NHKスペシャル「里海 SATOUMI 瀬戸内海」 2014.03.23

わしが誰だか分かるか?ジャングルみたいじゃろ?よ〜く見てごらん。
わしはカキじゃ。
岩場のようなわしの体は200種類もの生き物たちの住みかになっておる。
海草にホヤ。
メバルに…クロダイ。
今日はかつてひん死といわれた海がわしらの力で復活していく物語じゃ。
わしらがつるされているのは瀬戸内海。
1万4,000台ものカキ筏が浮かべられておる。
姿を消していた生き物がここ数年戻り始めておる。
100頭を超すイルカの群れ。
一時は絶滅寸前に追い込まれた生きている化石…自然の浜で産卵できるようになったんじゃ。
なぜ瀬戸内海が復活したかって?わしらを育ててくれた漁師のおかげじゃ。
漁師はアマモという海草の種を毎年毎年まいてきた。
水が汚れて枯れてしまった海の森をようやくよみがえらせたんじゃ。
海の仲間は安心して卵を産めるようになった。
生まれた子どもたちはわしらのもとにやって来てエサを食べ大きくなっていく。
冬になるとわしらは水から引き上げられて育ててもらったお返しをするんじゃ。
人間と海との持ちつ持たれつの関係。
それを瀬戸内海では里海と呼ぶ。
どんな世界なのか。
ご覧に入れよう。
わしらが筏につるされて浮かべられるようになったのは戦後沿岸が埋め立てられ工場などが立ち並んだ頃の事。
養殖する場所が減り沖に出るしかなかったんじゃ。
長さ9mのロープにつるされたわしらの世界じゃ。
ロープ1本に数百個。
筏1台で50万個育てられておる。
わしらが育つにつれくっつく仲間が増えていく。
2か月から半年になると…。
更に1年たつと…。
わしの体は海草だらけ。
ホヤの仲間やイソギンチャク。
エビやカニもたくさんおる。
沿岸の岩場が無くなって住みかを失った生き物たちじゃ。
200種類にも及ぶ。
魚たちにとっては食事もついた人気の集合住宅じゃ。
大きな魚もたくさん住みついておるぞ。
カキ筏は沿岸の岩場を追い出された生き物たちの引っ越し先になっておったという事なんじゃな。
近畿から九州にまたがる日本最大の内海…全国の人口の3/3…3,000万人が周辺に暮らしています。
沿岸にコンビナートが立ち並んだ1970年代。
赤潮が一年に300回近く発生するひん死の海でした。
工場などから流れ込む窒素やリンなどのいわゆる富栄養化物質でプランクトンが大発生したのです。
それから40年。
排水規制もあり赤潮はようやく収まりつつあります。
実はこの海の浄化に大きな役割を果たしたものがある事が最近の研究で分かってきました。
瀬戸内海の水質を調査してきた…カキ筏の浄水能力を見せてくれました。
直径30cmの白い板をまずカキ筏のない所に沈め見えなくなる深さを調べます。
同じ板を今度はカキ筏の中に沈めます。
(松田)9mだとちょっときついですね。
透明度が高いのはカキが海中のプランクトンを食べているからです。
カキが入った水槽にプランクトンを入れると…。
カキ1個で一日に風呂おけ1杯分の海水をろ過する力があるのです。
(松田)もしカキがないとすると…汚染が最もひどかった頃の赤潮の分布図。
ここにカキ筏を重ねてみます。
特に赤潮が頻発しカキの養殖が盛んな広島湾で変化を見ると一進一退を繰り返しながらも赤潮が減っていくのが分かります。
カキ筏がない大阪湾などを除いて赤潮は収まっていきました。
瀬戸内海全体で育てられるカキは65億個。
この巨大ろ過装置が赤潮の海だった瀬戸内海を少しずつ元に戻していったのです。
沿岸の開発で沖に活路を見いだそうとした漁師たちの知恵。
それが瀬戸内海の再生につながっていたのです。
わしらカキの活躍によって海がきれいになり増えだした仲間がおる。
アマモという海草じゃ。
水が汚れていた頃随分減っていた。
アマモの森の復活がな瀬戸内海に魚たちが戻ってきた事と深く関わっておるんじゃ。
