街を歩く一人の女性。
人混みの中不思議な動きをしています。
一体何をしてるんですか?こういう街なかだったら人が歩いてる所でどこがその人の横が空いてるんだろうというのをレースに見立てて。
イメージではやっているんですけど。
「あっこの人インがここ空いてる」とか「ここの隙間だったら入れそうだな」というのも見ながら人を抜いていったりとかしますね。
彼女はスケートの日本代表。
ソチオリンピックを目の前に勝利へのイメージを高めていました。
スピードスケート…2年前日本選手として初めてワールドカップで総合優勝。
(実況)2番手にキャサリン・ロイターが上がってきた!さあ日本の酒井が1000mを制した!ソチで日本女子初のメダルを期待されています。
持ち味は…氷に吸い付くような低い滑りです。
酒井選手を戦いへとかきたてるのは4年前の屈辱。
(実況)あ〜っと転倒だ!日本転倒!まさかの転倒。
惨敗に終わりました。
自分自身で不完全燃焼でここで終わったらホントに…ソチで勝つために今自らの滑りを変えようとしています。
しかし結果が出ません。
くそ〜っ。
それでもやり抜けば思いはかなうと信じて挑みました。
その先に…ライバルを打ち破る速さと強さを磨きたい。
戦い続けた日々を追いました。
長野県東部標高およそ1,350mの野辺山高原。
(取材者)おはようございます。
おはようございます。
酒井裕唯選手がここで合宿をしていました。
(取材者)寒いですね。
寒いですね今日。
だんだん寒くなって。
もう完璧冬な感じになってきました。
現在26歳。
ふだんは所属先の企業で働いていますが毎年9月ごろになると度々合宿を行って競技に集中します。
すごいいいじゃん。
上向かないように引っ張る時。
共に合宿をするのはオリンピックを目指す国内トップクラスの若手ばかり。
年上の酒井選手はいつも面倒見のいいムードメーカーとなっています。
練習が始まりました。
ショートトラックは1周100m余り。
スピードスケートのおよそ3/3。
この小さなリンクを時速40キロで滑ります。
空気の薄い高地でのトレーニング。
滑り終えるとほとんどの選手たちが前かがみになって息を整えます。
ところが酒井選手は立ったまま。
はいいくよ!男子選手の先導で13周するハードな練習。
後半になると次々に若手は脱落。
滑っているのは酒井選手だけになりました。
終了。
息があがります。
それでも膝には手をつきません。
酒井選手のポリシーだといいます。
私の自分の中のルールがあって「膝に手をつくな」というルールが昔から自分の中であって。
自分は弱くないと思いたいですよね。
たとえ練習の時に今日の練習とかちょっと離れたりとかしたんですけどそれでも自分は弱くない。
まだできるっていう事を思いたいんだと思います。
4人から6人で戦う競技。
タイムではなく着順を競います。
狭いトラックをひしめき合って順位を争うため常に激しい駆け引きが行われます。
接触転倒もしばしば。
一瞬の隙も許されないスリリングな競技です。
酒井選手が注目を集めたのは3年前のワールドカップ。
(実況)酒井裕唯ワールドカップ2勝目へ向けてのレースが始まりました。
まずスタートから先頭に立ちます。
(解説)積極的なレースをしてますね。
(実況)イギリスクリスティーの後ろにつけた酒井がここでインから先頭に立ちます。
序盤から先頭に立った酒井選手終始リードします。
(実況)酒井守れるか!?粘れるか!?酒井が先頭!酒井が先頭!そのまま優勝。
このシーズン2勝をあげました。
間近に迫ったソチでメダルの期待が高まっています。
酒井選手の得意とする戦い方。
それは…一気に仕掛けて先頭へ。
そしてスピードを上げ内側ギリギリのラインを滑ります。
その速さとコースどりのため後続の選手は追い抜く事ができません。
酒井選手の速さの秘密はどこにあるのか?大学トップクラスの大坪里希選手と滑りを比較しました。
こちらは大坪選手。
背中のラインに注目。
背中を丸めた前傾姿勢です。
一方こちらは酒井選手。
背中を深く折り曲げてリンクとほぼ平行になっています。
比較すると酒井選手の方がはるかに低い姿勢で滑っている事が分かります。
この低さが速さの秘密です。
高い姿勢から氷を蹴るとその蹴り幅は黄色い線の範囲。
