NHKスペシャル「ふしぎがり〜まど・みちお 百歳の詩〜」 2014.03.07

(まど)こんにちは。
(女性)おはようございます。
(子供たち)おはようございま〜す。
いつもの散歩の途中で子供たちに出会いました。
花が咲くのよ。
詩人のまど・みちおさん。
あの童謡「ぞうさん」を作詞した方です。
(子供たち)・「ぞうさんぞうさんお鼻が長いのね」
(まど子供たち)・「そうよ母さんも長いのよ」ありがとう。
まどさんは明治生まれ。
去年11月百歳の誕生日を迎えました。
「ぞうさん」以外にも「やぎさんゆうびん」や「一ねんせいになったら」など数多くの詩を世に送り出し児童文学のノーベル賞といわれる国際アンデルセン賞も受賞しています。
(毛利衛)「スペースシャトルから高さが僅か200キロ。
今私たちは…」。
まどさんの詩ははるか宇宙で読まれたこともあります。
「まど・みちおさんという国際アンデルセン賞をもらった…」。
2000年宇宙飛行士の毛利衛さんは地球に向けてまどさんのこんな詩を朗読しました。
この地球上の全てのものがまどさんにとっては詩の題材です。
百歳で新たな詩集を出版したまどさん。
その衰えない創作意欲は一体どこから来るのでしょうか。
まどさんのふしぎな世界にお邪魔しました。
東京郊外にある遊園地。
子供たちの歓声が響くこの丘の上の病院でまどさんは暮らしています。
最初にお邪魔したのはまどさんが百歳の誕生日を迎える3か月前去年の8月です。
フリーハンドで行ってみますか。
まどさんは一時期体調を大きく崩していましたが今では足腰のリハビリができるまでに回復しました。
中断していた創作活動も早速再開しています。
(2人)5678910。
このぐらいで休ませてもらえますか。
まどさんの子供の頃からの大好物バナナ。
毎日欠かしません。
タタミイワシを頬張っているうちにまどさんふと何かを思いついたようです。
生きるためにほかの生き物の命を頂く。
そうした人間の宿命をまどさんはこんな詩にしています。
午後病院の庭を散歩します。
草花や小さな生き物が大好きなまどさん。
それは詩の大切なテーマにもなっています。
車で10分ほど離れた自宅から長男の京さんがお見舞いに来ました。
すっかり耳が遠くなったまどさんですがセミの声に集中します。
まどさんの目が宙の一点を見つめました。
セミの抜け殻。
生まれたばかりのセミなのにどうして上手に鳴くことができるのか。
まどさんにはそれがふしぎでなりません。
太陽の下で短い命をおう歌するセミ。
確かに「ざいざいざい」とも聞こえますね。
散歩から戻るとノートに何か書き始めました。
広さ7畳ほどのこの病室がまどさんの創作の現場です。
日々の発見やその時ひらめいた言葉を日記に書き留める。
70年も前からの習慣だと言います。
「テントウムシのチビチャン。
散歩の時通り道を邪魔して大迷惑。
スミマセン」。
「カワイソウなぼうし」と書かれているのは愛用の帽子を誤って踏んでしまった時のもの。
「いつもメチャクチャにしてゴメン」。
こうして日記に記した言葉はいわば詩の卵です。
何度も読み返して言葉をつなぎ合わせたりイメージを膨らませたりしているうちに詩が生まれるんだそうです。
「俺はこれでも人間なのかとよく思うのだ耳に毛が生えているんだ両耳に相当長いのが犬でも猫でもこんなに長くはないのではないかと」。
(寿美)足が悪くて。
毎週日曜日妻の寿美さんがお見舞いにやって来ます。
お世話になります。
(京)左。
そこ。
はいはい左。
寿美さんは7つ違いの93歳。
10年ほど前から認知症の症状が出始めています。
来ましたよ。
まどさんが30歳の時お見合いの席で一目ぼれして結婚。
以来70年連れ添ってきました。
元気でしたか?
