都内にある病院の一室。
がんを治療中の人たちが仕事の悩みを語り合うミーティングが開かれています。
2人に1人がかかるというがん。
今がんの治療と仕事との両立に悩む人が後を絶ちません。
民間団体の調査によれば…がんを治療するだけでなくその後の人生をどう自分らしく生きるかを考えるがんサバイバーの時代。
シリーズ第2回は治療と仕事をどう両立していくか考えます。
こんばんは「ハートネットTV」です。
昨日から「シリーズがんサバイバーの時代」と題してお伝えしています。
このがんサバイバーという言葉。
がんをどう治療するかだけではなくてがんになったあとの人生をどう自分らしく生きるかを大切にしようという考え方です。
第2回の今日はどう生きるかという事に深く関わっている仕事の問題について考えていきます。
岸本さんもがんサバイバーのお一人でいらっしゃるという事でがんになった時仕事への影響は何かありましたか?ありましたというか私はがんである事を隠しました。
2年間隠してました。
私も自営業者なのでがんという事で仕事が来なくなる事をすごく恐れたんですね。
さまざまな葛藤がある訳ですね。
ではこちらをご覧下さい。
働くがんサバイバーを支援する団体が行った調査なんですががんになった人の…病気の状態によって働くよりも休む事が大事な方まず治療が大切という方はいらっしゃいますが今医療が進歩して元気なのに働く意欲も能力もあるのに働けない人たちが増えて問題になっています。
では実際にどんな困難があるのか。
ある女性のケースを取材しました。
東京・新宿区の人材派遣会社。
契約社員として働く玉田明美さん47歳。
2年前に乳がん去年子宮体がんと相次いで発病しました。
手術や抗がん剤による治療を終えここで派遣する社員の勤務状況の入力など事務作業を担当しています。
体調は日に日に回復しているといいます。
(玉田)うそみたいに元気になりました。
治療終わったら一日一日力が戻ってくるんですごいびっくりしました。
その変化を自分で感じるほど元気になる。
抗がん剤による治療が終了して7か月。
今では病院へ行くのは2か月に1度だけです。
副作用やがんの再発がないかを確認する経過観察。
この日も特に異常はありませんでした。
(医師)仕事に関しては特に今制限する事は何もありませんので何しちゃいけないって事はもうほとんどないんで普通に…けがしないようにそういう注意とかでいいと思います。
ありがとうございます。
比較的早期にがんが見つかり治療も順調だったという玉田さん。
しかし仕事の面では予想もつかない困難に次々とぶつかりました。
最初の乳がんが見つかったのはおととし12月。
当時玉田さんは自動車販売会社で派遣社員として働き始めたばかりでした。
会社側に早期の乳がんで比較的短期間で治療できる事を伝えたところ当初は職場も理解を示していたといいます。
ところが玉田さんは職場で精神的なストレスから過呼吸で倒れ病院に搬送されました。
体に特に異常はなく翌日通常どおり出勤。
しかし待ち受けていたのは会社側の思いも寄らない対応でした。
自分の机の上に私物が紙袋にまとめられていたのです。
既に後任を探していると言われ辞めざるをえない状況でした。
独身で1人暮らしの玉田さん。
両親は既に亡く兄弟は地方で暮らしています。
生活費に加え高い時で月に10万円に上る治療費。
仕事を失えばすぐに生活が行き詰まってしまう状態でした。
去年4月福祉関連の会社に契約社員として採用が決まりました。
人事の担当者は病気の治療にも配慮するといいます。
失業保険が切れるギリギリのタイミングでした。
ところが働き始めて2か月後職場の直属の上司4人から呼び出されます。
告げられたのは「この会社の未来にあなたはいない」という言葉でした。
玉田さんがその時の面談の様子を記録したメモです。
直接解雇を告げる言葉はなかったものの病気の事を2時間にわたって責められ結局退職せざるをえませんでした。
その後も粘り強く仕事を探した玉田さん。
おはようございます。
去年6月ようやく見つけたのがこの人材派遣会社の仕事でした。
ところが勤め始めたやさき今度は子宮にがんが見つかります。
仕事の継続を半ば諦め上司の佐々木さんに報告した玉田さん。
