほとんどの店が赤字か利益が出ない状態です。
(刑事)ほとんど?
(伊丹)ええ。
この「リメンバランス」というバーだけ黒字なんです。
(三浦刑事)また最近このバーのカクテルを缶入りにして売り出すという話もあってここだけが順風満帆なんです。
彼が被害者ともめる要素は見当たりません。
被害者を殺せば缶入りカクテルの話もなくなりますし。
(伊丹)つまりこの「リメンバランス」以外全員が被害者ともめる動機を持っていたことになります。
(伊丹)この「リメンバランス」は除外してもよろしいでしょう。
(管理官)よし!では彼以外の9人で絞り込み作業を行う。
あの美和子にはここに来ること言ってありますよね?ええもちろん。
去年の今ごろ。
ですよねぇ!それなのにあいつ…去年?え?え…?ここに来るって言ったの去年なんですか?ええ!あなた私のこと何も聞いてないの?いやあのイギリス人と結婚したおばさんがいるってのは聞いてたんですけどもまさか突然いらっしゃるとは…。
お気になさらないで。
あと3日はこちらに居ますから。
え?「こちら」って…こちら?ええ。
…なにか?いえいえ別に!あら…あなた朝はパンなの?いえロンドン暮らしの方にはこのほうがいいのかと思って。
お気になさらないで。
私ご飯をいただきますから。
えっ…?私あちらでも毎朝ご飯なんですよ。
いやあの…でもそうするとこれから炊くことに…。
私待つのは平気ですから。
いや…俺これから仕事…かしこまりました。
まぁ…それであのご飯を炊いてまして…。
それが遅刻の理由ですか?はい…。
あっすみません!その場合は構いませんよ。
あびっくりしたぁ…!あぁ〜ぁ…早く帰ってくんねえかな。
美和子さんですか?おばさんのほうですよ!それが聞いてくださいよ!「お気になさらないで」とか言いながら人使い荒くって!なぜ突然日本に?それが行きたい店があるから日本に来たんだとか。
ほぅそれでロンドンから。
うちに泊まってんですよ。
どっちがいいですかねえ?そりゃホテルとってもらうほうがいいですよ!知らない人だもん。
(美和子)それより被害者の身辺情報がもっと欲しいの。
4方面回りの鈴木さんに協力してもらってさ…。
いつでも携帯に連絡ください。
ハーイ!よろしくお願いします。
俺の電話は出なくても仕事の電話はするんだ!こういうとき仕事場が一緒だと助かるよ。
昨夜はここに泊まったんですか?
(美和子)私だって泊まるところくらいあります。
あ〜っそ!へぇ〜!ちょっと何の用ですかっ!?ロンドンのおばさんがうちに来ています!アキコおばさんが?なんで?お前がいつでも来いって言ったんだろ?ん〜言ったかも!な〜んか行きたい店があるんだってさ。
行きたい店?はっきり言って台所事情は厳しいです。
広げすぎたんですね…。
でもやっとうまくいきそうなところだったのに!…と言いますと?缶入りカクテルを出す話が進んでたんですよ。
ああ…この店のですね?はい。
そこのカクテルを商品化したいと食品会社が言ってきて。
そんなにそのマスターのカクテルはおいしいんですか?この世界ではかなり有名なんです。
中でも評判のいいこの5つのカクテルを出そうって。
失礼。
みんなオリジナルカクテルですか?はい!あなたのお薦めはどれでしょう?そうですねぇ…どれもおいしいけど…。
あたしはこれかな?「ホームスイートホーム」…。
あぁ…お待ちだったんですか?どうぞ。
ホームスイートホームですか?ええ。
そういうカクテルがあるとか…。
ございますが…それでよろしいですか?はい。
かしこまりました。
ああ…ホットカクテルだったんですか。
ええ…温まりますよ。
珍しいですね。
卵も使うんですか?カクテルは材料を選びませんから。
「カクテルは材料を選ばない」?だからカクテルはおもしろいんです。
なるほど…。
最近はスコッチばかりだったんですが。
ではこれを機に私のカクテルもどうぞご贔屓に。
そうですねぇ。
カクテルもいいかもしれません。
ホームスイートホームです。
あまり熱くありませんね。
猫舌の方でも飲める温度にしてあります。
…いいバーを見つけました。
ありがとうございます。
でもどちらかというと食後に飲むお酒でしょうか?あるお客さまをご自宅に帰すために作ったものですから。
おもしろそうですね。
もしよろしければそのお話聞かせてもらえますか?昔…よく夫婦喧嘩をなさるお客さまがいましてね。
それでうちへ帰れなくなって…ここへ。
それでまあ…何杯か飲まれるわけですが…。
なかなかうちに帰る決心がつきませんね。
はい。
そこで“最後のお酒”という意味でこれを…。
ということはこれはその彼の…「ワンフォーザロード」になったんですね?「ワンフォーザロード」?“うちに帰る勇気を持つための酒”…という意味ですね?ええ。
これはとてもいい「ワンフォーザロード」だと思いますよ。
おかげさまでお帰りになる前にこれを注文されるお客さまがたくさんいらっしゃいます。
でしょうねぇ。
しかしこのカクテルにそんなドラマがあったとは…。
カクテルはみんなそうですよ。
…みんな?どのカクテルにもドラマがあり…思い出があります。
お客さまは自分の思いを話し…私はそれを形にする。
だからカクテルは…バーテンダーだけのものではないんですよ。
なるほど。
それでお店の名前が…「リメンバランス」なんですね。
同じ“思い出”という意味でも「リメンバランス」は「メモリー」ではない…。
ええ。
たんなる“記憶”でななく…“記念”なんです。
カクテル一杯一杯が小さな記念品…というわけですか?わかってくださるお客さまがいてうれしいです。
すばらしいお話ですが…少し引っかかります。
はっ?すべてのカクテルに思い出があるとすれば…。
ええ。
それはバーテンダーだけのものではない。
そのとおりです。
でもそんなカクテルを缶に詰めて売ろうとしていた…。
食品会社と契約する予定だったとか?あなたは…いったい…?刑事をしているとそんな話も耳に入ってきましてね…。
倉沢の事件を捜査してる刑事さんですか?その担当ではありませんが…。
ところでその後この商品化の話は?倉沢が亡くなりましたから…。
その話もなくなりましたか。
残念です…。
どちらがですか?…はっ?
(アキコ)おいしいわ…!
(アキコ)でもやっぱりここじゃなかったみたい。
え…?
(美和子)えっ!?行きたかった店ってここじゃないの?
