福家警部補の挨拶 #04 2014.02.04

(福家)
8世紀唐代。
中国史上最高の詩人といわれる李白は酒と月をこよなく愛し多くの詩を残した
孤独に飲む酒も月と自分そして月に映る自分の影の3人がいると歌い何者にも縛られぬ自由を李白は謳歌した
一説によると長江に船を浮かべ酒に酔った李白は水面に映る美しい満月を取ろうとして溺死したといわれている

(雫)窓閉めてもらっていいですか?寒いので。
(佐藤)何言ってるんだ。
暑くてかなわんよ。
ことしは暖冬だね。
(雫)ええ。
おかげで蔵の管理は大変です。
いらん苦労だよ。
うちのように温度管理を徹底すれば外の気温など関係ない。
とにかく私は寒いんです。
冷え性ってわけか。
女は大変だね。
温めてあげようか?
(雫)結構です。
(佐藤)ところで昼間鍋谷のやつが挨拶に来たよ。
「藤乃誉」を飲ませてやったというのに一言の礼もない。
生意気な若造だ。
「藤乃誉」?
(佐藤)ああ。
今度うちで発売する予定の新商品だよ。
さぞ大量に売り出されるんでしょうね。
(佐藤)フフフ。
何が悪い。
しょせん女には商売は無理だということだ。
あとは全て私に任せなさい。
(佐藤)しかしここまで慎重にすることかね?
(雫)今回の合併話は私以外に誰も知りません。
従業員に全てを話すのはことしの造りが終わってから。
それで納得されたはずです。
(佐藤)分かった分かった。
私もその約束は守ってる。
この話は誰にも漏らしてはいない。
(雫)なら安心しました。
(佐藤)お〜。
(佐藤)何だ真っ暗で何も見えないな。
電気をつけなさい。
(雫)従業員に気付かれます。
(佐藤)これが100年続いた谷元の蔵か。
よかったら試してみますか?ことしの「月の雫」です。
うまい。
確かにうまいがこの蔵では生産量が少な過ぎる。
もろみの様子はあちらから。
(佐藤)うちの工場はここの10倍の広さだ。
管理は全てコンピューター。
それが現代の酒造りというもんだよ。
(雫)そんなやり方でこれと同じ酒が造れるとでも思ってるんですか?
(佐藤)品質なんか関係ない。
大事なのは「月の雫」というブランドだ。
大量に売り出せばここの赤字などすぐ賄える。
あなたがうちの販売先を横取りなどしなければ赤字にはならなかったはずでした。
(佐藤)ずいぶんな言い方だね。
私はその負債を肩代わりしてやろうと言ってるんだよ。
それを乗っ取りと言うんです。
違うな。
商売だよ。
私がここの社長になった暁にはだなこの古くさい蔵を全部取り壊して…。
そんなことはさせない。
あ〜!
(佐藤)あっ!何する!
(佐藤のうめき声)
(佐藤)やめろ!やめろ!
(雫)死ね…!あっ。
(福家)あ〜…。
(村上)福家さんお疲れさまです。
(福家)ご苦労さま。
(警察官)ちょっと開けて…開けて。
(村上)どうぞ。
前から思ってたんすけど暑くないんすか?その格好。
(福家)寒い。
(村上)特に最近は気候もあったかいっすよ。
(福家)それでも寒いの。
(福家)中は暖かいのね。
それにもろみのいい匂い。
(村上)ええ。
(村上)被害者は佐藤一成55歳。
佐藤酒造の社長です。
こちら被害者の所持品リストひととおりまとめておきました。
仕事が早いのね。
(村上)当然のことです。
誰かさんとは違いますから。
そういえば二岡君は?
(村上)本庁で留守番です。
鑑識報告がたまってんですよ。
そう。
(村上)それも遺体と一緒にタンクの中にあったものです。
被害者は蔵へ忍び込みこの高い足場から転落したものと思われます。
この水を張ったタンクの側面にぶつかった痕跡がありました。
側頭部を強打。
気を失って溺死したのではないかと。
蔵の鍵は開いていたの?
(村上)はい。
最近は仕込みに忙しくて鍵は掛けなかったそうです。
え〜死亡推定時刻はまあ仮の所見ですが午前3時から3時半の間。
従業員が見回りの際に遺体を発見しました。
このタンクだけ中は水?もろみじゃなくて。
はい。
あ〜傷があるとかで修理する予定だったようです。
あれも被害者のもの?
(村上)あ〜確認はとれてませんがおそらく。