しかしその対応は意外なものでした。
率直に言うとお仕事に関しては基本的にちょっと厳しいという印象は間違いなく持ってましたね。
とはいえご病気が分かるまでのところに関してはとても前向きに仕事をして下さってたんで…。
あと仕事にも安定感がありましたしそれであればどういう形だったらやっていけるだろうかというのをご本人と相談しようかなと思いましたね。
実は佐々木さんはかつてがんになった社員に対応した経験がありました。
一度は退社したその社員は治療を終えたあと再び元気に職場に復帰したといいます。
きつい時期を過ぎればまた問題なく働ける。
佐々木さんは玉田さんが体調に合わせて休める態勢を一時的に作り支えてきました。
継続して来て頂いた結果として今現在はもうほぼ安定してご復帰頂いてるという実績が今回出ている訳ですからイメージで判断したらまずいなというところは率直に感じました。
やっぱり周囲の対応で分かれますね。
残念だけど突発的に働くのに支障が出る時ってあるんですよ。
私も治療の後遺症で出張をドタキャンしてしまった事があって…。
その時にじゃあもうこの人はがんだからこの先も仕事ができない人だと思われるかそうではなく次の機会を与えてくれるかでこちらもこの人のためなら次は120%150%の力を出して役に立ちたいと思うかもう私は仕事をしてはいけない人間なんではないかと思うかそれはホントに周囲の対応次第で大きいと思いますね。
雲泥の違いですよね。
その人の人生そのものにも関わってくるような事だと思います。
ではもう一人ゲストをご紹介します。
がんサバイバーを支援する会社の代表桜井なおみさんです。
よろしくお願い致します。
よろしくお願い致します。
働くがんサバイバーの方を支援しているという事ですが今の映像のようなケースは実際多いんでしょうか?私たちは無料の電話相談をやっているんですけども大体半分がどういうふうに働きながら治療を続けていったらいいのか。
先ほどのようにどういうふうに働き方を変更したらいいんだろうかという相談があります。
それからもう半分は会社を辞めて次の新しい人生のステップをどういうふうに歩んでいったらいいんだろうという質問がすごく多いです。
で私たちがよく言うのは諦めないでまずは考えて交渉してみようという話を伝えています。
自分から辞めてしまう人も…。
いらっしゃいます。
でも辞めるのはいつでもできるので諦めないでほしいなと思います。
そして会社側も辞めざるをえない状況に追い込んでいくと…。
はい。
さっきのVTRで自分の私物がまとめて置いてあった…。
あれは統計上は依願退職になるのかもしれないけども辞めさせられてるって感じですね。
つらいですよね。
VTRを見ますと治療しながら十分働けるのに社会や会社のイメージはそこまで至っていないというギャップがあります。
それを示すデータがあります。
ご覧下さい。
今年初めに内閣府が公表したがん対策に関する世論調査の結果です。
これを見ますと7割の人ががんの治療をしている人はもう働けないと思っているという事で…。
社会のイメージはこうなんですが現実はどうなんでしょう?そうですね。
やはり私もそうだったんですけどがんといったらもう駄目というイメージが多かったと思うんですね。
でもやっぱり今のがん医療というのはホントに進化をしてきていて治療そのものもすごく小さな手術で収める事もできますしお薬もとてもいいのが出てきましたので何かをしながら治療するという事ができるようになってきているのが現状なんですね。
ただなかなかそれが社会全体のがんのイメージというところまでまだ追いついてないのかなというのが今の問題だと思っています。
それぞれでがんに対するイメージのギャップがあるという事なんでしょうがこうしたギャップをどう埋めていくかその際の鍵となるのがこちら。
この3者の間のギャップをどうしていくかという事ですね。
これを現状でいいますとどういうふうに…?やはり病院の側にとっては「何で病院で就労の相談しなきゃいけないの?治す事が目的だよね」というのが第1目標だと思うんですよね。
で会社の方は会社の方で「そんなお荷物になるような人をどうして雇わなくちゃいけないんだろう」というのはやっぱりあると思うんです。
