具体的に見ていきます。
明日も是非ご覧になって下さい。
(テーマ音楽)
(出囃子)
(拍手)
(拍手)
(桂春若)いっぱいのお運びで感謝でございますが。
落語に入る前にちょっと誰もやらないジョークというのを探して参りましてそれを幾つかやらせてもろうてから落語のほうに入らせて頂くというような事にやらせてもろうてるんですが。
サッカーのジョークなんですけど動物チームと虫チームがいてましてサッカーの試合をしてたんですが前半戦は圧倒的に動物チームがリードをしてたんですが後半戦になりまして虫チームでムカデというのが参戦を致しましてこれがまぁうまいのなんのどんどんどんどんゴールを決めていくんでございます。
ついには虫チームの大逆転勝ち。
試合が終わりまして動物チームのキャプテンが虫チームにやって参りまして…。
「お前とこなんやなおいええ?あんなムカデみたいなうまい選手がおるのに何で初めから使えんかって?」。
「いや〜それがねムカデは試合始まった時まだ靴履き終わってなかったんです」。
(笑い)いや。
(拍手)いやそない大層に。
(笑い)まだありますが。
(笑い)え〜寒し…今日は寒いんで寒しのジョークを。
大変けちな人に質問を致しましてね。
「あの〜お宅らは寒い日はどうしてるんですか?」。
「はいストーブの周りに集まります」。
「もっともっと寒い日はどうしてるんですか?」。
「ストーブに火をつけます」という。
(笑い)これだけ。
ちったぁ…。
(笑い)お城古いお城お城の案内人に観光客が質問をしましてね。
「あの〜このお城には幽霊が出るという事を聞いたんですが本当ですか?」。
「幽霊?そんな一遍も見た事ありません。
私はここに300年も住んでるんですから」。
(笑い)もうぼちぼちやめとかん事には…。
(笑い)落語のねたに入りにくくなりますが。
旅のお噺なんでございますが。
東海道小田原の宿小松屋清兵衛という一軒の宿屋の前に立ちましたのが年の頃は30をちょっと過ぎたかなというぐらい。
なかなか立派な体をしてますのやがとにかく汚いですな。
着てる着物というのが元は黒羽二重の紋付きやったんですがそれが雨に打たれ風にさらされ。
昔は紅下と言いましてね赤く染めた上に黒をかけるとその黒紋付きに艶が出るてな事を言うてたんですがそれがもう剥げてしもうて下の赤いもんが出てきて羊羹色ちゅうやつで。
白抜きの紋が真っ黒けになってね赤紋付きに黒紋が付いてるというようなややこしい紋付き。
締めてる帯は以前は織物であったという痕跡がところどころに残ってるという情けない帯。
履いてる雪駄はもうちびるだけちびってしもうてね地べたに鼻緒がすがってるのかなと思うぐらい。
(笑い)手に小ちゃな風呂敷包みを1つ持ちまして態度だけはなかなか横柄で。
「あっ許せ」。
「へっ。
お越しやす」。
「1人旅じゃが泊めてくれるか?」。
「へっ。
どうぞお泊まりを」。
「この小田原という所は誠に風光明美名所古跡も多い所じゃ。
2〜3日と思うておるが気に入ったら10日も逗留するかも分からん。
やはりそれぐらい泊まるとなったら先に金の50両ぐらい預けておけばよかろうな?」。
「いえ。
こんな小さな宿屋ではございますがなお勘定はご出立の時にまとめて頂戴致しましたら結構でございます」。
「左様か。
私は食べ物の事はとやかくは申さんが酒だけは良いのでないと収まらんぞ」。
「へい。
私もいける口でございます。
特に上酒を吟味致しております」。
「それは結構。
しからば厄介に相なる」。
「へっ。
どうぞ。
おすすぎ持っといで」。
ポイッと2階へ上がります。
(戸を叩く音のまね)「お泊まりありがとうございます。
ただいまお風呂が沸いておりますがお入りになりますかいな?」。
「旅のほこりを洗い流して一盞傾けたいが先に申したその上酒それを1升を用意しておけ」。
