僕たちが通うアメリカマサチューセッツ工科大学。
通称MIT。
世界最高峰の理系の大学として知られこれまでデジタル暗号や遺伝子工学など新しいテクノロジーを次々に世に送り出してきました。
科学を学ぶ最先端の環境に身を置き僕たちは日夜世界を変えるイノベーションに挑んでいます。
このMITで46年にわたって物理学の基礎を教えるのが…この講義を受け世界の見方が変わったと学生たちは言います。
この世界を支配する物理の美しさを知るのです。
難しい法則や公式もルーウィン教授の手にかかれば奇想天外抱腹絶倒のエンターテインメントに生まれ変わります。
ルーウィン教授は今回番組のために全8回の特別講義を新たに用意しました。
MITの学生だけでなく地元の市民にも開放し初心者にも分かりやすく物理学の魅力を伝えます。
この講義で物理を学べば世界がこれまでと全く違って見えてくるはずだ。
それは人生をより豊かなものにしてくれるだろう。
これまでは疑問にも思わなかった事を君たちは物理学の問題として考えるようになる。
今回は超難解な量子力学に挑みます。
目に見えないミクロの世界が舞台です。
物理学の常識を覆した…それはものは……という奇妙な考えです。
ミクロの世界では…どちらかが常に不確かになってしまいます。
しかも測定する度に結果が異なり予測ができません。
この考えをアインシュタインは……という有名な言葉で否定しました。
超難解ですが驚くような実験で丁寧に解き明かします。
是非繰り返しご覧下さい。
世界が違って見えますよ。
(拍手)19世紀以前の物理学の事を「古典物理学」と呼ぶ事がある。
代表的なものに17世紀のニュートン力学や19世紀にマクスウェルが4つの方程式に集約した電磁気学がある。
ところが20世紀の初めに原子の構造が明らかになると古典物理学は原子レベルのミクロの世界では通用しない事が分かってきた。
ミクロの世界とはどれくらいのスケールの話なのか。
まず説明しよう。
原子の典型的な大きさは…それは原子を2億5,000万個集めて真珠のネックレスのようにつなげてもたった2.5センチメートルにしかならないという事だ。
1911年にイギリスの物理学者ラザフォードは原子の質量のほとんどが原子の中心にありそれは非常に小さい事を突き止めた。
中心にあるのが「原子核」でこれはプラスの電気を帯びている。
周囲を回る電子はマイナスに帯電している。
原子核は原子の10万分の1の大きさだ。
それはどれくらいの大きさかというと例えばこの教室が原子だとすると原子核はたった1粒の砂にすぎない。
10万分の1とは大体そういう大きさだ。
古典的な電気と磁気の法則だけで考えればマイナスに帯電した電子はプラスに帯電した原子核に引き寄せられあっという間にくっつくはずだ。
しかし実際にはそんな事は起こらない。
もし電子が原子核とくっついてしまったら原子は安定して存在しなくなる。
1913年にデンマークの物理学者ニールス・ボーアがこの問題をこう考えた。
電子が原子核にくっつかないのは電子が特定の軌道しかとれず特定のエネルギーしか持てないからだと。
電子は決まった軌道から別の決まった軌道に移動できるがそれ以外の中途半端な軌道には存在できないという事だ。
だから電子が原子核に取り込まれる事はない。
なぜならそれでは電子がエネルギーを少しずつ失ってしまう事になるからだ。
このように物理量を連続ではなくとびとびの値で扱うのは「量子化」の考えだ。
中間はない。
ボーアのこの考えは常識を覆すものだ。
この考えは言いかえるならばテニスボールを床に落として弾ませても好き勝手な高さにはね返らせる事はできないという事だ。
テニスボールが到達する高さは量子化されとびとびの位置に決まってしまうという事だ。
しかしこれはおかしい。
テニスボールは力を加えた分だけ高くはね返る事を私たちは知っている。
だからにわかには受け入れがたい。
しかし量子力学なんてでたらめだと一蹴する前に理解しておかなくてはいけない事がある。
それはテニスボールの大きさでの量子化したとびとびの値の差というものは測定できないくらい小さいという事だ。
だから量子力学はテニスボールの大きさではまるで意味をなさない。
それは…一番低い軌道でのエネルギーをEとしよう。
その1つ上はEだ。
物体を熱すればその中の電子は階段を上がるようにEからEへ移動する。