(田所)何だ福家。
またしゃしゃり出てきたのか。
遺体の発見者にお話を。
(石松)君を呼んだ覚えはないのですが今回の件は君に任せましょう。
どうぞご自由に。
えっ?
(石松)僕は酔っぱらいが嫌いなんです。
(田所)話聞けるもんなら聞いてみな。
その代わりきっちりとお前いいか?報告書まとめろよ。
(田村)んっ!?ん〜…。
(田所)いいな!?
(田村)ん〜…。
あっ!すてきなお嬢さんだ。
発見者の方ですね?福家と申します。
(田村)私はねここで30年も働いてんのよ。
お酒のことしか…。
昨夜のことなんですがお聞きしてもよろしいでしょうか?やだ!一緒に飲んでくんなきゃお話ししな〜い。
あ〜。
まず見回りは2時間おきにされていたそうですね。
午前2時とそして4時。
そのとき…。
知らな〜い!あの起きていただけますか?責任者の方にも…。
(雫)田村さん?ちょっと何飲んでんの?田村!起きなさいほら!
(田村)はいはい…。
すいません。
風呂場連れてって。
(従業員)はい。
はい田村さん行きますよ!
(田村)あっごめんなさい。
(従業員)も〜。
(雫)まったく男のくせに気が弱いんだから。
(雫)どちらさま?あの責任者の方はどちらに?
(雫)私がそうだけど。
えっ?女が社長じゃ駄目?いいえ。
全然。
警察の人?はい。
あの…。
話ね。
責任者の方は?私です。
えっ?福家と申します。
「警部補」?女が警部補では駄目ですか?いいえ。
全然。
この懐中電灯もここにこのまま?
(雫)ええ。
田村が見回りのときに使ったものよ。
佐藤社長も懐中電灯を持っていました。
それからふた付きのビーカーも。
(雫)フッ。
まったく用意周到な泥棒だこと。
「泥棒」といいますと?佐藤酒造の工場には研究部署があるのよ。
たぶんうちのもろみを盗んで持ち帰って分析しようとしたんでしょうね。
うちの「月の雫」を。
「月の雫」といいますと確かことしの品評会で金賞を。
よく知ってるわね。
あなたお酒好きなの?少々。
ただ「月の雫」は取り扱っている店が少ないようで。
うちは佐藤と違って大量生産というわけにはいかないから。
(雫)この蔵はね代々100年以上も続いてるの。
祖父父そして私。
製法も昔のまんま。
私の代で味を落とすわけにいかないのよ。
なるほど。
ここは冷暖房の設備もないし温度調整も全部人の手。
温度の調整も?
(雫)そう。
例えば蔵の温度が上がってきたらそこを開けて風通しを良くしたりタンクを氷で囲んで冷やしたり従業員総出でね。
扇子であおいだりは?
(雫)はっ?こちらに落ちていたものなんですが。
(雫)ハァ〜。
それ佐藤社長の扇子よ。
暑がりで有名だもの。
一年中「暑い暑い」って。
冬でも暑いだなんて信じられません。
でしょ?そりゃことしは暖冬だっていうけどさ…。
でもやっぱり寒いです。
でしょ?冬っていうのは寒いのよ。
そのとおりです。
あっやっと分かってくれる人がいた。
ねえじゃひょっとしてあなたも今腹巻き2枚重ねだったりしてない?ところで谷元さん。
あっそこは違うんだ。
現場検証の方ですが間もなく終わります。
ただ警察の出入りでお酒の方に影響を与えてしまったのではないかと思いまして。
大丈夫でしょうか?お気遣いどうも。
ねえ昼から作業再開するからみんなに伝えてきて。
(従業員)はい!
(雫)あっそれからその上のかい新しいのと交換して。
これですか?けど…。
(雫)ひびが入ってんのよ。
もう使わないで。
(従業員)はい。
「かい」というんですか?この棒。
もろみを混ぜるのに使うのよ。
もったいないけどね。
木のくずとか不純物が入ったりしたら大変でしょ?なるほど。
それじゃあもうここはいいんでしょ?しばらくお酒を落ち着かせたいの。

