時速130km。
秒を競うボブスレー。
「氷上のF1」と呼ばれています。
(実況)ああ〜っと…危ない!
(解説)転倒寸前でしたよ今は。
開発に当たるのは世界に名だたるメーカー。
巨額の資金を投じた最新機器を駆使して開発にしのぎを削っています。
このボブスレーの開発に日本の小さな町工場が技術を結集して挑んでいます。
東京・大田区…予算は僅か開発は全て手弁当です。
たたけよ!目指したのはソチオリンピック出場。
厳しい経営環境にあえぐ町工場の職人たちがその技を世界に示すためプライドを懸けた戦いに挑みました。
そう意地なんです。
下町!脇田!中村!ウォ〜!金でもなく名声でもなくただ町工場の誇りを胸に集まった男たち。
ひと冬の戦いを追いました。
およそ4,000の町工場が集まる…古くからものづくりの町として知られてきました。
金属の溶接や旋盤加工などそれぞれの工場が高度な専門技術を持っています。
職人たちが小さな設備で行う精密な加工。
日本経済を支えてきました。
しかし長引く不況や海外メーカーとの競争で町工場の数は最盛期の半分以下にまで激減しました。
この大田区で町を挙げて挑んでいるのがボブスレーの開発です。
去年9月ソチオリンピックで採用される事を目指し準備が急ピッチで進められていました。
このプロジェクトを運営しているのは30代40代の若手経営者たち。
活動は寄付金が頼りです。
発起人の細貝淳一さん。
金属の精密加工を行う町工場を経営しています。
ボブスレー開発に挑もうと思ったのは3年前でした。
年々町が活気を失っていく事への危機感。
「メード・イン・大田」のそりを世界の舞台で走らせる事ができれば町は再び元気になると期待したのです。
1社だと1つのものはできないかもしれないですが束ねていろんな工場が持ち寄る事によって技術を集結して世界に挑めるというようなフィールドはあるんじゃないかなと思ったわけですよ。
日本の東京の大田区で作ったというマシンが世界で走る事が我々の地域を世界に知って頂くチャンスなんじゃないかなと思うわけです。
プロジェクトチームはレーシングカーを開発している日本のメーカーに設計を依頼しました。
小柄な日本選手に合わせた軽さ。
そして空気抵抗の少なさ。
それが世界に通用する速さを生み出す条件です。
ここに町工場の技術を注ぎ込む事にしたのです。
「大田の技術力を世界へ」。
細貝さんたち若手メンバーが呼びかけたところおよそ60の町工場が無償で協力してくれる事になりました。
金属の特殊な加工技術を持つこの町工場もその一つです。
この会社が引き受けたのは自動車の車軸に当たる「アクスル」という部品の加工です。
このアクスルただの金属の棒に見える部品ですがそりを軽くするため中がくりぬかれています。
金属の棒は中をくりぬくともろくなりますが特殊な技術を使う事で強度を保つ工夫をしました。
日本伝統の刀鍛冶の技。
1,200度に熱した金属の棒をたたいて成形します。
金属はたたけばそれだけ強くなります。
形を整えながらたたいていくのは長年の経験と勘が頼りです。
これを最小限の設備で正確に仕上げるのが町工場の技です。
その後いくつもの町工場で加工され出来上がったアクスルです。
これね実はすごいんです。
職人の経験と勘が図面上には表れてこない課題を見つけ出す事もあります。
板金と溶接を40年。
設計図どおりに溶接しようとすると無理が生じる事に気付きました。
どんどんどんどんにはならない?ならない。
師岡さんが引き受けていたのはアクスルに小さな部品を取り付ける作業です。
しかしアクスルは中をくりぬいているため溶接の時に熱で反り返ってしまうというのです。
師岡さんは金属の性質を徹底して調べる事で一つの解決策を考えつきました。
溶接する直前にアクスル全体の温度を上げておく事で反り返りを防ぐ事ができるのです。
18歳でこの道に入り父親から工場を継いだ師岡さん。
どんな小さな部品でも納得のいく仕上がりにする事を信条にしてきました。
そんな師岡さんに若手の経営者たちが呼びかけてきたボブスレーの開発。
「自分の力が世界との戦いに生かせるなら」という思いで参加を決めたのです。
9月半ば。
町工場から200点の部品全てが集まってきました。
師岡さんが溶接したアクスル。
反り返りは抑えられ完璧な仕上がりでした。
スケート靴のブレードに当たる…尾針徹治さんが氷との摩擦を抑えるため1000分の1mmの精度で削りました。
ランナーを固定するキャリア。
廃業を検討していた小林一男さんがメンバーの思いに応え溶接しました。
そしてそりの骨格フレーム。
國廣愛彦さんの工場がより軽くしなやかになるよう特殊な加工を施しました。
僕の部品もそうなんですけど僕も作る時に「ここは誰々の部品がはまるんだよな」とか想像しながら僕もやったので…。
しかも一つ一つにドラマがあるじゃないですか。