(アキコ)ぜんぜん違うわ。
(美和子)…食べる前に言ってよ。
あの…銀座のレストランでピアノを演奏してる店ですよね?そういう店で30年前から営業してるのはここだけよ。
会社のデータベースで調べたんだから。
でも…この店にはバーコーナーがないでしょ。
バーのあるレストランだったんですか?どこかに引っ越したのかしら?つぶれたんじゃないですか?つぶれるようなお店じゃないのよ。
とてもいいお店で…。
でも…30年前に行ったお店なんて覚えてるのかな?忘れられなかったのよずーっと…。
あなたはどっかこういうお店知らないの?
(ため息)この男に訊いてもムダよ!
(薫)なんだよそれ!こんなコジャレたとこ連れてきてくれたことないじゃない。
この前夜景の見えるレストランで飯食ったろ!はぁ?あれだって私が連れてったお店でしょ!だいたいあのとき薫ちゃん遅刻してきたじゃない!遅刻はお前の専売特許だろう?なに言ってんのよ!ち〜こく!遅刻!遅刻!やめろ。
…腹たちません!やめろよお前っ!!
(アキコ)そのお店はね…。
アルバートと出会ったお店なの。
アルバイト?
(美和子)アルバート!亡くなった旦那さま…。
そのお店で飲んだお酒が忘れられなくて…。
な〜んだ!酒が飲みたかったんっすか!ひどいわ…!笑うなんて。
え…?あれ?ごめんなさい…。
本当にデリカシーのない男なの!彼を思い出すとそのお酒も思い出すの…。
そんな…泣かなくても…。
彼が死んでから…ずーっと思い出すの。
すみません…あの…謝りますから…ね?それで…どうしようもなくなって日本に来たの。
はい…。
イテテ…!…責任とりなさいね。
責任って…?おばさん。
この男が必ず見つけ出しますから!ねっ?本当…?…はい。
もし…見つからなかったら私…。
いやいやいや…見つけますって。
ハンカチしまってくださいって。
周りがみんな見てるじゃないですか…!信じて…いいのね?はい…はいはい…。
もし…嘘ついたら…。
つきませんよ…!死んじゃうから私!…ええぇ〜?…ちょっとお訊きしたいことが。
実は…警部には何も教えるなと言われてまして。
捜査一課にですか?いえまぁ…。
そうそうこれ…。
よろしかったらどうぞ。
僕は行けませんので。
「末廣亭」ですか…。
いいんですか?昼席のトリは橘亭子楽夜は桂家小平です。
最高じゃないですか…!え…ちょっと。
あれ?この券月末までなんだ。
今月中に今の事件が解決すれば行けますねぇ…。
それは…買収ですか?もちろん違います。
…ですよね。
殺された倉沢正さんの解剖結果見せてもらえますか?わかりました…。
すぐに持ってきます。
ねえ右京さん…昔から銀座にある店でピアノがあるレストランバー知りませんか?…誰の解剖所見ですか?昨日男性の死体が銀座で見つかりました。
あぁ倉沢チェーンのオーナーが殺されたってやつですか?ええ。
アルコールが検出されています。
殺される前に飲んだんでしょうねえ。
飲んでからすぐに殺されてます。
飲んですぐ殺された?血中アルコールが正確に測定できていますから。
胃の中は…?梅干しが少し検出されています。
焼酎のお湯割りに梅干しでも入れて飲んだんでしょう。
ペパーミントの成分も出ました。
飲んだ後にミントのアメかガムを食べた。
アメやガムならよほどたくさん食べないと検出されませんねえ。
じゃあミントを使ったカクテルとか?ミントのカクテルのつまみに梅干しですか?ありませんねぇ。
合いませんね。
ピアノのあるレストランバー…。
(三好)梅干しとミントを使ったカクテル?ええ。
そんなカクテルありませんかね?さあ…?ちょっと考えられないですねえ。
お得意のオリジナルカクテルでできませんか?お作りしてみましょうか?…お願いできますか?ベースは何を?そうですねえ。
クセのないウォッカがいいですね。
かしこまりました。
あぁすみません。
ちょうど梅干しを切らしてまして。
ということはこちらには普段梅干しがあるんですね?ええ。
焼酎をお飲みになる方のために。
焼酎の梅割りですか…。
そうです。
それに…ミントを入れる方はいますか?いやぁ…ちょっと想像できない味ですから。
そうでしょうね。
梅干しカクテルの代わりに何かお作りいたしましょうか?用意がよろしいんですね。
バーに梅干しは置いてないだろうと思いまして。
作っていただけますか?もちろんです。
梅干しと…ウォッカと…あとミントですね?亡くなった倉沢さんとは長いおつき合いで?30年以上になりますね。
彼はよくこちらに?最近は仕事が忙しかったみたいであまり…。
今週の水曜日は…?水曜日ですか…?倉沢さんが殺された夜です。
水曜日は…定休日ですよ。
定休日ですか…。
ええ。
カクテルは見た目にも楽しむものだと思っていましたが…。
ええ。
だからカクテルは“飲む宝石”だと言われます。
しかしこれはその点あまり…。
そうですねえ。
味は悪くないんですが…。
いやしかし…商品としてはこの見た目ですと…。
でしょうねえ。
水にゴミが浮いているように見えますし。
ハハッ…やはり梅干しを入れたカクテルというのは…。
無理があるのかもしれませんね。
お口直しに何かお作りしましょうか?おはようございます!おはようございます。
おはよ!…えっ!?なんでいるんですか?美和子とこの近くで待ち合わせをしたの。
美和子と?お店を一緒に探してくれるって。
でも…なんでそれがこうなっちゃってんですか?美和子さん急な仕事だそうで。
…おかわりいたしましょう。
ありがとう。
だから薫ちゃんの所で待っててって。
そんな勝手に…!もう美和子のヤツ!これリーフは何をお使いなのかしら?今日はセイロンのウバを。
まぁ…私もそうしようかしら?すみません美和子のせいで。
かまいませんよ。
いつもお茶っ葉は何をお使いなんですか?うちではダージリンのオータムナルを。
どうぞ。
それならばおいしいミルクティーが楽しめますよね。
でもこんなふうに軽い口当たりにはならないのよ。
ちなみに紅茶とミルクどちらを先にカップに入れますか?もちろん紅茶を。
それのほうが紅茶の濃さを調節するのが簡単ですからね。
ええ!でも…ミルクを先に入れるほうがよく混ざるんですよ。
まぁ…そうなんですか?もちろんミルクは低温殺菌の冷たいものを使いティーカップはよく温めておくことを忘れずに。
薫ちゃん…あなたすてきな上司がいて幸せねぇ。
…はい。
どうぞ。
(携帯電話の着信音)ありがとう。
(着信音)
(アキコ)あら!スコットランドヤードに?ええ。
20代後半のころ研修で3年ほど。
それでロンドンにお詳しいのね。
でも…なぜロンドンの首都警察を「スコットランドヤード」っていうのかしら?昔スコットランド宮殿の「ヤード」つまり中庭の跡地にこの警察署があったからなんですよ。
あらそうなの?まあおもしろい!
