(テーマ音楽)
(出囃子)
(拍手)
(拍手)
(五街道雲助)一席おつきあいを願っておきます。
昔から欲の張った方てぇのはあるもんでございます。
こらぁまぁけちとは違います。
けちというのは持ってるのを出すのが嫌だてぇん。
欲の張った方てぇのはまぁ持っていてもまだ欲しい。
「欲深き人の心と降る雪は積もるにつれて道を忘るる」なんてぇ事を言ってございます。
「百両欲しい〜」。
「また始まりやがった。
ええ?寝たと思やぁすぐに寝言だ。
それも金勘定ばっかりしてやがらぁ。
静かにしねえかい」。
「2百両欲しい〜」。
「静かにしろ」。
「50両でもいい〜」。
「フン寝言で返事してやがる。
うん?あきれけえって小言も言えねえやな。
婆さん。
表は閉めたか?あ〜あ〜こんな雪の降った寒い晩は早いとこ寝ちまうに限らぁね。
こんなシ〜ンとした所でもって2階で『百両』の『2百両』のまぬけな押し込みが金勘定でもしてんだと思って押し込んできたらえらい事になっちまう。
早いとこ寝ちまおうじゃねえか」。
(戸を叩く音のまね)「おい。
ここを開けろここを開けろ」。
「婆さん。
言わねえこっちゃねえやまぁ本当にあの野郎呼び込みやがったよ。
呼び込むに事を欠いて押し込みなんぞ呼び込む事はねえやな。
まぁいい静かにしねぇなうん俺がいい按配に断っちまうから。
へえ。
え〜どちら様かは存じませんが何かお門違いではございませんかな?手前どもはご覧のとおり見る影もないという船宿渡世でございます。
押し入ったところでもって盗る物とてございません。
この先へ行きますてぇとまだまだいくらでも物持ちがございますんでどうかそちらのほうへ押し入って下さいまし」。
「たわけた事を申すな。
早くここを開けろ」。
「開けたあとで『金を出せ』と仰いましてもこれはものの無駄でございますんで」。
「早く開けんか」。
「へい。
ちょっとお待ちを」。
主も気味が悪いから土間へ下りて戸の隙間からそっと覗いてみますてぇと若い娘を連れたお侍が立っておりましたから…。
「あっどうも。
これはとんだ失礼を致しまして。
へえ。
2階で野郎がつまらねえ寝言を言うもんでございますから。
どうぞお入り下さいまし」。
「いや『雪は豊年の貢』とは申しながら斯様多分にやられては困る」。
「左様でございます。
まぁ雪も少しはきれいでございますがあまりドッサリとなりますと後片づけに難渋を致しますんで。
あっお嬢様そこでは濡れますでございます。
ええ。
どうぞこちらへお入り下さいまし。
婆さんや手あぶりに火をどっさり入れて持っておいで」。
主がお世辞を遣いながら侍の様子を窺いますと年の頃が35〜36でございましょう色の浅黒い目のギョロリっとした小鼻の開いた鰐口額の所に面擦れというタコが出来ております。
どう見ても一癖ありそうな面構え。
着ております物も柔らか物ではございますがもうベッタリと襟垢が付いておりまして黒羽二重の白紋付きといやぁ体裁はよろしゅうございますけれどももう地が赤くなって紋が汚れておりますんで何の事はない赤羽二重黒紋付きというやつ。
これに嘉平治平の襞の分からなくなった袴を着けますてぇと破れ柄剥げ鞘の大小を落とし差し素足に駒下駄という出で立ち。
一方娘のほうはと見てみますと年の頃が18〜19でございましょうか色の抜けるように白い鼻筋のスッと通った誠にいいご器量で。
文金の高髷にお高祖頭巾を被りまして着ております着物も友禅模様の着物に小紋縮緬の羽織という。
お侍のほうとはだいぶ様子合いが違っております。
「さぁどうぞ手あぶりをお使い下さいまし」。
「うん。
実は今日身が妹を連れて浅草へ芝居見物に参ったところ斯様な大雪と相なったでまぁ駕籠となると2丁となって誠に面倒でいかんよって深川まで屋根舟を一艘仕立ててもらいたいがどうじゃ?」。