(中西)あっ社長。
(雫)中西。
言ったでしょ?あんたはしばらく蔵に入るな。
(中西)すいません。
どうしたんですか?彼。
あっちょっとね。
人の目盗んでこそこそやってたのよ。
バレないと思ってたかどうか知らないけど。
サボりですか?腕は未熟なのにサボることだけは一人前。
うちにも1人似たようなのが。
(二岡のくしゃみ)
(二岡)あ〜風邪かな?実は1つ気になることがありまして。
気になること?はい。
佐藤社長の所持品の中に免許証がなかったんです。
免許証?つまり免許不携帯のまま車を運転してこられたということになります。
(雫)へ〜。
うっかり忘れちゃったんでしょうね。
もし昨夜ここを出た後警察の検問などに引っ掛かったとしたら免許不携帯の場合詳しく事情を聞かれるはずです。
どこにいたのか。
何をしていたのか。
まあそうかもね。
そうなると自分の悪事が免許一つ持っていなかったせいでバレてしまったかもしれません。
そういう肝心なとこは抜けてたのよ。
足を滑らせてタンクに落ちたのだってどじってことでしょ?あ〜。
もういいかな?仕事がたまってるの。
はい。
どうもお忙しい中ありがとうございました。
(雫)佐藤社長が亡くなったのは残念だと思うわ。
けど正直言ってこっちにとってはいい迷惑。
とはいえ不幸中の幸いでしたね。
落ちたのが水の張ってあるタンクの方で。
もろみのタンクに落ちていたら中のお酒は丸ごと駄目になっていました。
確かに…そうね。
(村上)福家さん。
福家さん。
助手席の下にこの名刺がありました。
鍋谷五郎。
リカーショップウェアハウス社長。
ねえホントになかったの?免許証。
(村上)はい。