ご本人はやはりその間に挟まれてしまって「どうすればいいの?私の人生。
右に行ったらいいの?左に行ったらいいの?どうしたらいいんだろう」と混乱してしまうのが今の現状なのかなと思いますね。
そうしたギャップをどう埋めていくかそれがこの問題の解決につながっていくと思います。
実は今このうちの一つ医療現場でがんになった人の治療だけではなくて仕事の問題も支援していこうという動きが広がっています。
桜井さんも関わっている取り組みを取材しました。
この日桜井さんたちが向かったのは都内の大学病院。
医師や看護師ソーシャルワーカーなどに就労の問題を学んでもらうセミナーです。
この相談に対する事例をやってみようかなと思います。
多忙を極める医療の現場では就労支援まで手が回っていないのが現実です。
それを少しでも意識してもらうために行っているのが実際にがんの人の立場に立って演じるロールプレーです。
よしじゃあ派遣で。
この日はがんを治療中の人が会社の面接に行った場面を想定しました。
今まで9時間労働の仕事でどの程度やられました?え〜っとですね実はちょっと病気があって大腸の手術をして人工肛門がついてるんですね。
まあだからその辺の事を融通してほしいと思ってて…。
すいません私人工肛門ってよく分からないんですがそれは9時間働くのに何か…。
がんの治療が仕事にどう影響するかを伝えるのは医師でさえ難しい作業です。
どんな事を話したのかちょっと発表して頂いていいですか?この仕事ができますか?と聞いたらいきなり人工肛門の話をしたのでそれをどこまで聞いていいのか…。
仕事できると思っていいのかどうか分からないまま聞いていたかたちですね。
ありがとうございます。
あの…結構多いと思いますそういうのも。
参加した医師たちは先の見通しが立つ丁寧な情報提供する事が患者の就労支援につながると気付いていきました。
(取材者)就労の問題とかは身近に感じた事はありましたか?今まで感じてなかったですね。
もっと5年とか10年先の事を具体的に説明してあげる事で多分もうちょっと自分の立場を客観的に説明できるんじゃないかとは思いました。
やっぱり病院は絶対行ってる場所信頼を置いてる場所なのでそこで仕事の事とかお金の事とかいろんな事を相談できるんだなという事が分かるだけですごく違ってくると思います。
ちょっとずつ想像する事からでもできる事ってあるんだよという事がセミナーをやる事で気付いてもらえるのが大きいかなと思います。
がんになった人の働く意欲を支えようと居場所作りに乗り出した病院もあります。
夕方6時半集まってきたのはがんを治療しながら仕事と向き合う人たち。
チラシやポスターにも書いてあったと思うんですが…。
医師や看護師ソーシャルワーカーが中心となり就労の問題を考えるワークショップ…さまざまな仕事上の悩みを抱える参加者たち。
就労リングでは多くの人が共通してぶつかる課題とその対策をテキストにまとめています。
会社や周囲に病気をどう伝えるべきかや経済的な負担を軽くする制度など必要な情報を共有します。
もし自分が雇用されていてお休みをする。
でも給料も出ないとなった場合はそういう制度があるという事を覚えといて頂いてまた次回来て頂ければと思います。
(取材者)こんにちはお邪魔します。
就労リングに参加した事で辞めようとしていた仕事を続けられたという…
(取材者)元気ですね。
派遣社員として雑誌編集の仕事をしていた花山さん。
去年の暮れに乳がんが見つかりまず頭に浮かんだのは仕事の事でした。
独身で1人暮らしの花山さん。
3か月ごとの派遣の契約が途切れてしまえば収入がなくなってしまいます。
不安に駆られていた時に患者仲間の勧めで参加したのが就労リングでした。
(設楽)こんにちは。
(花山)お久しぶりです。
どうですか調子は?もう意外と次の日から…。
この日病室にやって来たのは…今年3月就労リングで知り合った仲間です。
当時設楽さんは既に乳がんの手術を終えて美容師の仕事に復帰を果たしていました。
その経験を花山さんたち参加者の前で語ったといいます。
やっぱり同じ経験をしてきてこうやって働けるし元気になれるしこうやってできるんだよって皆さんに分かってもらえたらうれしいなって気持ちで皆さんに接しましたね。