「左様でございますか。
それはお気の毒さまでございまして。
ええ。
実は船頭が皆出払っておるんでございまして。
あっいえ舟はあるんでございますが肝心の漕ぎ手がございません。
斯様な晩はどなた様も駕籠よりは舟という訳でございますんで」。
「そうか。
それは困ったな。
いずれへか問い合わせる訳には参らんか?」。
「ただいま申しましたような訳でどこへ行ってもこれは同じでございます」。
「百両欲しい〜」。
「また始まりやがった。
婆さんチョイト2階へ行って野郎起こしちまいな。
うるさくてしょうがねえや」。
「2階でとやこう申しておるのは船頭ではないのか?」。
「どうもお耳に留まりましてございますか?誠に申し訳もございませんで。
ええ。
船頭には違いないのでございますがあればかりはやる訳には参りません。
今お聞きのとおり寝言にまで金が欲しいという欲の張った者でございますのでお馴染み様ならともかく初めてのお客様で何か粗相でもあるといけませんので」。
「いや。
欲の張った者なればそのようにしてつかわせばよいのであるから一応は聞いてみてはくれぬか」。
「それでもまぁ何かご無礼があるといけませんから。
ハハハ左様でございますか。
ええ。
じゃあちょっとお待ち下さいまし。
おい熊や熊や」。
「へいへい。
アア〜ッ寒い。
冗談じゃねえや全く。
ようやっと温まってトロトロってきた途端にすぐに『熊熊』って起こしやがって。
ええ。
親方〜何でございますね?」。
「今な深川まで屋根舟でおいでになりてえってお客様がおいでになってんだがなお前すまねえが仕事に行ってもらえねえかい?」。
「何ですって〜?深川ですって?フン冗談言っちゃいけねえ。
この雪の降るのに深川くんだりまで舟漕いでっていくらもらえると思ってる?酒手でも出なかったら目もあてられねえ。
こういう時ゃ仮病に限るが。
親方〜。
せっかくでございますがね今朝っから催してやがったんだが疝気が起こって腰がミリミリいってやんだい。
これじゃ舟漕いだところでもって仕事になりませんでねひとつ断ってやっておくんねえな」。
「そうか。
そりゃいけねえな。
ただいまお聞きのとおり野郎少々加減が悪いと申しておりますんで」。
「いや。
並の晩ではない斯様な大雪の夜であるから骨折り酒手は十分につかわすがどうじゃ?」。
「何を?今『骨折り酒手は十分につかわす』ってやったか?おい。
つかわされてみりゃ行かねえのも悔しいやな〜。
ちょっと聞いてみるかな。
親方〜親方」。
「何だい?」。
「船頭はいねえんだろうね?」。
「いねえから今困ってるんじゃねえか」。
「ヘエ〜ッ。
まぁ無理して行きゃ行けねえ事もありませんがね」。
「そうか。
じゃあお前仕事に行ってくれるか?」。
「へえへえ。
そこはまぁ何でございますからね」。
「何だ?」。
「『魚心ありゃ水心』『詠みと歌』てぇやつでねエヘヘ。
『阿弥陀も金で光る世の中』でぃ」。
「ばか野郎。
お客様聞いてなさらぁ。
こういう雪の晩だから骨折り酒手は十分に下さるとそう仰ってる」。
「エエ〜ッ?十分にくれるって?ありがてえ。
じゃあ行くよ」。
根が欲が張っておりますんですぐ支度を致しますてぇと梯子段を蹴たって下りて参りまして…。
「へい。
じゃあ旦那お供致しましょう」。
「加減の悪いところを気の毒に」。
「いや〜とんでもございません。
ええ。
疝気にはもう酒手が何より薬でございます」。
(笑い)「これ。
こういう奴でございますんでどうぞお気になさらないように」。
「いやなかなかに面白い男。
それでは船頭なるべく早間に」。
「へい。
承知致しました」。
これから河岸へ下りて参りますとそこはもう業ができておりますんですぐに舟の支度が出来上がりまして。