(エンジンのかかる音)
(村上)あのそろそろ車移動しますんでいったん降りていただけますか?まだそっち調べてない。
あ痛っ。
(村上)あ〜。
ちょっ…ちょっと福家さん?あの…ハハ。
のっ乗るならシートベルトしてください。
あれ?佐藤社長にお会いしたというのは?
(鍋谷)ああ昨日の夕方ごろですよ。
挨拶に伺っただけなのに発売予定だっていう新商品を飲まされまして。
新商品?
(鍋谷)「藤乃誉」っていってねうちの全国の店舗で取り扱うことを確約しました。
まっ正直言って僕の好みの味ではなかったんですが。
おいしくないのに売りに出すと?今一番勢いのある佐藤の商品をむげに扱うわけにはいきませんから。
寄らば大樹の陰。
それが僕のモットーです。
ところでこちらでは谷元酒造のお酒は一つも扱っていないようですが。
あああの女社長のね。
相当経営に苦しんでいるようでうちにも何度か営業に来られましたよ。
「月の雫」という目玉商品があると思うのですがそれでも経営に苦労していると?確かにあれは名品です。
だけど谷元の造り方じゃいつごろどれぐらいの量を出荷できるのか見通しが立ちにくいんですよ。
そういう商品はうちでも扱いに困りますから。
それでも人気はあるはずです。
まっ簡単に言うと相当な値引きをしてくれたんです。
値引き?谷元の代わりに佐藤の酒を置いてくれと。
徹底的な値引き攻勢でね。
まあ谷元酒造にしてみればたまったもんじゃないでしょうけどね。
(石松)何の話でしたっけ?事故ではなく事件の可能性もあるのではないかと。
(石松)確かにその件は君に任せると言いましたがかかりきりになれとは言っていません。
君には他にも処理すべき書類が山のようにあるはずです。
ですのでそちらをもう少しお待ちいただければと。
福家君。
はい。
今週末僕は上司との食事会に呼ばれてるんです。
当然君のことについても色々と聞かれるでしょう。
そこでどう報告するかは僕しだいであり君しだいなんですよ?いいですね?寄らば大樹の陰。
(石松)僕のモットーだ。
よくご存じで。
あらためて事件のあった夜のことを教えてください。
(田村)はい。
2時に見回ったときは確かに異常はなかったんです。
いつもどおりの手順で懐中電灯持って蔵の電気つけてタンクの様子とか見回って。
次の見回りは2時間後の4時。
はい。
手順も同じで蔵に入って電気つけて見回って。
そしたらタンクの中に人がぷっかり浮かんでて。
それで悲鳴を上げられて従業員の方が全員起きてこられた。
はい。
真っ先に来たのが社長で次が中西かな。
社長は肝が据わってるっていうかすぐに警察に連絡してました。
でその後で中西を怒鳴りつけてました。
「こそこそ酒飲んでただろ」って。
お酒を飲んでいたんですか?バカなやつですよ。
社長に隠し事なんか通じないのに。
えっ?女の勘っていうんですかね。
あの人は何でもお見通しなんです。
私も前にこっそりたばこを吸ってたのがバレちまって。
それはすごいですね。
あっでもそれは社長がお酒のことを何より大事に考えているからで厳しくて当然なんです。
先代が亡くなったときあの人がここを継いでくれなきゃこの蔵はつぶれてました。
社長にとってここは人生の全てなんです。
足崩していいですか?あっ…どうぞ。
ところで先ほど4時の見回りの際蔵に入って電気をつけたと言いましたけれども。
夜は完全に真っ暗ですからねあの酒蔵は。
どうやって電気のスイッチを入れたんです?はっ?いやそれはだから…。
よく思い出してください。
4時の見回りのときにどうやってスイッチを入れたんです?それ重要?はい。
非常に。
いいですね。
香りもとてもいい。
雑味もほとんどありません。
ことしは最高の出来になりますよ。
(雫)福家さん。
お忙しい中すいません。
少しだけよろしいでしょうか?実は解剖の結果佐藤社長の体内から微量のアルコールが検出されまして。
(雫)へ〜。
免許不携帯に加えさらには飲酒運転にもなります。
お酒を扱う会社の社長としてはバレたら大問題です。
(雫)そもそも泥棒に入る時点で問題でしょ。
例えばですがあの夜佐藤社長は車を運転していなかったとしたらどうでしょう?
(雫)運転していなかった?はい。
誰か別の人に運転させてここに来ていたとしたら。
つまりこの蔵に忍び込んだのは佐藤社長以外少なくとももう1人いたのではないかと。
もう1人って…何言ってんの?あなた。
こちら持っていただけますか?佐藤社長の持ち物と同じものです。
それからこのふた付きのビーカー。
わずかですが指紋が検出されました。
佐藤社長のものです。
でしょうね。
このビーカーはふたが開いた状態で発見されました。
中に何が入っていたかは不明です。
ていうかふたを開けてもろみを盗もうとしたんでしょ?だとしたらそのとき扇子は?扇子?片手にはビーカーもう片方の手にはふた。
では扇子はどうやって持っていたんでしょうか?さらには懐中電灯もあります。
やはりあの夜現場には佐藤社長以外にもう1人誰かがいたのではないかと思うのです。