(美和子)なんか楽しそう。
そうだな…。
私…よく主人と散歩に行きましたのよ。
そのご主人と昔行ったお店を今お探しだとか?ええ。
そこで飲んだカクテルが忘れられないのよね?でも…もう二度と飲めないみたい。
どうしてですか?どうしてもそのお店が見つからないの。
おばさんいらっしゃってからずっと探してんですけどね。
どんなカクテルだったんですか?はっ…?ご主人とお飲みになったそのカクテルです。
少し塩気があって…でもミントの味がさわやかで…。
塩味が利いていた?
(アキコ)ええ。
ってことはグラスに塩が飾ってあったとか?いいえ。
…でもグラスの中に何かフルーツが浮いていたわね。
フルーツを使ったカクテル…ですか?それで塩気がある…。
(アキコ)緑色のとてもきれいなカクテルでした。
緑色…緑色でミントの味がしたんですね?ええ。
その店のバーテンダーが私と彼だけのために作ってくれたお酒なんです。
いいなぁそういう思い出。
あなたたちにはそういうのないの?そのお店どこにあったんですか?この辺りにあったはずなのよねぇ…。
あれっ?ここ殺人現場じゃないですか!ええ。
あ…ごめん。
ここに間違いありませんか?
(アキコ)たしか…。
(美和子)ここってさ…?倉沢チェーンの…。
あっ!オーナー?でも…今空き地になってるってことはさ…。
30年も前ですものね…。
そのお店はどんなバーだったんですか?今でいう…レストランバーよね?たしか…ピアノがあって?ええ…。
右京さん行きましょ!右京さん!?…ったく頼りになんねえなぁ!いらっしゃいませ。
何になさいますか?そうですねぇ…。
またあの梅干しカクテルお作りしましょうか?それはまたいずれ…。
今日はアイラモルトをトゥワイス・アップで。
こちらで…?結構です。
12年と15年と18年がございますが。
この店はここに移転してどのくらいになりますか?15年になりますが…。
では15年ものを。
かしこまりました。
やはり…移転していましたか。
…お調べになったんでしょ?このお店以前は銀座に?ええ。
まぁ今とはだいぶ雰囲気が違いますが。
ピアノがあるレストランバーだったとか。
はい…。
お調べのとおりですよ。
それがどうしてこのような正統派のバーに?私が「純粋にカクテルを楽しめる店にしたい」と倉沢にわがままを言いまして。
それでまぁこの店を…。
そうですか…。
よきパートナーだったんですね。
…はっ?あなたと…倉沢さんは…。
私のカクテルを…初めて認めてくれた人でした。
それが30年前ですか?はい。
だからその思い出の場所に…彼の遺体を運んだ。
30年前このお店のあった場所に…。
そんなお2人がいったいどこですれ違ってしまったのか…?…もう酔ってらっしゃるんですか?すべてのカクテルには思い出がある。
ええそのとおりです。
だからこそあなたはそれを缶に詰めて売ることに耐えられなかった。
オーナーの倉沢さんの命令でも…。
先ほどから…何をおっしゃってるのか…?それをわかってほしくて最後に彼にあるカクテルを飲ませましたね?あなたの最も思い出深いカクテルを…。
チェックをお願いします。
ありがとうございます。
それでも…倉沢さんの気持ちは変わらなかった。
だから私が倉沢を…?違いますか?証拠はあるんですか?必要ですか?当たり前です!では明日…連れてきます。
店が見つかった!?やっぱ頼りになるな〜!おばさん今日しか時間がないんですよね?ええ。
明日の朝ロンドンに帰っちゃいます。
すぐおばさんに連絡してください。
はいっ!さすが右京さん…コンニャロッ!…はいっ?いえうれしくてつい…。
(携帯電話の着信音)ああちょうどよかった!今右京さんがさ…えっ?おばさんがなに…?いなくなったぁ!?
(美和子)これから一緒にお店探そうと思ってんだけど。
1時間過ぎたんだけど待ち合わせ場所に来ないのよ。
どこで待ち合わせしたんだよ?…有楽町マリオン?マリオンだったら間違いようがねえな。
どこ行ったかなんて俺にわかるはず…。
〔死んじゃうから私…〕あっ!?
(美和子)「あっ」ってなによ?はっ?「死んじゃう」?そんな…なに言ってるのよ。
そりゃ確かに「見つかんなかったら死んじゃう」って言ったけど言ったけど…まさかね…。
すみません。
ちょっと出てきます!マリオンで待ち合わせですか?待ち合わせたのに来ないって!30年ぶりでしたね?おばさんが日本に来たのは。
ええ!捜してきます!ちょっとどいて!どいて!どいて!
(美和子)おばさんは?いや…。
あぁどうしよう…!俺のせいだよ。
俺があんな安請け合いしたから。
違うよあたしよ。
だって私おばさんがあんな思い詰めてたなんて…。
俺も…そんな大切な思い出だったなんて…。
私もう一度見てくる。
俺もじゃデパートを。
ちょっと待って!デパートなら私もう見たの!屋上まだ見てないだろ?屋上って…。
やだまさか…!
(携帯電話の着信音)右京さんだよ!もしもし…えっ?
(店員)いらっしゃいませ。
遅かったじゃない。
もう3杯目よ!ずいぶんお待ちになりましたね。
マリオンで…。
ええ。
でもよく知ってたわね。
こんな古いお店。
(ため息)知らなかったわよ…。
(アキコ)あら…!あそこも「マリオン」っていうの?普通ここら辺で「マリオン」といえばあれなんですけどね…。
でも…私のころはあそこは「日劇」っていって歌や踊りを見に行ったわ…。
ご主人とですか?…主人になる前よ。
そして帰りには必ずあのお店に寄って…。
アキコおばさんごめんなさい。
結局お店見つけられなくて…。
あっ!あ…それなんだけどねっ!これから…行ってみますか?あの…!覚えてらっしゃらないと思いますけど…私…。
30年ぶりですね。
えっ…?私が銀座の店にいたときいらっしゃいましたねえ?覚えてるんですか…?テーブルが空くあいだ…私のバーコーナーにいらしてそこでイギリス人の方と席が隣り合わせになって。
ええ…!それから何度かお二人でお出でになって。
ええ!ごぶさたしております。
あの後私たち結婚したんですよ。
(三好)そうだったんですか。
さあどうぞ。
いらっしゃいませ。
あれから30年…お互いに歳をとるはずですね。
いやいやお変わりなく。
すぐにわかりましたよ。
まぁうれしい!ご主人はお元気ですか?