(スタッフ)おっしゃるとおりです。
珍しいこと言いました。
(笑い声)「似合いの夫婦でしょ」なんか初めて聞きました。
あんたの。
寿美さんは時々まどさんが入院していることを忘れてしまい家の中を探し回るそうです。
2人で言い合いになる。
お母さんはねお父さんは何で家に帰ってこないんだっていうようなことも言う訳。
楽しみにここへ入ってる訳じゃなくて病気でここへ入っているんでね。
病気が本職なのよ。
(京)ハハハ病気が本職。
私はねあなたが私と暮らしたくないからここへ来てると思ってるよ。
あなたが好きなように生きればいいですよ。
ありがとうございます。
まあしかしもうお父さん今年で百歳だ。
11月で。
だからホント俺…大事に養ったから。
(京)…と言いたいんだ。
ハハハハハ。
まどさんの日記に記された寿美さんの認知症。
「全クモッテスミのアルツハイマーニハヘコタレル」。
食べきれない量の出前を頼んだり鍋を何度も焦がしたり…。
ヘトヘトになりそうな毎日。
ある日まどさんは頭を切り替えて病気を「アルツのハイマくん」と友達のように呼び始めます。
すると寿美さんとの日常が全く別のものに見えてきました。
元気でな。
頑張って。
何か持ってきてほしいものはないの?みかんなんか。
果物持ってこんでいい?ありがとう。
毎日のちょっとした出来事や生きとし生けるもの。
まどさんが書いた詩は2,000を超えています。
子供から大人まで多くの人に愛されるまどさんの詩の世界。
詩人の谷川俊太郎さんもファンの一人です。
(谷川)やっぱり僕前に確か顕微鏡の目と望遠鏡の目を併せ持っているみたいなことを書いた記憶があるんですけどね。
ウィリアム・ブレイクっていう1世紀前のイギリスの詩人ですけども有名な言葉でね…。
そんなふうな詩句があるんですね。
僕それ若い頃からとても好きでまどさんの詩ってまさにそのとおりって気がするんですね。
ブレイクが言ったとおりにホントに小さなものの中に全世界が見える人だと。
詩人まど・みちおの原点はふるさとの山口県で過ごした幼少期の体験にあります。
まどさんは明治42年生まれ。
本名石田道雄。
幼い頃まどさんは祖父に育てられました。
両親が仕事の都合で台湾に移り住んだためです。
親と離れて暮らすまどさんの一番の慰めは草花や虫など身の回りの生き物たちでした。
チョウの触角の動きに見とれたり小さなアリにもちゃんと影があることに驚いたり。
一つ一つの命がそれぞれ別々の魅力を持っていました。
クモの巣なんかあるとぱくっと。
それはもう大好きでしたよ。
まどさんが本格的に詩を書き始めたのは10代の頃。
以来ずっと身近な風景をみずみずしい感性でつづってきました。
ところがある時期全く異なるテーマの詩を2編残しています。
書かれたのは昭和17年。
太平洋戦争の真っただ中です。
戦場へと向かう若者を奮い立たせるいわゆる戦争協力詩でした。
「日本人よ今こそ君らも君らの敵にむかえ石にかじりついてもその敵をうちたおせ」。
この詩を書いた2か月後の昭和18年。
妻の寿美さんと幼い長男の京さんを残して出征します。
向かったのは南方戦線。
人と人が命を奪い合う戦争の悲惨さを目の当たりにします。
「自分の詩が若者たちを戦場へと駆り立てた」。
まどさんにとって2編の詩は消すことのできない負い目となりました。
終戦から50年近くたって出版された全集。
まどさんは自ら進んでその2編の詩を収録しました。
あとがきの7ページ全てを割いて戦争協力詩について謝罪しています。
「昔のあのころの読者であった子供たちにお詫びを言おうにももう50年も経っています。
懺悔も謝罪もあまりにも手遅れです」。
戦争から戻ったまどさんは雑誌の編集の仕事などをしながら命を題材にした詩を精力的に書き始めます。
そして生まれたのが童謡「ぞうさん」でした。
まどさんは後に「ぞうさん」の詩についてこんなふうに語っています。
「そんなゾウに『鼻が長いね』と言うことは『お前はへんだね』と言うことと一緒です。
でもゾウは嬉しそうに『母さんも長いのよ』と答えます。
自分の一番好きなお母さんと一緒だということを誇らしく思っているからです。
本当にゾウがゾウとして生かされていることはなんと素晴らしいことでしょう」。
・「ぞうさんぞうさんお鼻が長いのね」・「そうよ母さんも長いのよ」・「ぞうさんぞうさん誰がすきなの」・「あのね母さんがすきなのよ」夏の終わり。
まどさんのふるさと山口県から訪問客がありました。
徳山高校放送部の生徒と先生がクラブ活動の一環としてインタビューを申し込んできたのです。
(国重)初めまして。
初めまして。
初めまして。
こんな年寄りですからどうしようもございません。
国重愛です。
聞いてもすぐ忘れますけどね許して下さいね。
(国重)はい大丈夫です。
まどさんの詩を読んで虫が好きになったんです。
それはいいね。
そうですか。
それはいいや。
(国重)いっぱい書いたんですけどちょっと面白いことを聞いてもいいですか?
