今鳥は「空の支配者」です。
しかし鳥は地球上で最初に空を飛んだわけでも空を飛んだ最も大きな生き物でもありません。
最初に空を飛んだのは翼のある爬虫類「翼竜」です。
翼竜は昆虫以外で地上から飛び立った最初の生き物で多様な進化を遂げました。
現代のグライダーと同じくらい巨大なものもいました。
一度の飛行で地球を半周する事ができた史上最大の空飛ぶ生き物です。
驚異的な進化によって翼竜は1億5,000万年にわたって空を支配しました。
翼竜はなぜ空へと飛び立ちどのようにして飛んだのでしょうか。
そしてなぜ絶滅したのでしょうか。
太古の空に君臨した「空の王者」翼竜の謎に迫ります。
翼竜の誕生は今から2億2,000万年前まで遡ります。
当時の地球はとても乾燥していました。
やがて熱帯地方に熱帯雨林が形成され多種多様な生物が生息するようになります。
ただし今とは異なり空を飛ぶ大きな生き物はいませんでした。
コウモリも鳥もいなかったんです。
しかし状況は変わろうとしていました。
生命の歴史上飛躍的な進化が起ころうとしていたんです。
そのころ空を飛んでいたのは昆虫だけでした。
昆虫は爬虫類にとって魅力的な獲物でしたが昆虫を捕まえるには爬虫類も空を飛ばなくてはなりません。
爬虫類がどのようにして最初に空を飛んだのか飛び方のヒントが小さなトカゲに見られます。
東南アジアに生息するトビトカゲは木から木へ移動するためにある技を編み出しました。
ジャンプするのです。
ただのジャンプではありません。
脇腹にある膜を広げて木から木へと滑空するのです。
トビトカゲは爬虫類がどのようにして最初に空を飛んだかヒントを与えてくれます。
羽ばたいたり飛び立ったりする能力は長い間昆虫だけのものでした。
しかしやがて昆虫は空の支配者ではなくなります。
爬虫類の一部が進化を遂げ「翼」を手に入れたからです。
貴重な化石を数多く所蔵しています。
中でも特に重要な化石は19世紀にある女性によって発見されました。
「古生物学の姫君」と呼ばれたメアリー・アニングです。
アニングは「ジュラシック・コースト」と呼ばれるイギリス南部の海岸で発掘調査を行っていました。
発見された化石の多くは魚を食べていた巨大な水生爬虫類のものですがアニングは他にも重大な発見をしました。
1828年にメアリー・アニングは衝撃的な発見をしました。
こちらです。
小さな動物で頭と背骨は失われています。
でもそれは問題ではありません。
骨盤があります。
大腿骨すねの骨があります。
そしてこれが腕。
先には手があります。
1本の指だけとても長くずっと先まで延びています。
メアリー・アニングはその意味に気付いたはずです。
長い指は翼を支えていたのだと。
その後更に多くの化石が発見されこれが翼のある爬虫類だという事が分かりました。
翼竜です。
メアリー・アニングが発見したのは初期の翼竜の化石でした。
今からおよそ2億年前地球の大半は熱帯でした。
初期の恐竜が勢力を増しその頭上高く翼竜が飛んでいました。
メアリー・アニングが発見した化石は初期の翼竜ディモルフォドンでした。
上空にいれば地上にいる肉食の恐竜から身を守る事ができます。
また食料となる昆虫を捕まえる事もできました。
しかし初期の翼竜はまだ空を飛び始めたばかり。
時には翼をうまく操れない事もあったかもしれません。
海底に沈んだ翼竜は徐々に泥に覆われやがて化石になりました。
翼竜の化石は世界中で発見されていますが最初に見つかったのはドイツ南部ゾルンホーフェンにある採石場でした。
古代ローマ時代から石灰岩を採っていた場所です。
もともとは海に連なる浅瀬で岩礁によって潮の流れから守られていました。
そのため海底に沈んだ動物の体の多くが流されずに残りました。
石灰岩は不思議です。
地中から掘り出したばかりのものは非常に硬いです。
しかし長い間雨にさらされていたものはもろくなります。
本のページのように簡単に剥がす事ができます。
こんなふうに。
時々この中に生物の痕跡が残っている事があるんです。
ないですね。
そううまくは…いかないかと思ったらありました。
小さいですがアンモナイトの完璧な化石です。
採石場からあまりに多くの化石が発見されたため町にある城は化石博物館になりました。
多くは海生の生物ですが中には空から落ちてきた翼竜の化石もあります。
1億5,000万年前の翼竜の完璧な化石です。
「ランフォリンクス」と呼ばれる翼竜で細部までそっくりそのままの状態で残っています。
長い尾の骨。
足には長い指。
背骨と肋骨はつながっています。