(アキコ)亡くなりましたの…。
ひと月前に。
(三好)そうですか…。
どうぞ。
今日一緒に来ることができたらどんなに喜んだことか…。
何かお作りしましょう。
あのとき…飲ませていただいたカクテルを…。
(美和子)おばさんそれが飲みたくて日本に来たんです。
覚えてます…よね?彼女がご主人と飲んでたカクテル。
(美和子)何かフルーツが入ってたとか…。
あと少ししょっぱかったとか。
あとミントが入ってたのよね。
(アキコ)覚えてませんよね…。
そんな…覚えてますよねぇ?いいのよ。
考えてみたら30年前に作っていただいたきりだもの。
でもあの1杯で私たち一緒になれたんですよ。
本当に…ありがとうございました。
これでもうロンドンに帰れるわ!明日の朝ロンドンへ発たれるそうです。
「彼女のためにカクテルを作ってくれませんか?」…。
えっ?たしか彼がそうおっしゃったんですよね。
そしたらあなたが…「私じゃなくて彼のために作って」って。
あぁ…!それで私が「お二人とも同じカクテルでいいですか?」と。
そう…そうよ!私すっかり忘れてて…。
私もやっと思い出しました。
ホントっすか?ええ。
喜んで作らせてもらいます。
(美和子)よかったわねおばさん!
(アキコ)ありがとう。
ああ…ベースはジンだったんですね?ええ。
やはりグリーンミントでしたか。
(三好)はい。
えっ…梅干し?じゃああのカクテルの塩気は…。
梅干しだったんですね。
それがフルーツに見えたんだ。
あれ…?んっ?でも梅干しとミントって…右京さん。
あのこれって…殺された例のオーナーの…。
ええ。
しかし亀山くんせっかくの夜ですから…。
「ベストパートナー」というカクテルです。
「ベストパートナー」…。
…これです。
ずっと…これが飲みたかった…!あの人にも…飲ませてあげたかった…。
美しいカクテルですね。
まさに宝石のようです。
本当に…!イギリスのジンを使うのがミソなんですね?はい。
どういうことですか?イギリスのジンと…。
日本の梅干し…。
あ…!だから「ベストパートナー」!はい。
このカクテルに…そんな意味があったなんて。
(美和子)国際結婚したおばさんにぴったりじゃない。
いつから…私に目を付けていたんですか?初めてお会いしたときから。
えっ…?あなたの…爪…。
ああっ…!バーテンダーが…爪の手入れを欠かしてはいけません。
爪切りは…毎日の習慣だったのに…!大切な習慣を忘れるほどのことがあなたの身に起きたんだと思いました…。
倉沢を殺そうと思い悩んだときから…私はバーテンダーではなくなっていたんですねぇ。
いえ…あなたはそれほどプロのバーテンダーだった…。
30年前に作ったカクテルを覚えてらっしゃいました。
自分の罪を逃れるよりも客の思い出を…大切にする方だと思いました。
あぁ…おいしい!これもう1杯いただきたいわ。
ちょっとおばさん大丈夫?いいじゃないか。
今度いつ飲めるかわかんないんだし。
ねぇ?ロンドンと東京は遠いっすからねぇ!そうね…!やっぱりもう1杯いただくわ!ねぇ…ここって倉沢チェーンの…?そういうこと…。
俺もくださいこの酒。
(美和子)いつもはビールか焼酎しか飲まないのに!今夜は特別だ。
お前も飲め。
え〜だってこれほとんどジンでしょ?安心しろ。
送ってくから。
え…?もうそろそろ家に帰ってこいよ。
いいですね。
ワンフォーザロードで。
ワンフォーザロード?“家に帰る勇気をつけるためのお酒”って意味よ。
その…“勇気のお酒”何になさいますか?じゃあ…私も「ベストパートナー」で。
かしこまりました。
これを飲んだら30年前に戻っちゃったなぁ!思い出のカクテルだもんね。
俺たちも欲しいな…こういうカクテル。
そうね…。
カクテルってすばらしいですね。
そうですね。
最後に楽しい思い出ができました。
ありがとうございました…!こちらこそ。
(亀山薫)せ…宣誓。
良心に従って真実を述べ何事も隠さず偽りを述べないことを誓います。
亀山薫…。
(武藤かおり弁護士)亀山さん。
あなたは警視庁の刑事ですね?階級と所属を聞かせてください。
階級は巡査部長です。
所属は…。
…特命係です。
では特命係の亀山さん。
あ…あの…!わざわざ“特命係の”って付けないでください。
は?細かいことですけど。
あ…すみません。
話の腰を折って。
では亀山さん。
11月5日の夜のことをお伺いします。
あなたは当夜9時過ぎ杉並区阿佐ヶ谷の路上でここにいる被告人黒岩繁に職務質問しましたね?はい…。
(薫)〔あちょっと?〕〔こんばんはー。
どちらへ?あ…警察です〕
(かおり)いつもその程度のことで職務質問なさるんですか?その程度って言いますけどね…なんかこう…ピンと来るんです。
その勘が当たったからこそ…。
訊かれたことだけ答えてもらえれば結構です!それからどうしましたか?それからですか…?被告人の所持品を検めたんじゃありませんか?ええ…彼が鞄を抱えてたんでその中身を見せてもらいました。
許可は取りましたか?そりゃあもちろん。
被告人の了承を待たずに中身を調べたのでは?…えっ?職務質問においては鞄の外側から触って中身を確かめる程度のことは許されていますが了解を得ずに鞄を開ける権限までは認められていません。
あなたは本当に被告人に了承を取りましたか?被告人によるとあなたはそうしなかった。
あなたは先ほど宣誓しましたね?…正直に答えてくださいね。
…わかってますよ。
…どうぞ。
了承を得る前に…。
鞄を開けたんですね?だったと思います。
(かおり)令状もなしにそんなことが認められるんですか?…いいえ。
結構です。
さてあなたはその違法な行為によって鞄の中から何を発見しましたか?