それはどういう事かって?あったあった。
イカが卵を産み付けておる。
赤ん坊が産まれた。
アマモの森は海の揺りかご。
多くの命がここで生まれ育まれるんじゃ。
葉っぱに小さな泡が見えるじゃろ。
光合成で生み出される酸素じゃ。
わしらカキが水をきれいにしたおかげで光がさし込むようになったんじゃ。
見覚えのあるやつがおるな。
メバルの赤ん坊じゃ。
少し大きくなるとアマモの森を飛び出して…わしらの所にエサを食べにやって来る。
カキとアマモがそろった事で魚たちはすくすく育つんじゃ。
回復し始めたアマモ。
その面積は最も少なくなっていた頃の1.5倍になりました。
その中でとりわけ一気に増えだした場所があります。
最も少なくなっていた頃の17倍になりました。
(セリの掛け声)日生の魚市場。
アマモが無くなった頃に姿を消していた魚が戻り始めています。
一時は全く取れなくなっていた…アマモの中に暮らすその名も…ここ数年網に入るようになりました。
最近まで全くアマモが無くなっていた港に今ではびっしり生えています。
その立て役者は地元日生の漁師たち。
毎年アマモの種をまいてきました。
取り組みを始めたのは漁獲量が最盛期の半分に落ち込んだ30年前。
イネ科に近いアマモ。
その種を取り半年保管してまくという地道な作業を毎年続けてきました。
(藤生)これがそうなの。
この白いの。
この白いの。
これこれ。
これこれ。
まいた種は30年で1億粒に上ります。
先頭に立ってきた…どこに魚を増やしたいか漁師仲間と話し合いながら種をまいてきました。
(藤生)自然に生えるのを待っとったっていつになるか分からないという気持ちがあるし。
そしたら人間の手でまいてやるかと。
思う場所にまけるし。
結果はどうであれね。
しかし最初のうちはアマモの種が芽を出してもすぐに枯れてしまいました。
そこで藤生さんたちが利用したものがあります。
カキ筏です。
水を浄化する力がある事を知りアマモを増やしたい入り江に筏を移動させたのです。
透明度が上がり光がさすようになった海底でアマモが育ち始めました。
人が環境を整える事でアマモは一気に増えだしたのです。
ここ何年かでぐっと増えた。
ここ3年4年ぐらいで。
継続は力。
諦めたら駄目かもしれんな。
何かにつけてね。
アマモの復活は人の暮らしに近い海の環境も変え始めています。
この干潟で絶滅寸前からよみがえった生き物がいます。
古代生物三葉虫を祖先に持つ…環境の変化に敏感なカブトガニ。
アマモの再生とともに海の環境が整えられ途絶えていた自然の浜での産卵も見られるようになりました。
砂の中に産み付けられた数百個の卵。
そこから生まれる新たな命。
瀬戸内海が確実に回復している事の証しです。
アマモの種をまいてきた藤生さん。
自分の育てたアマモの中に網を張ります。
昔ながらの定置網…取り過ぎず網に入った魚だけを頂く里海ならではの漁です。
夜になると…。
昼間は砂の中にいた小さなエビの仲間が動き始めます。
大きな魚がエサを追ってアマモの中を動き回ります。
タツノオトシゴも現れました。
藤生さんの網にも…魚たちが入っていますね。
夜明け前。
藤生さんは網を上げに向かいます。
(藤生)カレイ。
アマテ。
やっぱりありがたいね。
いい魚が入る事はありがたいです。
めったにお目にかかれない高値で売れる魚が取れました。
港に戻ると…。
妻の喜江子さんが朝食の準備に取りかかります。
この日取れたばかりのサヨリ。
(喜江子)お刺身。
フフフフ。
お刺身がおいしいねこれは。
海を気遣い手を入れる漁師。
それに応え恵みをもたらす海。
里海の営みです。
サヨリ。
今日取れたやつおいしい。
もう今が旬ですから。
こういうおいしいものが無くなったらやっぱり…後世に申し訳ない。
やっぱりこういうやつはね。