一方低い姿勢の場合蹴り幅は赤い線。
より長く氷を蹴る事ができます。
一回の滑りで大きい推進力を得られるのでスピードも速くなるのです。
この低い姿勢カーブで保つのは至難の業です。
外側に強い遠心力がかかって体が起きてしまうからです。
そこで2人のカーブワークも比較しました。
酒井選手の方が遠心力を抑え体を深く傾けより低い姿勢を維持できています。
(一同)おお〜!かっこいい!日本代表の柏原幹史さん。
酒井選手には常に低い姿勢を保てる足腰の強さがあるといいます。
はいストップ。
もうちょっと戻して下さい。
上体がず〜っと一定にいっているんで…ほとんど変わらないんでそれはやっぱり体幹と下半身がしっかりしているという事ですね。
あの低い姿勢で一番きつい方向に押し出せるというのは非常に足が強いという事に。
今シーズン日本のエースとしてソチを目指す酒井選手。
2回目の出場となるオリンピックには特別な思いがありました。
22歳の時に初めて出場したバンクーバー大会。
自信を持って臨んだ500m予選。
(スタートの合図)
(実況)今度は決まった。
酒井も最後尾から追いかける展開になってしまった。
酒井が1人かわした!さあもう一人かわせば準々決勝進出。
(解説)外から飛び込むしかない。
(実況)最後のコーナー飛び越しかわせるか?どうだ!3位で予選落ち。
そして3000mリレー。
前半3番目につけた日本。
(実況)2位に日本。
しかしその後ろにハンガリーも…。
交代した酒井選手。
(実況)あ〜っと転倒だ。
後続の選手と接触し転倒。
日本は過去最低の7位でした。
不振を極めた夢の舞台。
「このままでは終わらない」堅く心に誓いました。
自分自身で不完全燃焼でここで終わったらホントに今までやってきたスケート人生が全部無になってしまうって思ったらそれはそれで嫌だなって。
なので柏原さんの所に行ってあと4年お願いしますって。
次のオリンピックをねらうしかないって思いだけだったと思いますね。
ソチオリンピックに向けた特訓が始まっていました。
酒井選手は自らの攻撃スタイルを変える練習に取り組んでいました。
酒井選手には危機感がありました。
ワールドカップ総合優勝を果たして以降勝てなくなっていたのです。
2年前のワールドカップ。
(スタートの合図)得意の先行逃げ切りに持ち込もうとした酒井選手。
しかし後半スピードを上げた外国勢に一気に追い抜かれてしまいました。
実はここ数年中国韓国や欧米の強豪選手が大幅にスピードアップ。
日本が負け続ける原因となっていました。
通用しなくなった先行逃げ切り。
この2年ワールドカップは最高で4位。
メダルは一つも取れませんでした。
全然前に出られない出してもらえないしじゃあ最後に行こうかなって思ってもやっぱりそこでもスピードが上がってきてしまっててその時のスピードには自分はついていけなかった。
抜くだけのスピードがないっていう。
このままではソチで勝てない。
酒井選手は得意の先行逃げ切りを捨てる決意をしました。
目指したのは全く逆の攻め方。
相手に食らいついて体力を温存後半チャンスを見て追い抜くという戦法です。
ただし鉄則があります。
密集する敵を避けるため抜く時は外側から一気に行かなければいけないというものです。
この滑りを12月のオリンピック最終選考会までに完成させるそれが目標でした。
特訓が始まりました。
しかし…酒井選手カーブで内側に入ってしまいました。
裕唯!もう一度トライ。
(柏原)あと2回!9.2。
やはり内側へ。
外からなかなか抜けません。
全部あれで潰れちゃう…その次の周からまたダメになる。
酒井選手は外側からの攻めにある恐れを感じていました。
外側から追い抜こうとする時カーブでは前を行く選手が遠心力や駆け引きなどで外側に膨らんでくる可能性があります。
その時十分なスピードがあればどんな事態にも対処して抜き去る事ができます。
しかしスピードが足りずに不用意に追い抜きをかけると接触してしまうリスクがあります。
外からの追い抜きを成功させるには更なるスピードアップが絶対条件です。
今酒井選手のベストラップは1周8秒9。
海外勢に対抗するには8秒台半ばのスピードが必要です。
(柏原)いけ!