「1升?よう飲む人やな」と思て用意をすると風呂から上がって湯呑みでグビビ〜グビビ晩飯の膳の上できれいに1升空けてしまうとゴロッと寝てしまう。
次の日の朝割と早うに起きてきまして…。
「あ〜亭主朝飯の用意はできておるか?」。
「あっおはようございます。
できております。
すぐに運ばしてもらいますで」。
朝飯を食べると小ちゃな帳面を懐に入れて腰に矢立てを差して宿屋の下駄つっかけて「ちょっとその辺ブラブラして参る」。
ポイッと出ていく。
お昼時分になると帰ってきて…。
「いやひと歩きして参ったら腹がへった。
昼飯の用意は?」。
「へっ。
できております」。
「昼飯には昨日の酒を5合用意致せ」。
「昼から5合も飲むのん?ええかいな?」と思てると5合片づけてゴロッと昼寝。
晩方になると…。
「亭主。
風呂は沸いておるか?」。
「へっ。
沸いております」。
「風呂から上がったら昨日のように1升を用意しておけ」。
「昼5合飲んでんのやで大丈夫かいな?」と思てると1升を片づけてゴロッと寝てしまう。
明くる朝になると…。
「亭主。
朝飯の用意は?」。
「寝起きのええ人やなぁ。
できております」。
朝飯を食べると宿屋の下駄つっかけてポイッ。
帰ってきて昼飯に5合。
昼寝。
晩また風呂から上がって1升と毎日これです。
5日ぐらい経つと嫁はんのほうがぼやきだした。
「ちょっとあんた」。
「ああ?」。
「どないすんのや?あの客」。
「どの客?」。
「どの客て今家には1人しか泊まってへんがな」。
(笑い)「2階のあのヒョロピーやがな」。
「ヒョロピーて何や?」。
「あの汚い客や。
あいつの着てる物などうぞこうぞ着物ちゅう格好してるけどヒョロッと避けたらピリッと裂けるさかいヒョロピーや」。
「そんなボロクソに言いないな」。
「それで悪かったらチョイビリや」。
「チョイビリて何や?」。
「『ちょいと』ってつまんだらビリッと裂けるさかいチョイビリ」。
「おいおい。
仮にもお前客やで」。
「何が客やねあんな者。
あれ銭持ってへんであれ」。
「いや。
泊まる時に大きな事言うとった」。
「大きな事言う奴に限って怪しいねん。
いいや。
私の睨んだ目に間違いはない。
私はなオギャ〜と生まれた時からここで宿屋の娘お客見る目はあんたより確かや。
あんた養子やろ?」。
(笑い)「あのな〜おいお前何や言うたら『養子や〜養子や』言うてお前私の事ばかにするけどな私かてお前宿屋の亭主15年やってる」。
「15年やろうが20年やろうがあかへんあんたは。
大体あんたな貧乏症やわ。
はあ〜。
あんな文なしの客に目つけられんのや。
この間も一文無しの客が泊まったやろ?大体あんたそういう顔やねん。
うん貧乏人が寄ってくる。
まぁ言うたら貧乏人の磁石やなあんた。
うん」。
(笑い)「ちょっと行てな勘定をもろといで。
『家は5日目ごとのお勘定になっております』言うて行てもろといで」。
「いや。
それが言いにくい」。
「何で言いにくい?」。
「いや泊まった時にな『何日お泊まり願いましてもお勘定はご出立の時にまとめて頂戴致しましたら結構です』と言うてしもてん」。
「不細工な人やなこの人は。
相手を見て言いなはれ相手を。
それやったらな酒代だけもろといで。
『あの上酒は現金やなかったら売ってくれしまへん。
酒代だけお下げ渡しを願います』と。
その時の金の出し方で大体見当がつくさかいに。
な?早う行かなんだらまた外へ出てしまう。
早う早行っときなはれ」。
「もうかなわんな。
自分で行ったらええのやほんまに。
(戸を叩く音のまね)「え〜お客さん」。
「お〜亭主ちょっとブラブラして参る」。
「ええ。