(宮城検事)裁判長!ただ今の弁護人の質問は証人に対する悪意を含んでます。
(裁判長)弁護人いかがですか?“違法な行為”という部分がお気に障りましたか?わざわざそれを強調せずともできる質問だったと思いますが?わかりました。
その部分は撤回します。
あなたは何を発見しましたか?あの…マスクです。
これですね?はい。
〔じゃあ中身ちょっと見せてもらっていいかな?〕
(黒岩繁)〔あ…〕〔大丈夫大丈夫…〕〔すぐ終わるからね〕
(かおり)これを発見したときあなたはどう思いましたか?モンスター強盗じゃないかと…。
世田谷区池尻…目黒区自由が丘…中野区大和町と立て続けに3件発生してる通り魔強盗ですね。

(かおり)怪物のマスクを被って若い女性を狙い金品を強奪したという。
そうです…。
被告人が犯人だと思ったんですか?鞄の中からいきなりフランケンシュタインのマスクが出てきたわけですから当然疑いますよ。
疑いを持ったあなたは被告を最寄りの阿佐ヶ谷4丁目交番に連れて行きましたね?…はい。
まさか強制的に連れて行ったりはしていませんよね?その時点では任意です。
いくらあなたが疑いを濃くしていたとしても無理やり同行させるのは違法です。
被告人が自ら交番に同行したんですね?答えてください。
イエスかノーだけで結構ですよ。
…ノー。
確かにいくらか強制的だったかもしれませんよ…。
あなたは無理やり交番に連行してそのまま帰さずに身柄を警視庁に移した。
単なる職務質問から強制捜査に切り替わってます。
違法ですよね?あのいや…交番に行ったらね…ちょうど近所で通り魔強盗が起こった直後だったんですよ!
(警官)〔先ほど強盗事件が発生しまして〕〔強盗?〕〔はいマスクを被って〕〔ホントに?〕
(警官)〔2丁目でついさっき!〕
(薫)4件目のモンスター強盗が発生した直後だったんです!
(かおり)だから被告人が犯人ですか?つまりその時点で決定的な証拠でもあったんですね?いやあそりゃあ…ありませんでしたけど…。
ハァ〜…!確たる証拠もなく任意同行の延長で身柄を拘束できるんですか?あなたは違法な拘束と不当な取り調べによって被告人が裁かれてもいいと思ってるんですか!?裁判長!不当な取り調べがあったという事実は立証されてません。
失礼。
今の発言は後段撤回します。
被告人の自白の任意性と信憑性は別の機会に争う予定ですから。
よろしいですか?結構です…!少なくともこれで被告人が違法に連行され不当な拘束を受けたことが明らかになりました。
質問は以上です。
お忙しい中どうもありがとう。
(杉下右京)どうやら…亀山君の完敗ですね。
(奥寺美和子)…はい。
亀山さんありがとうございました。

(内村警視長)亀山の次は伊丹か…!
(中園警視正)弁護人は自白は強要されたものと主張してます。
まあいずれにしても弁護人の証人として呼ばれるようではな。
マヌケな刑事のやることだ!
(かおり)被告人の肋にヒビが入ってます。
全治1か月だそうです。
このケガを負わせたのはあなたですか?
(伊丹刑事)さあ…?知りませんねえ。
あなたじゃないのであれば三浦刑事でしょうか?それは本人に確認してくださいよ。
もちろん…言われなくてもそうしますが。
取調室という密室で被告人は大ケガを負わされた…。
なぜか?自白を強要するためではないのですか?強要なんかしてませんよー。
ならばなぜ被告人はこんなケガをしたんですか!?さあ…?
(伊丹)どこかに自分でぶつけたんじゃないですか?正直者の亀山ァ!
(伊丹)おっといけねぇ!バカが抜けてた。
バカ正直の亀山ァ!なんだとぉ…!?テメェのせいだぞこの野郎!なにィ!?テメェがバカ正直に違法行為を認めちまうから野郎の自白の任意性まで疑われちまっただろうが!肋へし折って吐かせた供述なんか誰も信用しねえよ!俺はそんなことしてねえよ。
どうだかなぁ!
(角田課長)無罪?その可能性もありますねえ。
だけどさぁ…。
アチィ…!奴はこいつを持っていたワケだろ?そのマスクを持っている人間は日本中に5千人近くいますから。
メーカーによると5千個限定で昨年売り出したものだそうです。
ほぼ完売…僕もその5千人のうちの1人です。
ヘッあんたも物好きだよな。
わざわざ現物買うなんてさ。
どんなものか確かめてみたかったもので。
でもさ仮に5千人いたとしてもだよ?あの夜犯行現場の近くをウロウロしていたのは奴だけだ。
それは状況証拠にすぎません。
襲われた女性の証言にしても決定的な証拠にはなりませんしね。
ま確かにな。
こんなモノ被ってたんじゃ肝心の顔がわかんねえもんな。
面通しもできねえ。
状況的には相当怪しいですよ。
しかし決定的な証拠はない。
それでも起訴に踏み切ったのは本人の自白があったからです。
ところがその自白をひるがえしちまったワケだ。
ええ公判になった途端否認に転じました。
弁護士に知恵つけられたか。
(右京)なかなか優秀な弁護士のようですよ。
(裁判長)黒岩繁。
右の者に対する強盗致傷被告事件について当裁判所は検察官宮城義之弁護人武藤かおり各出席のうえ審理を遂げ次のとおり判決する。
主文被告人は無罪。
(ため息)落ち込むな。
薫ちゃんのせいじゃないよ。
そうか?俺のせいじゃないか?俺がもっと奴を慎重に引っ張ってくればあんな判決出なかったんじゃないのか?ま…薫ちゃんのせいだけじゃないよ。
みろ!やっぱり俺のせいじゃないか!次があるって。
あ?どうせ検察は控訴するでしょ。
(伊丹)控訴断念?そうだ。
しかし…!控訴して有罪にできるのかっ!?…新たな証拠でも挙がるのか?んっ?控訴されないってことは僕の無罪は確定ってことですよね?…そういうことね。
ねえ先生。
裁判には「一事不再理」っていうのがあるんでしょ。
えっ…?「何人も同じ事件について二度裁かれることはない」って…。
よく知ってるわね。
(黒岩)もう誰も僕の無罪にケチをつけられない。
そういうことですよね?ええ…。
先生にめぐり会って良かった…。
何のご用?いえ別に。
どんな顔して出てくるか見届けに。
こんなとこ来るヒマがあったら警察学校行けば?なにィ…!?イロハから勉強し直したほうがいいんじゃないの?職務質問の仕方とかさ。
余計なこと言わないの!僕はこいつのおかげでひどい目に遭ったんだ!少しは言ってやりたいんです!もういいから帰りなさい!…あなたもこれ以上妙なマネをすると自分の立場が危ないわよ。
何やってるのよ!早く帰りなさいよ!それじゃ先生…このご恩は一生忘れません。
先生はあいつが本当に無罪だと思ってるんですか?彼の言うとおりね。
え?あなた警察学校で勉強し直したほうがいいかも。
被告人はすべて無罪よ。
「被告人の段階では誰もが無罪と推定される」。
近代刑事法の基本原則よ?わかってますよそんなことは。
原則論じゃなくて今回のケースについて訊いてるんです。
彼が有罪か無罪かを判断するのは判事の役目でしょ?私は自分の役目を果たしただけ。
だけどもしあいつが犯人だったとしたら結果として先生が犯人を野放しにしたことになるんです!そういうことは考えたりしないんですか?今回は強盗事件ですけど…もしも殺人事件だったらどうですか?同じね。