ストーリーと物語があるので僕もこれ見た時になんかいろんな一大絵巻みたいなのが迫ってくるような…。
部品一つ一つに速さを追求する職人たちの技が注ぎ込まれていました。
どうぞ!そして…ついに完成した下町ボブスレーが公開されました。
この場で競技連盟の会長は日本代表チームが正式に採用する可能性を示唆しました。
プロジェクトリーダーの細貝さん。
採用はほぼ決まったと受け止めました。
これが下町ボブスレーです。
本物のボブスレーです。
地元の人たちも待ちわびていた下町ボブスレー。
世界への道は開かれた。
この時誰もがそう思っていました。
完成発表から1か月。
待っていたのは思いも寄らない現実でした。
オリンピック出場権を懸けてカナダの北米選手権に遠征した日本代表チーム。
実はこの時もう一台別のそりを準備していました。
世界大会で度々上位入賞を果たしているヨーロッパのメーカーが作ったそりです。
下町ボブスレーはテスト滑走でこのそりとタイムを比較される事になったのです。
OK。
OK。
結果は敗北。
その差は0.84秒。
大きな遅れと判断されました。
結局日本代表チームはこの大会で別のそりを採用。
32チーム中14位でした。
3週間後。
プロジェクトチームに入った日本代表チームからの連絡。
もしもしもしもし。
「日本代表チームは下町ボブスレーを採用しない」という通告でした。
はい失礼します。
はあ〜。
(西村)そうですね。
(西村)いや全然そんなのは…。
地方の人でも。
代表チームが不採用の理由に挙げたのは27項目。
フレームの幅が狭い。
選手が握る取っ手が弱い。
その多くは完成度の僅かな不足を指摘するものでした。
突然突きつけられた不採用の通告。
オリンピックを目指していた町工場に動揺が広がりました。
人数そんな来ないからこっち集まろうか。
フレームの加工を行った國廣愛彦さんの工場です。
社員たちに不採用になった事を伝えます。
大きな声で楽しく話す内容じゃないんでもう一列前へ来てもらっていい?こっちに。
アハハみんな下を向いてしまって残念な部分で。
僕も…僕もというかねプロジェクト自体もほんとに休みなく土日なんかもみんな仕事で出てもらったりとか。
ただ僕うれしかったのはですねこのプロジェクト1年以上たってると思うんですよね。
…なんですけど皆さんから何ていうのかな「何でこんなのやってんだよ」とかというのを言われた事がなかったんで。
お金にならないじゃないですか。
…なんですけどそれよりもうれしい事に皆さんが「次どんなそり作るんですか?」とか言ってくれる人が溶接現場の人たちにいたりとかですねというようなプロジェクトに関われたっていうのが非常にうれしいなと。
何もなかなかうちとしては成果が出せなかったのにほんとに今までついてきてくれてほんとにうれしいなと思ってますんで。
國廣さんの家族もボブスレーがオリンピックに出る日を心待ちにしていました。
オリンピック…愛チンほら運動会で頑張ったじゃん。
ボブスレーもオリンピック頑張ったんだけど行けなくなっちゃったんだって。
何で?みんな頑張ってたんだけどね準備が間に合わなかった。
残念?オリンピック出れないんだって。
何で?準備が間に合わなかったから。
ごめんなさい…。
家では全然見せない分私も今日ちょっとテレビで拝見したのでビックリ実際して頑張ってる姿を陰ながらですけど見てた分私もちょっと残念だったのが今日感じましたけどね…。
3年越しの夢が絶たれた日から5日。
プロジェクトチームは緊急の会合を開きました。
集まってきた町工場の人たち。
プロジェクトリーダーは語りかけました。
細貝さんは前を向いていました。
よろしくお願いします。
(拍手)ボブスレーに改良を加え全日本選手権で最も速いタイムを目指すという新たな目標を掲げたのです。
ところがメンバーに詰め寄る職人がいました。
今回の決定に納得できないというのです。
「納得できなければ協力は難しい」と帰っていきました。
部品加工の責任者西村修さんが師岡さんを訪ねました。
すいません。
そうですよね。
納得できる答えを求める師岡さんに西村さんはプロジェクトを続ける意味を語りかけます。
(西村)そうなんです。
西村さんが繰り返したのは大田のものづくりの心を伝えたいという切実な思いでした。
数日後。
ボブスレーの部品の改修に取りかかった師岡さんです。
作り直していたのは27項目の一つ小さなグリップ。
強度の不足が指摘されていました。
一つ一つ丁寧に磨きながら仕上げていきます。
滑走中選手が握りしめるグリップ。
完成したあとも繰り返し磨きます。
社員の前で涙ながらに結果を報告した國廣さん。
現場の職人たちがもう一度作りたいと申し出てくれました。
作り直したのは27項目の一つリアフレーム。
そりの骨格にあたる部分で選手がこの間に乗り込みます。
「フレームの角が足にぶつかる」と指摘されていました。