瀬戸内海で始まった里海の取り組みに今世界が注目しています。
去年10月地中海の港町で40か国が参加する国際会議が開かれました。
集まったのは乱獲や海洋汚染に立ち向かう300人の研究者。
テーマになったのが里海でした。
壇上に上がったのは里海研究の第一人者…会場から質問が相次ぎました。
これまで海を回復させるには自然に任せるしかないとしてきた世界の考え方が大きく変わろうとしています。
アメリカ東部のチェサピーク湾。
貝がほとんど取れなくなった海を再生しようといち早く里海の取り組みを始めています。
汚染の原因は周辺の牧場から牛の排せつ物など大量の富栄養化物質が流れ込んだ事です。
瀬戸内海と同じように回復させる事はできないか。
1万人以上の市民の手でカキを育て水質を改善しようとしています。
ここでも日本の里海をモデルにした試みが始まっています。
舞台は水質の悪化で病気がまん延したエビの養殖場。
植林されているのは…カキのように根から窒素やリンなどの富栄養化物質を吸収します。
エビの住みかになる海草も育てました。
アマモの役割を果たします。
更に小魚なども一緒に育てるとエビだけで養殖するよりも3倍多く育つという結果が得られました。
ちょっとタモ持ってきてくれ。
カニが一番大好物じゃろ。
わしらカニ見たらタコ1匹思いよるけんね。

(セミの声)夏それはわしらカキにとっても一番大切な季節じゃ。
漁師の合図でそれは始まるんじゃ。
漁師がロープを引っ張りわしらを海面近くに引き上げると…。
産卵が始まったんじゃ。
急に温かい所に引き上げられた事が刺激になったんじゃな。
イワシたちも集まってきた。
わしらカキにはオスとメスがおるんじゃ。
粉のように見える粒がメスの卵子。
そこにひものようなオスの精子が出され受精が行われる。
こうして産まれた赤ん坊はしばらく海の中を漂いながら成長する。
赤ん坊はある程度大きくなると幼生になる。
この時固いものにくっつく事ができないと潮に流されて死んでしまうんじゃ。
ここから人の手を借りて海の恵みをより大きなものにする里海の営みが始まるんじゃ。
漁師は筏を引っ張って海に出る。
積んでいるのはホタテの貝殻。
これに沖を漂う幼生をくっつけるんじゃ。
じゃがいつどこに下ろすか。
天候や潮の流れを読んで微妙なタイミングを見極められるか漁師の力量が試されるんじゃ。
広島宮島の…試しに下ろしたホタテの貝殻を引き上げカキの幼生のつき具合を調べます。
黒い点がカキの幼生。
僅か数個しかついていません。
期待したほどじゃないですね。
昨日の段階の水見た時20〜30くらいつくんじゃないかと思ったんですけどやっぱりまだ大きくなってないんでしょうね。
付着までいってないんでしょうね。
例年にない猛暑が続いた去年の夏。
幼生の成長は予想以上に遅れていました。
この日は仲間の漁師と幼生の成長具合を顕微鏡で見る事にしました。
来たって感じですね。
タイミング的には今日いいと思います。
潮の流れに乗って幼生が集まった場所に漁師たちの筏が集結します。
1億枚を超えるホタテ貝が一斉に下ろされ幼生を集めます。
1枚の貝殻にいくつもついたカキの子どもたち。
その一つ一つが大きな殻を持つカキに育つのです。
集められた子どもたちには過酷な試練が待っておる。
漁師は我が子を谷底へ突き落とすライオンのように3mの満ち干を繰り返す海岸につるすんじゃ。
夏の暑い日ざしを耐え抜いた子どもだけを育てる。
いい種だけを生かす。
弱い種はどうせ成長段階で死んじゃうんで強い種だけを強い遺伝子だけを残すという意味で淘汰させる。
人の手を借りて選ばれた丈夫な子どもたち。
1年半かけてホタテの貝殻が見えなくなるくらい大きくなるんじゃ。
カキの種取りが終わる頃アマモの森でも里海の営みが始まります。
アマモの刈り取りです。