口には長い歯が生えていました。
この歯で魚を捕まえていたのかもしれません。
そして翼です。
翼は長く伸びた指で支えられていました。
翼は薄い皮膚の膜「皮膜」で出来ていました。
生きている時は1mm以下の薄さだったと思われます。
細かい構造まではっきりと見る事ができます。
皮膜に細い糸状の筋が通っています。
これで翼をコントロールしたと考えられています。
飛ばない時の翼の状態も化石から分かります。
長い指の付け根には関節がありこれを使って翼竜は指をあらゆる方向に動かす事ができました。
これは大きな強みでした。
飛ばない時には関節を使って翼を折り畳む事ができたからです。
最初の翼竜が登場してからおよそ5,000万年後。
翼竜は更に大きな進化を遂げました。
その事がよく分かる化石が中国で発見されました。
発掘したのは翼竜研究の第一人者デービッド・アンウィンです。
これは中国で発見された新種の翼竜の化石です。
生物学者チャールズ・ダーウィンの名を取った「ダルウィノプテルス」です。
すごい。
状態もすばらしいですね。
ええ完璧です。
尾が長い事から原始的な翼竜であると考えられます。
長い尾は初期の翼竜の特徴の一つだからです。
一方首の部分特に頭の骨を見るとだいぶ様子が異なる事が分かります。
巨大ですね。
頭の骨の方が胴体よりも長い。
顎も頑丈で大きくとがった歯が生えています。
これは相当進化した翼竜の頭の骨だと言えます。
しかし体の他の部分はかなり原始的です。
つまり原始的な部分と進化した部分が入り交じっているんです。
ダルウィノプテルスの大きな頭ととがった歯はこの翼竜が捕食動物だった事を示しています。
獲物を探して空中を素早く動き回っていたと考えられます。
ダルウィノプテルスの食料は昆虫だけではありませんでした。
空中を自在に飛び回る翼竜は地上ではどのように動いていたのでしょうか。
デービッド・アンウィンはコンピューターで動きを再現しました。
地上では歩くのはかなり大変だったようです。
いつもこんなふうに動いていたと?ええ鳥のように後ろ足だけで立つ事もできたと考えられます。
ただ…このようにバランスが悪いんです。
不安定だし尾が地面についてしまっています。
前足も地面につけて4本足の状態で歩いています。
翼である皮膜が後ろ足にくっついているので歩きづらそうですね。
手の爪や足の指の形も地上で生きるのに適しているとは言えません。
居心地が悪そうです。
どこに行くのかな?
(笑い声)ぶら下がってる方が楽みたいですね。
昔もこうして木や崖にぶら下がって過ごしていたんでしょう。
初期の翼竜は尾が長かったためほとんどの時間を木の幹や崖にぶら下がって過ごしていたと考えられています。
翼竜が「空の王者」になるには更に進化を遂げる必要がありました。
1億4,000万年前の化石です。
大きな頭はダルウィノプテルスに似ていますが尾の長さは短くなっています。
尾の短い新しいタイプの翼竜がいた証拠はフランス南部で見つかっています。
尾の短い翼竜の一つプテロダクティルスの化石です。
プテロダクティルスは安定性は欠いたもののより自在に空を飛べるようになりました。
長い尾がなくなり足の間の皮膜が分かれた事で動きやすくなったからです。
地上での動きにも変化がありました。
かつて海岸だった場所には翼竜がいた証拠が数多く残されています。
翼竜そのものの化石ではありませんが翼竜が歩いた跡が残っています。
ここに翼竜の歩いた跡が3〜4mほど続いています。
最も目につくのは足跡です。
ここにもここにもそっちにもあります。
足跡の外側には別の跡もあります。
指の付け根の関節の跡です。
指の跡はありません。
翼と共に後ろにしまわれていたからです。
ここここここそこにもあります。
こうした跡から尾の短い翼竜がかなり機敏に地上を動き回っていた事が分かります。
尾の短い翼竜は足の間の皮膜が分かれていました。
それでより自由に動く事ができたのでしょう。
自在に歩くという事は翼竜の進化において極めて重要な変化でした。
より多くの食料を得られるようになったからです。
もしかしたら当時の翼竜にとって歩く能力は飛ぶ能力以上に生きていく上で必要なものだったのかもしれません。
尾の短い翼竜はその後どんどん多様化しさまざまなタイプの翼竜が登場しました。
何を食べていたかは頭の骨を見れば分かります。
例えばこれは口がピンセットのような形をしていて歯は丸まっています。
恐らく貝を掘り出して殻を割って食べていたのでしょう。
つまり地上で食料を探していたという事です。