「ええ。
それじゃあご案内致しましょう。
お嬢さん。
これぽっくりでございますか。
こいつはいけねえや。
じゃあ私の後ろ回ってねチョイト肩の所へ手載っけておくんない。
ええ。
上から押さえますけども悪い気しないように。
エヘヘヘ。
私の手は黒いったってね真から黒い。
触って染まるような事はありませんで。
ええ。
じゃあ出ますんで。
よろしゅうございますか?今日はどちらへお出かけになりました?ええ。
浅草へ芝居見物?あ〜左様でございますか。
いいご身分でございますね。
何もなさらねえと見えて柔らけえ手をしておいでなすってねいい匂いがプ〜ンとしてきやがってエヘッどうもたまらねえこれ」。
「これ失礼な事お言いでないよ」。
「フフフ姐さん勘弁してくんねえな。
ええ?このぐれえは船頭の役得じゃねえか。
ね〜。
へい。
どうも。
さぁこれからはあんよは上手てぇ事になりますんで。
ええ。
えっ?大丈夫大丈夫。
桟橋はしなうような事があっても決して折れるような事はありませんで。
ええ。
いや〜放しはしません。
雷が鳴なったって放せねえってんでエヘヘスッポンより性質が悪いってぇくらいなもんだ。
じゃあ乗って下さい。
チョイト中入る時は気を付けてくんなさいよ。
この屋根舟の乗り方てぇのは難しいんだ。
吉原の芸者は屋根舟に乗る稽古をするぐれえのもんでねいきなり頭のほうから行くてぇと大事な物ポキッとやったり川の中落っことしたりしますから。
よろしゅうございますか?前をチョイトこう挟んで頂きましてで内の所へ手かけてね矢立の筆じゃねえけども足のほうからス〜ッ。
あ〜うめえうめえハハハ。
それだったら明日から吉原の芸者で出られますぜ」。
(笑い)「姐さん。
冗談だよ。
旦那。
旦那も早いとこ乗っちゃってくんねえ。
ええ。
それであの〜行火がぬるいようでしたらねそこに棒がありますんでええそれで炭団はってくんねえな灰が落ちて温かくなりますから。
あれだ姐さんねこれじゃどうにもしかたがねえやね〜。
帰ってきたら親方に内緒でチョイトこんな事やりてぇんだけどもね2本ばかり熱いのつけておくんない」。
「ああいいよ。
つけといてやるから」。
これから船頭が蓑笠に支度を致しまして水棹を一本張る時に船宿のおかみが舳端へ手を添えまして「ご機嫌よろしゅう」。
つき出すやつは何の多足にもなりませんがまた愛嬌のありますもの。
これがこれから舟がユラユラと揺れながら大川へとかかって参りましたが雪はますますの大雪で綿をちぎってはぶつける勢いに。
「カア〜ッ降りだしやがったなこりゃどうも。
ええ?・『大寒小寒』ときやがった。
『山から小僧が泣いて来る』ってぇがね〜ここで一人大僧が泣いてらぁ全く。
この雪の降る最中に舟を漕がなくちゃならねえとはどういう身の因果かね〜。
もっとも舟を漕ぐ奴がいるから乗る奴がいる。
乗る奴がいるから漕ぐ奴がいる。
フフフ。
どこまで行ったって果てしがねえや。
な〜。
『箱根山駕籠に乗る人担ぐ人そのまた草鞋を作る人』ってな。
ハハハ。
そのまた草鞋を拾って歩いてる奴もいるんだ。
『上見ても下見ても際限がねえ』ってのはこのこったな。
アア〜ッチクショウめ。
ええ?『たまたまの雪の夜に起きな起きなと起こされて寝ぼけた顔のありさまは牡丹に戯る獅子と蝶大川を横へ三筋の渡し守辛い稼業でございます』ときやがったな〜。
カア〜ッ旦那〜えらい降りになってきましたな」。
「おう。
左様か」。
「ヘッ収まらねえチクショウ。
『あいあい。
左様でござるか。
こちらでも御用』と仰る。
蟇の脂売りみてえな面しやがって」。
(笑い)「ええ〜灯りが暗くなりましたらねチョイト提灯の尻拳固で殴ってくんねえ。
ええ。
芯が落ちて明るくなりますんで。
