(杉下右京)
孤独とはいずこに?と問われても孤独など好んで探すものではなし私とて探偵家業などをしていなければこのたびの孤独の研究に足を踏み入れる事はなかったであろう
「孤独は山の中でなく街の中にある」と言った哲学者がいたが私もまた街中である孤独な男に出会った
10人目の助手であるKくんは「あの人なんで僕らを呼んだんですかね?」と今日すでに2度もつぶやいた
そろそろ3度目を言う頃だろうかと思っていると…
(甲斐享)あの人…なんで僕らを呼んだんですかね?それは今日のお茶会で明らかになるでしょう。
あの人とは依頼人の“彼”の事である
そもそも“彼”と私との関係をどう呼べばいいのか?
(江藤)うん。
これはスリランカのマッタケレ茶園のものだろうね。
非常に甘みがある。
僕にはどこか懐かしい香りがするのですが。
懐かしい?君イギリスに行った経験は?ええあります。
その時に同じものを飲んだんじゃないのかね?私はイギリスの大学で教えていたんだが向こうの友人が紅茶はセイロンに限ると言っていたよ。
まあ最近は日本産の紅茶もあるが私は本場の茶樹しか認めないね。
(毒島幸一)無知な人間は自分から無知をさらけ出すものですね。
私が無知というのかね?
(毒島)このセイロンティー確かにマッタケレ茶園のものですがその茶樹は日本から持ち込まれた紅富貴だ。
ちなみに奈良県で作られた紅茶が50年も前にイギリスの品評会で最優秀賞を取っている。
本当の紅茶好きは産地に関係なくその味を楽しむ。
講義終わり。
あなたは紅茶が好きなのか?それとも紅茶に詳しい自分を人に認めてもらうのが好きなのか?ご自慢のイギリスの友人の意見をぜひ聞いてみたいものです。
懐かしいという感覚は素晴らしいですね。
ありがとうございます。
お客様犬を連れてのご入場はご遠慮願います。
そうだよ君非常識だよ!早く帰りたまえ!失礼致しました。
紅茶お詳しいんですねぇ。
好きなだけですよ。
嫌いなのはああやって権威を笠に詳しいふりをする人間です。
全く信用出来ない。
そのとおりかもしれませんねぇ。
信用出来るのは世の中で犬と紅茶だけです。
犬と紅茶だけですか。
そんなあなたの淹れる紅茶飲みたいものです。
社交辞令ですか?社交辞令は苦手なもので。
杉下と申します。
僕は毒島といいます。
無職なので名刺はありません。
ああ構いませんよ。
いつでも連絡ください。
恐らくこの出会いは一期一会で終わるだろうと思ったのだが…
意外にも1週間後“彼”から茶会の誘いがあったのである
お茶会なんて言うからどんな豪邸かと思いました。
大体どういう知り合いなんですか?実はまだ知り合いというほど相手を知らないんですよ。
え?
(チャイム)どうも。
お招きありがとうございます。
同僚も連れてきました。
どうも。
甲斐と申します。
毒島です。
どうぞ。
靴は脱がないでいいです。
大丈夫なんですか?このアパートもうすぐ取り壊しが決まってるんです。
大家にも好きに使っていいと言われていまして。
なるほど。
どうぞ。
海外のアパートみたいですね。
留学時代を思い出します。
元々アパートはイギリスの産業革命の時に労働者が住むために発達したものですからね。
僕のような低所得者にはぴったりです。
この前のワンちゃんはどうされたのですか?
