病院に入院しているうちに認知症が進んですっかり元気をなくしてしまったこちらの3人。
あるケアを受けたところ…。
元気に、お化粧。
Vサイン。
そして握手。
一体、何が起きたのでしょうか。
認知症の高齢者が急増する医療の現場。
状況が理解できずに治療を拒む人も多く対応に追われています。
治療のために患者の動きを抑えその結果、症状がさらに悪化してしまうことも少なくありません。
この事態を打開しようと先月、病院の団体が研修会を開きました。
認知症の人に接するためのケアフランス生まれのユマニチュードという手法を学びます。
これまでの接し方を改めることで怒りっぽい意欲がなくなるといった症状を改善する効果が期待されています。
認知症になっても人と人とのつながりを全うしようという認知症ケアユマニチュード。
その可能性を探ります。
こんばんは。
「クローズアップ現代」です。
超高齢社会を迎えた日本。
認知症の症状がある人そして予備軍を含めると800万人以上と見られています。
さっき自分がやったこと時間、自分がいる場所が思い出せなくなる。
記憶する機能や判断力の低下が認知症の中核症状です。
年齢を重ねていく中で誰がなってもおかしくない認知症ですが、その症状が病気や、けがで入院したことがきっかけで強まってしまうケースが後を絶ちません。
入院を境に、中核症状に加えて暴力や暴言、不眠、歩き回る意欲の低下、さらに点滴を抜いてしまうなど、家族やケアに当たる医療スタッフを困らせてしまうような症状が引き起こされ病気や、けがから回復し退院できるようになったときには寝たきりの状態になっていたり自宅で暮らすのが難しくなっているケースが少なくありません。
治療、患者の安全が当然のことながらどうしても優先される医療の現場。
しかし、安全が優先されるあまり結果として、認知症の症状が進行する事態も生まれ本人、家族、そして医療関係者も心を痛めています。
語りかけても反応がない意思の疎通が難しいコミュニケーションが取りにくい認知症の高齢者を相手に医療の現場でどのように向き合っていけば症状の悪化を防げるのか。
すべての人に有効ではありませんが認知症の症状を持つ高齢者が多い医療の現場で今、注目されている取り組みがあります。
患者が最後まで人間らしく生き続けるにはどんな接し方がいいのか。
模索することで生まれた取り組みをご覧ください。
東京・調布市にある救急病院です。
入院患者のおよそ7割が70歳以上。
認知症の人が増えているといいます。
去年12月、感染症で入院した87歳の山本卓一さんです。
入院して生活環境が一変した山本さん。
認知症の症状が一気に進んでしまいました。
昼と夜とで行動が逆転。
一晩で10回以上ナースコールを押してしまいます。
逆に日中は意識がもうろうとしてほとんど寝たきりの状態です。
突然、声を荒らげることも出てきました。
妻の康子さんは毎日見舞いに来ていますが意思の疎通が難しくなってきています。
認知症の人が増える全国の医療現場では難しい課題に直面することが増えています。
患者が点滴を抜いたり転倒したりすることを防ぐため一時的にベッドへの拘束や手足の自由を抑制することが増加。
その結果、不安やストレスから暴力的になるなど症状が、さらに進むという悪循環に陥っているといいます。
医療現場で急増する認知症の高齢者にどう対応すればよいのか。
先月、病院の全国組織が看護師や介護施設のスタッフを集めて研修会を開きました。
講師は認知症の人へのケアユマニチュードを考案したイヴ・ジネストさんです。
このケアのねらいは認知症の高齢者とのコミュニケーションの改善です。
フランスで35年前から研究が進み今ではドイツやカナダなどでも導入されています。
「見る」「話す」「触れる」そして「立つ」の4つが基本の要素。
具体的な150の手法で構成されています。
まずは、見る。
おはようございます。
ベッドの脇から見下ろすと支配されているという感情を患者に引き起こしてしまいます。
認知症の場合視野が狭くなっています。
そこで、視野の中心で捉えてもらえるよう正面から患者に近づき見つめます。
続いて、話す。
体、拭きます。
最初に、ひと言かけただけであとは黙々とケアをすると自分の存在が否定されていると感じさせてしまいます。
とってもね、あったかくタオルしてきました。
相手が心地よく感じることばを、穏やかな声で話しかけ続けます。
左手も上げますよ。
足、曲げていきますね。
実況中継のように説明しながら行うと、物事を忘れやすくなっている人でも安心してケアを受け入れてくれます。
いいですか。
手、入れますね。
そして、触れる。
体を起こすとき、つい手首をつかんでしまいがちです。
しかし、つかむ行為は相手に恐怖感を与え自分で動こうという気持ちを妨げてしまいます。
つかむのではなく、本人の動こうとする意思を生かして下から支えることが大切です。
参加者の多くは日頃のケアをまだまだ改善できることに気付かされました。
スタンドアップ。
ノー!ノーノーノー!