あるいはEからEに行く。
決められた段差を上がっていく。
より高い軌道より高いエネルギー準位に移動した電子はしばらくはそこにとどまる。
しかしやがては元の軌道つまり以前のエネルギー準位に戻る。
このような落ち込みのパターンは何通りもあるがそれはあとで見せるとしよう。
カバンを使って説明しよう。
この中にはノートパソコンが入っている。
それをここに置く。
この時私は物理学で言う「仕事」をしている。
私が与えたエネルギーは重力による位置エネルギーで表す事ができる。
初回の講義で学んだのを覚えているだろうか?与えたエネルギー量は…「M」はカバンの質量。
「g」はおなじみ9.8だ。
「h」は床から机までの高さだ。
私が筋肉を使って与えたエネルギーは失われる事はない。
こうすれば…運動エネルギーに変換される。
そして運動エネルギーは床でゼロになる。
もし私のパソコンが中で壊れていたらエネルギーはその破壊に使われた事になる。
衝突で熱や音も生じた。
だからエネルギーは姿を変えただけだ。
これと似たように電子があるエネルギー状態の軌道からより高いエネルギー状態の軌道に移動した時もエネルギーは蓄えられる。
そして電子が元のエネルギー状態に戻る時にはそのエネルギーは放出される。
それはさっきのカバンのように運動エネルギーの形ではなく主に電磁波となって出される。
電磁波とはX線や紫外線可視光線や赤外線や電波の事だ。
この時も電子を高い軌道に移動させるのに必要としたエネルギーの量は電子が元の軌道に戻る時に放出するエネルギーの量と等しい。
それが「エネルギー保存の法則」だ。
では光のエネルギーの話をしよう。
光は色ごとに決まったエネルギーを持つ事を明らかにしたのはアインシュタインだ。
彼はエネルギーを持った光の粒子を「光子」または「光量子」と呼んだ。
さて光は電磁波の一種だ。
波であるから従って振動数がある。
以前学んだ「音」と同じだ。
そして波であれば波長がある。
波長は普通「λ」で表す。
波長とは前回の音の講義を思い出してほしいが振動を与えた時の波の形がこうでここからここまでの間隔が波長λだ。
緑色の光の波長λはおよそ500nmだ。
1ナノメートルは10のマイナス9乗つまり10億分の1メートルだ。
赤い光の場合は振動数は低くなり波長は長くなる。
アインシュタインは光子のエネルギーEはh掛けるfに等しい事を証明した。
今日の講義で注目すべきはこの「h」だ。
これはさっきの「h」とは別のものだ。
さっきの「h」は机の高さの事だった。
この「h」は「プランク定数」と呼び全ての量子力学の計算の要となっている。
発見したのは…そうプランクさんだ。
このhの値は…今日はこのプランク定数を何度も見る事になるが我慢してほしい。
これでもう光のエネルギーがh掛けるfである事が分かったので緑の光について計算してみよう。
hを入れてこの振動数を掛ければよい。
すると緑の光のエネルギーは…しかしこんな答え方をする物理学者はいない。
もちろんこれは正しい。
しかし3.6掛ける10のマイナス19乗とはどれくらいの大きさだろう。
私にだって想像できない。
従って物理学者たちは別の単位を使う事にした。
そうする事で少しでも考えやすくするためだ。
そのエネルギーの単位は「電子ボルト」というものだ。
そしてこの緑の光のエネルギーはおよそ2電子ボルトになる。
もし君が電子ボルトという単位になじめず10のマイナス19乗というのも面倒だというなら単に緑の光のエネルギーはとてもとてもとても小さいと覚えておくといい。
それで十分だ。
(笑い)さて電子が高いエネルギー準位の軌道から低いエネルギー準位に移動する時にその電子が放出する光の色を調べ波長を調べればそれらの軌道のエネルギーを求める事ができる。
電子のエネルギーのグラフをここにかこう。
こことこここことここにエネルギー準位をかく。
この一番下は原子の中で電子がとる事のできる最も低いエネルギー状態の軌道…そして次の段階がこれ。
中間はありえない。
ここかそこしか駄目だ。
あるいは電子はこのエネルギー準位かもしれない。
それともこのエネルギー準位にいるかもしれない。
縦軸はエネルギー。
単位は電子ボルトだ。
ではここに電子をかき込もう。
エネルギー準位の軌道上には何もないとしよう。
一番上に電子が1つあるだけだ。
そしてこの電子はこれから基底状態へと移動する。
