大阪の住宅街。
マンションの一室に小さな学習塾があります。
(渡)うどん食っていけよお前ら。
うどん屋渡開店や!食っていけよ。
塾長の渡剛さんが3年前に立ち上げました。
ここに通う生徒の多くにはある共通点があります。
両親の離婚などにより一人親家庭で暮らしている事です。
どうやら両親がいる家庭ではこうやって食卓囲んでいろんな話するらしいからな。
ちょっといろいろしゃべろうぜ。
大変。
大変?どうした何が大変なん?自身も一人親家庭で育った渡さん。
この日はみんなでカップ麺を食べる事にしました。
親が仕事で忙しく一人で夕食をとる子どもたちも多いからです。
だいぶ健康に悪いな。
この塾では一人親家庭の生徒は授業料を通常料金のおよそ半額にしています。
週1回の授業で月謝は4,800円。
教えているのも多くは一人親家庭で育った大学生たちです。
「最も」…「最も」って「ベリー」「めっちゃ」?「めっちゃ」。
テストに「めっちゃ」って書いたらあかんで。
「とても高い山」。
この日元塾生の高校生が再び入塾したいがお金がないと相談に来ました。
だって俺んとこびっくりするぐらいカツカツで回してて今まで保ってるのがすごいぐらいやもん。
泣きたくなるぐらい縛られてる。
耀平くんの家族は生活保護で暮らしています。
どこまでお前が頑張れるかやな。
例えば週1コマ授業でも取ればさ別に自習室利用とかも可能になる訳やん。
計画立てるぐらいやったら一緒にやったるし。
学校も毎日ちゃうし早朝バイトしててそっからそのまま昼過ぎぐらいまで別のバイト探して。
それで2教科とかやったら無理なくいけるかも。
そやそこや。
あ減るわ。
絶対減るわ。
うわホンマや。
変わらんねや。
お金の件で変に気ぃ遣って頑張るのってやっぱりしんどいと思うし俺もしんどかったし。
そこはお前がそんな心配せんでいいようなでも最低限は負担してもらわなあかんとこは負担してもらう形を一緒に考えるわ。
(耀平)よし気合い入れていこう。
ここ信頼しきってるから。
ホント?ありがとう。
一人親家庭の子どもたちが抱える問題はお金の事だけではありません。
中学3年生の…母親が多忙のため小学生の頃から勉強の相談相手がいなかったと言います。
(取材者)大体出来てんじゃん。
こっちのがペケポ〜ンやもん。
(取材者)あホントだ。
こっちで50点くらいあるもん。
このままでは高校に進学できないのではないか。
栄子さんは焦りを感じています。
くそったれ〜。
めっちゃ悲しくなってくる。
家で分からんとこあってもさ結局分からんままで終わるやん。
だからそれやったら塾の方がいいやろなって来た。
僕らが相手にしなかったらじゃあ誰があいつらと向き合うんだよっていう…。
少なくとも自分の目の前にいてこいつ困ってんなって分かってる子どもは支えてあげたいなと思ってて。
24年前渡さんは未婚の母親のもとに生まれました。
2人の兄と祖母に囲まれ父親はいなくてもにぎやかに暮らしていました。
しかし中学生の頃に生活が一変。
兄が闇金融に手を出した事で家族同士のけんかが絶えなくなったのです。
母親は「もう死んでやる」みたいな事をよく言ってたんですよ。
ま母親もしんどかったんだと思うんですけど「死んでやる」みたいな事をよく言っててそん時にいつも決まって「明日私は剛と一緒に死ぬから」みたいな…。
だからあの時をホントにひと言で言うなら恐怖でしかなかったですね。
むちゃくちゃ怖かったですね。
(取材者)お母さんに「やめて」とかって?いや〜何か…言えない…言えなかったんですよね。
ちょっとでもお母さんが楽になるように自分が頑張らないとみたいな。
本音隠して強気に振る舞うっていう事の方が多かったですねあの時は。
しかし大学受験の勉強に励んでいた高校3年生の夏。
兄が再び闇金融に手を出してしまいます。