(柏原)脚止めるなおい!脚止めるなよ上体!おい!
(柏原)脚止めるな!目標とするスピードになかなか近づけません。
なぜスピードが上がらないのか。
酒井選手の映像を確認したところある問題が浮かび上がりました。
これでも左の肩が…左蹴る時に左の肩が落ちるじゃん。
はい。
(柏原)こう入って…ストップ。
カーブを曲がる時左肩が落ちていたのです。
通常カーブを曲がる時は両肩を氷と平行にして両膝をしっかり曲げます。
そこから膝を伸ばして大きな推進力を生み出します。
しかし左肩が落ちると左膝が伸びてしまいます。
膝を少ししか伸ばせず十分な推進力を得る事ができません。
落ちないように考えなくちゃいけないんだけど…。
あとはお前がそこを直さなくちゃいけないって事。
スピードアップのためフォームの矯正に臨みました。
まずは左肩を落とさない事だけを意識して曲がる練習です。
(柏原)前へ強く速く!
(柏原)そう。
そう左の肩!右脚曲げて。
(柏原)裕唯かかとでしっかりギュッと押せよ。
実戦を想定したタイムトライアル。
(柏原)上げろ!自己ベストにも届きません。
このままスピードアップができなければ外から攻める新たな戦法に乗り出せない。
最終選考会までに残された時間は1か月を切っていました。
お米をとぐ時…。
酒井選手の…酒井選手が信頼を寄せる一番の相談相手です。
まあお昼は学校の給食とかなんでいいんですけど。
学校から帰ってきてごはん食べて練習に行って夜遅くに帰ってきて夕ごはんを食べるっていう。
夕飯2回。
夕飯2回。
酒井選手がこの世界に入るきっかけとなったのが智美さん。
元ショートトラックの選手です。
ショートトラックを始めたのは10歳の時。
既に全国大会で活躍をしていた智美さんを追いかけ同じクラブに入りました。
それは全国でも屈指の強豪クラブ。
最初は試合はおろか練習でも勝つ事ができませんでした。
しかし智美さんは私についてきなさいと励ましました。
酒井選手も一日4時間の練習をへこたれずに続けました。
姉の支えで酒井選手は12歳の時全国優勝。
その後高校大学と実績を積み日本を代表する選手へと成長しました。
ところが酒井選手が活躍する一方で智美さんは年々思うような滑りができなくなっていきました。
そして大学の時練習中に思わぬ大ケガを負います。
ケガからの復帰を懸けた全日本選手権。
智美さんは妹と対決する事になりました。
裕唯頑張れ!結果は酒井選手の勝利。
この時智美さんは引退を決意しました。
妹に夢を託そうとしたのです。
ちっちゃいちっちゃいと思ってた裕唯がその時すごく頼もしく見えたというか…あ〜もう裕唯は一人で何でもできるすごい選手になったんだなという姉なりにちょっと実感があったので…。
何ですかね羨ましいという思いはあったんですけどと同時に妹ですごく誇らしい思いがあって…。
姉がかなえられなかった夢というのを私はその思いもホントに背負って競技して…。
でその活躍をしている姿というのを姉に見てもらいたいなというのはすごく思うので…。
だからこそ妥協はしたくないです。
どんな事をしてもスピードを上げたい酒井選手。
フォーム矯正に取り組む一方で徹底的な下半身強化のため独自のトレーニングを行っていました。
重さ50キロのバーベル。
はいじゃあいこうか。
これを使ってスクワット。
23。
はい顎引いて。
456。
いいよ。
ゆっくりね。
終わったらすぐ走って次へ。
321。
はいいけ!はいはいはいはい!片足5キロずつの重さのペダルを30秒間全力でこぎます。
はい。
息があがったまま今度は足をゴムバンドで固定。
この体勢で歩きます。
これで1セット。
30秒休んでまた最初から。
これを6セット繰り返し。
123。
顎引いて。
456789。
はいそのまま。
321。
はいいけ!はいはいはいはい!そうそう!上げて上げて!勝利のため苦しさを乗り越え続けます。