それは結構なんでございますがなお勘定旅籠代のほうはなこれはご出立の時で結構なんでございますがあの酒がなへえあの上酒は現金やなかったら売ってくれしまへん。
へえ。
5日目になります。
酒代だけお下げ渡しを願いたいと思いまして」。
「お〜最早5日に相なったか。
うん。
今日までの勘定酒代旅籠代締めて如何ほどに相なる?」。
「いえいえ。
酒代だけで結構で」。
「同じ事じゃ同じ事じゃ。
うん。
締めて如何ほどに相なる?」。
「へえ。
ありがとうございます。
まだ細こうは勘定はしておりませんがなザッとしたところで1両3分ぐらいやと心得ますが」。
「お〜毎日1升5合の酒を飲んで1両3分とは安いのう」。
「へえ。
せいぜいお安う願とりますようなこって」。
「そこへ茶代として1分付け加えて2両あればよい勘定じゃな」。
「へえ。
ありがとうございます」。
「それがない」。
(笑い)「あの〜今何と仰いました?」。
「ない」。
「いや。
ないってどうないんで?」。
「一文もない」。
「一文もない?あんたお泊まりの時に『先に金の50両ぐらい預けておけばよかろうな』と仰いました」。
「預けておけば気分が良かろうなと…」。
(笑い)「思たまでじゃ」。
「思たまで?ほなあんた初めから一文もなし?ほなあんた何の当てもなしに初めから倒すつもりで泊まんなはったの?」。
「いやいや。
何の当てもないという事はない。
うん。
当ては3つばかりあった」。
「ほう。
3つもありゃ結構や。
どんな当てでんねん?」。
「私は毎日ブラブラと歩いておる。
金の入った財布を拾わんとも限らんな」。
(笑い)「えらい頼りない当てやな。
そんなん当て言うんか?はあ〜?もう一つの当ては?」。
「私が逗留中に人間というものは老少不定と申す。
死ぬやも分からん。
死んでしまえば払わいでもよいな」。
(笑い)「心細うなってきたわ。
あとの一つは?」。
「私が滞在中にお前とこの一家が死に絶えんとも限らん」。
(笑い)「ええかげんにしなはれ。
ようそんな事言うなぁあんた。
ああ〜?ほなこの勘定どないしまんねん?」。
「どうしたらよかろうな?」。
「自分で考えなはれそんな事は。
ほんまにもう。
な〜?ほんまやったらこれ金がなかったらその着物剥ぐてなもんやけどその着物だけはどこの古手屋持っていっても断るやろな〜。
嬶が言うたはずやな〜『貧乏症や』て。
この間もそうや。
な〜?一文無しの職人が泊まりよって。
家は泊まりやすいんかな〜?やっぱり磁石かな〜?」。
(笑い)「けどまだあれはな〜表具屋の職人やいうさかいちょうどボロボロになった衝立があったさかいそれを張り替えさして宿賃の形にはしたんやけど。
あんた商売は何や?」。
「何?」「いや。
初めはご浪人かいなと思てたんやけどそうでもなさそうやしあんた商売は?」。
「私は絵師じゃ」。
「絵師?」。
「絵描きじゃ」。
「絵描き。
あ〜難儀やな〜。
絵描きてな者は力仕事もでけへんやろうし筆や墨押さえたかてしょうがないし」。
「あっ待て待て。
その職人が張り替えたという衝立はどこにある?」。
「隣の部屋に置いてあるがな」。
「見せてくれんか?」。
「勝手に入って見たらええわ」。
「これか?」。
「そうや」。
「なるほど。
なかなか良い仕事がしてあるな。
一文無しで旅をするだけあって腕は確かじゃな」。
「おかしな事言いなはんな」。
「よし。
これに何か描いてやる」。
「はっ?」。
「描いてやる」。
「偉そうに『描いてやる』。
これなこのままやったらなんぼかの値打ちやねん。
は〜。
お前はんが落書きしたらまた張り替えんならん」。
「そのような事はない。
硯を持って参れ。
いやいや。
筆や墨はこちらにある」。
「おいおいおい。
汚い墨のこびりついてるそれではいかん。
きれいに洗い流して別に器に一杯清らかな水を持って参れ」。
「偉そうにぬかすな偉そうに。
