NHKスペシャル 金メダルへの挑戦▽世界最高得点をめざせ〜日本フィギュア男子 2014.02.06

4年前仙台のスケートリンクに通う少年がいた。
繰り返し挑んでいたのは最高難度の4回転ジャンプ。
15歳の時の姿だ。
そして今。
19歳になった羽生は4回転を武器に初めてのオリンピックに臨む。
4回転ジャンプの滞空時間は僅か0.7秒。
フィギュアスケートの中で最も得点が高い大技だ。
(実況)4回転。
今世界は4回転時代に突入。
優勝ラインは一気に跳ね上がった。
前回のバンクーバーオリンピック。
(実況)257.67!金メダリストの得点は250点台。
それが4回転によって…。
280点を超すハイレベルの争いになった。
4回転ジャンプを跳ばなければ金メダルは取れない。
羽生は4回転の中でも更に難しい特別なジャンプに取り組んでいた。
(羽生)最大の武器というか武器になってるものだと思うのでそこは絶対外したくないなって思ってます。
バンクーバーの銅メダリスト…
(うめき声)足の痛みと闘いながら最後のオリンピックに懸けている。
最高の舞台で4回転を決めたい。
自分の限界に挑んでいた。
(橋)まだまだ俺もできるんだぞみたいなところをジャッジの人であったりお客さんだったり見ている人たちに絶対見せてやる。
「シリーズ金メダルへの挑戦」。
3回目は史上最強のメンバーがそろったフィギュアスケート男子。
世界最高得点を目指す戦いに密着した。
ソチオリンピックの代表選考会。
右手から血を流す橋大輔。
原因は最初に跳んだジャンプの失敗だった。
(実況)4回転のトーループ。
4回転で転倒し手を着いた瞬間氷で切ったのだ。
右足のけがを押してこの大会に出場した橋。
とても4回転を跳べる状態ではなかった。
それでも挑戦したのは4回転を跳ばなければオリンピックの頂点に立てなくなったからだ。
4年前のバンクーバーオリンピック。
4回転時代のきっかけとなるある出来事が起きた。
前の大会で金メダルを取った…オリンピック2連覇に挑んでいた。
(実況)4回転トーループトリプルトーループ決めた!2回の4回転ジャンプを完璧に成功させる。
しかし金メダルを取ったのは…4回転を一回も跳ばなかった。
(歓声)銀メダルに終わったプルシェンコ。
表彰台に上る時ある行動に出た。
(歓声)4回転を跳ばない相手に負けた事に納得がいかなかった。
この直後ルール改正が行われた。
ジャンプの得点が大きく見直されたのだ。
4回転と3回転の主なジャンプを比較してみる。
4回転は軒並み基礎点が上がったのに対し3回転は逆に下がっているものもある。
4回転は一回のジャンプで10点を超え大きく差をつけられるため跳ぶ価値が更に増した。
世界のトップ選手はこぞって4回転を跳び始める。
(実況)4回転のトーループ決まりました。
回転不足の時の減点も大幅に緩和。
4回転時代を大きく後押しした。
バンクーバー橋の演技。
(実況)世界一のステップ。
4回転は跳べなかったが持ち前の表現力でカバー。
銅メダルを取った。
しかし今度は4回転を成功させ得点を大きく上積みしなければメダルは取れない。
勝たなくていいんだったら決めたくないです。
勝ちたいからやるしかないしって感じですかね。
勝たなくていいんだったら別にやる必要ないからやらないですけど自分で勝ちたいから入れる。
ルール改正をきっかけに一躍世界のトップに躍り出た選手がいる。
カナダの…3年前の世界選手権。
合わせて3つの4回転ジャンプを成功させる。
合計の得点は280.98。
当時の世界最高を大幅に更新した。
この時のチャンの得点は…合計で280点を超えた。
フィギュアスケートの得点はジャンプなどの技術点と主に表現力を評価する演技構成点で決まる。
280点のうち演技構成点が133。
技術点はそれより多い147。
そのうち100点以上をジャンプで上げた。
ルール改正が得点にどれだけ影響したのか。
バンクーバーで4回転を跳ばなかったライサチェックと比較してみる。
表現力スピンステップがきっ抗する中で最も差が出たのがジャンプ。
合計点の差23点のうち17点余りをジャンプが占める。
そのほとんどが4回転によるものだ。