もう1人って誰?それが分からないんです。
しかもその人は佐藤社長がタンクに落ちても警察に通報することもせず現場から姿を消しています。
どう思われます?だとしたら佐藤のとこの社員でしょうね。
佐藤酒造の?盗みの手伝いに連れてこられたのよ。
そしたら社長がタンクに落ちちゃって慌てて逃げた。
逃げる際止めてた車に乗らずにですか?社長一人のせいにしようとしたんでしょ。
自分には関係ないって。
だいたいさ泥棒がもう1人いただなんて勝手な想像じゃないの?疑問はもう1つあります。
もう1つ?こちら田村さんが見回りのときに使われた懐中電灯の写真です。
(雫)ええ。
そう言ったでしょ。
事務室からお借りしてきました。
田村さんのお話を再現しますとこうなります。
まず2時の見回り。
(雫)はっ?午前2時になりました。
・田村さんは蔵の前に来ます。
・そして戸を開ける。
そして懐中電灯で中を照らす。
そして蔵に入る。
そしてスイッチの元まで行き電気をつける。
そしてタンクの見回りなどをする。
まあそうしろって言ってるからね。
続いて4時の見回り。
あのさ私もバカじゃないからいちいちそんなことしな…。
午前4時になりました。
・田村さんは蔵の前に来ます。
・そして戸を開ける。
そして蔵の中に入る。
だから同じでしょ?懐中電灯をつけてスイッチをつけて蔵の電気をつける。
いえ1つ違います。
えっ?蔵を開けた田村さんはここに懐中電灯を置いています。
この写真のとおり。
そしてスイッチの元まで行き電気をつける。
ここが違います。
懐中電灯を置くか置かないかの違いだけでしょ?はい。
つまり田村さんは4時の見回りの際懐中電灯を使わずにスイッチのある所まで行ったんです。
この中は真っ暗だったはずなのに。
慣れてるんでしょ。
別に暗闇でもスイッチのある場所なんて体で覚えてるものよ。
私もそう思ったのですがそれだけはあり得ないと田村さんは言っていました。
あり得ない?社長は全てお見通しだからどんな作業であれ手は抜けないと。
スイッチ一つつけるにしてもです。
ところがそのときだけは懐中電灯は必要なかったんです。
どういうことかしらね。
おそらく…。
上の木戸が開いていたんだと思います。
事件のあった夜は満月でした。
窓からの月明かりが蔵の中を照らしてくれていたんです。
なるほどね。
いかがでしょう?ならそれでいいじゃない。
木戸は開いていた。
だから懐中電灯も必要なかった。
疑問は解決ね。
ところが問題はその前の見回りのときにはこの酒蔵は真っ暗だったということです。
それも間違いないと田村さんは証言しています。
つまり2時の見回りのときには上の木戸は閉まっていたんです。
なのに4時の見回りのときは開いていた。
記憶違いでしょ。
2時のときにも開いてたのよ。
あるいは田村が自分で開けたか。
佐藤社長の懐中電灯ですがついたままになっていました。
水に落ちて電池は切れてしまいましたが懐中電灯のスイッチはオンの状態でした。
佐藤社長がここに忍び込んだときには真っ暗だったんです。
なのに遺体で発見されたときは上の木戸は開いていたんです。
田村さんは木戸を開けた覚えはないと言っています。
他の従業員の方ももちろん谷元さんもその時間は自分の部屋で寝ていらした。
ええ。
そうよ。
ではいったい誰が開けたんでしょうか?可能性があるのはもう1人の泥棒しかいないんです。
その人はあの夜佐藤社長と一緒にこの蔵に忍び込んできました。
社長はタンクの中に落ちた。
慌てて逃げ出してもいいはずなのになぜかその人はあの木戸を開けたんです。
そして現場から去っていきました。
どういうことかしらね。
はい。
それが分からなくて。
ねえ福家さん。
飲みに行かない?えっ?
(雫)悩んだときは飲むのが一番。
ねえあれ出して。
(店主)はい。
(店主)はいどうぞ。
はい。
(雫)飲みましょう。
お待ちかねの「月の雫」いいんですか?
(雫)もちろんよ。
金賞の実力をとくと味わってちょうだい。
ありがとうございます。
では遠慮なく。
これは素晴らしいですね。
言っとくけどことしの出来はもっとすごいから。
はいはいはい。
あっ…。
「月の雫」谷元さんのお名前でもありますね。
谷元雫さん。
このお酒ができたときに父が付けたの。
親バカでしょ?お酒に娘の名前付けるなんて。
お父さまが亡くなられたのは?15年前。
母も同じころにね。
あの酒蔵は私が継ぐしかなかった。
女性お一人で大変だったでしょう。
な〜んていう同情交じりの批判の声の方が面倒だったけどね。
あなたもそうじゃない?はい。
ただ自分で選んだ仕事ですので環境に文句を言うつもりはありません。
(雫)私もそうよ。
けど周りはそうは扱ってくれない。
女が酒なんか造ってないで結婚しろだの何だの。
私ねずっと付き合ってた人がいたのよ。
けど私の親が死んでその人は私が蔵を継ぐことに大反対した。
「そんな面倒なもの継いでどうする」って。
根本的に価値観が違ってたのね。
私は自分にとって大事な方を選んだの。