これでええか?」。
「ああそれでよい。
この墨をその方に渡す。
そこへゆっくりと摺り下ろせ」。
「私が墨摺るの?これ。
ああ〜?2両倒された上に何でこんな提灯屋の手伝いみたいな事せんならん?」。
「私が摺ったほうがよいには違いないが墨を摺ると手に力が入る。
筆が震えていかん。
アア〜ッそのようにゴシゴシとやってはいかん。
緩やかに緩やかに摺り下ろすのじゃ」。
「偉そうにぬかすな偉そうにほんまに。
金もないのに何…」。
「おい。
この墨えらいええ匂いがするな?」。
「鼻だけは一人前じゃな」。
「何ぬかしやがるねんほんまに」。
「さて何を描いてやる?」。
しばらく衝立を睨んでおりましたが筆に墨をタップリと含みますとツツツツツ〜ッ。
「よし。
我ながらよう描けた」。
「何をぬかしとんねん。
自分で自分の事褒めて噺家か?お前は」。
(笑い)「何描いた?」。
「何?」。
「何を描いたんや?」。
「分からんのか?顔の真ん中に2つ並んで光っておるものは何じゃ?目か?これが分からんような目ならくりぬいて陰干しにしておけ煙草入れの緒締めになとなる。
これは雀じゃ」。
「雀?阿呆な事言うなお前ああ〜?墨ボタボタ〜ッと落としただけやないかい。
何がすず…」。
「おお〜っ雀やのこれ。
ええ〜っ?さっきは何や訳分からんかったけどええ〜っ?だんだんだんだん雀に見えてきた。
あんたやるな。
おい。
ええ?よう描けてるがな端のやつなんかな〜風に逆ろうて飛んでる具合。
これにちょっと落ち葉が散ってるとこかなんか…」。
「余計な物は描かなくともよい。
これでよいのじゃ」。
「これで終い?」。
「雀5羽で2両?高い雀やなおい。
そこの焼き鳥屋行てみい百文出したら何本ある?」。
「そのような雀と一緒になるか。
これは宿代の形としてここへ置いておく。
私が今度来るまで無断で売る事はならんぞ」。
「誰がこんな物買うかい」。
「さらばじゃ」。
ポイッと帰ってしもた。
あとはもうこの家は夫婦喧嘩ですな。
ええ。
どっちが勝つや分かってますがね。
ええ。
次の朝嫁はんのほうはもうふてくされてしもうて起きてけえしまへん。
しょうがないもんですから亭主2階へ上がって雨戸をガラガラ〜ッガラガラ〜ッ。
朝日がス〜ッと射し込むとチッチッチッチッバタバタバタバタ。
「誰や誰や?ええ?雀か何か閉め込みやがって座敷中糞だらけになるがな」とぼやきながら障子を開けますと雀がパ〜ッと飛び出した。
雨戸が開いておりますから表出てチイチイチイチイ鳴いてる。
フッと見たら衝立は真っ白。
「これは?」と思てるところへ飛び回った雀が戻ってきて衝立にバタバタバタバタッピタッと収まった。
「ギャ〜ッ!」。
2階からガラガラガラッドシ〜ン。
「どないしたんやいな?この人は」。
「すすす」。
(笑い)「とうとう頭へきてしもうたがな」。
(笑い)「2両倒されるわあんたがおかしなったらうちの家はどないなんねんな?ええ?『絵に描いた雀が抜けて出た』?阿呆かこの人は何を寝ぼけてんねん?」。
「ほなお前明日の朝雨戸開けい」。
次の日嫁はんのほうが2階へ上がって雨戸をガラガラ〜ッガラガラ〜ッ。
朝日がス〜ッと射し込むとチッチッチッチッ。
「あれ?」っと障子を開けますと雀がパ〜ッと飛び出した。
見たら衝立は真っ白。
「キャ〜ッ」。
ガラガラガラガラッドシ〜ン。
「すすす」。
(笑い)「同じようになりやがった。
言うたとおりやろ?」。
「あのお客は化け物?」。
「化け物やあるかお前日本一の絵の名人に違いない。
えらい事なった」。
さぁこれがえらい評判になります。
「小松屋の絵に描いた雀が抜けて出た」と毎日毎日近郷近在のお客さんで満員でございます。
小田原の殿さん大久保加賀守公がお忍びでやって参りましてこの絵を「千両にて買い上げつかわす」。