(毒島)アルは死にました。
それはご愁傷さまです。
あっ…書斎を見せてもらっても?ええ。
どうぞ。
うわ〜すごい本ですね。
これでも去年半分捨てました。
ほとんどミステリー小説ですね。
ええ。
日本では未翻訳の作品も海外から取り寄せています。
紅茶を淹れましょうか。
恐縮です。
アンティークですねぇ。
ええまあ。
へえ〜。
僕には不釣り合いかな?いえそうは思いませんが。
そうかな?紅茶と犬しか楽しみのない人生なものでね。
ティーセットぐらいはいいものを持っておきたくなる。
ワトソンくんも紅茶が好きなのかな?ん?ワトソン?この方は和製シャーロック・ホームズと呼ばれているそうだから。
へえ〜杉下さんがですか?検索したら『都民ジャーナル』の記事が引っかかりましたよ。
随分前の話です。
お恥ずかしい。
杉下さんがホームズなら甲斐さんはさしずめ助手のワトソンというところじゃないかな。
助手…まあ一応部下ではありますが…。
とても澄んだ赤い色合いです。
やわらかい風味は緑茶を思わせる。
もしかしてこれは日本産ですか?鹿児島産です。
違いがわかる人だ。
警察なんてバカしかいないと思ってた。
おや以前に警察の人間と会った事があるのですか?1年前に頭の悪そうな刑事が2人聞き込みに来たんです。
頭の悪そうな刑事が2人…。
何か事件だったのですか?隣の部屋で女が殺されていたんです。
(毒島)女の恋人だったミステリー作家烏森凌が逮捕されたんですが…。
ああその事件ならば記憶にあります。
解決したと聞いていますが。
だといいのですが…。
…と言うと冤罪だと思ってらっしゃる?どうでしょう?警察は信用出来ないと思っているだけです。
世の中で信用出来るのは…。
紅茶と犬だけ。
そのとおり。
わかりました。
その事件調べてみましょう。
え?逮捕された烏森凌さんの作品もお読みになった事が?彼は未熟な作家です。
彼には作家に必要な劣等感や渇望感いわばなんらかの欠落が欠落している。
なるほど。
よければ1冊お借り出来ますか?ええ。
杉下さん調べるってどういうつもりですか?どうぞ。
『傷口とナイフ』ですか。
お借りします。
殺された女性とは面識はあったのですか?ええ。
犬の散歩の時に顔を合わせたりはしてましたけど。
どんな女性でしたか?化粧っ気がなくてよくたばこを吸ってました。
(米沢守)被害者は佐藤静香28歳ホステス。
自宅アパートを訪ねてきた恋人にナイフで刺され死亡。
致命傷となったのは腹部2か所の刺し傷です。
この事件の事ならよく覚えてますよ。
何しろ犯人がミステリー作家の烏森凌でしたからね。
ミステリーマニアから見た烏森さんはどういう作家だったのでしょう?烏森凌はそのルックスのよさもあり華々しくデビューしたんですが小説の内容は重厚さに欠けマニアの評判はよくありませんでしたね。
実際その後はなかなか発表の場に恵まれなかったようです。
こちら大御所の批評家大沢重光のコメントです。
「大胆にして繊細!至高のミステリー」ですか。
事件当日烏森は大沢さんと揉めてますね。
(大沢重光)烏森くんじゃないか。
ええ?君の新作ね素晴らしかったよ!うん!ハハハハ…!
(烏森凌)は?俺のつまらない小説褒めて…お前バカか?うっ!?そんなにね本当の事を言ってほしいんなら言おうじゃないか!君の小説は駄作だよ!それ褒めたのはね君の女と寝たからだ!うっ!烏森は大沢を殴りその足で佐藤静香さんの部屋に向かった。
そしてこのナイフで殺害した。
作家としての誇りを傷つけられた烏森には明確な殺意があった。
状況的に考えて烏森の犯行だと思いますがね。
ではなぜ毒島さんは僕たちを部屋に呼んでまであのような話をしたのでしょう?さあ…。
また杉下さんとお茶を飲みたかったんじゃないですか?あの人友達いなそうだし。
孤独とは文字どおり一人きりの状態を指すのであるがただ1人でいるからといって別段孤独を感じるという事はないものである
烏森とは4日後に面会出来るそうです。
どうもありがとう。
あっこの前毒島さんが淹れてくれた紅茶本当にうまかったですね。
今までに飲んだ事のない味でした。
紅茶の世界は無限の広がりを持っているんですよ。
茶樹によって産地によって…。
同じ産地でもそれぞれの紅茶園によって味が変わります。
さらに収穫の時期やその年の気候によっても変わるのですから楽しみは尽きませんねぇ。
う〜ん奥深いですね。
今度飲み比べとかしてみたいですね。
そうですか?はい?よかったらこのあと一緒に紅茶店に行きませんか?あ…今日ですか?ちょっと先約がいまして。
お先に失礼してもいいですか?それは残念ですねぇ。
孤独は人と人の間で不意に発生する化学反応のようなものだ
まさに「孤独は山の中ではなく街の中にある」
ではお先に失礼します。
はいお疲れさまでした。
お疲れっした。
どうぞ。
ありがとうございます。
異性なら運命とでも言いたいところだが紅茶愛好家の男2人が紅茶店で会うのはただの偶然に過ぎない
こんばんは。
あっこんばんは!