チャンの跳んだ3つの4回転ジャンプの合計は…一方ライサチェックの得点が高い3つのジャンプの合計は…4回転を跳ぶ事に大きなメリットがある事が分かる。
私にとって4回転は跳べて当たり前のジャンプです。
ライバルは気になりません。
自分との闘いに勝てれば金メダルは必ず取れます。
日本のエース橋大輔。
表現力ではチャンに負けない自信があった。
あとはジャンプでどう上回るか。
今シーズンの橋とチャンのフリーのジャンプ構成。
冒頭は2回の4回転を跳ぶ同じ構成になっている。
しかし4回転の次に得点が高い3回転半は橋の方が1回多い。
このため合計で僅かにチャンを上回る計算だ。
僕のいわれてる表現力だったりとかいうのは差をつけるのがすごく難しいじゃないですか。
その人それぞれ好き嫌いがあるし。
そこの差をつけたいっていうよりかはそこのテクニカルの差を埋めたいって感じですね。
埋めたいっていうか埋めなきゃ駄目だから。
橋の今シーズンの初戦。
ソチに向けた戦いが始まった。
(場内アナウンス)「ダイスケタカハシ」。
(拍手と歓声)しかし…。
4回転ジャンプは一回も決まらなかった。
得点は230点台。
4回転の失敗が大きく響いた。
自信を失った橋。
かつての自分を取り戻そうともがいていた。
6年前の橋。
このころは4回転ジャンプに自信を持って臨んでいた。
(拍手と歓声)当時は珍しかったフリーで2回の4回転に成功。
この時点での世界最高得点264.41をマークした。
ところがその8か月後思わぬ試練が橋を襲う。
(うめき声)ジャンプの練習中に大けがを負ったのだ。
右膝のじん帯断裂だった。
ほかの選手が次々と4回転を跳び始める中で以前のように跳べないもどかしさ。
どうしたら思うようなジャンプが跳べるのか。
自分自身と闘っていた。
けがするまではあんまり何も結構考えずにただ気持ちでやってたというかやったらできるみたいなところがあったんですけどけがをしてからいろいろ体に関して気を遣うようになったりとか頭も使いながらやるようになって本来なら自然に体が動いてたものを頭で考え過ぎちゃったりとか。
自分のジャンプの映像を繰り返し見る橋。
5年前から指導に当たる本田武史コーチがある課題に気付いた。
本田コーチが指摘したのは4回転ジャンプを踏み切った直後の肩の動き。
左肩が外に開いているという指摘だった。
けがのあと橋は以前のように高く跳べなくなっていた。
速く回ろうと焦るあまり左肩が開く癖がついていたのだ。
このため上半身と下半身の回転がバラバラになり回転不足や着氷の乱れを生んでいた。
本田コーチがアドバイスしたのは腕の使い方だ。
腕を強く締める事で左肩が開くのを抑えられる。
これによって体の軸がブレなくなり素早い回転が可能になる。
フォームの僅かな修正で跳べるようになるというアドバイスだった。
しかし腕を強く締め過ぎると体が縮こまりジャンプは跳びにくくなる。
一日40本。
これまでの倍の練習を自らに課した。
(本田)右に残したまま…はい!そう。
新しいジャンプの感覚を少しずつつかもうとしていた。
バンクーバーオリンピックの前から橋と苦楽を共にしてきたコーチとスタッフ。
今度こそ4回転を跳んでオリンピックの頂点に立つのが全員の願いだ。
まずは焦らないという事ですよね。
フォームの修正を続けてきた橋。
その成果を求めて臨んだのがNHK杯だった。
(場内アナウンス)「ダイスケタカハシ」。
自分の気持ちに逃げないように攻めるぞっていう気持ちだけそこだけを考えて。
前半のショートプログラム。
最初の4回転。
(実況)4回転のトーループ決まりました。
今シーズン初めて試合で成功。
腕を締める事でブレの少ない軸が出来ていた。
踏み切りから0.5秒後。
前回失敗した時は体はまだ横を向いているが今回は正面を向いている。
より速く回れている事が分かる。
持ち前の表現力もさえ渡った。
見せ場のステップ。

(拍手)
(拍手と歓声)4回転の成功が会心の演技につながった。
(場内アナウンス)「95.55」。
ショートプログラムでこの時点で世界歴代2位の高得点をたたき出した。
そしてフリーでも。
(歓声)2回の4回転のうち1回は成功。
合計で前回より30点以上高い268.31で優勝した。
ようやくソチで戦う自信が戻ってきた。
評価をしてもらえたって事はすごくよかったと思いますしそこは自信に。