エヘヘヘどういたしまして。
ヘッこんな事まで酒手のうちに入ってんだ。
な〜。
出すもんなら早く出すがいいじゃねえか全く。
さっきは『骨折り酒手は十分につかわす』ってやがる。
つかわすんならここら辺りでつかわさねえてぇとつかわす所がなくなっちまわぁ。
向こうへ着いて『やれ船頭ご苦労であった』。
百文も出されたんじゃ目もあてられねえぜおい。
おい出ねえのかい?おい。
出ねえとなると本当に疝気が起こるよ。
気のせいか腰がミリミリいってきやがったな。
ほ〜う女はくたびれたと見えて行火に寄っかかって寝ちめえやがる。
それをあの野郎上から穴の開くほど見てやがる。
さっき『身が妹だ』って言いやったがな〜。
妹ならがきの時分からべそかいた面もあくびした面も見飽きてそうなもんじゃ。
それをああやってしげしげと見ているとこを見ると危ねえぞこらぁ。
それならそれでもって出すもんさえ出してありゃこっちは見ざる言わざる聞かざるどんな猿にでもなってやるんでぇ。
出すもん出さねえで妙なまねするてぇと舟ひっくり返しちまうぞチクショウ。
舟が汚れらい。
『鷺を烏と言うたが無理か』ってな〜。
『場合じゃ亭主を兄と言う』って言わぁ。
何言っても感じねえやチクショウメ」。
(笑い)「こうなったらひとつ舟をいたぶって女を起こしてやろうかな。
ええ?女が起きりゃ酒手の相談かなんか始めやがんだから。
な〜。
『あなた船頭に酒手はおやりあそばしたか?』『まだやらないよ』『早くおやりあそばせ』『このぐらいでどうだ?』『それじゃ少ないからもっとおやりあそばせよ』。
ヘヘヘヘヘ。
言うかどうか分からねえけどもな。
とにかく女を起こさなくちゃ仕事にならねえや。
ほらこれでも起きねえかい。
まさか死んじまった訳じゃねえだろう」。
「これ船頭だいぶ舟が揺れるようだ」。
「へい揺れますよ〜。
出るもんが出ねえてぇと大概このぐらい揺れる事になってる。
何なら舟を回しましょうかね」。
「船頭。
その方も疲れたであろう。
ここへ参って一服致せ」。
「へっ?左様でございますか?ヘヘヘどうも恐れ入ります。
へい」。
「ハア〜ッハア〜ッ」。
「へいどうもおありがとうござい」。
(笑い)「何だ?」。
「『その方も疲れたであろうからあとで一杯やれ』てんでこのお酒手を下さる」。
「そうではない。
『疲れたであろうからこれへ参って一服致せ煙草をのめ』とそう申したのだ」。
「煙草でございますか?あ〜左様でございますか。
私はてっきりお酒手が頂けるのかと」。
「貴様煙草はのまんのか?」。
「のまねえって事はねえ。
ええ。
お先煙草なら尻めどから脂の出るほどやるんでございますけどヘッ手銭じゃあんまりやった事はねえ」。
「フンその方大層欲が張っていると見えるな」。
「ハア〜ッ欲の張ったんだったら他人にひけを取らねえ。
ええ。
ここら辺りじゃ船頭の熊蔵というよりは欲の熊蔵といったほうがとおりが早えくれえのもんだ」。
「その欲の張ったところを見込んで貴様に少々相談がある。
金儲けだが半口乗れ」。
「金儲け?ありがてえね。
金儲けだったら半口どころじゃねえまる口乗ろうじゃありませんか。
何?」。
「艫へ出ろ」。
「ええ?」。
「艫へ出ろ」。
「どこでも出ますがね。
ス〜ッ。
へえ。
何で?」。
「実はなあれに寝ておる女最前身が妹と申したが実は偽り」。
「左様でございましょうだいぶお顔形が違うと思っておりましたがエヘッじゃあお楽しみで?」。
「いや。
身どもが花川戸を通りし折大雪のために癪で悩められておる様子。
介抱してやろうと親切ごかしに懐を探ってみるとな70〜80両かれこれ百両ばかりの金を所持しておる。
だんだん騙して訳を聞いてみるとな店の若い者と不義を致し其奴がいかさま暇と相なったらしい。