ここにこうやって足を踏み出す。
そうするとここの部分が足に当たっちゃって青あざになっちゃうんだって。
なのでここを…。
角パイプだからこれ削っちゃったら穴開いちゃうじゃん。
もし穴開いたら何かで付けて塞ぐような形で出来上がった最後でいい。
最後にここをRに仕上げてほしい。
なるべく丸くしてほしい。
選手を気遣い足を傷つけないよう手作業で角を削っていきます。
ミリ単位の細かな要望に一つ一つ丁寧に応えるのが下町の職人です。
めっちゃ見たいです。
不採用の通告から3週間。
職人たちが丹精を込めて作った部品が集まってきました。
多くの職人の思いが改良版下町ボブスレーに組み込まれました。
12月22日。
製作に携わった職人たち50人が応援に駆けつけました。
お疲れさまで〜す。
ソチオリンピックには出られませんがこのボブスレーで最高のタイムに挑みます。
(笑い声)参加したのは6チーム。
最大のライバルはオリンピック日本代表チームです。
一方下町ボブスレーには急きょ2人の選手が乗ってくれる事になりました。
16年前に引退した元オリンピック選手とボブスレーに初めて乗るという大学生です。
一人は大会前足にケガをしていました。
(アナウンス)1番脇田・中村チーム。
Trackisclear.下町ボブスレー1番目の滑走です。
いきますよ〜!せ〜の!
(一同)下町!脇田!中村!
(手拍子)
(一同)ウォ〜!
(2人)OK!片足でのスタート。
出だしは大きく遅れます。
しかし後半スピードに乗っていきます。
よし!更に加速。
勢い保ちフィニッシュ。
お〜。
(拍手)お〜54秒64!お〜!すごい速い。
54秒64。
やべぇ。
職人たちが初めて目にする下町ボブスレーの走りでした。
(笑い声)「頑張ったよ」って俺らじゃねぇか。
(男性)大したもんだよ。
すげぇ。
そして3番目に日本代表チーム。
そりは外国製です。
(2人)OK!力強いスタートダッシュ。
前半から快調な滑りです。
これくるね〜。
53秒56。
下町ボブスレーは1秒下回り2位に終わりました。
ところが一つ成果がありました。
最高速度で日本代表を0.5km上回っていたのです。
第2位脇田・中村チーム。
(拍手と歓声)急ごしらえのチームで最高速度をマークした下町ボブスレー。
(笑い声)一度は絶望を味わった町工場の職人たち。
次につながる結果でした。
2月ソチオリンピック開幕。
師岡さんは仕事の手を止め観戦しました。
(実況)日本の鈴木・宮崎の組です。
(解説)ちょっと広がってますねえ。
(実況)さあフィニッシュへ!フィニッシュ!57秒91。
(解説)前半部分から少しスピードに乗り切れませんでしたね。
日本代表チームは30チーム中28位。
乗ったのはヨーロッパのメーカーが作ったボブスレーでした。
町工場の日常にも小さな変化が起きていました。
(男の子)ボブスレーの部品…。
(子供たち)はい。
興味を持ってやって来た子供たちの姿です。
結構軽い。
(師岡)重たい?
(男の子)こうやってつかむの?
(師岡)そう。
そうやって。
すご〜い。
(師岡)ピカピカに磨いたんだよ。
ほんとだ鏡みたい。
(女の子)後ろの辺に付いてるんですか?町工場は4年後のオリンピックに向けて動き始めています。
この日招いたのは強豪国ドイツの元チャンピオン。
改善のポイントについてアドバイスを受けました。
世界最速への挑戦です。
(笑い声)町工場のプライドを懸け世界の舞台へ。
OK!走れ!下町ボブスレー。
(正文)ちょっとお互い思うところがあるだろ。
2014/02/25(火) 00:40〜01:25
NHK総合1・神戸
地方発 ドキュメンタリー「世界に挑め 下町ボブスレー」[字]
惜しくもソチ・オリンピックの出場がかなわなかった「下町ボブスレー」。日本中が五輪で盛り上がりを見せる中、町工場の男たちは人知れず世界を目指した挑戦を続けていた。
詳細情報
番組内容
ものづくりを支えてきた東京都大田区の町工場が、国産ボブスレーの開発に乗り出した。「技術を世界に示し、苦境に立たされた町工場を活気づけたい」と、職人たちが寝る間も惜しんで作り上げた「下町ボブスレー」。だが、世界の壁は厚く、ソチオリンピック出場は、かなわなかった。それでもあきらめずに改良を進め、国内で公式戦デビューを果たし、夢に着実に近づいている。「世界最速のマシン」開発にかける男たちのドラマ。
出演者
【語り】中谷文彦
ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事
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音声 : 2/0モード(ステレオ)
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