ちゃんとやればこういうふうに認めてくれるっていう事。
まあでもまだまだ僕これ100%ではないと思ってるので。
会心の演技はできたと思うんですけど100%ではないと思ってるんで。
まだいけるんじゃないかそういう希望も見えますしそういった意味ですごくよかったなと思います。
チャンの世界最高得点を追う日本勢。
その筆頭が若きエース羽生結弦だ。
最大の武器は細身の体から繰り出す美しいジャンプ。
シーズン初戦のこの試合。
3つの4回転ジャンプを全て決めた。
(拍手と歓声)完全にジャンプの事にすごい集中してたんで。
まず初戦で転ばないで終わったのはよかったんじゃないかなと思ってます。
羽生は2年前からカナダのトロントに拠点を置いている。
4回転ジャンプに磨きをかけるためだった。
コーチはジャンプの指導に定評がある…あのキム・ヨナを育てた名コーチだ。
羽生は子どもの頃から4回転ジャンプに強い憧れを抱いてきた。
世界のトップで活躍していたある選手のジャンプを見たのがきっかけだった。
4回転時代の先駆者ロシアのプルシェンコだ。
2002年のソルトレークシティーから3大会連続でオリンピックに出場。
その全てで4回転を決め金メダルを含む3つのメダルを獲得している。
撮るの?10歳になったばかりの羽生。
プルシェンコの髪形をまねていた。
このころ既に2回転半のダブルアクセルをマスターし将来を期待される存在だった。
4回転に取り組み始めたのは高校1年の時。
一日60本。
足への負担が大きい4回転としては驚異的な練習量だ。
「絶対に跳んでやる」。
負けん気は人一倍強かった。
やった。
そして今4回転を自分のものにした羽生。
オリンピックでは更に高度な4回転ジャンプに挑もうとしていた。
世界王者のチャンも跳んでいない難しいジャンプ。
一般的な4回転トーループは左足の爪先トーで氷を蹴りその反発力で跳び上がる。
一方サルコーは右足を振り上げた勢いを利用して跳ぶ。
氷を蹴り上げる力を使えない上タイミングがつかみにくくトーループほど高く跳ぶのは難しい。
このため4回回りきらないうちに着氷してしまい回転不足になりやすい。
確率を上げようと必死だった。
自分にとって4回転サルコーはホントに挑戦であってトーループから比べてみたらホントに比べ物にならないぐらい確率が低いものだと思っているんですけれどもそれでも自分にとってそれが自分の今のやれる最大の武器というかホントに武器になってるものだと思うのでそこは絶対外したくないなと思ってます。
あえて難しいジャンプに挑戦したのは4回転サルコーを跳ばなければチャンには勝てないと考えたからだ。
今シーズンが始まった時の2人の自己ベストだ。
技術表現力ともにチャンが上回り合計で15点以上水をあけられていた。
しかしサルコーを成功できれば技術点の上積みだけで逆転できると考えていた。
世界最高を出したチャンのフリーのジャンプ構成。
まず最初に体力を使う4回転を続けて跳ぶ。
チャンが跳ぶのはいずれもトーループ。
ルール上同じ4回転を単独で繰り返す事はできないためこのうち一つを3回転との連続ジャンプにしている。
一方羽生も冒頭に4回転を2つ跳ぶのは同じだがその種類が異なるためそれぞれ単独で跳ぶ事ができる。
フリーの演技で跳ぶ事ができるジャンプは8回。
そのうち得点の高い連続ジャンプは3回までと決まっている。
羽生は4回転を2回跳んだ上に3回の連続ジャンプを跳ぶ事ができる。
更にその全てをスタミナが切れる演技後半に組み込んだ。
ここで成功すれば得点は1.1倍になるからだ。
8回のジャンプの得点を合わせると基礎点だけでも6点以上羽生が上回る。
これにジャンプの出来栄えによって更に点数が加算される。
羽生が全てのジャンプを完璧に決めればチャンを20点以上上回る。
合計点で逆転できるという計算だ。
結弦のために最高のシナリオを書きました。
結弦ならジャッジが出来栄え点を最大限つけたくなるようなジャンプを跳び技術点を大幅に上積みできるはずです。
羽生はチャンと直接対決する事になった。
舞台はグランプリシリーズフランス大会。
(実況)まずは大きな鍵を握る4回転サルコーから。
フリー冒頭の4回転サルコー。
(実況)あっシングルサルコーですね。