渡さんは自分の気持ちを抑えられなくなりました。
ホントにいよいよ無理だなと思って。
こんな状況で大学なんてバカだと思って。
でそこで初めて家族恨んだんですよ。
そして渡さんはそれまで言えなかった本当の思いを手紙という形で母親に伝えました。
「俺は常に母さんの顔色を気にして生きてきました。
『今日は機嫌が悪そうだ』とか『仕事で何かあったのか』とか考えできるだけ迷惑にならないようにやってきました」。
「でももう我慢しきれません。
苦しまずに死ねるなら多分死ねます」。
しかしそのあとすぐ思いがけない事が起きました。
父親にあたる人が亡くなり遺産が転がり込んだのです。
そのお金で大学に入学する事ができた渡さん。
3年生の時に自分と同じ境遇の子どもたちを支えたいと塾を立ち上げました。
一人親家庭という環境によって将来制限されたりっていう事は絶対にあってほしくないしそんな子どもは自分たちで終わらせたいみたいな気持ちを持って取り組み始めた事なんで。
一人親家庭の子どもが自分が生まれた家庭を恨んじゃう事をなくしたいなと思って。
渡さんには今とりわけ気になっている生徒がいます。
池田達拓くん高校2年生。
(達拓)ちょっと待って下さい。
ちょっと待って下さい。
達拓くんは小学生の頃から学校に行ける時期と行けない時期を繰り返してきました。
マイナスの期間なんかあるじゃん人生において。
たまたま今がその時期なんだって。
まあそうなんだけどさ…。
この先達拓くんに対して何ができるのか。
渡さんは考え続けています。
達拓くんとどう向き合えばよいか悩んでいるのは渡さんだけではありません。
達拓くんの母…5年前に夫と離婚し2人の子どもを連れて家を出ました。
気性の荒い夫が自分と達拓くんにきつくあたる事が原因だったと言います。
以来織江さんはフルタイムで介護の仕事をしながら子どもたちを一人で育ててきました。
織江さんは毎朝7時に子どもたちを起こします。
おはよう。
調子は?
(達拓)寒い寒い寒い…。
どうすんの?知らんで。
起こしたからね。
達拓くんはいつもなかなか起きません。
織江さんは小学生の尚弥くんを送り出すため達拓くんにつきあう余裕はありません。
(トースターの音)
(織江)パン焼けたよ〜。
この日も達拓くんと顔を合わせる事なく仕事に出かけていきました。
留年寸前になっても学校に行けない達拓くん。
ぬるい!全然温まってないよ。
ふざけんなよ。
誰だよ。
不登校を繰り返すようになったのは6年前の事です。
確かそんな感じで暗い部屋に追い込まれて…。
うわ〜怖かった〜。
本気かどうか分かんないですけどボコッとボコッと殴られて壁にガッてなって。
確かにそん時痛いって感じなかったんですよ。
それぐらい…それぐらいに自分はクズだと思ってて。
自分はクズだと言い続けて自分で自分に言い続けて…。
でそんな状況で友達とも遊んでられないし…勉強もできないしそんな状態で何もしないできない…。
そう何もそん時はできないですね。
何もできない。
あ俺が入れるし。
もう遅い。
自分を否定し続け身動きのとれない達拓くん。
その気持ちを母親に分かってもらいたいと思っています。
仕分けして。
(達拓)聞いてくれよ。
何でさ俺こんな本気になれないんだろう。
いやそんなはずはない。
そんなはずはないよ。
(織江)いつまでも悩みっ放しいつまでも考えっ放しで全く動かなかったら変わらないじゃないの。
それが自分の満足する人生なんだったら悩みっ放しでも考えっ放しでもいいよ。
やだな〜。
うわ〜。
やだわ。
ま…っていう話でした。
何か説教になってんじゃん俺から話し始めたのに。
悪かったね。
ほらそこですよ。
はいはい。
そこそこ。
(織江)ごめん何て言ってほしかったの?次の時はちょっと改善するから。
何でそうやってさ何か超然的な。