(咳)ハーブティーを買いに来ました。
僕もです。
(咳)
(2人)エキナセア。
ええエキナセアは風邪予防にいいと言いますからねぇ。
はい。
よかったらご一緒に。
はい。
エキナセア。
ジャーマンカモミール。
レモングラスともう1つ。
(店長)甜茶ですわ。
ああ。
甜茶は上品な甘さのあるお茶ですね。
ええ。
お二人はお知り合いだったのね?いつもはお一人ですものね2人とも。
どうぞごゆっくり。
あっそういえば烏森さんの作品読みました。
ご感想は?派手な文体で飾り立ててはいますが読んでいるこちらは盛り下がってしまうという典型的な例ですねぇ。
まるで母親のまねをして化粧をした小さな女の子のようです。
成熟や洗練とはほど遠くまだ本当の作家にはなっていない。
ですがお借りした本の帯には批評家が絶賛するコメントが書かれていました。
だから批評家なんて信用出来ない。
金や女で平気で言葉を売る。
残念ながらそういう部分もあるようですねぇ。
しかし一方でミステリーマニアの間で非常に信用のある批評家がいるそうです。
我々ミステリーマニアの間で一番信用されている批評はこのブログです。
ほう…毒薬さんですか。
ええ。
その名のとおり超毒舌です。
例えばこちら。
「駄作ゆえに古本屋に売りたいがこの本を読んだと思われるのは屈辱である」確かに毒舌ですねぇ。
これだけだとただの悪口のように見えますが褒める時は本当に褒める。
それゆえに毒薬さんはマニアに信頼されてます。
なるほど。
ちなみに毒薬さんは烏森さんの作品についてはなんと?
(米沢)烏森さんはと…こちらですね。
「彼には作家に必要な劣等感や渇望感いわば何らかの【欠落】が欠落している」と。
批評家毒薬さんの正体はあなたですね?あなた批評家でしたか。
ネットで好き勝手書いてるだけです。
仕事にはなってない。
事件を起こせば「毒島幸一42歳無職」と報道される。
そんなあなただからこそなんの利権にも縛られない批評でマニアの信用を得ているのでしょうね。
僕は腹いせに他人の小説の悪口を書いているだけです。
腹いせ?なんのでしょう?小説を書こうと思って書けなかった。
その腹いせです。
なるほど。
実は僕も小説を書いた事があるんです。
それは読んでみたいな。
…と言っても中学生の時です。
内容も荒唐無稽で。
今のあなたなら違うものが書けるんじゃないかな?ああそんな事は考えもしませんでしたね。
書いてください。
遠慮なく批評しますから。
怖いですねぇ。
あっそういえば事件で使用された凶器のナイフですがイギリスのアンティークでした。
小説の主人公が愛用しているのも同じナイフだったんですねぇ。
ご存じでした?自分と主人公を重ねたのかもしれないな…。
なるほど。
小説では恋人に裏切られた男がそのナイフで犯行に及ぶわけですがねぇ…。
ええ…。
その時不意に孤独が立ち込めた
孤独は濃い霧のごとく“彼”の秘密を覆い隠すのである
(角田六郎)おい暇か?暇じゃないですよ。
捜査中です。
ハッ…そうは見えないけどね。
何書いてんのよ?なんだ?小説か?ハッ…文芸部にでもなったか?特命は。
これも職務の一環です。
この“彼”って…。
ええ。
今日のお茶会楽しみですね。
私は孤独の研究を携え“彼”との茶会へと向かった
ああ毒島さん。
今日は僕が紅茶を淹れましょう。
オリジナルティーを持参しました。
それは楽しみです。
毒島さんの淹れ方とそっくりでしょう?こんな淹れ方する人が他にもいたなんて思いませんでした。
これが異性なら運命とでも呼べるんでしょうけどね。
同感です。
まあ今日は男3人の茶会を楽しみましょう。
頂きましょう。
フフフフ…。
こうして同じ顔ぶれで茶会を重ねるのはいいものですねぇ。
いつも1人だけというのは寂しすぎる。
僕の事ですか?いえ僕の事です。
確かにあなたも職場で浮くタイプかもしれませんね。
フフッ。
…ああすいません。
興味があるなぁ。