エッジを氷に引っ掛けてしまう。
1回転しかできず得点はまさかの0.17。
動揺した羽生は続く4回転トーループで転倒。
合計260点台にとどまった。
一方のチャン。
羽生の目の前で圧巻の演技を見せる。
(解説)4回転トーループ。
(実況)見事!4回転をはじめ全てのジャンプを完璧に決めたたき出したその得点は…。
(実況)トータルは295.27!自らの記録を15点近く引き上げた。
(実況)見事に優勝を果たしました!越えようと思っていた壁は更に高くなってしまった。
4回転ジャンプの成功率を上げたい。
羽生はそのヒントを求めて書きためてきた練習ノートを見返していた。
まあパンクってやつですけど。
ああこんな事言われたなあんな事言われたなって書いていくうちにいろいろ覚えていくんですよね。
世界王者チャンに勝つための鍵4回転サルコー。
オーサーコーチが指摘したのは回転する時の体の軸の問題だった。
羽生が見直したのは腕の使い方。
右足を振り上げると同時に右腕を締め素早く回転する。
感覚を身につけるため練習を繰り返した。
練習の合間にいつも見ているものがある。
どうしても海外に来るとつらくなる事もたくさんあるし練習したくないなって思う事も結構あるんですけどちゃんと思い出させるきっかけみたいなものとして今こうやってますね。
羽生は再びチャンとの直接対決に臨んだ。
こんばんは。
よろしくお願いします。
チャンはいくつかのミスはあったものの4回転は全て成功させ280.08の高得点を出した。
羽生のフリー。
チャンを上回るには180点を超す高得点が必要だった。
冒頭の4回転サルコー。
(実況)今シーズンはまだ決めていません。
転倒。
しかし4回回りきったと認められ7.5点を獲得する。
続く4回転トーループ。
(実況)決めました。
得点の高くなる後半の連続ジャンプ。
(解説)トリプルアクセルトリプルトーループ。
(実況)大事な得点源見事に決めていきました。
全て完璧に決めた。
(解説)トリプルサルコー。
(実況)予定どおりのジャンプです。
(実況)出し尽くしました。
やりきりました。
(場内アナウンス)「193.41」。
(実況)出ました!チャンの世界最高得点にあと2点と迫る293.25。
(実況)羽生結弦!
(拍手と歓声)チャンを破ってつかんだ優勝だった。
頑張りました。
とりあえずホントに頑張りました。
一生懸命スケート楽しみました。
それだけでもう十分です僕は。
ありがとうございます。
(取材者)あの次に向けて…。
次に向けてはもうホントに強くなるしかないなっていうふうに思ってます。
まだサルコーは降りてないですしまだまだ弱い部分がいっぱいあるんでしっかり強くなります。
・「ハッピーバースデートゥユー」・「ハッピーバースデートゥユー」優勝の翌日羽生は19歳の誕生日を迎えた。
・「ハッピーバースデートゥユー」
(拍手と歓声)
(拍手と歓声)一生懸命19歳の羽生結弦としてまた一生懸命頑張ります。
ありがとうございました。
(拍手)間もなく開幕するソチオリンピック。
世界最高得点を持つパトリック・チャン。
その自信は揺らいでいない。
最高得点を更新すればほかの選手がそれに追いつこうとしてくるのは当然だと思います。
ソチでは何点かって?300点取れれば堂々とオリンピックのチャンピオンと言えるでしょう。
15歳の時から4回転に挑んできた羽生結弦。
本番で4回転サルコーを決めるため最後の調整を続けている。
自分のできる全ての力をどんどん上げていって最終的にオリンピックでそれが一番高いところに行ければそれでいいかなって思います。
NHK杯のあと再びけがに見舞われた橋大輔。
順調に回復しジャンプの練習を再開していた。
日本を旅立つ前に開かれた壮行会。
ソチオリンピックをスケート人生の集大成と考えている。
決める練習をしていくしかないから。
完璧な演技。
みんながスタンディングオベーションしてる自分を称賛してくれてるそのイメージを持っていくしかない。
日本男子初の金メダルへ。
最強メンバーで世界最高得点に挑む。
2014/02/06(木) 00:40〜01:30
NHK総合1・神戸
NHKスペシャル 金メダルへの挑戦▽世界最高得点をめざせ〜日本フィギュア男子[字][再]