(織江)しんどいねん。
(達拓)超然的ないいお母さんぶってる訳?いつもだったらさ絶対そんな事言わない。
達くん考えたんや私もそれなりに。
それなりに考えたの。
(達拓)あそう。
もうあなたと争いになるのしんどいねん。
塾にやって来た達拓くんが渡さんに母親への不満を漏らしていました。
う〜ってもう…何なの?人を勝手に罪人扱いしてさ。
一回腹割って話したら?いやそれがね…まあそうね。
そうだよね。
何やったら俺入るし第三者的に。
渡さんは達拓くん親子との三者面談を提案しました。
第三者入ってもらってちゃんとお互いの意見言い合って。
母親はこう思ってる。
まお前が知らない母親の思いもあるじゃん。
もちろん母親が知らないお前の思いもあるし。
何かねお互いちゃんと分かり合わないとまず。
それは理想だと思う。
うんそうだね。
達拓くんは渡さんの提案を受け入れました。
自分たちの関わりを通して親と分かり合ってほしいみたいな。
ホントにエゴですけどね。
それが必要ない子どもも絶対いるし。
そうしようとする事がマイナスになる子どももいる事は分かってるんですけど…。
でも何か僕の中のこだわりとして捨てられないとこだなと今思って。
2週間後。
お邪魔しま〜す。
面談は達拓くんの自宅で行われました。
じゃあえ〜っとまずですねとりあえず達拓の方からまずしゃべる場を持ってもらおうかなと。
俺も気持ちは極力学校に学校にってこうぐ〜って押してたんだよ。
でも動かなくて。
動けなくてだよね。
そうそうそうそうそうそう。
まそれでもういっぱいいっぱいだったんですよ。
そういう時に何か学校行かない事について言及されるととてもカチンと来て。
「ああ!?」つって「ふざけんなよ。
こっちだって行こうとしてるんだよ」つってキレたと思うんだよ。
正直に申し上げますとやりにくくてしょうがないです。
謝ったら済む話なんじゃないのかなって思ってこれ。
「昨日あんな言い方してごめんね」とか。
2人はなぜ心を通わせる事ができないのか渡さんは問いかけました。
そうならないのは何でなんですかね?それは私が大人じゃないからです。
次の日はないです。
そこでもう…何て言うのかな。
すご〜く禍根を残しながら終わって一方的に私が「あんたのけんかなんか買わないよ」みたいな感じで相手にしないので。
でもね…ごめん。
やっぱり私が折れなきゃいけないねそれはね。
私の方から正直に気持ちを伝えないと駄目だね。
母親の言葉を聞いて達拓くんは自分の本当の思いを初めて話しだしました。
自分ですらこんな自分認めたくないなと。
学校行かねえ自分認めたくないなと思ってるんだけどそこに母がもし認めてくれたらどんなに救われるだろうなって思ってるんだよね。
見えてくる事実はホントにたった一個だけでめちゃくちゃ好きなんですよ達拓はお母さんの事を。
(達拓)何かそうかもしれないね。
「そうかもしれない」とかかっこつけなくていいって。
フフフありがとう。
お母さんはちなみにどうですか?聞き方おかしいですけど。
かわいいですよ。
やっぱ好きですか?うん大好き。
…だって。
よかったじゃん。
ウィッス。
ウィッス。
ウィッス。
2人が本音を語り始めると渡さんは黙って見守る事にしました。
(達拓)それを言っちゃでもさ…。
(織江)入り方が悪いよ。
ただ達くんの思いに寄り添えるのが私しかいないってもし思ってたとしたらその部分は全くかなえてあげられてないので逆にどっちかって言うと…私は大きな声を出す人とか手を上げる人とかも大っ嫌いなんだけど…。
今度はお父さんと離れたらその解放感から達くんが大きな声を出すようになったり尚弥にきつくあたったりっていう事がよくあったでしょ?そうすると今度は達くんをかばってきたようにお父さんから達拓くんをかばってきたように達拓くんから尚弥をかばわなきゃいけないっていう事が起きてたのよ。