和製ホームズが警察ではどんな扱いを受けているのか。
あー…。
構いませんよ。
杉下さんが職場で浮いてるかどうかはわかりませんが特命係がたった2名の部署である事そして僕の前に前任者が9名いた事で事情を察して頂ければ。
9名はやりすぎですね。
特命係は人材の墓場って呼ばれてたんですよね。
ええ。
墓場ですか。
なかなか素敵なニックネームだ。
7人目の同僚に…いえ相棒に言われた事があります。
僕には協調性というものがないと。
仲間を立てるとかそういう事を覚えればもっと出世すると。
彼がいなくならない事を祈るばかりです。
ええ。
フフフ…。
大きなお世話かもしれませんがもっと親睦を深めておいた方がいいんじゃないですか?…と言うと?例えばファーストネームで呼んでみるとか。
ああ…でも杉下さんは歳も階級も上ですしあんまりなれなれしいのは…。
そういうものですか?僕は構いませんよ。
右京さんと呼ばれた事もありました。
右京さん…。
いやぁピンとこないですね。
(3人の笑い声)あなたも結構孤独なんですね。
いえ“彼”の孤独に比べれば僕の孤独など…。
“彼”?ああこれは失礼。
僕の書いた小説の登場人物です。
(毒島)『孤独の研究』ですか。
ドイルの『緋色の研究』みたいですね。
クラシカルな探偵小説を意識しました。
あっ!よろしければこの場でご批評頂けませんか?この場でですか?ええ。
…いいでしょう。
“彼”の事を覚えている人間は少なかった
“彼”は人々の記憶から遺棄された人間だ
死体遺棄は犯罪だが記憶を遺棄しても犯罪にはならない
“彼”は子供の頃から人付き合いが苦手だった
一方で勉強は出来たため態度だけは尊大になった
そしてなおさら嫌われた
大学に進学後もその性格は変わらず友達はいない
恋人など当然いない
そして大学院に進んだ
“彼”としては大学院を人間関係に煩わされず純粋に1人で研究が出来る場所だと信じていた
だが大学こそ人間関係が重視される場所だったのである
“彼”は自分の担当教授の論文のミスを指摘した
“彼”としては純粋に学術的な間違いを指摘しただけだった
だが教授は激怒した
“彼”は冷遇され研究者になる道は閉ざされた
はい。
はい…。
ですがお客様…。
その後は派遣社員として職場を転々
はいすみません。
どこに行っても人と折り合いが付かなかった
そんな“彼”の愛情の捌け口が犬であり楽しみが紅茶だった
そしてネットでの批評で自分の自尊心を満たした
“彼”は友情にも恋愛にも無縁。
仕事も定まらず財産もない。
クソみたいな男ですね。
そんな“彼”にも心を許す事がある。
1つは紅茶が関係した時。
もう1つは…。
犬が関係した時です。
“彼”は“彼女”と犬を通じて知り合った。
続きを読んでもいいですか?ああどうぞ。
“彼”の生活が変わったのは隣の部屋に“彼女”が引っ越してきてからだった
(佐藤静香)あ…今度引っ越してきた佐藤です。
“彼女”は母親の再婚相手との関係に問題がありわずか14歳で家を出た
その歳で街に出た女の人生については言わずもがなだろう
やがて成長した“彼女”はホステスになっていた
それなりに人気のあるホステスにもかかわらず安アパートに越してきたのは今までの男に貢いで借金があるからだった
“彼女”はいつも駄目な男とばかり付き合っていた
自分を殴る男ばかり…
口癖は「男は信用出来ない。
信用出来るのは犬だけ」というものだった
夜の華やかな顔とは別の化粧を落として犬の散歩をする時だけが“彼女”が素に戻れる時間だった
この子犬嫌いなのに…。
珍しい。
“彼”も“彼女”も散歩中に声をかけ合うタイプの人間ではない
だがお互いの犬を介して2人は打ち解けた
仕事は何してるの?事務とか色々です。
ふーん。
でも本当はミステリー小説の批評をしてるんです。
結構評判いいんですよ。
へえ〜!頭いいんだ。
いやそんな事はないんですけど…。
えっミステリーってどういう作家さんの?