一方こちらは空中から海の魚を狙い捕まえていました。
大きな魚を鋭い歯で突き刺し口にくわえたまま持ち去ったあとに地上で引き裂いて食べたのでしょう。
この翼竜は歯と歯の間の細い隙間をザルのように使ってエビなどの小さな甲殻類をえり分ける事ができました。
重い歯を無くしてくちばしを発達させたものもいます。
こうした適応は食料の変化だけでなく飛ぶために体重を最小限に抑える事にも関係があったと考えられます。
8,000万年前には尾の短い翼竜が空の王者となりました。
翼竜の全盛期です。
個体数の多かったプテラノドンは翼竜の繁栄を象徴する存在です。
プテラノドンは体も大きく広げた翼の先から先までが5m以上ありました。
巨大な翼竜が空を飛べた秘密は骨にあります。
中が空洞なのです。
内側には骨を支えるための網状の構造しかありません。
空洞の骨は体重を軽くするだけでなく別の役割も果たしていました。
これは翼竜の上腕骨です。
てっぺんにあいた穴が翼竜のパワーを生み出す鍵でした。
この穴を通る管によって肺と骨の中の空洞がつながっていたんです。
翼竜はこの空洞に空気つまり酸素をためました。
そして必要な時にはそこからパワーを得る事ができたんです。
こうした進化を重ね翼竜は空の王者になりました。
しかし海岸から離れた森の奥ではその座を脅かす新たな種類の生き物が進化していました。
ドイツ南部ゾルンホーフェンの採石場で発見された生き物の化石には羽根がありました。
この生き物が空を飛んでいた事は誰の目にも明らかでした。
生き物は「始祖鳥」と名付けられました。
これは始祖鳥の模型です。
羽根は軸があり丈夫で硬いため翼竜の皮膜のように足にくっついている必要はありませんでした。
そのため始祖鳥は走る事もできました。
頭には現代の鳥のようなくちばしはありません。
見た目は爬虫類に近く口には歯が生えています。
尾にも骨があり筋が見えます。
まるでトカゲの尻尾のようです。
始祖鳥は爬虫類のようでもあり鳥のようでもあったんです。
始祖鳥やその仲間の化石はあまり残っていません。
しかし当時爬虫類と鳥の中間のような動物が台頭し始めていた事は確かです。
翼竜にとって始祖鳥のような生き物はライバルでした。
翼竜はライバルに対抗するため途方もない方法で進化していきました。
進化生物学者のサンカー・チャタジーはブラジルで発見された翼竜タペヤラについて研究しています。
タペヤラには巨大なとさかがありました。
タペヤラのとさかはジャイロスコープのような働きをしていたと考えられています。
風の動きを感知して耳を通じて脳に伝えていたのでしょう。
耳もとても大きいものでした。
またとさかを使って方向を自在に素早く変えていたとも考えられます。
つまり曲芸飛行をしていたと?そうです。
タペヤラは毛に覆われ体温が高い温血動物でした。
このためより多くのエネルギーを生み出す事ができダイナミックな飛行が可能だったと考えられています。
繁殖期になるとタペヤラの巨大なとさかは異性の気を引くために使われました。
(鳴き声)こうした求愛行動は現代の鳥にも見られます。
翼竜は鳥と同じように卵を産みました。
これは翼竜の卵の化石です。
ここに生息しているカツオドリの卵とほぼ同じ大きさです。
押し潰されていますがかなり良い状態で保存されています。
卵の中に翼竜の頭の部分が出来ているのが分かります。
この辺りにあります。
鳥と違うのは卵の中で既に翼が出来ている点です。
骨が両側に見えますね。
翼竜の翼は鳥よりも早い段階で形づくられていました。
つまり翼竜の子供は卵から孵るとすぐに飛べたという事です。
翼竜は鳥とは異なる成長過程をたどりました。
その結果驚くほど巨大なものも誕生しました。
アメリカ南部メキシコの国境に近い場所でかつて空を飛んだ最も大きな動物の化石が発見されました。
近くの丘で一本の骨を見つけたんです。
初めは恐竜の骨かと思いました。
ただ恐竜の骨にしてはかなり薄くて軽かったんです。
他の骨も発掘された事で翼竜の手首の骨だという事が分かりました。
同じ場所で発見された翼竜の上腕骨を持ってきました。
いかに巨大かが分かるでしょう。
これで腕の一部なんです。
ここだね?そうです。
他の翼竜の骨と比べたら考えられないような大きさです。
骨をもとに推定したところ翼の先から先までおよそ15mもありました。
翼が…。
ええ15mです。
とてつもない大きさだ。
本当に。
驚異的な発見でした。
巨大な翼竜はこの建物を覆う事ができるほど大きな翼を持っていた事になります。
巨大な翼竜は今から7,000万年前の白亜紀に生きていました。