この日、ジネストさんは調布の救急病院から依頼を受け入院中に認知症が進んでしまった山本さんを訪ねました。
まず、ユマニチュードの技術を学んだ看護師が山本さんに、あいさつに行きます。
見つめて、話しかけ優しく触れる。
基本のテクニックです。
ハローサー。
ボンジュールムッシュー。
ユマニチュードを活用したリハビリが始まりました。
日中はほとんど反応がないか逆に攻撃的なことばが多くなっていた山本さんですが呼びかけに応え始めました。
もう片方も。
そうです。
腕、上げてください。
僕のほうに触ってください。
山本さん、30分ほどの間にみるみる意欲がよみがえってきました。
攻撃的な言動はなくなり以前の社交的な姿を取り戻していました。
ユマニチュードを退院後の生活に生かそうという取り組みも始まっています。
来ましたよ。
93歳の深田あい子さんです。
去年12月、肺炎で入院したところ、認知症が悪化。
自分が生まれ故郷にいると錯覚することが増えました。
入院するまでは軽い物忘れがあるくらいで近所の散歩など楽しみがたくさんあった深田さん。
病院での生活が続くうちに自分で何かをする気力を失ってしまいました。
退院後の生活に備えて家族にユマニチュードを身につけてもらい、リハビリを始めることになりました。
まずは見つめて話すことから始めます。
おばあちゃん…
おー、すごい、すごい。
ことばをかけ続けながらケアをしているうちに深田さんは体を動かすことに前向きになってきました。
3日後、歩く練習に挑戦です。
じゃあ、やってみましょうかご一緒に。
OK、マダム。
カム、カム。
ああ、できた!
OK。
1、2、1、2。
自分の足で歩くこと。
わが家で暮らすための第一歩です。
やったー!おばあちゃん、やったじゃん!
ベリーナイス。
とってもうまくいきましたね。
ありがとうございます。
ありがとう。
スタジオには、このユマニチュードを考案されたイヴ・ジネストさん。
そして日本の医療現場にこのユマニチュードの導入に取り組んでいらっしゃいます、国立病院機構東京医療センター総合内科医長の本田美和子さんにお越しいただいています。
ありがとうございます。
本当に、患者の方がVサインを送ってくれたり、あるいは、ほおにキスをしてくれたり、素直な感情が開かれた感じで、表れている姿を見ると、本当にほほえましいんですけれども、ユマニチュードのケアの在り方の最も大事にしている部分って、なんでらっしゃいますか?
ユマニチュードの哲学は、150のケースと合わせてあるんです。
私たちが友人である、そして人間であるということを感じてもらうことは大切なんです。
そして私たちは、きょうだいである、患者さんのきょうだいである、患者さんも人間であるということを伝えていくものなんです。
それを技術とそれから考え方とが一緒になっています。
私たちが患者さんをまだ人間であると、そして私たち、ケアをする側と患者さんが、本当に絆を築くというものが、このユマニチュードなんです。
治療する傷が問題ではない。
それが中心ではないんですね。
ケアをする側と、そしてケアをされる側の絆が中心になるんです。
そして私たち、患者さんも、私たち、ケアする側も幸せになるんです。
この映像で見た人たち、家族の方も患者さんもそうなんですけれども、私たちにとっても大切なものをいろいろプレゼントをしてくれました、毎日。
それがプレゼントの哲学でもあるんです、ユマニチュードとは。
認知症の症状のおありになる方は例えばことばが十分理解できなかったり、あるいは認識が十分に、どういう状況にあるかって認識ができない中で、その絆を患者さんの方とケアをされる方を結ぶというのは、容易ではないように思えるんですけれども。
そうですね。
説明をしても認知はしてもらえないです。
そういう形で築くわけではないんです、絆を築くわけではないんです。
ちょうど赤ちゃんと絆をつなぐのと同じように、あるいは、自分が好きな人を抱くような感じで、絆を作るわけですね。
例えば私が話をかけない、あるいは、まなざしをかけない、あるいは触らないというときが長かったら、私に忘れられていると思うかもしれません。
それは社会の中でもいえることです。
それでなかなか、でもそういう技術を学ぶということはないんです。
ですので、1日に8回ぐらいしかまなざしをかけてもらわない人がいる。
でも、あなたとは何回も何回も見ました。
例えば、清拭を受ける患者さんは話しかけられるのは20秒ぐらいしかないんですね。
そういう話すという技術を選ぶことによって、実は人間が生きている子どものときから、受けている、人間の絆を作るということを、もう一度学び直しているんです。
私の友人だから絆を作りたい、治療は必ずしも、楽しいものばかりではありません。
ですから、その絆を人間的な絆を作ることによって、この人はとてもいいことをやってくれる人だと分かってもらえるんですね。
そのあとのケアはすごく楽になります。
医療の現場で、絆がなかなか結ぶことができなくて、苦労されるケースもあると聞きますけれども、どういった、絆を結ぶことが難しくなっている理由というのを、どう見てらっしゃいますか?