小田原の殿さんが千両の値をつけた。
さぁそうなるともうこれ近郷近在だけではございません。
東海道ですからな江戸や上方からもいろんな人がやって参りまして…。
「あの〜1晩泊めてほしいのやけど」。
「ありがとうございます。
それがなもうズ〜ッと先までお部屋が予約で塞がっております」。
「そんな事言いないなお前。
俺は大坂から来たんやお前。
泊めたりやお前」。
(笑い)「ええやないかお前。
泊めてくれやおい。
頼むわおい。
泊めたりやおい。
あかんのかい?ああ〜?なら相部屋でええわ」。
「相部屋はもとよりでんねん。
8畳の間に15人寝てもろうてまんねさかい」。
(笑い)「ほうか?ほな廊下」。
「廊下な布団敷けるだけ敷いてゴロゴロゴロゴロ休んでもうてます」。
「ほうか。
ほな便所」。
「便所2人入ってまんねん」。
(笑い)「これ以上入れたら他の人が困りまんねん」。
「ほうやな〜。
ほたらどうや?梯子段に腰掛けて朝まで待ったらいかんかな?」。
「梯子段?階段でやすか?お〜い。
階段はどないなってる?ええ?下から2段目の?左側が空いてる?」。
(笑い)「ほな1人だけ」。
えらい騒動。
ある日のこと60をちょっと過ぎたかという上品な人がやって参りまして…。
「小松屋さんというのはこちらかな?」。
「へっ。
左様でございます」。
「一宿お願いをしたいのだが?」。
「へっ。
ありがとうございます。
それがなズ〜ッと先までお部屋が塞がってしもうております」。
「いや。
抜けて出る雀の絵を見せてもらえればそれでよいのだが」。
「いえ。
あれはね朝日が当たった時やないと朝やないと抜けて出ませんので」。
「いやいや。
絵さえ見せてもらえればそれでよい」。
「それやったら今からでもご覧になれます」。
「左様か。
ではお願いする。
これは些少ながら茶代じゃ」。
「へっ。
ありがとうございます。
どうぞお上がりを」。
「この衝立でございます」。
「なるほど。
思うたとおりであった。
亭主。
この者ならばこれぐらいな事はあろう」。
「左様でおますか?」。
「しかし亭主この雀は死ぬぞ」。
「えっ?絵に描いたもんが死にますか?」。
「しからばなぜ飛んで出る?飛び出すだけの力を持った雀ならば力が尽きた時には落ちて死んでしまう」。
「あ〜なるほどね。
死なれたら困りまんねん。
どうしたらよろし?」。
「私が一筆書き添えてやれば死なん」。
「ヘヘヘヘね〜?小田原の殿さんが千両値つけてくれはりましてええ。
あんたがちょっと描き添えたがためにこれが2百両に下がるというような?」。
「そのような事はない。
まだ2百両上がるぞ」。
「あっ左様か。
ほなお願い致します」。
「硯を持って参れ」。
今度は心得ております。
硯をきれいに致しまして別に器に水を一杯。
「これでよろしゅうございますか?」。
「この墨をその方に渡す。
そこへゆっくりと摺り下ろせ」。
「はぁはあ〜この人も絵描きやなこれ。
皆同じような事言うのやな〜」。
「ほう〜この墨もえらいええ匂いが致しますな?」。
「鼻だけは一人前じゃな」。
「そうでんねん。
へえ。
鼻は評判ええんです。
目がもうひとつや言われてまんねんけどね」。
(笑い)「もう描いてはります?」。
「描き始めると早いもんですな。
何をお描きになりました?」。
「何?」。
「何をお描きになりました?」。
「分からんのか?顔の真ん中に2つ並んで光っておるものは何じゃ?目か?これが分からんような目なら…」。
「また煙草入れの緒締めや言おう思うて。
何でございます?」。
「鳥籠と止まり木が描いてある」。
「鳥籠と止まり木?」。
「羽交いを休める所があれば雀は死なん。
これでよい。
さらばじゃ」。
ポイッと帰ってしもた。