古代アステカの神にちなんで名付けられました。
体の高さはおよそ6mキリンと同じくらいでした。
ケツァルコアトルスは動物の死肉を食べていたと考えられています。
小さな動物を捕まえる事もありました。
最大の疑問は巨大なケツァルコアトルスがどのようにして地上から飛び立ったのかという点です。
ケツァルコアトルスの腕の骨は他の翼竜と同じように中は網状の構造で支えられているだけで空洞になっていました。
大きさはキリン並みでも体重は人間2人分もないほど軽かったのです。
腕の付け根の骨を見ると他の部分とは異なり骨の構造が全て同じ方向に並んでいる事が分かります。
上腕骨は補強されていたのです。
この翼竜が空に飛び立つための重要な鍵がここにありました。
上腕骨が補強されていたのには理由がありました。
飛び立つ時に強い力がかかっても折れないようにするためです。
ケツァルコアトルスは4本の足をバネのように使い自分の体を空に向けて発射していたのです。
発射スピードは時速50kmに及びました。
ケツァルコアトルスがどのようにして空を飛んだかは現代のグライダーの飛行と比較すればよく分かります。
グライダーはケツァルコアトルスとほぼ同じ大きさです。
ケツァルコアトルスはかつて空を飛んだ最も大きな動物でした。
飛ぶ時には羽ばたく回数を最小限に保っていたと考えられます。
しかも現代の航空機よりもはるかに細かいコントロールができていました。
航空機は尾翼で飛行をコントロールします。
しかし進化の結果ケツァルコアトルスには尾翼にあたる尾がありませんでした。
そのため飛行はかなり難しく高い知能で補っていたと考えられています。
ケツァルコアトルスは人間のパイロットと同じく上昇気流を利用する事で高度を保ち長い距離を飛びました。
一度に地球のほぼ半周分を飛べたと推測されています。
ケツァルコアトルスは時期によって生息地を変えるため長旅をしたのかもしれません。
最初の翼竜が誕生してから1億5,000万年。
翼竜は太古の空に君臨する「空の王者」でした。
しかしある時…。
6,600万年前の隕石の衝突が翼竜や恐竜の絶滅の原因だといわれています。
しかし翼竜の運命はそのはるか前に既に決まっていました。
初期の鳥が着々と進化していたからです。
隕石の焼け跡から立ち上がったのは鳥でした。
鳥は翼竜に代わって空の支配者になりました。
ではなぜ鳥は生き延びて翼竜は絶滅したのでしょうか。
丈夫な羽がある鳥には翼竜にはない利点がありました。
体の側面や足で翼を支える必要がなかったのです。
そのため歩く事も走る事も跳ねる事もできあらゆる場所で食料を得る事ができました。
翼竜にはフラミンゴのように水中を歩く事はできませんでした。
今鳥はさまざまに進化しそれぞれがいろいろな技術を使って空を飛んでいます。
しかし最初に空に飛び立ったのは翼竜でした。
そして翼竜は全盛期には鳥でさえ対抗できないほどの繁栄を見せていました。
翼竜は1億5,000万年にわたって空を支配しました。
人類の歴史とは比べ物にならないほど長い年月です。
しかし飛ぶ動物の先駆者である翼竜のすばらしさはまだ解明され始めたばかりなのです。
試験管で水を温めると…。
2014/03/22(土) 19:00〜19:45
NHKEテレ1大阪
地球ドラマチック「空の王者 翼竜」[二][字]
恐竜と同時代に空を支配した翼竜。その姿は実に様々だ。巨大なトサカがあるもの、小型飛行機並みの巨体を持つもの…。翼竜はどのように進化したのか?知られざる姿に迫る。
詳細情報
番組内容
翼竜が登場したのは約2億年前。昆虫を捕らえて食べようと、は虫類が脇腹にある膜を広げて滑空したことが、飛ぶ能力を得ることにつながったという。初期は体を覆う膜が邪魔で、平地を歩いて移動することが困難だった。だが、その後、尾が短くなって地上を機敏に歩けるようになり、あごも捕食しやすい形に進化し、ついには羽毛が生えたものまで登場する。進化の過程をCGを交えて分かりやすく紹介する。(2010年イギリス)
出演者
【語り】渡辺徹
ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – 自然・動物・環境
ドキュメンタリー/教養 – 宇宙・科学・医学
ドキュメンタリー/教養 – カルチャー・伝統文化
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
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