彼奴のあとを慕うて家出をなしたものと見ゆる。
『親の許さぬ不義いたずらをする不幸者すぐに殺して金を巻き上げてやろう』とは思ったがあいにく行き来の提灯が妨げとなって思うように仕事ができん。
よって拙者『色男のおる所を存じているによって案内をしてやる』とたばかってこの舟まで連れ出した。
あの女を殺せば大層な金になる。
貴様も手伝え」。
「チョッチョッチョッチョッチョッちょっと冗談言っちゃいけねえ。
私ゃ金が欲しいったってねそんな人を殺してまで欲しいってそんなんじゃねえんだ。
ただ無茶苦茶に欲しいだけなんだ」。
(笑い)「しからば嫌と申すか?」。
「勘弁してくんねえな。
人殺しの手伝いは勘弁しておくんねえな」。
「嫌とあらば致し方がない。
武士が一旦大事を明かした上からは口外されては露見のおそれがある。
貴様から殺すからそれへ直れ」。
「チョッチョッチョッチョッチョッちょっと待ってくんねえ。
それじゃ何でやすかええ?手伝ったら金くれて手伝わなかったら私を斬るって訳ですか?駄目だ。
ちょっと待っておくんなさい。
どっちが得か考えるからチョイト待っておくんなさい。
じゃあ何でやすかもしうまくいったら一体私にいくらおくんなさるつもりなんで?」。
「フン貴様なかなか見上げた性根だな。
ブルブル震えながら金の高を決めるとは感心な奴。
左様首尾よく参れば骨折り酒手両用を兼ねて2両をつかわす」。
(笑い)「2両?りゃんこか?おいただりゃんかい?おい。
こいつは驚いた。
言う事はおおたばでやる事はしみったれってなぁお前はんのこったぜ。
ええ?震えてると思ったら料簡が違うぞ。
おい。
ただ体を細かに動かしてるだけなんだチクショウ。
まごまごしやがるてぇと舟ひっくり返しちまうぞ」。
「待て。
舟を返されてたまるか。
拙者水練の覚えがない」。
「何を?この野郎。
泳げねえとぬかしやがったなおい。
ええ?陸じゃ手前のほうが強いかしらねえがな水の中入りゃこっちは鵜なんだい。
盆暮れにはカッパから付け届けが来ようってんだいチクショウ」。
(笑い)「まごまごしやがるてぇと川の中へ引きずり込むぞ」。
「待てい。
つけ込むな。
しからば2両では不足と申すか?」。
「当たり前じゃねえですか。
これが山分けとか四分六ってぇんなら危ねえ橋も渡ろうじゃありませんか。
2両ぐれえの端銭でもってこっちの笠台の飛ぶような危ねえまねは御免蒙りやしょう」。
「よし。
しからば50両あらば25両百両あらば50両つかわすからやれ」。
「じゃあ山分けですかい?嘘じゃねえんでしょうね?」。
「武士に二言はない」。
「武士に二言はねえぐらい当てにならねえ科白はねえや。
後で『褒美はくれよう金は延べ金』なんてなぁ流行りませんぜ。
で一体どこでやる?」。
「幸いとこの舟で」。
「冗談言っちゃいけねえ。
舟に血糊をつけられたら明日から仕事できやしません。
こうなさいまし。
この先に中州がありまさぁ今潮が引いていてそこが出てますからその上でバッサリやっておしまいなさいやし。
ええ?死骸は潮が流してくれるんでこれが足がつかなくて一番よろしゅうがす」。
「よし。
すぐにやれ」。
「へえ」。
奴さん怖いのと欲の両用でございましてせっせと舟を中州のほうへと漕ぎ寄せて参ります。
侍は袴の股立ちを取りますと刀の目釘を湿しまして舳端に立って舟の行く手を見ておりましたがその上に真っ暗な中に白くぼんやりと中州が見えて参りましたんで…。
「船頭。
中州が見えたぞ」。
「旦那。
そんな所にいられたんじゃ舵が取りにくくてしょうがねえや女は私が引っ張り上げるんだで旦那は先に上がってくんねえな」。
「よし」。
ト〜ンと中州へ飛び移る。
弾みでもって舟が3尺ばかりス〜ッと離れました。
途端に船頭が棹を返してグ〜ッと張ると3間ばかり離れる。