適度に間引く事で光が入り来年また新たなアマモが育ちます。
里山のクヌギ林に手を入れるのと同じです。
刈り取ったアマモは無駄にはしません。
海沿いの洞窟に造られた昔ながらのサウナ。
アマモを床に敷き詰めた…磯の香りとともに立ち昇る蒸気が心と体を癒やしてくれます。
暑いです。
暑い。
海の恵みを余す事なく使い切る里海の楽しみ。
もう出たんか?もう出た。
暑かった!あ〜気持ちいい。
極楽極楽今極楽。
アマモは畑の肥料としても大切に使われてきました。
アマモを通して海の栄養素が畑にすき込まれます。
畑にいいんじゃいうてね。
海から陸へ運ばれた恵み。
あ〜抜けた抜けた。
おっきい!おいしい。
おいしい?土の栄養はやがて雨で海に流されまたアマモの森を育みます。
人が手を加える事で豊かさを取り戻し始めた瀬戸内海。
その象徴ともいえるある大きな生き物を追う調査が今始まっています。
イルカの仲間…瀬戸内海の生態系の頂点に立つスナメリ。
体長およそ2m。
かつては1万頭ほどいたといわれますがほとんど見られなくなっていました。
山口沖で調査を続ける市民グループに同行しました。
ポイントに近づくと海がざわめき始めます。
突然現れたのはハセイルカの大群でした。
地元の人もほとんど見た事がないという100頭もの群れ。
イワシを追って瀬戸内海に入ってきたと見られます。
今度は別のポイントで調査を続ける研究者に同行しました。
山口周防大島の近くを航行していた時の事です。
突然海上に現れた鳥の大群。
その直後…。
(上嶋)あっいるいる!10頭はいるな。
10頭ぐらいいるね。
10頭ぐらいいるね。
エサを追うスナメリの群れです。
(上嶋)はいはい出た頭出た!2つ出た!もうそこだからね。
あ〜潮吹いた!カメラはついに野生のスナメリの姿を捉えました。
里海にスナメリを頂点とする生態系のピラミッドが戻りつつあるのです。
冷え込んだ朝。
海に霧が立ちこめる冬。
いよいよわしらの季節がやって来た。
1年半かけてホタテの貝殻が見えなくなるほど大きく育っておる。
身はばっちりです。
目いっぱい入ってますね。
うれしいですね。
ここまで来るのに結構いろんな…台風があったり筏移動させたりとか揺すってカキが落ちたりとかするんで結構な苦労なんですよ。
どうだうまそうじゃろ?わしらなくして瀬戸内の冬は語れないんじゃ。
う〜ん…うまい!おいしいね。
カキ筏にはまた子どもたちがつるされる。
大きく育って魚たちの楽園になってくれよ。
プランクトンを食べて海の水をきれいにしてくれよ。
里海瀬戸内海。
これからもわしらと人間たちで豊かな海をつくっていくんじゃ。
2014/03/23(日) 21:00〜21:50
NHK総合1・神戸
NHKスペシャル「里海 SATOUMI 瀬戸内海」[字]

人が手をかけ自然を育む「里海」の営みによって、豊かさを取り戻しつつある瀬戸内海。今や世界が注目する人と海の織りなす世界。水中、陸上、空中の圧巻の映像と共に伝える

詳細情報
番組内容
70年代には赤潮が年に300回近く発生する「ひん死の海」だった瀬戸内海。その環境がここ数年一気によみがえってきた。立役者は海を気づかい手を入れる漁師たち。人の手を遠ざけ自然のままにして回復を待つのではなく、人も自然の一員として生きる、日本独特の「里海」の営み。その成果が表れたのだ。カキを養殖するいかだの知られざる力や光景。生きている化石カブトガニの復活など、圧巻の映像美で、その世界を見つめていく。

ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事
ドキュメンタリー/教養 – ドキュメンタリー全般
ニュース/報道 – 報道特番

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