私の立場は変わらないわ。
今回の一件だって責任はあなた方警察と検察にあるんじゃない?ずさんな捜査で起訴するからいけないのよ!…違う?なに笑ってんだよ!仕事しろよ!あ今笑いました?笑ったりしてませんよ。
…わかってますよ!俺がマヌケだった。
うかつだった。
それは認めます。
けどね…!わかっているのなら怒るよりも前に反省すべきじゃないですかね。
してますよ!普段見過ごされてしまうような些細な行為でも違法は違法。
そこを突っつかれたら我々はひとたまりもありません。
それが法治国家です。
だからわかってますって!なぜ君は法廷で違法行為を認めたんですか?あ?すべて合法的に事を進めたと主張すれば弁護側はその主張を突き崩せなかったと思いますよ。
被告人が何を言おうと証拠はない。
水掛け論に終わります。
だって…!はい?宣誓しちゃったでしょ俺。
嘘はつけませんか?あそこで嘘をつけって言うんですかぁ?そんなことは誰も…。
だったら何ですか?君のそういう正直なところ僕はかなり高く評価しています。
ある意味好ましくさえある。
…バカにしてんすか俺を?僕はほめたつもりですがねえ。
ほめたように聞こえませんけど!そうですか。
君はかなりひねくれてますねえ。
〔先生にめぐり会って良かった…〕あれ…右京さん?ああ…。
亀山君の家はこの近くでしたね。
今お帰りですか?はい。
右京さんは?ここはモンスター強盗の4件目の犯行場所ですね。
調べてるんですか?1件目から順に回ってきました。
黒岩繁…無罪になっちゃいましたね。
そのようですねえ。
どう思います?裁判所が無罪と判断したならば無罪でしょう。
そりゃそうですけど…。
しかし無実ということではない。
えっ?無罪と無実は違います。
裁判所が判断したように彼が犯人だという証拠はありません。
しかし犯人じゃないという証拠も同様にない。
だったら黒岩が…?いいえ。
僕は誰が犯人であってもかまいません。
えっ?大事なことは今犯人は野放しになっているということです。
つまり再び犯行が起こる可能性がある。
だからこうやって調べているんです。
見落としはないか…手がかりはないか…。
ハァ〜…爪の垢煎じて飲ませたいな。
はい?うちの亀山君に。
無罪判決が出たもんだからすっかりしょげちゃって…。
そうでもないようですよ。
えっ?彼は彼なりに闘志を燃やしているようです。
犯人確保に向けて。
ま是が非でも彼は黒岩繁を犯人として捕まえたいようですが。
(美和子)何かといろいろお世話をかけるかと思いますがよろしくお願いします。
(ノックの音)何やってんだよテメェは!?テメェこそ何だよ?どの部屋だ?…2階の角部屋。
(伊丹)またやると思うか野郎?ああ奴が犯人なら必ずな。
俺もそう思う…奴が犯人だ。
俺もそう思う。
飯は?あ?食ったのかよ?食ってねーよ。
ほら。
余計なお世話だよ。
食わねえともたねえぞ。
長丁場になるかもしれない。
いらないねぇって言ってんだろ!チッ…アンパンじゃダメか?ジャムパンならどうだ?いらねえよそんなもん!テメェに恵んでもらうほど落ちぶれてねえんだよ。
つーか足りねえじゃねえかよ!まけとけよ…。
(玄関のチャイムの音)
(ミカ)はーい!どうぞ。
突然すみません。
別にいいですよ。
ちょうど刑事さんも来てますから。
えっ…?これはどうも。
武藤弁護士でしたか。
先日うちの亀山君がお世話になりました。
ねぇ弁護士さんは何の用?強盗にね遭ったときの状況を聞かせてもらいたいの。
弁護士さんもだって。
聞かせてあげたらどうですか。
またぁ!?
(ミカのもがく声)なるほど…何度聞いても調書のとおりですねえ。
だって本当のことだもん。
嘘言ってないよ。
もちろんです。
しかしほかに何か気づいた点とか言い忘れた点とかありませんか?だからそんなのないってば…!しつこいな刑事!どんな些細なことでもいいんです!そんなこと言われたってさあ…。
不意打ち食らってガムテープでぐるぐる巻きにされて何が何だかわかんないうちにドスーンだもん!ガムテープで目も口もふさがれたわけですよね?そうだよ〜ひどいでしょお?しかし耳はふさがれてませんよね?例えば犯人の声を聞いたとかそういうことはありませんか?声?ああ…そういえば一瞬ね。
聞いたの?一瞬ね。
「ウッ」って。
(かおり)ウッ?地面に倒されたとき犯人のこと思いっきり蹴飛ばしてやったの。
どこ蹴飛ばした?
(ミカ)いや〜わかんないなあ…。
私目隠しされてたから。
でもどっかには命中したんだと思う。
(かおり)杉下さんは肋の一件どうお考えになりますか?黒岩繁が取調室で負ったというケガ…。
あなたはもうお帰りになって次のお仕事をなさったほうがよろしいかもしれませんね。
えっ…?弁護士のあなたは黒岩さんを追求する役目にはありません。
無罪を勝ち取った以上黒岩繁がはっきりと無実であってほしい。
そういう思いであなたは今日いらしたんじゃありませんか?無実である証拠が何か発見できないかと思って…。
しかし…例え黒岩繁が犯人でもあなたに責任はありませんよ。
法廷でのあなたは正しかった。
誰に非難される謂れもない。
ですからお帰りになったほうが…。
そこまで私の立場をわかっていただいてるのなら言いますね。
何でしょうか?彼…犯人ですよたぶん。
もちろん個人的な心証です。
何も証拠はありません。
だから私は無罪を主張して戦った。
被害者の供述調書を読むと全員があっという間にガムテープで体の自由を奪われてバッグを持ち逃げされているようですね。
4件とも同じ手口みたいですね。
同一犯の犯行だということはほぼ間違いないと思いますけど。
しかも犯行に要した時間は5分とかかってない。
見事なものです。
確かに犯人はムダなことは一切していない。
そういう意味では見事ですけどね。
そうでしょうか?えっ?犯人はムダなことを一切していませんか?…と言うと?目をふさいでしまうことまで必要でしょうか?犯人は被害者の口をふさぎ体の自由を奪った後必ず目もふさいでいます。
わざわざマスクで顔を隠しているにもかかわらずどうして目までふさぐ必要があるんでしょうねえ?武藤弁護士はどうしてだと思いますか?さあ…?顔を隠したいのであればマスクがその役目を十分に果たしています。
ところがなぜか犯人は目もふさぐ…とてもムダに思えます。
慎重を期しているのでは?念には念を入れて。
確かにそういう考え方もできますね。
…しかし気になる。
ま考え過ぎかもしれません。
僕の悪い癖です。
おい。
んっ?ドジ踏むなよ。
こっちは面が割れてんだ。
テメェこそヘマするなよ。
おいっ!おいっ!チッ…!黒岩繁の肋にはヒビが…。
(三浦刑事)知るか。
取り調べのことを詳しく…。
いいか先生。
はい?終ったことだから教えてやるが太々しく口を割らないような被疑者にはそれなりのことはするさ。
やっぱりするんですね。
けどなケガさせるようなマネしねえよ。
こっちは昨日今日の新米じゃないんだよ。
ケガさせたら元も子もないことぐらいわかってんだよ!これからは気をつけなさいよね!