それにはいくつかの移動のしかたがある。
例えば一つの方法はこうだ。
電子が1回の移動で一番下まで飛び移る。
この時にはとても大きなエネルギーを放出する。
なぜならエネルギーの差がとても大きいからだ。
その場合紫外線が出されるかもしれない。
あるいはこのように移動するかもしれない。
ここからまずここへ飛び紫の光を放出する。
テレビを見ている人にも分かりやすいように紫でかいてあげよう。
まずこのエネルギー準位に移る。
そして最終的には基底状態にまで行く。
この時はエネルギーがあまりに小さいため赤外線になるかもしれない。
つまりこの電子は紫の光と赤外線の2つの光子を出す事になる。
しかしもちろん他の移動も可能だ。
例えばこうだ。
ここからここに移動して今度は青い光を出す。
電子はそこからは直接基底状態に移動するかもしれない。
こういう事だ。
その場合は緑色の光が出る。
つまり青と緑の光が放出される。
しかし他の移動だってできる。
電子はまたここからここに行く事もできる。
これは赤だ。
だからこの場合電子が放出するのは青い光と赤い光と目に見えない赤外線だ。
このように高いエネルギー準位から低いエネルギー準位へ電子が移動する場合いくつもの方法がある。
だから例えばネオンやヘリウムや水素を熱したとしよう。
するとこのような色の光が放出される。
しかし青だけ紫だけ赤だけ緑だけ赤外線だけという具合だ。
中間は存在しない。
量子化されたエネルギーはとびとびなのだ。
さてみんなにはプラスチック製の回折格子を配ってある。
回折格子は光を色に分解して見せる効果がある。
このあと回折格子を使ってネオン管とヘリウム管の光を見てもらう。
すると今説明した色ごとの光が線になって見えるはずだ。
電子から出たエネルギーが特定の色となって見える。
では最初にヘリウムを見せよう。
これだ。
では教室を暗くしてくれ。
ヘリウムは電子を2つ持つ。
どうだろうか。
片側に青の光がありもう片側に赤い光が見えるだろうか。
では次は…ネオンだ。
ネオンの場合は電子を10個持っている。
するとヘリウムと比べて随分たくさんのエネルギー準位があるはずだから多くの光の線が見える。
ほら見えるだろうか。
ネオンからの光は実にたくさんの光の線となって見える。
電子の数が多いほど多くの色の光が発せられ目には見えないミクロの世界を回折格子を使ってのぞく事ができました。
ではそもそも光とは何なのか?次は光の正体に迫ります。
量子力学以前17世紀にニュートンとオランダ人物理学者ホイヘンスの間に論争があった。
2人の戦いの決着は1801年にヤングによってもたらされた。
勝利者は「光は波だ」と主張したホイヘンスだ。
だから19世紀初め「光は波である」という考えが主流になった。
ところが時がたつにつれて再び論争が起きた。
光が粒子のように振る舞う事を示す実験も行われた。
そして量子力学の大きな勝利は……と見いだした事だった。
光は時には波のように振る舞い時には粒子のように振る舞うものだと結論づけられた。
「光は粒か?波か?」。
この疑問に画期的な実験で挑んだのがヤングでした。
彼はついたてに細い隙間を2本空け光をスクリーンに映す実験をしました。
光が隙間を通ってスクリーンに達すると明暗のしま模様が映し出されました。
これこそ光が波である証拠でした。
光が重なり合う事で強め合ったり弱め合ったりする現象が現れたのです。
これは波に特有の現象で粒には決して見られない事です。
こうして光は波である事が物理学の常識となったのです。
ところが20世紀アインシュタインが光の正体を別の現象から解き明かします。
アインシュタインは金属の表面に光を当てると電子が飛び出す「光電効果」に注目しました。
光の振動数と電子が飛び出す勢いの関係から光がエネルギーの塊のように振る舞う事を明らかにしました。
こうして……というその二重性が明らかになってきたのです。
1923年ルイ・ド・ブロイは「全ての粒子は波の性質をあわせ持つ」という大胆な仮説を立てた。
その際質量が小さいほど粒子の速さが遅いほど波長は長くなると言った。
その説明の前にまずは「運動量」の概念を紹介しなければならない。
またルイ・ド・ブロイは粒子の波長λはhをpで割ったものに等しいと考えた。
「h」とはこれはプランク定数の事だ。
だから非常に高い運動量を持った粒子を見ると波長はとても小さい。