(達拓)ふ〜ん。
達くんが怒っちゃう時には私は尚弥の手を引いて外に出た事も何回もあるよね?達くん一人だったらもうちょっと気持ちをくんであげる事もできたかもしれないけど自分の回復と自分と子どもの生活達くんのフォローと尚弥を守るっていうこんなにいっぱいはもうできなかった。
ごめん。
ごめん。
ごめん。
自分は…おやじにされた恐怖を尚弥に与えてるのも分かってて…。
でも…ホントにそうするしかなくて。
いつも…そうやって結局自分を責めて。
俺は心から自分の事を褒める事がなかったかなって。
そうやって生きていくしかなかったから。
だから尚弥がそん時も…今もだけど「お兄ちゃん大好き」って言ってくれるのが痛くてつらくてうれしくて…。
全然子どもに寄り添ってなかったと思う。
何かね不安が大きかった。
すっごい不安だった。
今自分が…形がどうあれ悩んでたりとかそれから…いろいろあったりするけどでもいつかつらくないようにしたいしそれはホントに心から思うし別に今と決別するとかそういうんじゃなくて自分の事好きになれたらいいなと思って…。
(織江)大丈夫大丈夫。
そのままでいいじゃん。
大好きだよ。
今日はすごい頑張ったね。
全部うまくいく事なんてないけど仲良くしようぜ。
握手だ。
塾長もどうもありがとうございます。
そんな…恐縮です。
この場に立ち会わせて頂いて恐縮です。
ありがとうございました。
ホント絶対泣かないと思ってたのに。
帰り道渡さんはずっと昔の自分を思い出していました。
羨ましかったですね。
高校2年生の時にああやって親と自分が思ってる事吐き出して伝えたい事伝えてって。
いいなって。
自分も欲しかったなって思いながら…。
でも何かそうだよなそうそうここが原点で自分は仕事始めたんだよなっていうのを思って。
何かこう…ちょっとですよちょっとですけどちょっと自分の人生にリベンジできたかなと思って。
ちょっとだけだけどやってやったぞみたいな。
のぞみ数学どうやった?上がった。
上がった!?塾にはいつものように勉強する子どもたちとそれを見守る渡さんの姿がありました。
じゃあここは60度だね。
ウェ〜イ。
そのとおり。
いける?うんなんとか。
頑張るわ。
うん頑張るわ。
また明日も来る人?は〜い。
何時に来るん?1時。
何時?9時。
開いてない開いてない。
俺11時に来るからな。
それより前に来たら開いてない可能性あるで。
はいお疲れ!どんな家に生まれても胸を張っていけるように。
渡さんは子どもたちと一緒に歩んでいきます。
バイバイ。
無事に定年を迎えたAさん65歳。
2014/03/25(火) 13:10〜13:40
NHKEテレ1大阪
ハートネットTV「どんな家に生まれても〜一人親家庭を支える学習塾〜」[字][再]
一人親家庭で暮らす子どもたちを支援する学習塾が、大阪・箕面市にある。さまざまな困難を抱える子どもたちに正面から向き合う、若き塾長の姿を見つめる。
詳細情報
番組内容
両親の離婚などにより一人親家庭で暮らす子どもたちを支援する学習塾が、大阪府箕面市にある。塾を立ち上げたのは、自らも一人親家庭で育った24歳の渡剛さん。渡さんの願いは、どんな家庭に生まれたとしても、子どもたちが意志と努力で自分の未来を切り開いていくこと。経済状況や家庭環境などでさまざまな困難を抱える子どもたちに、正面から向き合う渡さんの姿を見つめる。
出演者
【語り】高畑充希
ジャンル :
福祉 – その他
福祉 – 高齢者
福祉 – 障害者
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音声 : 2/0モード(ステレオ)
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