(三浦)なにィ?取り調べ中に煙草を勧めることも厳密に言えば利益誘導の恐れがある。
それぐらい法律はデリケートで杓子定規なの!もっと慎重に行動しなさいよ!だからややこしくなるのよ…!
(米沢鑑識官)奪われたバッグがですか?供述調書によると4件目の犯行ののち財布から現金を抜き取った後バッグもろとも現場近くの公園の草むらに捨てたということなんですがねえ。
発見されなかった。
ええ。
もっともバッグの捨て場所については供述が二転三転したようですからあてにはなりませんが。
結局バッグは発見されないまま起訴したわけですか?公園の草むらに捨てたのならば誰かが拾って行ってもおかしくないだろうということらしいですね。
なるほど…自白を強要したときにありがちなでっち上げですね。
こちらの都合がいいようにストーリーを作り上げてそれを被疑者に認めさせる。
ちなみに…私はいつまで巻いていればよろしいでしょうか?はいもう結構ですよ。
そうですか。
本当はガムテープのほうが感じ出るんですけどね。
おっしゃるとおりですが後が大変ですから。
致し方ありませんね。
今度は左巻きに巻いてください。
はっ?今のは右巻きですよね。
今度は左巻きに。
左巻きですか?…はい。
(米沢)こっちじゃない…こうか…。
なぜテープを持ち変えたんですか?いやこっちのほうがやりやすいですからね。
そうなんですよ…逆に巻くのは巻きづらいですよねえ。
誰かと待ち合わせか?みたいだな。
ムッ!意外な人物のご登場だな。
黒岩さんでしょうか?帝都新聞の奥寺と申します。
(黒岩)どうも…。
…そういうわけですからね僕はまったくの濡れ衣なんですよ。
警察はひどい…許せませんね!
(美和子)なるほど。
僕の人生メチャクチャですよ…!会社もクビになるし…全部警察のせいです!ほかにおっしゃりたいことはありますか?とにかくそっとしておいてください。
今回の取材だって僕の言い分をキッチリ載せていただけると言うからお受けしたんですよ?
(美和子)ええそのつもりですよ。
では…こちらからも質問させていただいてよろしいでしょうか?何でしょうか?ズバリ訊いちゃいますね。
はい。
あなた…本当に犯人じゃないんですか?あ…怒らないでくださいね。
あっ!ふざけんなよ…!お前も僕を犯人扱いかっ…!?あの野郎…!よせっ!僕は被害者なんだぞっ!?
(美和子)いい加減にしてよっ!!おいっ!!薫ちゃん!?何やってんだコラァ!?…大丈夫か?うん…。
何であんたが…?何なんだあんたたち…!僕を監視してたのか!?たまたま通りかかったんだよ!嘘つけっ!そんなに僕を犯人にしたいのか?冗談じゃねぇぞーっ!!このクソバカ野郎っ…!大バカ野郎のクサレこんこんちきっ!!うるせえなあ!…わかってんだ何べんも言うな。
とっとと郷里へ帰れ!あ?お前刑事に向いてねえよ。
お前だって彼女があんな目に遭ったら出て行ったはずだよ!テメェと一緒にすんな!…俺には彼女はいねえんだよ。
お前威張るところおかしいよ。
訴えたい?今だって僕のこと監視してるんですよ!こんなこと許されるんですか!?無実なら監視されたって何も恐れることはないでしょう。
警察もそのうちあきらめるわよ。
言っときますけどね先生…僕は恐れてなんかいませんよ。
ただ不愉快なだけで…許されないでしょう!?それよりケガの具合どう?あ?…何なんですか急に?
(かおり)「心配してるのよ」もしもし?聞こえてる?もう結構です。
先生には頼みません。
失礼しました…!お飲みになりますか?
(小野田公顕)いやいらない。
そうですか…。
解決しそう?何がですか?これモンスター強盗。
お前今これ調べてるんだろう?近いうち解決すると思いますよ。
そうか…それは結構。
ところでご用件は何でしょう?実はこっちも…いよいよ本格的に調査に乗り出そうと思っている。
そうですか…。
ちなみに何の調査ですか?知りたい?興味ある?いえ特には。
ま…少しでも興味があったら僕の部屋においで。
大きな声じゃ言えないが…おーきな事件だぞ。
(小野田)しかもおーきな謎だ。
お前が来るのを首をながーくして待ってる。
おいまた出たぞ!例のフランケン!出ましたか。
出たよ〜!
(無線)「警視庁より各局。
丸の内管内強盗容疑事件」「千代田区大手町2丁目常盤橋公園においてマスクをかぶった…」
(伊丹)これ…モンスター強盗か?いや…だってお前…!
(扉をたたく音)あまだいたんですか?何か?
(被害者)いきなりここから現れてガムテープで口をふさがれて体を縛るみたいにされて…。
ここに倒されてバッグを盗られました。
目隠しはされませんでしたか?目隠しですか?いいえ。
そうですか。
右京さん…!ああおそろいで。
間違いなくモンスター強盗ですか?そのようですね。
クソッ…犯人は別人かよ!黒岩…部屋にいましたずっと。
張り込みがバレたそうですね。
どこかのマヌケのおかげでね!あなたがついててだらしない。
しかしどうやらこれで謎が解けました。
あなた方の張り込みも決してムダではなかったようですよ。
特にバレてしまったことは功を奏した。
えっ…どういうことですか?今回の犯行は右巻きでした。
…はっ?
(黒岩)どういう心境の変化ですか?