このように彼は全ての粒子は波のようにも振る舞うと主張したのだ。
さてド・ブロイは正しいのだろうか?例えば野球のボールの質量が0.5キログラムあると仮定して考えてみよう。
仮にMは0.5だとする。
このボールを例えば時速160キロに近い速さで投げたとしよう。
それは換算すると秒速44メートルだ。
だからνは44メートル毎秒だ。
そこでド・ブロイに波長を尋ねてみよう。
すると答えはこうだ。
それは陽子の大きさよりも20桁分小さい値だ。
20桁分もだ。
つまり陽子と比べてもゼロが20個分小さい。
こんな数字に意味はない。
繰り返すが量子力学はテニスや野球のボールのような私たちの日常的なスケールではおよそ関係ない話だ。
ところがミクロの世界ではどうだろうか。
例えば電子の質量は10のマイナス30乗キログラムだ。
この電子に秒速1,000メートルつまり時速3,600キロメートルの速さを与えたとする。
νはおよそ1,000メートル毎秒だ。
この時またド・ブロイさんに「波長はどれくらいですか?」と聞いてみよう。
君たちもプランク定数を使って計算する事ができる。
λはおよそ660ナノメートルだ。
これなら意味のある答えだ。
緑の光の波長が500ナノメートルなので660ナノメートルは十分に意味がある。
だからド・ブロイの理論は電子の世界では役に立つといえる。
1926年こうした議論に決着をつけたのがオーストリアの物理学者シュレーディンガーが提唱した有名な「シュレーディンガー方程式」だ。
これは量子力学を支える基礎となるものでその式で彼は波と粒子の二重性をまとめたのだ。
実に全ての電磁波つまり電波X線紫外線赤外線可視光線は粒子のようにも振る舞いそして全ての粒子光子や中性子電子は波のようにも振る舞うという事だ。
量子力学の基本は物体は波と粒の両方の性質を持つ事。
そしてもうひとつの大原則が…日常世界では運動するものの位置と運動量を同時に正確に求める事ができます。
ところがミクロの世界では例えば電子の位置を正確に求めると運動量は正確に知る事ができなくなってしまいます。
逆に電子の運動量を特定すると位置が不確かになってしまいます。
その理由を示す式は複雑で初めての人にはちょっとお手上げの難しさです。
でもルーウィン先生が分かりやすい実験で証明してくれるので講義の最後までお楽しみに!古典的なニュートン力学では粒子の位置をとても正確に特定する事ができた。
同時にその運動量もとても正確に特定する事ができた。
ニュートン力学にとってそれは何ら問題ではなかった。
しかしドイツの物理学者ヴェルナー・ハイゼンベルクは1927年に量子力学の帰結としてそれは不可能である事に気付いた。
全く奇妙な話だがハイゼンベルクは「物体の位置と運動量を同時に正確に測定する事は不可能である」と結論づけた。
これが「ハイゼンベルクの不確定性原理」と呼ばれるもので彼はこれによりノーベル賞を受賞した。
ハイゼンベルクの不確定性原理は古典的な考え方に徹底的に反する。
それは誰にとっても理解するのが難しい。
私にとってもだ。
なぜ位置と運動量を同時に決める事ができないのか?しかし今日に至るまで全ての実験はハイゼンベルクの不確定性原理に従っている。
ではこれからハイゼンベルクの不確定性原理の方程式を黒板に書くとしよう。
君たちがおびえるのも無理はない。
しかし今日の講義のおしまいにはこの方程式の内容を示す実験も見せるつもりだ。
だから最後まで諦めないでほしい。
ではハイゼンベルクの不確定性原理の登場だ。
ああまだテレビを消しちゃ駄目だ!最初さえ乗り切れば徐々にのみ込めるようになってくるはずだ。
hはプランク定数なので…これはどういう意味だろうか。
まず「Δ」について話そう。
これは数学や物理学でとてもよく使う。
私たちは3次元の世界に住んでいる。
どこかの角を見れば立体の三次元の世界である事が分かる。
これはχこれはyこれはzとしよう。
さてこのχ軸のどこかにある粒子が存在しているとしよう。
しかし正確にどこにあるかは分からない。
これがχ軸だ。
この線上のどこかだ。
χより大きくχよりは小さい値だ。
これを「Δχ」と呼ぶ。
Δχは粒子がどこにあるか正確には分からない事を示している。
つまり位置χについての不確かさがある。
それが不確定性原理の名前の由来でもある。