強がりで言うんじゃなくて。
何も後悔してないわ。
分かります。
谷元さんは…。
(雫)ん〜下の名前で呼んでよ。
「谷元さん」なんて堅苦しい。
そうですか。
では雫さん…。
私も福家さんのこと下の名前で呼んでいい?私はあの…昔から「福家」と呼ばれていたのでできればそれで。
じゃあ福家さん。
はい。
聞いてばかりいないで今度はあなたの秘密教えて。
えっ別に秘密など…。
私はむしろ雫さんの秘密が知りたいんです。
私の秘密?何でもお見通しだということです。
「女の勘」と田村さんは言っておられました。
あっそのこと。
不思議に思っていました。
例えばあのかい。
かい?触ってもいないのに雫さんはかいにひびが入っていたことを見抜かれました。
何となく分かったのよ。
従業員の方たちの行動も不思議なくらいずばずばと見抜かれている…。
勘は勘。
説明なんてできないわ。
それに別に何でも分かるわけじゃないわよ。
佐藤社長がうちに忍び込んだのだって全然気付かなかったし。
ホント汚い人。
自分の手でいい酒が造り出せないからって直接製法を盗もうだなんて。
そこなのですがそもそも製法を盗む必要はあったのでしょうか?えっ?谷元酒造は佐藤酒造から徹底した値引き攻勢に遭っていたようですね。
まるで狙い撃ちのように。
狙い撃ちかどうかは…。
それが商売っていうものなんでしょ。
ですがそんな過剰な値引きでは佐藤酒造のもうけはほとんどありません。
ですが佐藤社長はそれでも構わなかった。
一方で谷元酒造の経営は逼迫していた。
思うに佐藤社長は赤字になった谷元酒造を買収するつもりだったのではないでしょうか?あるいは吸収合併か。
いずれにしても目玉商品である「月の雫」を手に入れるつもりだったのではないかと。
だとしたらもろみを盗み出す必要などなかったはずです。
合併した後で堂々と手に入れられますから。
佐藤社長はあの夜製法を盗み出すのではなく谷元の蔵を視察に訪れたのではないかと。
それがあなたの勘ってやつ?勘と呼ぶかどうか…。
そうね大外れ。
フフ。
私はそんな話聞いたこともないわ。
ことしの「月の雫」は最高傑作よ。
あれができれば赤字なんてすぐに盛り返せる。
しかし佐藤酒造がさらに…。
ねえ福家さん。
もういいじゃない。
なぜとかどうしてとかそんなこと知らない。
今は余計なこと考えたくないの。
もう少しで最高のお酒ができるのよ。
私の人生を懸けた素晴らしいお酒が。
どれほどの価値があるかあなたなら分かるでしょ?同じ女なら分かってくれるはずよ。
それにね私こういう楽しいお酒久しぶりなの。
私もです。
でしょ?じゃあじゃあじゃあ…次はあなたの話。
えっ?何でもいい。
秘密教えて。
私は3枚重ねです。
3枚重ね?でしょ?やっぱそうでしょ?冬は手放せないわよね〜。
あれ?腹巻き3枚重ねでこのウエストの細さは許せないわね。
ちょっそう言われても…。
重罪。
もっと飲みなさい。
ちょっやめてください。
食べなさい。
雫さんやめて…。
んっ…。
自由奔放な部下だとは思っていましたがついに職場に酒まで持ち込むようになりましたか。
あっこれはですね…。
上司との食事会は明日なのですが。
言われた書類は全て出しました。
おかげでこんな時間まで目を通す羽目になりました。
でもまだ1件足りません。
どういうつもりなんです?事故にせよ事件にせよすでに結論は出てるのでは?顔でも洗ってくるんですね。
前にも言いましたが僕は酔っぱらいは嫌いなんです。
あれ?
(二岡)頼まれた件調べましたよ。
福家さんの予想どおりあの夜その辺り一帯はかなり気温が上がってたみたいですね。
前日に比べて5度近く。
そう。
(二岡)そう?それだけ?あのね僕だって忙しい中ね…。
(通話の切れる音)
(二岡)もしもし?福家さん?もしも〜し。
何だよ。
調子狂うな!
(ゲームの音)あ〜!すいません!違います。
この面をクリアしたら仕事に戻ろうかと。
どうぞ続きを。
お願いですから社長には言わないでください。
言わなくてもお見通しなんですよね?そうかも。
あなた佐藤社長が亡くなった夜お酒を飲んでて怒られたんですよね?宿舎を抜け出してここでこっそり。
みんな使うんですよここ。
息抜きの場所ね…。
あっ…けど僕があの夜お酒飲んだのはあくまで酒造りの研究としてです。
でもバレちゃったんですよね?はい。
しかも銘柄まで見抜かれて。
銘柄まで?女の勘もあそこまでいくとすご過ぎですよ。
(雫)ことしはホントに出来のいいお酒になりました。
はい。
ありがとうございます。
今後ともどうぞよろしくお願いいたします。
ハァ〜。
あら福家さん。
どうしたの?「月の雫」ついに完成のようですね。
おかげさまで。
あっよかったら試してみる?実はもう試してしまいました。
えっ?先ほど中西さんにお願いしてこっそりお裾分けを。
もう中西ったら。
ところでこちらどうも味がおかしいと言いますか…。
味がおかしい?何これ。
ひどい雑味。
そういえば蔵の方は大丈夫でしょうか?えっ?いつもより暖かい感じがしたのですが。