(かおり)よく考えたらねこれ以上追求されるのは私にとっても迷惑だから。
(黒岩)えっ?確かに無罪は確定したわ。
けれどもし新事実が出てきたら警察は手を出さなくてもマスコミの餌食になる。
そうなると私の名誉にも傷が付く。
訴えましょう。
訴えてつまらない詮索は止めさせましょう。
なんだか僕が犯人みたいな言い方ですよね。
だって犯人でしょあなた?怒りますよ?いくら先生だからって…。
そのケガ…被害者から蹴飛ばされたんでしょ?〔ウッ!〕
(かおり)警察に連れて行かれる前に実は肋にヒビが入っていた。
まさか…。
警察もそのことに感づいたのよ!ほーら顔色が変わった。
早く手を打たないと大変なことになるわ。
もしヘマをしたらマスコミから袋だたき。
それでもいいの?私は嫌よ。
もちろんあなたが本当に犯人じゃないのならいいの。
私の取り越し苦労なら幸い。
でももし身に覚えがあるのなら訴えましょう!お互いのために。
どうするの?訴える?それとも放っておくの?ハッキリしなさいよ!グズグズしてたら共倒れよ?…訴えちゃおうかな。
そう…訴えるんだやっぱり。
先生が言ったとおり僕がやったんだよ。
ありがとう。
これでスッキリしたわ。
もう無罪は確定してるんだから関係ねえだろ今さら?ただしそれは過去4件の強盗についてです。
オイッ…!?どういうことだよっ!?ゆっくりとさあ5件目について話そうぜ。
5件目?さっき起きたモンスター強盗です。
我々はその件で来ました。
僕がやったって言うのか?バカバカしい!僕はやってないぞ!あんた証明できるだろ?できるよぉ。
ほらみろ。
もちろん今夜の犯人はあなたではない。
やったのは…あなたの相棒でしょうね。
つまりあなたは教唆犯。
5件目については強盗教唆です。
罪は実行犯と一緒ですが。
潔白を証明するつもりで5件目やらかしたんだろうけどアワくってやるからボロ出すんだぞ?何の話だか…。
なぜ怪物のマスクを被って強盗をするのか?普通に考えれば顔を隠すため。
それは間違いありません。
しかし顔を隠したい真の理由は単独犯ではなかったから。
つまりあなたには共犯者がいるということですよ。
マスクを被ればあなたもその共犯者も同じフランケンシュタインになれる。
そのためのマスクだったんです。
手口はこうです。
あなた方はスリの要領で犯行を重ねた。
片方がマスクを被って女性を襲いバッグを奪うと待ちかまえていたもう片方がそれを受け取りいち早くその場を離れた…。
だからこそ被害者の目をふさぐ必要があった。
そうしないと複数犯ということがバレてしまいますからね。
あなた方は交互にフランケンを演じたんじゃありませんか?1件目は相棒2件目はあなた3件目が相棒4件目があなた…。
ワケのわからないこと言うな…。
巻き方が反対なんですよ。
あなた方は必ず被害者の背後に回ってガムテープを巻きました。
ところが利き腕が違うために巻き方が逆になってしまった。
相棒は右巻きあなたは左巻きです。
あなたの利き腕は左ですよねえ?そりゃ間違いねえよなあ。
俺はこの目でしっかり見てるぞ。
そういうわけで4件目の犯行についてバッグの捨て場所の供述が二転三転したのもムリのないことだったんですよ。
4件目はお前がフランケンだからな。
バッグは相棒が持ち去って処分した。
あなたは捨て場所を知らなかったわけですよ。
だからって…!はい?今夜の強盗僕が指図したってことになるのか?今夜の強盗は被害者の目をふさぎませんでした。
だから何だって言うんだっ!?なぜでしょうねぇ…?今夜に限ってなぜ目をふさがなかったのでしょう?知らないよそんなことっ!!モンスター強盗だということをハッキリ印象づけるためですよ。
怪物のマスクをしっかり被害者に見せつけ間違いなく5件目のモンスター強盗だと強調したかった。
だから今夜に限ってわざわざ目隠しをやめたんですよ。
あなたのアリバイはこっちの相棒亀山君が証明してくれますから。
そっちの相棒に連絡して単独でやらせたんだろう?白状しろよ。
その野郎が捕まるのは時間の問題だぞ。
何とか言えっ!!弁護士に…。
ああっ!?相談したい…。
何をっ!?もちろんですよ。
あなたにはその権利があります。
どなたに頼みますか?あなたバカだわ!せっかくのチャンスをフイにしたんだもの。
自由の身のままで罪を償えるチャンスだったのに…。
わかってる?あなたが無罪になったのはたまたま運が良かっただけ。
警察がヘマしたおかげなのよ。
だから刑務所行きも免れた。
刑務所に行かなくても罪は償えるわ。
(かおり)心から自分のしたことを反省して悔い改めればいい。
なのにあなたはそうしなかった。
あげくにこんな工作までして…。
今度は本当のことを話して。
黒岩繁さん。
ご足労ですが署までご同行願えますか?もちろんまだ任意です。
拒否してもかまいませんよ。
こんな調子でよろしいでしょうか先生?いつでも弁護は引き受けるわ。
あなたの最低限の利益は守ってあげる。
行こうか。
妙な役目をお願いして申し訳ありませんでした。
面と向かって言われると…正直こたえるんですよね。
はい?〔もしあいつが犯人だったら結果として先生が犯人を野放しにしたことになる〕〔そういうことは考えないんですか?〕考えますよしょっ中。
考えないわけがない。
悩みますよいつも。
だけど…。
あなたは弁護士です。
個人的に被告人が怪しいという心証をお持ちになったとしてもそれにとらわれてしまっては弁護士の役目は果たせない。
それは検察官の役目です。
でなければ法律の専門家がわざわざ右と左に別れて戦う意味がありません。
1人の無実の人間を牢獄に送るぐらいなら100人の犯罪者を取り逃がしたほうがいい。
裁判制度の根本精神です。
私の弁護士としての正義もそこにあると思ってます。
人を裁くことは難しい。
だから慎重でなければならない。
ええ。
黒岩繁はいい弁護士にめぐり会いましたねえ。
2014/02/11(火) 13:55〜15:46
ABCテレビ1
相棒〜警視庁ふたりだけの特命係 #7 #8[再][字]

#7「殺しのカクテル」
#8「仮面の告白」

詳細情報
◇出演者
【#7「殺しのカクテル」】
水谷豊、寺脇康文、蟹江敬三、鈴木砂羽、草村礼子、六角精児 ほか
【#8「仮面の告白」】
水谷豊、寺脇康文、松下由樹、鈴木砂羽、岸部一徳、長谷川朝晴、川原和久、山西惇 ほか

ジャンル :
ドラマ – 国内ドラマ
福祉 – 文字(字幕)

映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
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日本語
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