(毒島)作家ですか?まあ全般…。
無類の愛犬家同士の絆は深いものだ
男女関係など一般社会のしがらみとは関係なく毎日の散歩で何げなく会話を積み重ねる
それは“彼”にとって小さな…いや大きな喜びだった
空気を入れ替えましょうか。
(鳥のさえずり)素敵な公園ですねぇ。
小説についてですが“彼”の性格からいって誰にもネットの批評の事は話さないと思いませんか?普通ならそうでしょうね。
ですが相手に見栄を張りたいもっと言えば女性に格好つけたかったとすればええ…。
他にご指摘はありませんか?例えばこういうふうに加えてみてはどうです?「“彼”は“彼女”の夜の顔を見た事がなかった」。
「“彼”にとって“彼女”は化粧っ気のないよくたばこを吸う女だった」。
ああ…“彼女”は“彼”の前でたばこを吸っていたんですね。
「毎日の犬の散歩“彼女”がたばこを2本吸い終わるまでの時間の交わされる会話が“彼”の楽しみだった」。
うんうんうん…。
“彼女”は“彼の”孤独な人生に差し込んだ光だった
“彼”の心が高揚しても無理からぬ事だ
だからといって“彼女”との恋愛を望むほど“彼”は楽観的な男ではない
“彼”に出来る精いっぱいの事…それは自分が愛する紅茶を贈る事だけだった
(毒島)これ。
ああありがとう。
いや茶葉買いすぎたから。
そんなある日“彼女”は恋に落ちた
相手はミステリー小説家だった
女を殴る男じゃないよ。
本当かな?試してみれば?
小説家はただ優しいだけの恋人ではなかったがある一点で“彼女”にとって特別な男だった
小説家は決して“彼女”を殴らなかったのである
“彼女”は愛に狂った
私初めて女を殴らない男と付き合ったよ。
それが普通なのでは?私みたいな女にはそれが特別なの。
そうか…。
あっねえ今度彼誕生日なんだけどさ小説家って何あげたら喜ぶのかな?
(ため息)“彼”はプレゼントの相談になんと答えたと思いますか?うーん…“彼”は小説家の作品を読んでいたでしょうからねぇ何か作品にちなんだものをプレゼントとして提案した。
例えば主人公の使っていたアンティークのナイフ!いい発想ですね。
書き加えた方がいい。
しかし小説家はプレゼントを喜びはしたが本当に欲しいものは別にあったんです。
それは作品を発表出来る場所と作品に対する評価。
小説家としては当然でしょうね。
小説家の苦悩が深まるほど“彼女”は愛に狂った。
この特別な恋人のために出来る事はなんでもしたいと思った。
でもいくら恋人のためとはいえ編集者や批評家と関係を持つなんて僕には理解が出来ませんね。
私みたいな女にはそれぐらいの事しか出来ない。
“彼女”はそんなふうに思ったのかもしれない。
そして“彼女”はネットの批評家として影響力を持つ“彼”に話を持ちかけた。
恋人の小説を絶賛するようにと。
しかし“彼”が小説を絶賛する事はなかった。
むしろ酷評した。
小説家への嫉妬からでしょうか?いや“彼”の性格からしてそれはあり得ませんねぇ。
作品を正当に評価したはずです。
“彼”は何かと引き換えに自分の批評を売るような事はありません。
批評家のかがみだ。
“彼女”と関係を持たずに一銭にもならないネットの批評を選ぶなんて。
でもなんかきれい事すぎる気がするんですよね。
ええ確かに立派すぎてやや人間性に欠ける人物造形になっているかもしれませんねぇ。
ああこのフローリングの床を革靴で歩く足音はいいですねぇ。
ではこういうのはどうでしょう?
その夜“彼”の部屋を訪ねた“彼女”はハイヒールを履き化粧をして着飾っていた
お願いがあるの。
お願い?
(静香)彼の小説を褒めてほしいの。
いいでしょ?