誰かが「こんなのできない」って言っても…
(取材者)おはようございます。
おはようございます。
オリンピック日本代表最終選考会の日です。
ソチを見据えた外から追い抜く新たな攻め。
そのために取り組んできたスピード強化。
成果を試す場となります。
会場に姉智美さんの姿がありました。
磨いてきたスピードが最も問われる種目です。
(スタートの合図)先頭を行くのは500mの日本記録保持者。
外から攻めます。
なかなか捉える事ができません。
思わず内側へ。
失敗。
自信のなさから悪い癖が出てしまいました。
準決勝へぎりぎり通過の2位。
(場内アナウンス)「酒井が2度3度外から攻め込んだんですが清水も意地があります。
ふんばって酒井を振り切りました」。
準決勝。
今度こそ。
残り2周。
膨らんできた前の選手と接触して転倒。
原因は直前の攻めでした。
追い抜こうと外へ。
しかしためらいがありました。
出足が後れ抜ききれません。
よけられませんでした。
恐れていた最悪の展開です。
3位。
審判団に転倒がなければ2位と見なされ救済措置で決勝に進出しました。
くそ〜っ!どうしよう?目指す滑りが全くできません。
決勝。
勝ち残った5人の中で一番タイムが遅かった酒井選手。
最も外側不利なスタートです。
これまでこの位置から1位になった事は一回もありません。
(スタートの合図)酒井選手後ろから必死についていきます。
残り3周。
この時勝負に出ます。
「迷わず一気に」。
優勝。
外側からの一気呵成の追い抜き。
左肩も落ちていません。
理想の滑りに近づいていました。
(場内アナウンス)「なんという強さか。
もう戦いは世界で始まっている。
酒井裕唯。
11レース目でこれで11戦9勝」。
日本代表としてソチに臨む酒井選手。
本番に向け大きな収穫を得る事ができました。
ありがとうございます。
もう一枚。
ただただホッとしてますね。
ちょっと気持ちの部分が揺らいだ時に危なげなレースというのがあったんですけれどもまあそれも立て直しができたので結果的にはよかったのかなと思います。
酒井選手はオリンピックを目前に控えた日本代表の最終合宿に入っていました。
残された時間は僅か。
今もスピードの強化が続いています。
狙うはオリンピック日本女子初のメダルです。
どんなにつらい事を言われたり突きつけられてもそれを軽々超えていけるぐらいの自分の精神力とかっていうのはあると思うので。
本当に折れそうになって駄目だって思ってもその先に私の求めているものが絶対あるからって。
それが私を支えているものですかね一番。
酒井裕唯選手26歳。
今よりも速くそして強くなれる。
そう信じて戦い続けます。
2014/02/06(木) 01:30〜02:15
NHK総合1・神戸
アスリートの魂「もっと速くもっと強く スケート・ショートトラック 酒井裕唯」[字]
ソチ五輪のスケート・ショートラックで日本女子初のメダル獲得を目指す酒井裕唯選手。ライバルの韓国やイギリス勢に勝つために、さらなる進化に挑む酒井選手の日々に密着。
詳細情報
番組内容
五輪で日本がまだメダルを獲得したことがない女子スピードスケート・ショートトラック。その歴史を変えると期待されるのが“長野の弾丸娘”酒井裕唯選手だ。W杯で日本人初の年間優勝を果たし大きな注目を集めた。強さの秘密は強じんな足腰。序盤で好位置につけるとコーナーを遠心力で膨らむことなく滑り、逃げ切ってしまう。後半追いまくり型へさらなる進化を目指す酒井選手。“歴史”に挑む姿を見つめる。語り:山本耕史
出演者
【語り】山本耕史
ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – スポーツ
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