Δpは運動量についての不確かさを示している。
Δχがとても小さい場合つまり粒子の位置がとても狭い範囲に限定される場合運動量pが取りうる値の範囲はとても大きなものになる。
しかしもしΔχがとても大きい場合運動量pの不確かさは非常に小さい。
するとpを割と正確に知る事ができる。
しかしハイゼンベルクによればΔpの値を小さくすると同時にΔχの値も小さくする事はできない。
それは不可能だ。
それはハイゼンベルクの不確定性原理に反する事になる。
このとっつきにくい複雑な式も右辺は一定の値なので左辺だけに注目してみるとだいぶ分かりやすくなります。
運動量Δpと位置Δχは掛け算になっているため片方が大きくなればもう片方は小さくなるという関係です。
だから同時に小さくなる事はできないと考えればよいわけです。
更に先に進む前になぜ式の中にχがあるのかなぜΔχがそこにあるのか説明しなければならない。
運動量は通常ベクトルで表す。
速度で考えると分かりやすい。
君が車を運転しているとしよう。
こちらをy方向と呼びこれをχ方向と呼ぼう。
君は車を一定の速度で走らせている。
そして速度の向きはχ方向でもy方向でもない。
こちらの向きだ。
この矢印の長さは速さを表している。
そして矢印の向きが運動の向きだ。
これがベクトルだ。
ベクトルを決めるには2つの事を知らなければならない。
大きさと向きだ。
そして運動量pは質量Mと速度νを掛けたものだ。
νをとってχに投影させる。
ここの角度は90度だ。
するとこのベクトルはνと呼ばれる。
これは速度νのχ成分だ。
私がここにνを投影するとこのベクトルはνでこのベクトルのy成分となる。
だからこの図では運動量のベクトルをχ方向にかく事ができる。
一般的な運動量にする必要がない。
しかし例えばこれはpとなる。
するとpはM掛けるνのχ成分と書く事ができる。
ここにχがあるのはそういう事だ。
ここのχをyにかえてもかまわない。
これをyにかえる事もできる。
すると不確定性原理はy方向でも成立する。
もちろんzにかえる事もできる。
これをzにかえる事もできる。
すると不確定性原理はz方向でも成立する。
原則として不確定性原理を3つの独立した方程式で書き表す事ができるという事だ。
「不思議の国のトムキンス」というすばらしい本を紹介しよう。
主人公トムキンスの夢に教授が現れ不確定性原理について教える場面がある。
その中で教授はトムキンスに「まずはhを4πで割ったら1になると仮定してみよう」と言った。
そして教授はビリヤードのボールを1つ取り出した。
そのビリヤードボールの質量は1キログラムだ。
そして彼はボールを三角形の木のラックの中に入れた。
さてこれでビリヤードのボールは位置が制約された事になる。
ボールはχ方向に制約されy方向にも制約された。
ここでの長さこれをΔχと呼ぶがこれは大体0.3メートル。
つまり30センチメートルだ。
そして教授はこう言う。
「これで運動量Δpの値を不確定性原理で計算する事ができる。
それはとても簡単だ」。
Δpを考える時χ方向とy方向はほぼ同じだ。
だからΔpだけ使いχとyは無視できる。
Δpは1だと最初に仮定してある。
だから1を0.3メートルで割るだけだ。
するとΔpはおよそ3だ。
単位はとても見慣れないものだが「キログラムメートル毎秒」だ。
質量Mが1キログラムなのでΔpはM掛けるΔνになる。
それは運動量の定義から導かれる。
そしてMが1キログラムなのでΔνは大体3メートル毎秒になる。
これはそのビリヤードボールがほぼ3メートル毎秒のとても不確実な速さで動かなければならないという事だ。
時速で言えば時速10キロメートルだ。
だから教授が三角形のラックにボールを入れた途端ボールはただのボールではなくなった。
それはあらゆる方向に勝手に動き出したのだった。
それがハイゼンベルクの不確定性原理の結果だ。
ビリヤードボールの位置が制約された結果だ。
そうなると運動量pの値が不確かにならざるをえない。
そして物体が勝手に動き始める。
本の挿絵に使われたビリヤードボールの場面を見せよう。
教授というのは皆ひげを生やしているものらしい。
トムキンスはいつもパジャマ姿だ。
夢の中の話だからだ。
そしてハイゼンベルクの不確定性原理のためにここでビリヤードボールが激しく動き回っているのが見える。