(雫)あっ…。
(雫)もしもし。
福家です。
いかがでしたか?蔵の方は。
(雫)別に暑くないじゃない。
脅かさないでよ。
それよりさっきのお酒って…。
すいません。
どうやらビーカーを間違えてしまったようです。
あれは「月の雫」ではありませんでした。
でしょ?もうあんなひどいお酒初めて飲んだわよ。
ところでやはり真っ先に木戸を開けられるんですね。
えっ?冷たい外気を取り入れるために。
あなた…。
ここ従業員の方たちのひそかな憩いの場所だそうですね。
確かにすてきな場所です。
ここなら誰の目にもつきません。
ですが唯一その蔵の窓からはここが見えるんです。
従業員の行動をことごとく当てたのは勘などではありません。
あなたは時折そこから見ていたんです。
へ〜よく分かったわね。
あの夜木戸を開けたのはあなたです。
そしてそこから中西さんがお酒を飲んでる姿を目撃した。
フフフフフ。
何言ってんの?確かにたまにあそこから従業員たちの様子を見てたわ。
でも別にいいじゃない。
それも社長の仕事よ。
事件のあった夜3時半ごろ中西さんはあの場所でお酒をこっそり飲まれていました。
そしてあなたは中西さんにそのことを叱った。
ええ。
でも見たからじゃない。
においで分かったのよ。
中西からお酒のにおいがしたから。
飲んでいたお酒の銘柄まで当てられました。
佐藤酒造の新商品である「藤乃誉」だと。
だからそれもにおいで分かったの。
においだけで銘柄までは分かりません。
私には分かる。
そもそも「藤乃誉」はまだ発売されておらず中西さんもあの夜初めて飲んだんです。
あなたはいつ「藤乃誉」を口にしたんですか?さあ?いつだったかしら。
でもライバル会社の研究ぐらいするわ。
どこかで飲んだのよ。
いえあなたは飲んだことがなかったはずです。
その代わりラベルを見たんです。
中西さんが持っていた「藤乃誉」のラベルを。
ラベルなんか見なくたって分かる。
私は一度飲んだ酒は絶対に忘れない!何よ。
こちら先ほどあなたが飲まれたお酒です。
だから「月の雫」じゃないんでしょ?はい。
そしてこうおっしゃいました。
「あんなひどいお酒初めて飲んだ」と。
まさか…。
「藤乃誉」です。
あなたは先ほど初めて飲んだんです。
なのに中西さんが「藤乃誉」を飲んでることが分かった。
においでもなく勘でもなくあなたは目撃したんです!あの夜佐藤社長をタンクに突き落とした後。
そして木戸を開けたのは外気を取り入れて気温を下げるために。
佐藤と会う前から気温の変化に気付くべきだった。
全てが終わった後自分が汗をかいてることに気付いた。
酒を見捨てることはできなかった。
もろみを混ぜるかいを交換させたのもそれを使って佐藤社長を沈めたからですね?ねえいつ?いつ私だって気付いたの?2人でお酒を飲んだとき?それともあの場所に気付いてから?佐藤社長が現場に残していた車ですが移動の際車のエンジンをかけたときに暖房が作動したんです。
運転席の足元に。
車の窓は大きく開いていました。
佐藤社長も扇子を手放さないほど暑がりなのに運転席の足元には暖房が!じゃああなた最初から私のこと疑って見てたわけだ。
私はねあなたのこと友達になれるかもしれないって思ってたのよ?私もです。
お願いがあるんだけど。
何も気付かなかったことにしてちょうだい。
私がどれだけ大変な思いをしてここまで来たかあなたなら分かるでしょ?女だからってなめられてしなくてもいい苦労散々してきた。
それも全部この蔵を守るためよ。
私は父から受け継いだこの蔵を絶対に守らなければいけなかったの。
あなたなら分かってくれるはずよ。
私は一刑事です。
違う。
あなたは女よ。
私と同じ。
そして友達なのよ私たち。
谷元さん私にとってあなたは一殺人犯です。
2014/02/04(火) 21:00〜21:54
関西テレビ1
福家警部補の挨拶 #04[字]