もう仕事はできないと思い詰めていた花山さん。
設楽さんの姿を見て大きく考えが変わったといいます。
花山さんはその後就労リングで学んだ事を基に治療と仕事の両立について会社と話し合ってきました。
契約は無事に更新。
今回の手術のための入院も傷病手当金を申請して休暇をもらう事で会社と合意できたといいます。
病院ってホントできる事いろいろありますね。
先ほど来話題になっているがんの人は働けないというイメージ。
それはがんを1くくりにした事から来てると思うんです。
でも私はこれはできないけどもこれはできます。
ここの部分についてはこういう工夫が必要だけどもそれ以外は働けますという個別具体的な情報があればすごく助けになると思います。
そのサバイバー本人が会社に話す上でもただ働けますっていっても説得力がないかもしれない。
そうした時に私に関する情報があれば自分も説得力持って話せるし会社も安心してくれるかもしれない。
必要に応じて病院から会社にそうした情報が行くとより後押ししてくれるのかなと思いました。
本人が中心でその声をいかにたくさんの人たちが聞く事ができるかという事が大事だと思うんですがもう一度こちらをご覧頂きたいんですけれども病院だけではなくって会社だったりそれから本人社会全体の意識がもっと変わっていくべきではないかと思います。
そのためには何が必要になってくるでしょうか。
働く事の悩みって治療の直後だけでなくて3年たっても5年たってもいろんな悩みが出てくるんです。
そうした中でやっぱり場所として会社ですね。
そこの中ではやはり情報不足から来る誤解ってものすごく多いと思ってるんです。
なので是非できれば職場でのがん教育というものをやって頂いてお互いさまの風土作りっていうんですかね。
休める風土を作っていって頂けたらなと思ってます。
やっぱりメインになるのはがんサバイバーなんですね。
病院に行けば患者さんですし会社に行けば会社員として働かなくちゃいけない。
なのでやはりご自身として自分の働く事の意味は何なのかという事。
それから年収がどのくらい必要なのか。
例えば男性の方でも女性の方でも違うと思うんですよね。
どのぐらいの年収が今必要なのかそれに見合った働き方をちゃんと考える。
そしてそのための権利ですとか制度を知って使うという事が必要なんじゃないかなと思います。
やれる事はまだまだあるんではないかという事でがんになっても意欲や能力があればその人をどう支える事ができるか支えられるんだという事をみんなで共通認識としてね…。
そうですね。
実はがん患者だけの話ではないですよね。
ワークライフバランス全体の問題かなと思いました。
「シリーズがんサバイバーの時代」。
明日は終末期のがんサバイバーの生き方について考えていきます。
2014/02/04(火) 20:00〜20:30
NHKEテレ1大阪
ハートネットTV シリーズ がんサバイバーの時代 第2回▽がんを抱えて“働く”[字]
医療の進歩で、がんでも働く意欲も能力がある人が増えている。しかし病気がきっかけで失業するなど就労で悩む人が後を絶たない。がんになった人の就労支援の最前線を紹介。
詳細情報
番組内容
医療が進歩する中、がんになっても働く意欲も能力ある人が増えている。しかし、社会では「がんになったら働けない」というイメージが根強く、病気をきっかけに職を失うなど、就労に悩む人が後を絶たない。がんになった後、どう自分らしく生きるかを考える、シリーズ・がんサバイバーの時代。2回目は、がんになっても安心して働けるために何が必要なのか、医療の枠を越えて就労支援に乗り出した病院など、最前線の現場から考える。
出演者
【出演】エッセイスト…岸本葉子,キャンサーソリューションズ代表…桜井なおみ,【キャスター】山田賢治
ジャンル :
福祉 – その他
福祉 – 高齢者
福祉 – 障害者
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音声 : 2/0モード(ステレオ)
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