「あんな物描かれて大丈夫かいな?」と思てますと次の日の朝飛び回った雀が戻ってきて鳥籠へ入って止まり木へ止まってチイチイチイチイ鳴いてる。
「絵に描いた鳥籠に雀が入った」とこれがまた評判になります。
小田原の殿さんがやって参りまして…。
「この度は2千両にて買い上げつかわす」。
「あのヒョロピー何をしてんねん。
早来やがったらええのに」。
一人気をもんでおります。
ある日のこと引き戸のついた立派な駕籠が止まります。
中から出て参りましたのが以前の絵師。
見違えるような出で立ちで…。
「亭主。
久しいのう」。
「あの〜どちらはんでございました?」。
「忘れたか?」。
「ヒョロピー。
いや。
雀の先生でございますか。
立派におなりあそばして」。
「あの絵はまだあるか?」。
「へえ。
小田原の殿さんが千両2千両の値つけてくれはりましたんやけどあんたとの約束がありますさかい売らずに家に置いてございます」。
「それは律義な事じゃ。
あの絵は改めてその方に進呈する」。
「ありがとうございます。
ちょっと言うとかないかん事ができましてな。
ええ。
二十日ほど前でしたかな60過ぎの方がお見えになりましてへえあの絵をご覧になって『この雀は死ぬ』と仰る」。
「何?」。
「いえ。
『羽交いを休める所がなかったら雀は死ぬ』と鳥籠と止まり木を描いてくれはってその鳥籠へ入って止まり木に止まっとりまんねん」。
「その絵を見せてもらいたい」。
旅装束で2階へトントントント〜ンと上がって参ります。
しばらく絵を睨んでたかと思いますとホロッと一滴。
「お懐かしゅうございます」。
「もしもし大丈夫ですか?」。
(笑い)「あんた絵に頭を下げて何してはりまんねん?」。
「亭主。
これをお描きになったのは私の父親じゃ」。
「あんたのお父さんですか。
言うてる科白が一緒やと思いましたわ」。
「かかる事に心づかざりしは相変わらずの未熟者。
不孝の罪は幾重にもお詫びを申し上げます」。
「何を言うてはりまんのやあんた。
ええ?絵に描いた雀が抜けて出るっちゅうな名人におなりになって何の親不孝な事がございますかいな」。
「いや。
親不孝ではあるまいか。
現在親に籠
(駕籠)を描
(舁)かせた」。
(拍手)ありがとうございました。
(拍手)
(打ち出し太鼓)2014/03/22(土) 04:30〜04:59
NHK総合1・神戸
日本の話芸 落語「抜け雀(すずめ)」[解][字][再]
2月6日(木)にNHK大阪ホールで行われた「第338回NHK上方落語の会」から、春團治一門のベテラン桂春若(かつら・はるわか)の出演で「抜け雀」をお送りします。
詳細情報
番組内容
2月6日(木)にNHK大阪ホールで行われた「第338回NHK上方落語の会」から、春團治一門のベテラン桂春若の出演で「抜け雀(すずめ)」をおくる。【内容】小田原のはたごにやってきたみすぼらしいいでたちの一人の男。毎日、大酒を飲み一向に出立の気配がないのではたごの亭主が宿代を催促すると、男は一文無しだという。男は絵師ということなので、宿代がわりに絵を描いてもらうことに。男が描いたのはすずめで…。
出演者
【出演】桂春若,大川貴子,桂米平,桂米輔,桂吉の丞
ジャンル :
劇場/公演 – 落語・演芸
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
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日本語
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2/0モード(ステレオ)
日本語(解説)
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