それは“彼”の知る「化粧っ気がなくてよくたばこを吸う女」ではなかった
ああそれならわかるかも。
自分が好きな雰囲気と違ってがっかりって事もありますからね。
そうだね。
では書き加えましょう。
ああもうやめませんか?そろそろ本題に入りましょう。
事件の話に。
彼は我々の遊びに飽きてしまったようです。
そのようですね。
ではカイトくん事件当日の流れを振り返ってもらえますか?はい。
事件当日烏森さんは批評家の大沢重光さんを殴った。
大沢さんが静香さんと関係を持った事を話したからです。
そのあと興奮した状態で静香さんの部屋を訪れた。
その時に争う声を聞いたとあなたも証言していますね。
ええ。
そして静香さんは殺されたと捜査資料にあります。
ですが僕はある疑問を持ちました。
初めからナイフで殺すつもりならなぜ烏森さんは静香さんを殴ったのでしょう?烏森はカッとして殴りそのあとナイフで刺したのでは?それではあなたがバカにしていた警察と同じ見立てになりますよ?嫌な言い方をしますね。
まるで僕のようだ。
恐縮です。
僕の推理では静香さんを殴ったのは他の人物です。
烏森でないとする根拠はなんです?まず烏森さんは静香さんを殴らなかった。
だからこそ彼女は狂おしいほどに愛したのですから。
時と場合によるのではないですか?しかし烏森さんが殴るというのは大変な事ですよ。
彼は長身な上にシャーロック・ホームズをまねてボクシングを習っていたそうです。
実際に殴られた大沢重光さんは左の頬骨を陥没していたそうです。
ハハハハハ…ざまあみろだな。
もし烏森さんが激高して静香さんを殴ったとしたら遺体の傷はあの程度では済まなかったはずです。
じゃあ誰が?その前に紅茶を淹れ直しませんか?今度はあなたが。
いいでしょう。
淹れ方本当にそっくりですね。
静香さんの殴られた跡は右頬にありました。
つまり殴った相手は左利きだという事です。
ですが烏森さんは右利きでした。
僕らの紅茶の淹れ方はとてもよく似ていますが1つだけ違う点があります。
それはあなたが左利きだという事です。
事件のあった日何が起こったのか本来であれば最も信頼出来る目撃者に話を聞きたいところですが…。
誰です?アルくんです。
彼は現場にいた。
あの夜アルくんが何を見たのか僕と一緒に推理してください。
(アルの吠える声)
(静香の悲鳴)
烏森さんは彼女からプレゼントされたアンティークナイフを凶器にすると決めていたそうです
自分の小説の主人公と同じナイフで同じような事件を起こせばせめて作家として名前を残せると…
お前を殺して俺も死ぬ!頼む…俺と一緒に死んでくれ!うわあーっ!あっ…!
(静香)うっ…ああーっ!佐藤さん?どうしました?大丈夫ですか…?
(毒島の声)僕が駆けつけるとピクリとも動かない烏森がいた。
おそらく仮死状態になったのを死んだと勘違いしたのでしょう。
そう勘違い。
その勘違いのせいで僕は…。
ぼ…僕が身代わりになるよ…。
なんで?それは…。
ぼ…ぼ…ぼ…。
(毒島の声)僕は君を愛しているから。
そう言おうとしてうまく言えなかった。
仕方ない。
愛してるなんて人生で一度も言った事がなかったんだ。
すると彼女は…。
(笑い声)
(毒島の声)僕は僕の気持ちを笑われたんだと思った。
人生でたった一度の感情をバカにされたと…。
その瞬間僕の中で何かが弾けた。
彼女を殴るなんて…。
極限状況下でお互いに感情が高ぶっていたのでしょう。
殴ったあと静香さんをナイフで殺害した。
僕は遺体に関してまだ疑問を持っています。
彼女の右頬についていた傷それは左利きのあなたが…殴ったものです。
そして腹部の刺し傷ですが…。
中央に1つ左脇腹に1つつまり右利きの人間の犯行です。
ええカッとなって刺したのならば左手で刺したはずです。
ところが右手で刺したとなるとそれは烏森さんがやったと見せかけるための偽装だったという事になりませんかねぇ?なりますね。
ええ問題はなぜあなたが偽装したのかという事です。
ごめん…ごめんよごめんよ…。
いいよ。
私も笑うとこじゃなかった。
許してなんでもするから。
ねえ…。
アルの事頼んでもいいかな?あなたなら安心だから。
(吠える声)いいけど…どういう意味?
(ため息)この人死んじゃって私もう生きてる意味ないよ。
ねえなんでもするって言ってくれたよね?殺してくれるかな?初めから素直に殺されてあげればよかった…。
そんなに彼の事を…。
うん。
ごめんねこんな女で。
でもこんな事頼めるの他にいないから。
お願い。
いや…出来ない。
そのままでいてくれればいいから。
(刺す音)お願い楽にして…。
あなたは烏森さんの犯行に見せるために右手でナイフを持ち彼女の左脇腹を刺した。
そして自分の指紋を拭き取り烏森さんの指紋をつけ現場を去った。
ところが死んでいなかった烏森さんは翌朝目を覚まし記憶があいまいなまま逮捕されてしまった。
そうですね?