まず、歴史的な困難というのがあります。
常に医療というのは、まずは治療をするということを考えていったわけです。
しっかりと手術をしてもらうとか、包帯をしてもらうとかですね。
どうしてもやはり医療といいますと、まずは治療する技術になってしまうわけです。
そこでまずは、人間がいる、人間と接触するんだということを少し忘れているのかもしれません。
私たちは、肌を触っているだけではなくて、肌を触ることによって、脳に働きかけているんです。
ですから、清拭をする場合もそうですけれども、あなたは清拭をすることによって、人間なんですよ、そして、まだ人間として、ほかの人たちとも出会うことができるんですよということを伝えているんですね。
そういうことをユマニチュードを通して、やろうとしていて、実際にビデオを見ると、それが成功しているのが分かります。
本田さんは、ユマニチュードの導入に取り組んでらっしゃるんですけれども、こうやって見る、あるいは触る、触れる、そして話しかける、立つ、こういうことはもう医療の現場では学んで、基本として取り入れてきたことですけれども、実際にこのユマニチュードを学ばれて、何が違っているというふうに感じられましたか、ご自身で?
そうですね、私はこれまで、基礎看護とか基礎介護の分野では、見るとか話すとか触れるということについては、それぞれ教わってきているところではあると思うんですけれども、それを同時に包括的に行うという点で、私は自分の経験から、これは新しいのではないかというふうに思っています。
介護の現場では、これまでもいろんな試みが行われていますし、成功している方々もたくさんいらっしゃると思うんですけれども、でも例えば、85歳以上の方の3人にお1人は、なんらかの認知の機能の低下があるという状態で、私の働いているような急性期病院ですと、その認知の機能が落ちている方が、急性期の病気になって搬送されていらっしゃる。
私たちは、医療従事者として、病気の診断や治療に関しては、非常に経験の蓄積もありますし、自信もあるんですけれども、その治療の意味が分からないというような状況になっている認知の機能が落ちている方に、治療を受け入れてもらうにはどうすればいいかということに、さまざまな困難が生じています。
先ほどのVTRでも、抑制というものがありましたけれども、それは私たちが治療を患者さんに届けたいということを実現するためのものです。
これだけ手厚いケアというのは、しかし現実にはできないんではないかという声も聞こえてきそうですけれどもね。
そうなんですよね。
でも実際のところ、おむつを替えようと思って、30分格闘して、患者さんといろいろお話しをして、おねがいをしてうまくいかなかった例が、この技法を用いることで、2分半でうまくいったというケースも私たちは実際経験しています。
なので、このケアを使って、最終的には短い時間でケアを実施することができるということを、ぜひ皆さんにもお伝えしたいと思います。
日本ではこの取り組みが始まったばかりですけれども、ジネストさん、認知症が怖くないと思えるようになるといいですね。
本当に、光を与えてくれるような人たちなんです。
2014/02/05(水) 19:30〜19:56
NHK総合1・神戸
クローズアップ現代「見つめて触れて語りかけて〜認知症ケア“ユマニチュード”〜」[字]
認知症の入院患者の暴言や徘徊に悩む医療の現場で“ユマニチュード”と呼ばれるフランス生まれの新たな認知症ケアを導入する動きが広がっている。その可能性を伝える。
詳細情報
番組内容
【ゲスト】ジネスト・マレスコッティ研究所所長…イヴ・ジネスト,国立病院機構東京医療センター総合内科医長…本田美和子,【キャスター】国谷裕子
出演者
【ゲスト】ジネスト・マレスコッティ研究所所長…イヴ・ジネスト,国立病院機構東京医療センター総合内科医長…本田美和子,【キャスター】国谷裕子
ジャンル :
ニュース/報道 – 特集・ドキュメント
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事
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