ボールの位置は制約されΔχは小さい。
Δχが小さければ運動量の不確かさΔpは大きくなければならない。
そしてボールは素早く動く。
本にはこう書かれている。
では現実の世界に戻ろう。
同じビリヤードのボールを使って話す。
しかしh割る4πは1ではない。
実際の値である5掛ける10のマイナス35乗を使う。
そして同じ計算をする。
現実にはあのビリヤードボールの速度はどれくらいになるのか求めてみよう。
計算の結果はこうだ。
ビリヤードボールは…
(笑い)全く無意味だ。
このように量子力学は日常世界には何の効果も発揮しない。
ところが水素原子の場合はどうだろうか?水素原子の大きさは大体…その中に電子が1つだけ存在している。
電子の質量は10のマイナス30乗キログラムだ。
ではあの教授と同じように運動量Δpを計算してみよう。
しかし今回は1個の電子が原子の中つまり10のマイナス10乗メートルの範囲に制約された場合の話だ。
そして私はもちろんh割る4πの正確な数字を使って計算をしよう。
するとどうだろうか?計算によれば電子は秒速500キロメートルの速さで動く事になる。
それは電子にエネルギーが与えられたという事だ。
これはすごい事だ!ハイゼンベルクの不確定性原理が電子に「動け!」と命令しているんだ。
電子はハイゼンベルクの不確定性原理によってエネルギーを持っているのだ。
これは驚くような概念だ。
このように原子の振る舞いは全て量子力学によって支配されている。
放出される色の光やエネルギー準位は量子力学の問題だ。
そして原子の中で電子がエネルギーを持っているという単純な現象も量子力学が説明してくれる。
ではこれらの事を実験で見せたいと思う。
しかし何度も繰り返してきたように量子力学は野球ボールやテニスのボールのような日常的なスケールでは意味は持たない。
だからどうやって教室の中で納得のいくような実験ができるかこれまで随分試行錯誤してきた。
そして考え出した実験がこれだ。
ここにレーザー光線を出す機械がある。
ここからレーザー光線を細いスリットを通して照らす。
スリットとはこういうものだ。
隙間の両側は光が通らない。
この隙間にレーザー光線を通す。
するとあちらのスクリーンに通過した光を見る事になる。
この時光線にこの方向の制約を与えていく。
だからこれを「Δχ」と呼ぶ。
この方向には制限はない。
だからこの方向についてはハイゼンベルクの不確定性原理は無視してよい。
この方向だけが問題だ。
さて光の断面を拡大してここにかこう。
実験ではこのスリットを狭くしていく。
隙間を狭めていくんだ。
だから光のこの部分はもうスクリーンに見えなくなってしまう。
それを更に続け隙間をどんどん細くする。
この部分の光は見えなくなる。
そしてこの部分の光もだ。
しかしここでΔχがうんと小さくなるとハイゼンベルクが出てきて「おっとそんな事していいのか」と聞いてくる。
Δχを非常に小さくするとχ方向の位置の不確かさが減る一方で光の運動量の不確かさが増える事になる。
つまりこの方向の光の運動量が非常に不確かなものになりスリットを通り抜ける光が広がる事になる。
もはや中央だけではなくここにもあちらにもこっちにも出ていく事になる。
だから奇妙な事にスリットを縦に細くすればするほどスクリーンに映る光は横に広がっていく。
これがハイゼンベルクの不確定性原理だ。
Δχに制約を加えるほどΔpは大きくなる。
それはつまり光の運動量がこの方向に不確かになるという事だ。
光には運動量がある。
だから光が通過するスリットが狭くなればなるほど光が広がるという現象が現実に起きるはずだ。
では実験を始めよう。
今スリットの隙間は非常に大きい。
数ミリメートル開いている。
光の広がり方におかしな点はない。
ではこれから隙間を狭くしていく。
真ん中の明るい部分に気をつけて見てほしい。
中央の明るい点だ。
ではスリットをどんどんどんどん細くしていく。
点線のようなものは無視してかまわない。
さあ中央部分を見ると水平方向に広がっているのが分かるだろうか。
どんどん大きくなっている。
どんどん広がっている。
ハイゼンベルクはとても喜んでいるだろう。
彼の言うとおりだった。
私がスリットをどんどん細くすると出てくる光はどんどんどんどん広がっていく。
計算によればスリットの隙間が5マイクロメートルの時スクリーン中央の光はおよそ10センチメートルだ。