(毒島)僕が彼女を殺した。
それ以外の事は言い訳にしかならない。
誰も信じてくれないでしょう。
僕は信じますよ。
彼女があなたを信用したように。
僕も信じます。
最後にもう1つだけ。
また小説ですか。
これは烏森さんの小説です。
(毒島)獄中で書いたんですか?批評家毒薬さんつまりあなたに認められたい一心で書き上げた小説だそうです。
酷評したのに…。
烏森さんが言ってました。
(杉下の声)あなたの批評は死にたくなるほど辛辣ですが逆に言えば一言一句に至るまで真剣に読んでくれている人間が必ず1人はいるという事でもある。
作家にとってそれ以上のエールはないのだと。
小説家というのは大したものですね。
僕は人が書いたものをああだこうだ文句を言うだけ。
書く人間がいなければ僕は存在すらしない。
本当にクソみたいな人生です。
友達も恋人もいない。
最後は殺人を犯し毒島幸一42歳無職と報道されて笑われる。
毒島さんあなたは批評家として胸を張っていい仕事をしました。
大御所と呼ばれている人物よりも。
それはミステリー小説を愛する人間ならば誰でもわかっている事です。
ご自分の罪についても胸を張って本当の事を話すべきです。
わかりました。
どうして今になって僕らを呼んだんですか?自分から名乗り出なければ完全犯罪になったのに。
なぜだと思う?あなたが望んだ完全犯罪ではなかったからです。
それにいくら頼まれたとはいえ愛する女性を殺した良心の呵責に耐えかねていた。
それでも犬を最後まで看取るという約束があったから黙っていた。
犬が死んだ今罪を償う決心をした。
違いますか?もっと単純なんだ。
自分をわかってくれる相手に本当の事を話したかった。
ただそれだけ。
紅茶くらいしかお礼は出来ませんが僕がブレンドをしたものです。
何よりのお礼です。
あなたの事を孤独と言いましたがそれは間違いでした。
孤独と孤高は違います。
あなたはその能力ゆえに孤高の存在なのでしょう。
さすが和製シャーロック・ホームズと言われるだけの事はありました。
恐縮です。
ワトソンくんにも。
えっ?ああ…ありがとうございます。
助手と言うと聞こえは悪いかもしれないがワトソンくんは頼れる相棒なんだ。
ワトソンなしじゃホームズは立ち行かない。
へえ…。
どうも。
行きましょうか。
『孤独の研究』ぴったりなタイトルだ。
書き上げたら見せてください。
もちろん。
“彼”にはどんな結末が待っているのかな。
こうして私の孤独の研究は一つの結論を見た
だが最後に疑問が残る
僕と“彼”の関係をどう呼べばいいのか?
(伊丹憲一)その人は?
最後の答えをくれたのはKくんであった
右京さんの…友達です。
2014/03/09(日) 12:00〜12:55
ABCテレビ1
相棒 season12[再][字]
水谷豊&成宮寛貴の相棒!馴染みの紅茶店で毒島(尾美としのり)と出会った右京(水谷豊)。茶会に招かれて享(成宮寛貴)とともに訪れると右京と同じ紅茶の淹れ方をする…
詳細情報
◇番組内容
第13話「右京さんの友達」
◇出演者
水谷豊、成宮寛貴
川原和久、山中崇史、六角精児、山西惇
【ゲスト】尾美としのり
◇スタッフ
【脚本】真野勝成
【監督】橋本一
【ゼネラルプロデューサー】松本基弘(テレビ朝日)
【プロデューサー】伊東仁(テレビ朝日)、西平敦郎(東映)、土田真通(東映)
◇音楽
池頼広
※『ピアノ・ソロ 相棒【改訂版】』発売中!
池頼広氏本人が書いたオリジナル譜面も掲載!
◇おしらせ
最新情報はツイッターでもフェイスブックでも!
【ツイッター】https://twitter.com/AibouNow
【フェイスブック】http://www.facebook.com/AibouNow
【ウェブ】http://www.tv-asahi.co.jp/aibou/
ジャンル :
ドラマ – 国内ドラマ
福祉 – 文字(字幕)
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
映像
音声 : 2/0モード(ステレオ)
日本語
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