(国重)まどさんにとって幸せって何ですか?幸せっちゅうのはね自分が生きてる現在…。
まどさんの詩は若い世代にどんなふうに受け止められているのでしょうか。
インタビューを企画した徳山高校放送部の生徒たちに一番好きなまどさんの詩を聞いてみました。
(長藤)「ああこのちきゅうのうえではこんなにだいじにまもられているのだどんなものがどんなところにいるときもその『いること』こそがなににもましてすばらしいこととして」。
私も悩んだ時期があるんですけど多分多くの人が自分の存在とかについて考えていると思います。
そういう時にこの詩を聞くと理由とかはどうでもよくて自分がいることが大事なんだなって思えた詩です。
これで終わりなんですけど。
(一同)お〜!僕から見たらただ「月がきれいだ」みたいなそんな感じでしか思わないけどまどさんは月だけじゃなくてその周りも一緒に見ている感じがしました。
それがちょっと「さすがまどさん」みたいな。
「リンゴをひとつここにおくとリンゴのこの大きさはこのリンゴだけでいっぱいだリンゴがひとつここにあるほかにはなんにもないああここであることとないことがまぶしいようにぴったりだ」。
私が「リンゴ」の詩を好きなのは「リンゴ」の詩の「リンゴ」っていう所を「私」に換えた時に自分の存在をすごい認められた気がしてすごい好きなんですけど。
自分の存在を認めたあとに周りにいる友達とかの存在も一緒に認められることができるのですごい好きです。
それでは「リンゴ」を「私」に置き換えながらもう一度味わってみましょう。
10月まどさん百歳の誕生日まであと1か月です。
散歩の途中池をふと眺めたら魚の作る波紋が気になってしかたなくなりました。
これ近づいてくるのなんか本当ものすごくきれいですね。
光ってるから。
これだけは本当にどうして…。
水面に揺らめく波紋をしばらく眺めたあとまどさんは散歩を切り上げて病室へと戻りました。
部屋にお邪魔してみると…。
(スタッフ)こんにちは。
またお見えになりましたね。
描いていたのは渦巻きのようなクエスチョンマーク。
クエスチョンマークの横には感嘆符のびっくりマーク。
これはふしぎの答えを見つけた時の印だそうです。
人間というものは生きているとね。
どんな人だって。
11月の初め。
どうも。
お父さん。
長男の京さんが急ぎ足で病室に入ってきました。
実はお母さんがケアセンターに行って尻もちついちゃったの。
それで歩くのが難しくなってしばらくそこに入ることになったから。
ああそう。
妻の寿美さんが転んで歩けなくなってしまったというのです。
レントゲン撮ったら骨に異常はないということだから。
回復するの待つだけだから。
そういうことですから。
あ〜…。
あと2週間で百歳になるまどさん。
重ねた年の数だけつらい出来事にも出会ってきました。
その最たるものが家族の死です。
去年6月次男の修さんが大腸がんを患い61歳の若さで亡くなったのです。
日記にはその時の気持ちが震える文字でつづられていました。
「もう少ししゃんと父親らしくしてたら守ってやれたろうに。
修よホントごめんごめん。
ナンボアヤマッてももどりゃせん」。
まどさんの心の叫びは10ページにわたって続いていました。
どうすることもなくて…。
家族や友人多くの死を見送ってきました。
90歳を過ぎた頃夕日を眺めてふと気付いたことがあります。
今日という一日の終わりはどこか死に似てるということに。
(三國連太郎)「生まれては立ち去っていく今日の死を自転公転をつづけるこの地球上のすべての生き物が生まれたばかりの今日の死を毎日見送りつづけているなぜなのだろう『今日』の『死』というとりかえしのつかない大事がまるで」。
まどさん百歳の誕生日です。
いつものように朝からノートに向かっていました。
午後2時家族がお祝いにやって来ました。
心配していた寿美さんの姿もありました。
転んで痛めた脚がまだ治っていませんが車椅子で駆けつけました。
(京)覚えてるかな?どこ?部屋は。
(寿美)部屋?部屋どこ?この辺じゃないの?この辺か。
はい。
(京)お父さん!