もう一本張るてぇと川中へ出ましたから元来たほうへ舵を取り直すてぇと…。
「ハッハッいい按配に飛び上がりやがってチクショウ。
やいばか」。
(笑い)「これ船頭。
舟をどこへやる?」。
「どこへやろうと大きなお世話だ。
ええ?俺の舟を俺がやるんだい手前の指図なんざ受けるかい」。
「やっこれはけしからん」。
「けしからんってやがらぁ。
芥子が辛いか唐辛子が甘えかそんな事知らねえよ〜。
おう手前泳げねえってぬかしやがったなこれから潮が満ちてくるてぇとその中州は無くなっちまうぞ。
てぇと手前の名前は聞かなかったけどもな朝になるてぇと間違いなく土左衛門と名前が変わらぁチクショウ。
侍転じて弔えとならぁ。
ざまぁみやがれこのサンピンめ」。
さんざん悪口をつきまして舟を間部の河岸へ着けましてお嬢様の家を聞いてみますと本町辺のこれこれと言う。
早速連れて参りますと家じゃ一人娘がいなくなったてんでてんやわんやの騒ぎをしているところへ連れていきましたから二親の喜びようは一方ではございませんで。
「ありがとう存じます。
おかげさまで娘が助かりましてございます。
ありがとう存じます」。
「いや。
どうぞどうぞお上げなすって下さいまし。
ええ。
別にお嬢さんのためにやったてぇ訳じゃねえんでございますから。
あのまんま侍の言う事聞いてたってね『町人なんてのは口の性ねえ者だ』ってんでポ〜ンと首かなんか落とされるのが関の山なんでございますよ。
ええ。
手前のためにやったんでございますよ」。
「いや。
親方のような義侠な方がおいでになればこそ娘の命が助かりましてございます。
お礼の申し上げようもございません。
あ〜出来たか?こっちに寄こしな。
すぐにも一杯差し上げたいところでございますが何しろこの騒ぎでございまして落ち着いて召し上がって頂く訳にも参りません。
明日改めてお礼には伺いますがこれはほんのお酒手代わりでございまして。
ええ。
どうぞどこかで一杯召し上がって頂きたいのでございます」。
「エエ〜ッ?エヘヘヘこいつは私はねこういう物が欲しくてやった訳じゃねえんで」。
「いやいや。
これは娘の助かりました身祝いでございますんでどうぞお納めを願いたいのでございまして。
お礼にはまた明日きっと伺いますので」。
「左様でございますか?エヘッそれほど仰るんならじゃあ頂いときますけどエヘヘヘ。
でもね明日またお礼になんてそらぁよしたほうがいいや。
うん。
家の親方みんな手前の懐へ入れちゃってねこっちにはごま塩ホラショなんですからエヘヘ物が無駄になりますんでね。
番頭さんもう留めちゃってくんねえな」。
ひどい奴があるもんで見てる前でもって包みをビリビリビリビリ破いた。
(笑い)ヒョイと見るてぇと2百両入っておりましたから…。
「ありがてえ2百両〜」。
「静かにしろ」。
(笑い)
(拍手)
(打ち出し太鼓)2014/02/23(日) 14:00〜14:30
NHKEテレ1大阪
日本の話芸 落語「夢金」[解][字]
落語「夢金」▽五街道雲助▽第652回東京落語会
詳細情報
番組内容
落語「夢金」▽五街道雲助▽第652回東京落語会
出演者
【出演】五街道雲助
ジャンル :
劇場/公演 – 落語・演芸
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
日本語
サンプリングレート : 48kHz
2/0モード(ステレオ)
日本語(解説)
サンプリングレート : 48kHz
OriginalNetworkID:32721(0x7FD1)
TransportStreamID:32721(0x7FD1)
ServiceID:2056(0×0808)
EventID:11551(0x2D1F)