女社長の酒と涙!女の友情に福家が揺れる?どうやって酒蔵の電気のスイッチを入れたのか…「何でもお見通し」犯人に福家が迫る!
檀れい 稲垣吾郎 片平なぎさ

詳細情報
番組内容
 谷元酒造社長・谷元雫(片平なぎさ)はその日、佐藤酒造社長・佐藤一成(清水こう治)を助手席に乗せて車を走らせていた。到着したのは谷元酒造の酒蔵。先祖から受け継いだ酒「月の雫」を守り抜くため雫が心血を注いで守ってきた酒蔵だ。谷元酒造は一切の妥協を許さず、効率よりも品質にこだわり続ける酒造りにこだわってきたが、佐藤酒造から徹底した値引き攻勢にあい、経営は逼迫(ひっぱく)していた。
番組内容2
佐藤は谷元酒造を窮地に追い込み、吸収合併してしまおうともくろんでいたのだった。
 雫はそんな佐藤の計画を阻止し、先祖伝来の酒を守るため佐藤を酒蔵に呼びだし、水がはられたタンクへと突き落とし殺害してしまうのだった。遺体が発見され、鑑識の結果から佐藤は足場から転落し側頭部を強打の後、溺死したと見られていた。が、福家警部補(檀れい)は現場を訪れた時から事故と判断を下すにはおかしい点に気づくのだった。
番組内容3
 福家は雫に何度も会い捜査を続ける中で、二人の間には男性社会で闘いながらも、自分の信念のもとプロとしての仕事に徹するという点で、共感のような感情が芽生えていた。福家は雫の真実に迫ることが出来るのか。
出演者
福家警部補(強行犯第十三係 主任): 檀れい 
石松和夫警部(強行犯第十三係 係長): 稲垣吾郎 
二岡友成巡査(現場鑑識係): 柄本時生 
田所勉警部補(強行犯第十三係 筆頭主任): 中本賢
  ○  
谷元雫(谷元酒造・社長): 片平なぎさ 

佐藤一成(佐藤酒造・社長): 清水こう治 

鍋谷五郎(リカーショップ『ウエアハウス』社長): 近江谷太朗
スタッフ
【原作】
大倉崇裕(東京創元社/創元推理文庫) 

【脚本】
麻倉圭司 

【企画】
水野綾子 

【編成企画】
清水一幸 

【プロデュース】
貸川聡子 

【演出】
岩田和行 
佐藤祐市 

【音楽】
横山克 

【制作】
フジテレビ 

【制作著作】
共同テレビ

ジャンル :
ドラマ – 国内ドラマ

映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
サンプリングレート : 48kHz

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