(寿美)あなた!ほら!あっ…おう!
(笑い声)ちょっとだけ。
今すぐ行くからちょっと待って。
え〜と…。
はい。
あんたの手は温かいね。
元気そうだな。
あ〜よかったよかった。
顔見るまでは安心できなかった。
みんなお前たちのおかげだよ。
(京)いやいや。
ありがとう。
あ〜よかったよかった。
本当よかったな。
そうね。
しばらく会わなかったから。
(京)しばらく会わなかったからね。
(すすり泣き)俺お前はここに来れないだろうと思ってたんだ。
具合悪くてね。
(寿美)そんなことはないですよ。
よかったから。
さあ向こうでみんなでもっとゆっくり話するからね。
・「ハッピーバースデートゥユーハッピーバースデートゥユー」・「ハッピーバースデーディア石田様」・「ハッピーバースデートゥユー」
(一同)おめでとうございます。
(拍手)ああそう。
だからどうっちゅうことはない訳ですね。
家族が帰ったあとまどさんは一枚の絵を描き始めました。
寿美さんと再会した時あることに気付いたのだそうです。
たくさんの色を使って描いたのは虹。
寿美さんの無事な姿を見て流した涙の中に虹が見えたのです。
しかし私は見えないけれど…。
虹の下には詩のようなつぶやきが添えられていました。
「このクッチャーネのごうよくグータラがみなさんから頂いた勿体ないご恩をハルカニ懐しみかんしゃ申上げつつただただ涙しているにズギナイ。
その涙の虹の2日分のような」。
驚いた。
こんな松ぼっくりが。
松の木なんかどこあるかと思ったらこれそうなんだね。
いつもの散歩の途中また何か発見があったようです。
驚いとるよ。
驚いたね〜。
百歳の詩人まど・みちおさん。
そのまなざしの先にあるたくさんのふしぎから次はどんな言葉が紡ぎ出されるのでしょうか。
ありがとう。
は〜い。
どうもありがとう。
松ぼっくり。
そんなに持てないよ。
こんなにいっぱいもらっちゃった。
ありがとう!「いってらっしゃい」。
2014/03/07(金) 00:40〜01:30
NHK総合1・神戸
NHKスペシャル「ふしぎがり〜まど・みちお 百歳の詩〜」[字][再]

童謡「ぞうさん」の作詞家まど・みちおさんが今年100歳を迎える。詩人としても世界的に評価されるまどさん、些細な出来事から瑞々しい詩を詠み続ける百歳の日々を追う。

詳細情報
番組内容
「ぞうさん」「やぎさんゆうびん」など、戦後を代表する童謡の作詞家まど・みちおさんが2009年11月、100歳の誕生日を迎えた。最後の詩人と評されるまどさんの創作意欲は衰えない。子どもを楽しませ、大人をふと立ち止まらせる独創的な詩は、どのようにして生まれるのか? 老いや死、命の尊さをどのように受け止めているのか? まどさんの詩作の日々を見つめながら、生命をうたい続ける詩人から生きるヒントをもらう。
出演者
【朗読】三國連太郎,【語り】宮