今隙間は…スクリーンに見えている光は…それはスリットの隙間の20,000倍も大きい。
これが実験結果だ。
光が非常に小さな隙間を通り抜けるように制限したため光の運動量の不確かさが増えたのが分かった。
更にやってみよう。
隙間をおよそ1マイクロメートルにしてみよう。
中央の光を見ていてほしい。
計算してみたがもし…中央の光が本当に大きくなっているのが見える。
およそ50センチだ。
1マイクロメートルの隙間に制限された事でこうした結果になった。
これがハイゼンベルクの不確定性原理だ。
感覚的には受け入れがたい驚くべき量子力学の結果だ。
今見た光が広がる現象は量子力学よりも以前に19世紀の古典物理学でも説明が試みられた。
それは「光の回折」と呼ぶ現象で説明された。
しかしそれでもなおこの現象は不確定性原理と全く一致するという事だ。
それどころか今ではハイゼンベルクの不確定性原理に反するいかなる実験も成立しない事が知られている。
実験ではある一つの光子がスクリーンのどこに当たったかを特定する事はできない。
時間をかけていくつも光子を発射し最終的にスクリーンにどういう形ができるかは予測できる。
しかし一つ一つの光子の動きを正確に予測する事はできない。
ある一つの光子の動きを予測する事はできないというこの考え方は古典的な考え方に反する。
だから受け入れがたい。
古典的な考え方はこうだ。
「何か実験を行う時条件が同じであれば光子はいつも同じパターンの動きをするはずだ」と。
しかし量子力学ではこの考え方は通用しない。
あのアインシュタインにとっても不確かさを前提とし結果は予測できないとする量子力学の考えは受け入れがたいものだった。
量子力学はどこか間違っているに違いないと考えた。
アインシュタインの残した有名な言葉が…神はサイコロのような偶然性不確かさに世界をつくるはずがないという事だ。
量子力学が産声をあげてから100年がたつ。
そして私たちは神がサイコロを振る事を認めるようになった。
神も量子力学のルールに縛られているのだ。
神だってハイゼンベルクの不確定性原理に反する事はできない。
量子力学は私たちの常識とはかけ離れ日常でその効果を実感する事はない。
しかしそれは現実に世界を動かしている。
量子力学でなければ原子や分子を説明できない。
だから量子力学がなければ原子でできた私たちも存在できないという事だ。
この講義が君たちの考えるきっかけになればと思う。
しかし気をつけてほしい。
量子力学にはまると頭痛と眠れぬ夜を過ごす事になる。
私もそうだった。
しかしそれは科学を自らのものとして考えるためには必要な事なのかもしれない。
そしてみんながそうなる事を願っている。
(拍手)2014/03/21(金) 23:00〜23:55
NHKEテレ1大阪
白熱教室海外版アンコール MIT白熱教室 第7回「量子力学と不確定性原理」[二][字]
今回の講義は、原子や電子など目に見えないミクロの世界が舞台。そこは「量子力学」が支配する不思議な世界。量子力学の超難解な理論をひも解き、明解な実験で証明します。
詳細情報
番組内容
今回は超難解。しかし頭がしびれるほどの知的快感を味わえる。テーマは、原子や電子など、目に見えないミクロの世界。そこは「量子力学」が支配する不思議な世界だ。電子は、どうやって運動するのか? 光は波なのか粒なのか? 「不確定性原理」とは…。量子力学の難解な理論をひもとき、明解な実験で証明する。「神はサイコロを振らない」という有名なアインシュタインの言葉には、どんな意味が込められているのか?
出演者
【出演】マサチューセッツ工科大学教授…ウォルター・ルーウィン
ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – 宇宙・科学・医学
趣味/教育 – 大学生・受験
趣味/教育 – 生涯教育・資格
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
日本語
サンプリングレート : 48kHz
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英語
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